23 輝く五線譜
2016. 6. 22
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ナキの手の中で、鏡が形を変えていく。
光が収まり、ナキの手の上にあったのは、鏡ではなく、水晶のような結晶の塊だった。
「これをあれに渡してやってくれ。それであれに相応しい形へと変わるだろう」
手渡された結晶は、冷たい印象とは裏腹に、生き物のように温かかった。
「こやつらはワシが守ってやる。後ろは気にせず行って参れ」
「はい」
響華は手の平よりも大きな結晶を左手で抱え持ち、右手で扇を持つ。首飾りは熱を持っているように今も淡く光っていた。
響華の力によって張られている光の膜は、響華が優香達から離れるとそのまま響華だけを覆うものとなった。
しかし、すぐにナキがガラスのような薄い膜で覆って優香達を守っていた。それが響華には、自分の張ったものよりも遥かに強力な力のある封囲術だと分かる。
これで確かに後ろは心配ないだろう。
ずっと、ゆっくりと何かが体から抜けていく感覚がある。それは疲労感を伴い、ともすれば動けなくなってしまいそうだ。
しかし、手にした扇と結晶から、逆に活力のようなものが流れ込むように思えた。
響華は扇を鳥居の先へと差し込む。すると、光の稲妻が走った。跳ね返されそうな手応えを必死で堪え、そのまま進む。
チリチリとした小さな痛みが肌を走る。そして、光の膜を越えると、そこは嵐だった。
響華を護る膜は、幸い音を遮断していた。お陰で耳が聞こえなくなる事はない。安心したのも束の間。律樹を襲うのと同じように、鎌鼬が響華を護る光の膜を叩き始める。
そこで何をすれば良いのかが分かった。
扇を広げ、大きく扇ぐ。本来ならば嵐のような風の中、そよ風にもならない力。しかし、それは風神の扇だ。
力強く嵐の風さえも巻き込み跳ね返してみせた。
《響華?》
「なっ、お前っ」
響華に気付いたユキと律樹が驚きの声を上げる。
「これっ、ナキさんから預かった」
そう言って、響華は社を注意深く見つめながら、律樹へと結晶の塊を放った。
過たず律樹の手に収まると、その結晶は形を変え、透明な硝子で出来たような金剛杵となった。
「なんだ?」
律樹は困惑しながらも、しっくりと手に馴染むそれを前へ突き出す。
「なんか知らんが、今のうちだな」
そうして、律樹は手を組み、何事かを呟き始める。それと同時に、ユキが響華に駆け寄て言った。
《響華。主の術に合わせられないか?》
「合わせる?」
最初は意味が分からなかった。そこで再び風が吹き始めた。だが、先ほどのような力強さは感じない。すると、風に乗って律樹の声が響いてきた。
響華を囲む膜が外の音の殆どを遮断してしまっている。
それが聞こえた時。どうすべきなのかが分かった。
扇を空に向かって一閃させる。社から吹き付けていた風は、風の通り道が作られ、空へと竜巻のように巻き上げられていく。
そして、扇を提げていた鞄に差し込むと、首飾りを手に取り、口をつける。
音を奏でると、徐々に響華を覆っていた光の膜は消えていった。そのせいで調律の狂ってしまった不快な音に晒される。
だが、目を閉じ集中する響華の耳は、ひたすら律樹の声を拾っていた。ゆっくりと反響する不快な音が遠くなっていく。
既に麻痺しそうになっていたが、響華にはもう関係なかった。確実にこの場に響くべきメロディーが頭に浮かんでいたのだ。
幾度となく吹いた音階。その空気を伝う振動を覚えている。音が聞こえなくなっていても問題はない。
酷い耳鳴りが襲う。それでも響華は吹き続けた。
やがて、取り巻く空気が一気に軽くなったような感覚があった。
響華は、不意に足下が赤い光を放っているように感じて目を開ける。
そこには、オレンジ色の光を放つ帯状になった五線の楽譜が渦巻いていた。それが響華の体を中心に螺旋を描きながら、空へと登っていく。
それと同じくして、律樹の持つ透明な金剛杵からも光が放たれる。それが緩やかに響華の五線譜と溶け合う。
すると、金に輝く五線譜となって律樹の封囲術に当たり、社を覆うように散っていったのだ。
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