22 神の社
2016. 6. 21
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階段を登りきると、その数メートル先に鳥居があった。
しかし、その鳥居の前で響華は足を止める。
「どうしたの? 響華」
律樹が鳥居と社の丁度真ん中辺りで立ち止まっているのが見える。
静かに見える律樹の背中。しかし、響華には張り詰めたような空気を律樹から感じていたのだ。
《そこから中には入らないのが賢明だろう。主の邪魔になる》
「ユキちゃん……」
声を掛けてきたのは、ユキだ。鳥居の足の辺りに控えていたらしく、響華達のところへと歩み寄ってくる。
「猫が喋った⁉︎」
「凄ぉいっ。お喋りできるのぉ?」
驚愕する律樹の父親とは対照的に、早希はキラキラと目を輝かせて、ユキに話しかける。
《我はユキ。主の使い魔だ。お見知りおきを》
この状況で挨拶するのもどうかと思うが、ユキは初見の二人に頭を下げた。
そんなユキに、優香が尋ねる。
「この先は危ないってこと?」
《そうだ。先日、主がこの場を清めたようだが、出来たのはこの鳥居の外のみ。この鳥居が境界線だ。あの中の穢れは祓えてはいない》
それは響華にも感じられていた。鳥居をくぐれば間違いなく音が聞こえなくなるだろう。
「かなり酷い……今も流れてきてる……」
《分かるか。主の力でもたった一日も保たなかった。数日と置いていたら、また良くない事が起きるようになるだろう》
昨日の学校からの帰り道。そこで感じたのは、澄んだ空気と穏やかな音色。しかし、それがもう淀んできていた。
「何をするつもりなの?」
《まずは清める。一度この鳥居までの場所を封囲術で囲い、術の精度を上げて元をあぶり出す》
その時、律樹が手にした何かを上へと掲げた。
それは光を放ち、五つに分かれて飛んでいった。放物線を描き地面に落ちたそれは、等間隔で神社を囲む薄い光の膜を張る。
すると、社の扉が突然開いた。突風がそこから吹き出し、律樹へと襲いかかる。その異常な光景に、律樹の父親が思わず声を上げた。
「一体なにが⁉︎」
《いかんっ。主っ!》
「ユキちゃんっ」
ユキが光の膜の張られた中へと飛び込んでいく。小さな体がそれに触れる時、静電気のようなものが走るのが見え、響華はユキを止めようとした。
しかし、ユキの小さな体は、その光の膜を越えると同時に巨大化したのだ。着地したユキの姿は、大きな白いライオンにしか見えなかった。
「ユキちゃん……?」
呆然とする響華達のところにも、風が到達する。
「きゃぁっ」
悲鳴を上げる早希の手を握り、身を屈めると、優香と律樹の父親が覆いかぶさるようにしてその突風に飛ばされないようにと皆で固まる。
優香達の体の隙間から、響華は必死で目を凝らし、律樹を見ようとしていた。
先ほどから何度も光の膜が瞬くのだ。それは、どうやら物が当たっているような衝突音と同時だった。
それは響華にしか聞こえない音。雷の光のように瞬くその光しか、優香達には認識出来ないだろう。
目を凝らした先では、ユキが律樹の盾になり、何かを口から吐いたりしているのが微かに見えた。そして、律樹が切り傷を負っているのが確認できたのだ。
それで分かった。社から吹き付けている風は、鎌鼬となって、律樹に襲いかかっているのだ。それと同時に、この光の膜をも壊そうとしている。
このままでは律樹だけでなく、ここにいる優香達も危ない。そう思った響華は、突風を受けた事で服から出ていた首飾りを知らず握っていた。
すると響華を中心に、優香達を護るように光の膜が覆った。
「え? あれ? 風が止んだ?」
早希が呆然と呟く。状況に気付いたのは律樹の父親だ。
「君がやったのか?」
響華が息を切らし、首飾りを握っている事で、当たりをつけたのだろう。その首飾りは淡く光っていた。
心臓が早鐘を打つ不快感のせいで答えられずにいる響華の代わりに、突然、上空から声が降ってきた。
「そうじゃ。良い力を持っておる」
「あ……ナキ……さん……?」
そこにいたのは、可愛らしいフリルの傘をさし、風に乗って浮いているゴスロリ少女。ナキがいた。
「今回のは、ただのお悩み相談ではないからのぉ。律樹一人ではと思っておったのじゃが……うむ。娘よ。あれを助けてくれるか?」
「え、あ、はいっ」
着地したナキは、響華の返事に満足気に頷くと、持っていたポーチの中から扇を取り出し、差し出した。
「これは風神の扇じゃ。使い方は、これが教えるじゃろう。それと、律樹の鏡を持っておるようじゃのぉ。出してみぃ」
言われて、まだ鏡を返せていない事に気づく。それを慌てて取り出すと、ナキへと手渡した。
「まだあれには自由にこれを扱えんからな。今回はサービスじゃ」
そう言ってナキは鏡を両手を包み込む。すると、光が溢れたのだ。
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