表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/126

37. 老人の話はいつも長い

「で、貴方達が例のお二人ですか。」


 数分後。ガジュとユンは白髪の老人からの厳しい視線を向けられていた。【闇の王(ナイトメア)】の使用者的には恨めしいほどに大きな窓と、血で染めたのではないかと疑いたくなるような美しい赤絨毯。誰が見ても金持ちの私室と分かるその部屋の中心に置かれた、優美な椅子に座る優雅な老人。


 全体的にみすぼらしいガジュからすれば、相対するだけで萎縮してしまう。


「ガジュ・アザッド君と、ユン……君のこれは一体どこが本当なんですかな?」

「ユンの部分だけは本当だよ!多分!きっと!」

「そうですか、良い名前ですね。私の名前はケネ、よろしくお願いします。」


 冒険者協会アンラ支部支部長にして、アンラを統治する有力者。これが目の前の老人の肩書きなはずだが、一体この男はどういうつもりでガジュ達を呼びつけたのだろうか。普通に考えれば、経歴詐称と建造物損壊を犯した馬鹿共の叱責。あるいはこのまま監獄送りにでもするつもりだろうか。アルカトラは未だゴタゴタしているらしいが、監獄なんて世界中にいくらでもある。


 ガジュが焦りを感じながらおどおどしていると、ケネは一枚の紙を取り出して話し始めた。


「お二人はこの人物をご存知ですか?」

「え?誰この塩顔イケメン。存じ上げないなぁ。」

「俺も知らないが……何だ?俺達は怒られるために呼ばれたんじゃないのか?」


 机の上に提示された一枚の似顔絵。ガジュと同年代ぐらいであろうか。ユンの言う通り塩顔のイケメンではあるが、ガジュの脳内メモリーにこの顔は一度も刻まれていない。というか正直いってどうでもいい。


 ガジュは完全に罵詈雑言を浴びせられるメンタルでこの場所に立っているのだ。こんな優男の顔を見せられ、平然と話を始められても困惑する他ない。


「まぁそう慌てずに。順に説明致しようではありませんか。まずガジュ君、君は適性検査に不合格だったそうですがそこに関しては気に病まなくて構いません。一度は君も金剛等級まで上がった経歴がある、どんな汚名を背負っているとしても、冒険者協会は君のような人を排斥する組織ではないですからね。スノアスキュラと凍龍を倒した時点で君達は立派な戦力です。」

「……?じゃあなんで俺達は適性検査を受けさせられたんだ?」

「ガジュ君以外の三人の実力、というか素性を知りたかったんですよ。三人ともアルカトラからの脱獄囚という情報は持っていますが、それ以外があまりにも未知数です。」


 ケネの言う通り、ガジュが適性検査を受ける道理はない。冒険者協会の等級はパーティと個人で分かれている。ガジュの元金剛等級という肩書きは何もハクア達に牽引された訳ではなく、ガジュ自身がちまちまと業績を積み上げて手に入れたものだ。ガジュは少なくとも無能ではあるが雑魚ではないのである。


「なんか話が見えないな。適性検査を受けさせたのは、ガジュ以外の三人の実力を測りたかったからってのは分かったけど、じゃあ何故僕らはここに呼ばれたの?あと結局この塩顔イケメンは誰なのさ。」

「君達を呼んだのは、君達の仲間であるシャルル君に関して頼み事をしたかったからです。君達が問題行動をするから妙な感じになってしまいましたが、それ以外の意図はありません。」

「シャルル……?あの幼女が一体どうしたんだよ。」

「この似顔絵の男はバーゼ・バーニュ。我々アンラ冒険者協会が今一番問題視している男であり、シャルル君のお兄さんです。」


 シャルルの兄。その言葉を聞いた瞬間、ガジュの脳裏にアルカトラで読んだシャルルの経歴が思い浮かぶ。五歳の時に両親を殺害。あの過激な生い立ちに兄という存在が介在しているとは……思いもよらなかった。


「良い加減に結論を話しましょう。貴方達にはこれから『自分達が冒険者になるにはクエストをこなさなければならない』という名目で、シャルル君の故郷へ行って適当な魔物を退治して貰いたいのです。そしてガジュ君とユン君は、シャルル君に悟られぬようバーゼの情報を集めてきていただきたい。」


 ケネはそういってガジュ達に微笑んでくるが、疑問はまだ半分も解けていない。


「待ってくれ。なんでそのバーゼとかいう男の素性を俺達が調べなきゃならないんだ。それに何故シャルルとキュキュにこの話をしない。」

「バーゼは非常に用心深い男で、私達も色々と手を尽くしているのですが中々情報を得ることができていません。ですが八年前に生き別れた妹が来たとなれば話は違うでしょう。」


 ようやくガジュの頭でも話が理解できてきた。ケネはこのバーゼとかいう男の調査のためにガジュ達を囮にしようとしているのだ。八年前に生き別れた妹が現れれば、バーゼはシャルルに対して攻撃なり歓迎なり何かしらの行動を取る。バーゼが何故冒険者協会に目をつけられているのか知らないが、たったそれだけの情報であってもケネにとっては重要なのであろう。


 加えてシャルルにこの事を言わないのも似たような理由だろう。五歳のシャルルに一体どのような事態が起きていたのかは、ガジュもケネも知らないことだ。そこが分からない以上、下手にバーゼの名前を出せばシャルルが狂乱したり敵に回ったりする可能性がある。


 キュキュに話を振らない理由に関しては……恐らく彼女が獣人だからだろう。市井の人から差別を受けないようフードをかぶってはいるが、流石に冒険者協会には獣人であることがバレている。バーゼもシャルルもケネも人であり、人のいざこざから獣人が排除されるのは残念ながら世界の摂理だ。


「じゃあ最後の質問だ。俺達は何もしなくても冒険者になれるんだろ?じゃあその任務を達成したら一体何が貰える。」

「君達全員を金剛等級冒険者にしてあげよう。バーゼはそのぐらい、重要な人物だ。」


 ケネの堅苦しい口調が失われ、その鋭い眼光がガジュの眼に突き刺さる。圧倒的情報量と、圧倒的報酬量。この誘いに乗らない手など、ないに決まっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ