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劔が煌く夜に  作者: 中村中
実親の暴走。
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迷子です。

「はい、着きましたよ。」


そう言いつつ部屋の扉を開ける富士さんと、あまりの移動時間のなさに驚きを隠せない俺、そして何を考えているのかわからない女子二人。


ちなみに俺は彼女たちの実年齢とかパーソナルデータは全く知らない。


扉を開け放った先に広がっていたのは俺が想像していたような都会、ではなかった。


「うわ〜、自然がいっぱいですね〜。」


彼女の言う通りである。


扉から出て辺りを見回すと、そこに広がるのは。


背の高い木、木、木っ!


本当に来る場所はここで合っているのか、と富士さんに確認を取ろうと彼を見る。


しかし、引率者の彼さえ何故か焦りを隠せない表情である。


極め付けにこの一言。


「ここ、どこ…?」


その場にいた俺たちは一斉に富士さんに振り返る。


ちょっと待て。


今あなたは何と申しましたか。


「おい、今の言葉を聞いた上であえて聞くが。ここは何処だ?」


さっ、と顔が青ざめていく富士さん。


「…。」


常に崩さなかった笑顔が引きつっているのは、誰にでもわかるレベルに達していた。


「なんで黙ったまんまなのかな〜?」


女子二人に問い詰められる男一名。


これは修羅場というやつだろうか。


「あ、いや、これはですね。常人界から超人界へと転移する時に、転移先がランダムに変わっているんですよ。これは人間の敵に待ち伏せをくらわないためなのですよ。それでですねー」


「要点だけを言え。」


あれ、どうして佐々木さんはノコギリを持ってその切っ先を富士さんに向けているんだろう。


いや、まずそのノコギリ何処から持ってきたんだ。


まさかと思い、ふとその辺に置いたはずの工具セットの箱をみると、その蓋は開きノコギリのあった場所には何もなくなっていた。


いつ抜き取ったんですかあなたは。


「つまり、迷子です私たち。」


なんと言うことでしょう。


匠の見事な技により私たちは未知の世界で迷子になってしまいました。


「ふざけんじゃねぇぞこの役立たずがっ!」


「せめていったんそのノコギリ下ろしましょうよ佐々木さん。怖いです、13日の金曜日に現れそうなくらい。」


あのまま放っていたら本気で富士さんを切りかねない勢いだったので、やむなく俺はなだめる事にした。


正直なところ今の彼女に声をかけるのは色々ヤバイ気がするので相当やりたくなかった。


でも誰も止めようとしないんだもの。


特に殺気とか纏うオーラとかその笑顔とかヤバすぎです、はい。


「誰がジョビソンマスクだ、誰が。」


今度はこっちに切っ先と矛先が向いた。


しまった、声を掛ける行為が死亡フラグをたてる条件だったのかっ!


『お、修羅場?』


なんでお前はこういう時に限って出て来るんですか。


しかもすげぇ楽しそうじゃないか。


ケラケラ笑ってんじゃねぇよ。


腹が立つ事この上ない。


『それよかこんなところにいたら、木があるとはいえ敵に見つかっちまったらヤバイだろ。』


確かにそうだ。


自分たちはもう、平和な普通人の世界から飛び出してきてしまったのだから。


「と、とりあえず、場所移動しませんか…?」


佐々木さんのSはドSのSだと、今ここではっきりと確信致しました。


彼女も彼女で、すげぇ楽しそうだもん…。


「そうだな、それは一理ある。ここにずっといて敵に見つかることを思うと移動した方がいい。」


「私たち今、抵抗手段ないですものね〜。」



と、いうことで移動することになったわけだが。


誰も喋り出そうとはしないわけで。


行き先も、そもそも来た場所すらわからないわけで。


要するに、当てもなく歩いてるわけで。


今どこにいるかも当然のことながらわからないわけで。


もう同じところを何回もぐるぐる回っているような気しかしないわけで。


そう言えば、俺の部屋は全員が出た瞬間、元の空間座標に戻したらしい。


振り返れば、そこには部屋がもうなかったので富士さんに聞いてみたのだ。


そして目の前も後ろも果てしない数の木、木、木。


軽く鬱になりそうなレベルである。


「何分くらい歩いたのかな。」


沈黙に耐えられず俺は問う。


「「「…。」」」


どうして皆さん無言なのでしょうか。


もしかして俺、何だか空気読めてない?


いや、まさかねぇ…。


みんなに無視されたことで傷心した俺は落ち込んでいると、突然。


『何か、来る…!』


ロキが言うのだ。


いつも登場が突然なのはもう慣れたが。


ロキの発言とほぼ同時。


富士さんと佐々木さんの歩みが止まり、顔も険しくなる。


「これはけっこうな大物ですね。」


「死ぬんじゃね、あたしら。」


「???」


珍しく佐々木さんが弱気な発言をした。


それほどまでにヤバイやつなんだろうか。


状況が理解できていない春日井さんだけは、キョロキョロして挙動不審ぎみになっている。


「来ましたよ。」


こんな木以外に何もないようなところにいる俺たちをどうやって見つけるのか。


狼狽えているそんな俺たちの目の前に降り立ったのは。


片手に槍のようなものを持った帽子をかぶったお年寄りだった。



「久しぶりだね。」


『いきなり出会う敵さんが北欧神話の主神とか誰得よマジで。作者出てこーい。』


こいつ、よくそんな現代語よく知ってるよなぁ。


ん?こいつ今、北欧神話の主神って言ったか…?


「てか作者って誰だよっ!」


そんな俺の言葉は誰も聞いてはいなかった。


全員が全員、目の前の人物に集中していたからだ。


「北欧神話の主神、魔槍グングニールの担い手。」


言うは佐々木さん。


顔には明らかな焦りの色が。


「知識のためなら自らの体を捧げることも惜しまない。」


続くは富士さん。


その顔にはいつもの温和な笑顔はなく。


これだけの情報、というか北欧神話の主神ってだけで俺も目の前の人物の正体がわかってしまった。


「わたし、そんなに有名なんですかね。」


キャラが富士さんとかぶるのは、まぁ置いておこう。


それよりも、そんなことよりも。


「北欧神話の主神、オーディン…。その手に持つ槍は投げれば必中し、持ち主の手に戻るといわれている魔槍グングニール…。」


『解説セリフどうもありがとうございました。』


おいロキ、コラ、後で覚えてろよ…。


今のはマジでイラっときたわ。


「ご名答です。わたしの名はオーディン。以後お見知り置きを。」


よく見れば、帽子に隠れた彼の右眼がなくなっていた。


目を失った原因が自己献身なのか自己犠牲なのかはわからないが、とにかくヤバイ奴なのは確かである。


「以後、なんてものはありませんよ。あなたはここで私たちが叩く。」


はい?


富士さん、今なんとおっしゃいました?


俺以外の女子二人も唖然とした顔で富士さんを見つめていた。


春日井さんはなんとか、状況が把握できているみたいで、その点はもう心配なさそうだ。


恐らく、状況が把握できているからこそ唖然とした顔をしているのだろう。


「あたしら何もないんだぞ、現段階では!どうやってあんなのに勝てって言うんだよクソ坊主っ!」


佐々木さんの声が荒々しくなる。


誰だってそうなるだろう、この状況だと。


でも何もない訳じゃありませんよ佐々木さん。


ここにほら、工具セットが…。


ってこんなもん役に立つかぁぁあっ!


俺は手に持っていた工具セットの箱を地面に叩きつける。


例の如く誰も気にしない。


何だか悲しい。


「私は坊主じゃありませんっ!」


「って否定するとこそこかよっ!」


驚いた。


富士さんは本気で目の前にいるオーディンとやり合うつもりらしい。


そんな俺らを見兼ねたのか、クックック、と不気味な笑いをした後。


「心配しなくてもわたしはあなたたちに興味はありませんよ。」


オーディンが語りかける。


その場にいる全員が凍りつく。


色々な意味で。


「わたしが相手をしたいのは…、もうわかっているでしょう。」


オーディンの視線の先を見ると、そこには彼がいた。


『え、わ、やっぱ、俺?』


自分に指差しながら狼狽えるロキが。


そんなことを言いながらロキの顔は笑っていたのだが。

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