表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劔が煌く夜に  作者: 中村中
実親の暴走。
PR
8/36

青い炎です。

「これって、いわゆるピンチってやつじゃないですか〜?」


春日井さんの言う通りである。


1対4+αであるとはいえ、俺たちのうち三人は何もできない。


だが、神話によると。


ロキとオーディンは極端に相性が良い。


つまるところ、ロキがご自慢の策略的なものを披露してくれさえすればこの場をしのげる可能性も出てくるのだ。


だが、今のロキはロキではないかもしれない。


ロキという名前だけで実際は全くの別人である、という可能性が捨てきれないのだ。


たとえオーディンに久しぶりだとか言われたとしても、この神様がボケていらっしゃったら…。


いや、仮にロキが本物であっても何もできないだろう。


幽体に、現実において物理的接触などはできないからだ。


故に、俺たちは自力でなんとかこの窮地を脱しなければならない。


「どうするよ…。」


流石の富士さんもお手上げ、という風で。


「逃げの一手しかないでしょう。将棋でいうところの、頭金ってやつですよ。」


頭金ならまだ逃げられる可能性がなくはないではないか。


てか将棋に例える意味がわからない。


そもそも俺は将棋がわからない。


「早く姿を現しなさいロキ。さもなくば順番にここの子たちを貫きますよ。」


オーディンは投げ槍の構えを取る。


『どうやら俺がここにいることはわかるようだが姿は見えていないようだな。うむ、参考になった。』


脅しをかけられているのにも関わらず、ロキという男はいたって冷静である。


「来てすぐ死ぬのはごめんだよ〜…。」


俺だって同じですよ春日井さん。


だけど打つ手がない。


富士さんは能力を使えるけどたぶん戦闘向けじゃない。


俺にはロキとの契約があるみたいだが現状、女子二人同様、何もできないに等しい。


「あれ、どう考えてもあたしらの誰かを狙ってるよね…?」


オーディンの視線の先には春日井さんと佐々木さんのいずれかがいる。


俺と富士さんは女子二人を挟むように両端に位置している。


みんな律儀に横一列に並んでいるのだ。


「ロキを庇っているのかどうかは知りませんが、どうやら出てくる気はなさそうですね。早く出てこないと1人ずつ亡くなるというの、にっ!」


“に”の発音と共にグングニールを投げつける。


行き先は、佐々木さん。


「なっ!」


富士さんは佐々木さんの前に空間をいじって作り出した壁を出すが、それを難なく破壊する魔槍。


佐々木さんの表情はみるみる青ざめていく。


俺たちとオーディンとの距離はさほど離れてはいない。


だが、槍が当たるまでの時間が長く感じられるのは走馬灯というやつを見ているからなのか。


そもそも走馬灯って何だ?


「あ、はは…。」


思わず苦笑いをこぼす佐々木さん。


その直後、彼女は身を翻していた。


『な、何を…!』


飛来してくる魔槍を背に、駆け出す。


「無駄なことを。必中の槍ですよ。」


オーディンの表情は実に楽しそうな笑顔だった。


「キララちゃんっ!」


そもそも槍と佐々木さんとの距離は10mとなかったはずだ。


佐々木さんを追い、二人は駆け出す。




しかし俺は駆け出さない。


その上俺は佐々木さんの方を向く事をやめた。


彼女がどうなったかなんて見たくない。


その視線の先には北欧神話の主神オーディンが。


「お前、神様だからってやっていいことと悪いことの区別さえつかないのか…!」


「神は人を裁く、それだけのことですよ。」


当然のことをしたまでですよ、と。


「ふざけるなよ…!」


俺は怒る。


「何が神様だ、何が主神だ…!」


こいつが佐々木さんにしたことに対して。


「神は人を裁く、だと…!」


こいつの発言の自分勝手さに対して。


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


そして、それを見ていたにも関わらず何もできなかった無力な自分に対して。



彼の身体を鮮やかな紅が覆う。


佐々木さんの方を見にいっている二人はここにはいない。


『一体何が…てか熱っ…。』


「何が神だよ…、神でも人の生命を奪っていいわけがねぇだろ?」


彼はオーディンを睨む。


「っ!」


その剣幕がすごかったのか、オーディンの肩が少し震えた。


「なぁ、そうだろぅ…?」


彼の身体を覆う鮮やかな紅は徐々にその勢いを増す。


『どうして…!』


彼の身体を覆うもの、それはすなわち炎であった。


周囲の木々はその熱により、燃え広がっていく。


炎が直に触れているわけではない。


それほどまでの熱。


鮮やかな紅はその色を失っていく。


そしてそれはだんだんと薄く、青くなっていく。


「グングニールっ!」


オーディンが叫んだ瞬間、彼の手に魔槍が舞い戻る。


その槍の先端には何者かの血が。


なぜかオーディンには、炎による身体的ダメージは見て取れない。


「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」


彼の怒りが頂点に達する。


怒りが頂点に達した瞬間、彼の身体を覆うだけだった青き炎は遂にその色を失くし、質量は膨大となる。


目に見えぬ炎にのまれたと思われる木々は、炭にもならず跡形もなく燃え尽きていた。


「インビジブル・フレイムだと…!?」


『おい、どうしたんだよサネっ!熱っ!おい、おいってばっ!熱っ!』


彼の耳には既に誰の声も届かず。


その思考はもう、目の前の人物を滅ぼすこと即ちオーディンを滅ぼすことのみに。


その目にはもう、オーディンしか映らず。


「罪は償ってこそ、だよなぁ…?」


彼の顔には不敵な笑みが。


「わたしに挑む、ということですか。いいでしょう。身の程を知るといい、人間。」


オーディンも、雰囲気ががらっと変わる。



『やめろ、サネっ!』


ロキの叫びも届かぬまま、彼はオーディンの懐へ飛び込む。


オーディンはその手に持つ槍で応戦する。


彼の攻撃は主に、炎を纏った手による引っ掻き。


まさに猫のようである。


対するオーディンは槍だけで攻撃を全て受け流す。


「その程度ですか。期待外れにもほどがありますよ。」


一際大きな刃と刃がぶつかるような音を立てて彼は一度、後ろへ大きく跳躍する。


その距離約20m。


『ちょっとっ!俺を蔑ろにすなっ!うぷっ、酔いそう…。』


ロキは彼に憑く幽霊にして契約者。


二人の間には見えない糸か何かで繋がっているため、彼が一瞬で長距離移動などすると、ロキは一方的に引っ張り回されるのだ。



彼はオーディンにむけ、しかし距離を詰めぬままその場で拳を突き出す。


放った拳からは陽炎が立ち昇る。


オーディンはやはりその魔槍で何かを弾く。


弾いたものはオーディンの右後方で火柱をあげた。


見えぬ炎を拳に乗せて放ったのである。


「ヴゥゥ…!」


「見えない炎と言えどあなたの行動を見ていれば何されるかなんて手に取るようにわかるのだよ。」


「ヴゥゥォアァァァァっ!!!」


獣のような、それでいて怒り一色に染まった叫びをあげる。


いつからか、彼の理性は既に吹き飛んでいたのだ。


彼に残っているものは恐らくもう、オーディンに対する破壊衝動だけ。


『俺の声も届かぬのか…。』


「来ないならこちらから行きますよ。魔槍(グングニール)っ!」


佐々木さんを襲った槍が、今度は彼を襲う。


『拡大解釈、ね…。』


彼は槍が当たる直前、空高く跳んだ。


上空約40m。


しかし魔槍(グングニール)は追いかけてくる。


最初に見た時は背の高い木が沢山ある森だったところが今は一面焼け野原になっていた。


自分たちが闘っている場所からだいぶ離れたところにあの三人はいた。


二人はこちらを見上げ、一人は横たわったままである。


遠くからではよく見えないが、その横たわる一人は恐らく…。


「ヴゥゥァアァァァガァァァァ!」


彼は右脚に超高密度超高温の炎を纏い、自分を追ってくる槍に向けて蹴りを入れようとする。


『ちょ、おま、刺さるぞっ!』


重力に反発して空へ飛んでくる槍と、重力に乗っかって落ちてゆく右炎脚。


それらが互いにぶつかる。


超高密度超高温の炎は制限を解除されたのか、広範囲にその身を広げる。


しかし見えない炎の為か、どこまで広がって行ったのかは全くわからない。


槍の方は、彼を追うことを諦めたのかただ落下していた。


地上にいるオーディンは、その両手で頭をかばっていた。


自由落下していく彼。


「空中では身動きはとれまい。」


声の方をみると、先ほどまで頭を庇っていたオーディンはチャンスとばかりに彼の着地点の真下へと移動していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ