表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劔が煌く夜に  作者: 中村中
実親の暴走。
PR
10/36

病院です。

俺が目を覚ます原因となったのは、全身に走る継続的な痛みだった。


そのような怪我をした記憶はない。


すっぽり抜けている、と言ってもいい。


というかここは何処だろうか。


先ほどまで俺たちはオーディンと対峙して…。


「そうだ、オーディンはっ!」


俺は寝ていたベッドから勢いよく身を起こす。


「痛っ!」


全身を走る痛み。


そういえばこの痛みで目を覚ましたんだった。


「あ、ようやく目を覚ましたのですね。」


部屋の入り口から声が聞こえて来た。


その者は相変わらずのスーツ姿で。


扉に背を預け、腕を組み、こちらを見ている。


どうやらここは病室らしい。


「ってここは女子がやっと起きたっ!って駆け寄って来るパターンでしょ。なんでよりにもよってあんたなんですか。俺はもう一度寝ますんで、今度はちゃんとしてくださいよ。それじゃ。」


俺は布団を被り、目を閉じる。


『うわぁ、出たよ出たよ。サネのラノベ展開妄想癖。現実と妄想の区別つかなくなったらそれこそ終わりだぞ。』


なんか上の方で声が聞こえるが、無視。


はぁ、とため息をつくような音が聞こえたと思えば次の瞬間。


俺の布団は剥ぎ取られていた。


「怪我人になにするんスか。」


「自分が怪我人ってことだけ自覚してるなんて…。実に都合のいい記憶能力ですね。」


なんて、素で言ってくるものだから。


「あんた俺に喧嘩売っとんのか。」


こっちも素で返すと。


「それより、あの時あの場でなにがあったんですか。それを教えて頂かないとこちらとしても…。」


はい、無視プレイお疲れ様です。


それよりってなんだよそれよりって。


綺麗な無視(と言うべきか話題転換と言うべきか…)が俺の心をグサリと突き刺し、深い傷を負わせた。


富士さんは言葉の最後を濁した。


そんなことをされると余計、その先が気になるではないか。


「こちらとしても、何?」


「さぁ、何でしょうね。」


などと言って頭を振る。


いちいち腹が立つな、コイツ。


しかもあの顔。


人をバカにしたような、それでいてやはり人をバカにしたような。


人をバカにするという要素しか見当たらんぞあの顔。



「ロキに聞いてくれ。俺には生憎とほとんど記憶がない。」


そう、俺にさえあの時何が起こったかわかってはいないのだ。


「確か俺だけ放置プレイされてた気がするが…。」


「あ、はは。気のせい、気のせいですよ。」


何ですかその愛想笑いは。


それは暗に

「はい、私はやりました。」

と供述しているようなもんですよあなた。


「てかどこがどう転がったら俺の身体はこんなに包帯まみれで、常に火傷みたいな痛みがあるわけ?」


さっきから痛みがひかない。


動くだけで更なる痛みが俺を襲う。


「自分がそうなった理由を、覚えてないと?」


確かオーディンが空から降りて来て。


グングニールで佐々木さんを狙って。


俺は何でか放置されて。


「それで?」


そこから先は…。


「何だか物凄く怒っていた気がするが…、わからない。」


「なるほど、やはりそうか。」


いやいや富士さん。


あなた一人だけが納得しないでくださいな。


「あぁ、これは失礼。」


今あんた、明らかに俺をバカにしてるでしょ。


「では先ずどこから説明しましょうか。」


「佐々木さんはどうなったか、が先で。」


「彼女なら無事ですよ。今は生死の境を彷徨ってもらってます。」


無事なのか、良かった、…?


「ってなにさせてんの!?」


なんで生死の境を彷徨わせてるんですか。


助かったのに何でわざわざ危険な状況に置いてんの。


「言葉の綾ですよ。」


言葉の綾にも程度があるわっ!


「で、次は?」


なぁんでするりと話題変えてんですか。


「怪我人にツッコミさせないでくれよ…。」


「いえ、それはあなたが勝手にやってるだけでしょ。ノリツッコミ厨、乙です。」


ノリツッコミ厨とか言うな。


こっちもやりたくてやってるんじゃない。


こいつもこいつでそんなネット用語よく知ってるな、と少し感心する俺がいるのはここだけの話。


てかだいたいさ、俺以外基本ボケだろ。


春日井さんは天然で、佐々木さんはまだ分類不明だが、このままいくとツンデレだろう。


ツンデレは基本…、あ、ツッコミじゃね?


まぁいいや、それは置いとこう。


問題はこいつだ。


目の前のこいつは、イマイチよくわからん。


キャラが掴めない。


「そろそろにわか敬語かタメ口かはっきりしていただきたいものです。実に腹立たしい。」


いきなり富士さんの雰囲気がガラリと変わる。


それは実に刺々しく、全身を見えない針で刺され続けているような感覚さえ覚えるほど。


何、何なのこの殺気!?


明らかに俺に向けて放たれてるよね!?


一応ボク怪我人なんですけど!?


「で、なにが知りたいんだ己は。」


今度は口調が変わった…。


やっぱりあんたのキャラはホントに掴めません。



「ここがどこか。」


とりあえず思ったことを口にしてみる。


「長くなりますよ?」


口調は元に戻ったが、何あのとって付けたような凄い殺気は。


この際だから見なかったことにしよう、うんそうしよう。


それで、ここがどこかを説明するのってそんなに時間かかるのか。


まぁ、どんな情報でも知りたいわけですし。


「いいよ、お願い。」


「病院。」


へぇ、病院ね。


「って一言かよっ!」


あ、ノリツッコミまたやっちまった…。


「病院ではお静かに。」


しーっ、とウィンクしながら人差し指を立てて言う富士さんであるが、恐らくその行動は悪い意味で誰が見ても気を失うレベルだということに本人は気付いていないだろう。


もちろん、俺も危うく意識がトびかけた。


もうこれはいろんな意味で凶器だぞ。


凶器がなんかもういろんな意味で、服着て歩いてるようなもんだぞ。


こんなやつを放置していて国は大丈夫なのか、と心配になってくる。


「そんなに私を見つめないでください。さすがの私も照れます。」


身体をもじもじさせだしたぞコイツ。


ダメだこいつ早くナントカしなイト。


前言撤回。


キャラが掴めないんじゃない、こいつの思考回路がとことんまでおかしいのだ。


「そんなに熱い視線を向けられると興奮しちゃいます。」


自分の身体を抱いて言う。


ダメダコイツハヤクナントカシナイト。


凄く気持ち悪い寒気がする鳥肌が立つ嘔吐しそうになる。


とりあえず顔面を殴ってやろうと腕を動かそうとするがうまく動かない。


それどころか、また痛みが走る。


「いってぇ…。」


痛みにうずくまる。


ばーかばーか、とどこからか聞こえた気がするが今は気にしない。



「で、結局佐々木さんはどうなってんだよ。」


痛みが落ち着いた、とは言ってもある程度治まっただけにすぎず、実際には常にじわじわと俺を蝕んでいるのである。


「結論から言うと、今はもう自由に動き回れるくらいに回復してます。」


今度はさっきみたいな本当っぽい嘘でも意地悪な嘘でもなさそうだ。


「なら彼女はどこを怪我したんだ?」


「医者の話では、おでこ辺りに大きなたんこぶと、腕に小さな切り傷だけしかない、と。」


「うそだろ?」


富士さんは首を振っていた。


俺はその言葉の意味する、傷はほとんどなかったという事実に驚いていた。


でもどうやって…?


確かあの槍は必中のはず。


つまり標的を貫くまで追いかける、いわゆる追尾機能があったはずだ。


「その辺は彼女に聞くとしましょう。私もどうやって助かったかは見ていないので。見つけたら気絶して倒れてましたし。グングニールは見当たりませんでしたが。」


ま、確かにそれが妥当だな。


俺は富士さんの意見をしぶしぶ承諾した。


「んで、次に聞きたいのは、俺がどうしてこんなところにこんな格好でいるのか、だ。」


ふと気付けばベッドの上にいた。


身体中包帯まみれ。


何をしなくても身体中が痛む。


幸い顔にまでは包帯をされていなかったので、知った顔に声をかけてみると向こうがこちらの顔を見て

「あんた誰!?」

と言われるテンプレはなかったわけなのだが。


その点は、少し惜しいと思っている事はここでは黙っておく。


「その辺もロキに聞くのが一番だと私は思いますがね…。」


笑顔はいつも通り崩さないではいたが、その表情には明らかな翳りが見て取れた。


まるで、その場に居合わせられなかった自分を悔いるような。


相手を本気で労るような、そんな表情だった。


「で、俺が何かやらかしたことは確かなんだろ。問題はその後だ。」


「?と、言いますと?」


富士さんはベッドの側に置いてあるパイプイスに腰掛けた。


少しギシリという、音がした。


「いや、近寄ってくんなよ…、じゃなくて。あの後、と言っても俺には覚えがないが。」


「それはもう再三に渡って確認済みでしょう。前置きはいいです。」


あ、さいですか。


「オーディンは結局どうなったんだ。俺はあいつを倒せたのか、どうなんだ?」


「おや、もうこんな時間ですね。」


不意に壁掛け時計を見て彼は言う。


病院の個室にそんな時計があるなんて珍しいな。


って鳩時計かよ、何でだよ…。


「あなたが目を覚ましたことをみなさんにお話ししなければ。」


あの、もしもし富士さん?


俺の質問はまたもや無視にベクトルが行っちゃってるんですか?


「いえ、話の続きは皆さんが一同に会してから、という暗喩ですよ。それくらい察してください。誰だって知りたい事はたくさんあるんですから。」


え?それはどういう…?


再び問いかける間もなく富士さんは俺の病室から出ようとする。


彼の後ろ姿にふと思ったことを問うてみた。


「俺は何時間眠っていた?」


「およそ6日と13時間ですよ。」


「へっ?」


振り返らずにその言葉を言い残し、彼は部屋の扉を後ろ手に閉め、俺の病室から病院内の別の所へ向かったのであった。


俺の上ではふわふわとロキが浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ