38.イリシテアまで一キロ
「いやー良かったね!魔物を討伐するだけで冒険者にしてもらえるなんてさ!軍資金も貰えたし、ちゃちゃっと倒してお家に帰ろう!」
「あぁそうだな!一体どんな魔物が待っているんだろうな!」
翌日。アンラ南の街道を歩きながら、ガジュとユンはわざとらしく声をあげる。口調が明るいのは二人だけ。後ろを歩くキュキュはいつも通り静かであるし、シャルルに関しては……明らかに沈んでいる。
「ねぇ、どうするのさガジュ……。僕的にはあの話に乗ったの自体が大失敗だと思うんだけど。街出てからシャルちゃん一言も喋ってないって。」
「いやあれは受けるしかないだろ……金剛等級まで一気にいけるんだぞ?」
「それはそうだけどさぁ……。僕は基本呑気に生きてるから怒られようがなんだろうが気にしないけど、こういう仲間内の重苦しい空気だけは嫌いなんだってば!」
二人はヒソヒソと話し合い、昨日のケネからの話し合いを振り返る。ケネから提示された『クエストに行くという体裁で、シャルルの兄を調査しろ。』という密命は、ガジュにとって受けるしかないものだった。
冒険者協会の等級は個人とパーティの二種類が存在する。個人の等級は昨日受けた適性検査やその後のクエスト成績によって決定され、パーティの等級はそのパーティに所属する冒険者の等級の平均によって決定されるものである。これらの制度は冒険者達がパーティを移動しやすくする為、いわばガジュのような追放者を出さないようにするための仕組みだ。この仕組みを考慮した時、ケネの提示した『ガジュ達全員を金剛等級にする』という交換条件は最高ともいえるものになる。
適性検査により、ガジュ達の個人等級は告知こそされていないものの、概ね決定されてしまっている。ガジュは間違いなく適性検査に不合格になっており、ユギ村の件の功績があるといってもほぼ確実に銅等級からのスタートになるだろう。ユンは戦闘試験百点、筆記試験六十三点だから金等級。シャルルとキュキュに関してもガジュ達がケネと密談している間に戦闘試験を済ませ、ほぼ百点に近い点数を叩き出しているそうだから同じく金等級になるはずだ。
そうなると『クリミナル』のパーティ等級は金三人と銅一人の平均だから金か銀。どちらにせよガジュの最終目標である黒曜等級になってハクアを潰す、という所へのスタート地点は相当遠くなってしまう。ガジュは『カイオス』で銅等級から黒曜等級目前まで成り上がったが、それも七年かかっている。『カイオス』の頃とはガジュの戦闘力も何もかも違うが、時間がかかることに違いはないだろう。
「ユンはどっちがいいんだよ。こっから五年ぐらいちまちま功績を重ねて黒曜等級を目指すのと、多少ギスギスしながらでもこの依頼を達成して成り上がるのと!」
「僕は圧倒的に前者がいいよ!何年アルカトラにいたと思ってるのさ!墓所の中にも千年、冒険者なら万年だよ!」
「ガジュ?ユン?どうしたんですかさっきから。あまりに騒がしいのは公衆の迷惑です。秩序を持ってください。」
「え、あぁ……ははは。」
唐突に話に入ってきたシャルルに極めて決まりの悪そうな表情をし、ガジュとユンは顔を背ける。
「シャ、シャルル、今日は随分元気がないな。少しはこの嘘つきを見習ったほうがいいぞ。深く考えるから暗くなるんだ。」
「復讐に燃えて暴れ回るような人に言われたくないです。シャルは……ちょっと憂鬱なだけです。今日の目的地、イリシテアなんですよね。」
「そうそう。剣と酒の街イリシテア。賑やかなところらしいよ!アルカトラもガジュの故郷も静かだったからね、僕楽しみだなぁ!」
「そこ、シャルの故郷なんです。別にだからどうという訳ではないんですが……シャルは故郷を思い出すと頭がぽやぽやするんです。」
シャルルの発言を聞き、ガジュとユンの顔がキョトンとする。そういえば……シャルルに彼女の罪の話をしたことは無い。アルカトラで出会った時に少し触れてシャルルが狂乱していた覚えはあるが、あくまでそれだけだ。看守室で見た『五歳の時に両親を殺害』という具体的な話について、シャルル自身に尋ねたことはないはず。誰がどう見ても暗い過去だから特に触れる必要もないとガジュは思っていたが……。
「その、嫌だったら答えなくても全然構わない。というか俺達全員もれなく犯罪者なんだ。特に驚きもしないから落ち着いて答えてくれ。シャルル……お前はどうしてアルカトラにいたんだ?」
「さぁ……?そこら辺の記憶も曖昧で、頭にあるのは秩序だけです。」
「じゃ、じゃあさシャルちゃん!家族の事は?家族のことはどう思ってる?」
「愛すべき兄がいるだけです!シャルにはそれだけで十分ですから!」
そういってシャルルは見たこともないような笑顔を見せる。先ほどまでは寝起きのようなぼんやりとした目をしていたはずだが、今は真逆。瞳孔が大きく開いた異常な雰囲気を醸し出すその目に、ガジュ達は震えていた。
「ガジュ……シャルちゃんの目つき、なんかおかしくない?」
「あぁ、なんかこう。操られているような……。」
「アヤツられてイる?そんナこトありマセんよ!【投獄】!」
目の前の少女の異変にようやく気づくと同時に、ガジュとユンの腹にはシャルの鉄拳が突き刺さっていた。




