モノクロです。
「い、今のは、実親くん、だよね〜…?」
と、不安そうな声を漏らす。
「ええ、確かに彼です。しかしあれはいったい…?」
彼女たちが話しているのは、先ほど上空に見えた知り合いのことだった。
仲間である佐々木輝々の後を追って来た時に気付いたことがあった。
それは、オーディンの前に実親を置いて来てしまったこと。
「辺り一帯焼け野原、です〜。」
「火の無い所に煙は立たぬ、と言いますが、これはどういうことでしょうか。」
「移動して良かったですね〜。」
彼らが佐々木輝々に追いつき、倒れている彼女を見つけてからいた木のうろは、いや、その辺りの木全ては見えない何かによって既になくなっていた。
異常な気配を察した富士孝雄らは止む無く移動を強制される。
移動しながら背後を振り返ると、拓けた焼け野原となっていた。
つまり、見る限りモノクロの世界になっていたのだ。
今、富士らがいる場所の僅か手前、実親寄り。
3m程向こうからはもうモノクロである。
「しかし、彼は大丈夫なのでしょうか。見たところ魔力の暴走としかー」
「実親くんは絶対大丈夫ですよ〜っ!仲間が信じなくて誰が彼を信じてあげるんですか〜っ!」
「そ、そうですね。私もヘルプに行きたいところですが。私の能力は生憎と戦闘向けではない。ここの状況では、見守るしか選択肢がないのが悔しい。」
「彼を、信じましょう〜っ!」
「風よ、今宵其方らの力を借りようぞ。汝ら我の呼びかけに応えよ。」
オーディンもとい地上まであと約15m。
オーディンはここで勝負を決めんとばかりに大技の準備に入っている。
空中にいる者は通常、身動きが取れないからである。
しかし彼は違った。
そんなことを露にもかけず、ただ地上一点を凝視していた。
『あ、やべ。これ、マジで、酔った…。うえっ…。』
「…ゥゥウゥゥァァァアアアっ!!!」
叫びをあげる彼をあざ笑うオーディン。
その左手を彼に向けて掲げる。
「終わりですよ。人間にしてはわたし相手に良くやったほうでしょうか。
乱気流魔槍っ!」
技名を叫んだとき、オーディンの周りの大気が何本何十本の槍となり、彼を貫かんと襲いかかる。
『ランナウェイって、ぷぷぷ。ぅえっ、笑ったら胃の中のものが出そうだ…。何も入ってないけど。ぉえっ…。』
「アァァァ…っ!」
しかし、標的とされた彼は焦る様子もなく、全身に力を込めた。
瞬間、彼の発する見えない炎の質量が莫大となる。
それを鎧の如き形に圧縮し、その身に纏い、身体を丸める。
ダンゴムシのように。
その体を無数の風の槍が貫く。
ように見えた。
が、実際は彼の纏う炎の鎧が風の槍の構成を著しく乱し、威力を激減させる。
それどころか、鎧の強度が信じ難いくらいにみるみる上がっていく。
そして彼の炎の鎧にぶつかり、消滅。
「なんですとぉっ!?」
オーディンは驚愕の表情を浮かべている。
『属性の相性も知らねぇのか。』
全ての風の槍が彼への攻撃を終えた。
それを確認した彼はその鎧を崩し、攻撃へと転じる。
炎を更に圧縮。
直径10cmにも満たぬ球体へと変化させる。
より高密度高濃度な炎となり、彼の右手の平に収束する。
その塊は目には捉えられない。
だが、それが放つ広範囲の陽炎がオーディンすら恐怖に陥れる。
「…!ち。」
彼の着地点から退き、距離を取る。
「見えないのが鬱陶しいな…。魔槍っ!」
その名を呼び、落ちていた魔槍を手元に戻す。
彼の着地まで残りコンマ数秒。
「絶雷暴風激流っ!」
オーディンの掲げた右手には奇怪な魔法陣が構成される。
その魔法陣が完成されると同時、彼は着地する。
「ウォォォォァァォグァァガァァァァっ!!!」
今までの比ではない咆哮をあげ、超高圧高密度高濃度の火の玉をオーディンへと投げ付ける。
『耳元で叫ぶなよマジうるせぇよ…ぅぉえぷ…。』
対するオーディンも、魔法陣から嵐を圧縮したものをビーム状にして放つ。
すなわち、雷撃、風撃、水撃の三つを混合させた合成魔法。
嵐の神と呼ばれるだけある技である。
火の玉と、嵐のビーム。
それらが互いにぶつかる。
その瞬間、衝突点を中心にして、モノクロの世界となっていた彼らの闘う場に自然ではおよそ吹くはずのない爆風が起こる。
その影響は、遠く離れた地点にいる富士孝雄らにも及ぶほど。
「ガァァァァっ!!!」
「ぬぅぅぅぅっ!!!」
ビームを構成する風は火の玉を更に強力にし、水は超高温により蒸発していく。
故に、実質炎と雷のぶつかり合いである。
風を吸収し強大となっている火の玉が、たとえ神であろう者の発する雷であろうと負けるはずもなく。
オーディンが押されていると直感した彼は火の玉とビームがぶつかり合う点に駆け出す。
『なっ…!』
「くぅ…っ!」
オーディンが放つビームは、火の玉に近くなるほど雷へと変化していた。
「ゥアガァァァァァっ!!!」
じわじわとオーディンの技を押していた火の玉を彼はその両腕で更に押し込む。
「ぬぅっ!?」
じゅうう、という音がする。
焦げ臭い匂いがする。
彼の手のひらから黒い煙があがっている。
『おいっ!俺もいるんだぞっ!てかここ何!?台風真っ盛り!?』
衝突点ではまさに嵐のような状況になっていた。
火の玉に相殺されている水も、火の玉に吸収されている風も、火の玉に真っ向からぶつかっている雷も。
その全てが混じり解け、本性を現す。
自らも顧みず、その全身に彼は一層の力を込める。
「うがっ!?ぐぬぬぬぬぬ…!」
そのまま、彼の放った火の玉はオーディンの魔法陣を砕いた。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
彼は火の玉の魔法陣到達直後、両手で押し込んでいたそれを、今度は思い切り右手で殴りつけた。
彼に殴られ飛翔速度を増した火の玉は、オーディンのその身体をやすやすと吹き飛ばす。
オーディンも、最初は自身の右手で火の玉の勢いを殺そうとしていたがそれの放つ超高温に耐えきれず、思わずてを引っ込めてしまう。
そのため、火の玉はオーディンの腹へと直撃。
火の玉は暫くその形を保っていたが、やがて弾ける。
それは、最初に辺り一帯をモノクロの世界へと変貌させた彼の炎とは比べものにならない範囲へと暴発し、有機物や、無機物でさえ灰も残らぬほどの火力で。
術者本人すら吹き飛ばす威力であった。
彼は、その場から遥か後方へと吹き飛ばされていた。
その身体のあちこちを地面に激しく叩きつけられ、それでもなお意識を保っていた。
「ウゥゥゥ…!」
その身体は既に満身創痍。
しかし彼は動く、その目的を果たすため。
『いい加減目を覚ませよ、サネ!』
やはりロキの呼びかけにも応じようとはせず、足を引きずりながらも歩く。
あいつが滅んだのをその目で確かめるために。
『もう無理だ!動くな!』
彼の目は焦点があっていなかった。
口は半開きになり、そこからは呻き声が漏れている。
『いやマジで死ぬぞお前っ!』
何度も何度も倒れそうになりながら、ひた歩く。
だがしかし、その努力も虚しく。
自分が吹き飛ばされて来た場所からそんなに進むこともできず。
彼は彼の目指す場所に辿り着けぬまま倒れ、意識を失ったのだった。




