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劔が煌く夜に  作者: 中村中
終章。
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輝く。

目の前の敵、つまりはルシフェルに一撃を加えんと全力で走りこむ。


風が耳元で甲高い音を立てながら吹き抜けていく。


敵との距離はまだ開いている。


と、不意に頭が後ろに引かれる。


全力で走っていたのでそのままの勢いで仰向けに地面に思いっきり倒れる、否、倒される。


「あ、がぁ…っ!?」


首元と、背中に激しい痛み。


息もしにくい。


何が起こったと、さっきまで敵がいた位置を確認する。


だが奴はまだそこにー


「だれをお探しかな?」


俺が見ていた反対方向から声が聞こえる。


反対方向であればそれは、俺の背後である。


「ぁ…!?」


うまく声が出せない。


「残像作るのなんて造作もないことなんだぜ?

馬鹿正直に敵に向かって突っ込んでくる奴がどこにいるよ。」


残像、だっただと…!?


「で。

今のうちに聞きたいことがあるんだけどさ。

お前、何でそんなに頑なに記憶を取り戻す、っつー言い方は違う気がするがまぁいいとして、嫌がるの?」


俺の顔を覗き込むようにして問いかけてくる。


今まででの一連の会話から推察されるに、俺はどうやら記憶を失っているらしい。


そしてその記憶を取り戻すことを何故か拒んでいる。


だが今は…!


「関係ねぇよ…!」


手に鎌を投影し、そのままルシフェルに斬りかかる。


「ぅおっと。

あっぶねぇ危ねぇ。

不意打ちとか反則だろこのやろー。」


ひょい、と身を翻してそれを躱す。


俺は鎌を振るった勢いを利用して立ち上がる。


「闇狩大鎌、ベルフェゴール。」


「無視ですかそーですか。」


正直なところ、彼の言葉にいちいち反応している余裕がない。


集中を欠くと、それこそ一瞬で命を持って行かれかねない。


自分とルシフェルとの力量差がわからない俺ではないのだ。


その差は歴然。


今から一生かけて修行をしたところで越えられるかどうかわからないような、例えるならそんな高さの直立な壁。


口下手な俺が恨まれるがとにかく途方もない相手である、というのは見て取れるし感じて取れる。


「当たったら痛ぇだろ。何考えてんだお前。」


いや、何考えてんだはこっちのセリフだよ。


「男は拳で語り合うのが一番ってわけでもないんだぜ。ここは大人しく話し合いで解決しようぜ。痛いのはお互い嫌だろう?」


いやホント、こいつが何考えてるのか全く読めんのだが。


ていうかいきなり何だよこの超展開。


「ハァ。あくまで戦いたいんですか…。

ならしゃーねーよなぁ…。

まぁ、ちゃっちゃと終わらせるしかないよな。平和が一番だしな。

でも暇なんだよなぁ。少し遊んでやろうかなぁ…。」


敵が、俺が目の前にいるのにこいつはまるで興味がないと言わんばかりにこっちを見ていない。


それどころか自分一人、考えごとに没頭しているではないか。


「一人で何をさっきからぶつぶつと…っ!」


俺は再びルシフェルを斬りつける。


斬った感触を感じ取る。


だが斬ったのはやはり残像。


「だーかーらー、不意打ちとか反則だってば。やるなら正々堂々と、だろ?」


「ホントあんたは何考えてんだよっ!」


『変わってねぇなぁ。』


鎌を地面に突き刺す。


突き刺した切っ先から黒い物質が多大に漏れ出す。


「お?」


「地這え、暗黒境界(ダクネス・ホライズン)っ!」


漏れ出ていた闇が幾つもの線状に形を変え、ルシフェルへと向かっていく。


まるで蛇のようである。


「おお?」


ルシフェルが何故か楽しそうなのが気に障る。


技の速度は蝉が飛行するくらいの速さで、その攻撃範囲は実親を中心とする円状。


周囲に存在していた民家がそれらに触れると、崩壊する。


否、闇に食われている。


通り過ぎた後にはその存在を最初から無かったことにするかのように、何も残らない。


「うわ、えげついねぇ。でもそれさ、立体的な動きに弱いよねぇ。」


そう言って背にある翼を羽ばたかせ、宙空へと飛び上がる。


その挙動には一切の無駄がなく、惚れ惚れとしてしまうほど美しいことに今更ながらに気付く。


だが今はそんなことに気を取られている場合ではない。


暗黒柱花(ダクネス・タワー)。」


鎌を握る力をいっそう強め、唱える。


途端、無制限に広がっていた闇がその動きを止める。


「今度は何をしてくるのかな?」


闇が一瞬にして全て消える。


「消えた…!?」


座標を頭上に、その上下を逆に…!


「開け黒き花よっ!」


ルシフェルの頭上を中心に先刻消えた闇が出現する。


闇が太陽光を遮り、辺りの一部は暗闇に覆われる。


大きなフリスビーのような闇の塊が空中に突然現れたと思えば、水の入ったバケツをひっくり返したような勢いで地上へと降り注ぐ。


それはまるでとてつもなく大きな黒い柱。


「ひょぉぉぉ…!」


地上へとたどり着き、衝突するそれは水のように弾け飛び散る。


その様が花のように見えることからこの名が付いたという(実親談)。


闇であるがゆえ触れればその存在を食われ、無かったことのようにされるのはルシフェルとて例外ではない。


『よくやるぜ、ったく。』


「やった、か…?」


「それでネタが尽きたなら死んでもらうけど?」


「!?」


暗黒柱花の真下にいたはずの奴が今は俺の背後で胡坐をかき、頬杖をついている。


「お前の攻撃はどれも遅すぎてなぁ、それに合わせてると肩が凝るんだよなぁ。」


「ならお前は、いつでも俺を殺れたと?」


「んー、まぁそんなとこ。」


頬杖をついているのと逆の手で後頭部をポリポリと掻くルシフェル。


「んで。もう終わりかい巡回最終回?」


なぜここでラップ調になる…。


と言っていられる状況でもないわけで。


光明之小太刀(こうみょうのこだち)、アスモデウス。」


鎌の存在を新たな剣の投影で上書きする。


俺の能力は原則として出せる剣は一本ずつであるがため、光明之小太刀を顕現させた瞬間に闇狩大鎌は霧散する。


使えなくなったわけではなく、俺の中へと帰っただけだ。


「そんなちっぽけな剣でいったい何をするつもりだい?」


「光を喰らうは広域の闇。闇を穿つは一縷の光。これ即ち二行相剋なり。」


言い終わると同時、ルシフェルとの間合いを一気に詰め、その勢いで斬りかかる。


その速度はまさに光の如き速さを持ち、その一撃はスズメバチの如き鋭さを持つ。


だがその一撃ですら彼にとってはハエを追い払うのと同等のように軽く弾かれる。


「ただただ速くしたって意味ないの。」


「うおおおぉぉぉ…!!」


さらに一撃二撃と、次々に斬りかかる。


だが全て人差し指で弾かれるか躱される。


百や二百は攻撃していたはずなのに、小太刀の刃がルシフェルの身体を傷付けることはなかった。


一つだけ言えるのは、ルシフェルが胡座をかいているその場から一歩も動いていないということだ。


俺は一度距離を取るために後ろへ跳躍する。


「距離を取ってどうするつもりだ?」


耳元で聞こえるルシフェルの声。


そんなはずはないと、声のした方を向くと案の定そこにルシフェルがいた。


俺と同じ速度ですぐ横を飛んでいる。


「なっ…!?」


「そろそろ飽きてきたんだけど。」


言いながら右の裏拳を俺の頬に入れて来た。


「ぐっぼは…っ!」


そこで俺の持つ全てのベクトルが左向きへと強制変換され、身体がそちらの方向へ吹っ飛ぶ。


その辺にある、闇に呑まれずに済んだ民家を大壊させながら吹っ飛んで行く。


そのスピードは全く落ちる気配がない。


体制を整えることもできない。


『よく飛ぶなぁ…ぅえぷ、やべ、酔ってきた…。』


「ぁぁぁぁぁぁ…!」


不意に浮遊感とスピードがゼロになったと思えば背中に激しい痛みが走る。


「ごぶ…っ!」


ルシフェルが俺の通過点に先回りし、飛んでいる速度を相殺するほどの威力の拳を打ち込んだのだ。


「この程度かよくだらねぇ。」


無造作に地面に叩きつけられる。


「ぁ…、まだ、まだ終わってない…げほっ…。」


俺は体に鞭打って再び立ち上がる。


こんな痛み、今まで何度も味わってきたんだ、もう慣れた。


と、自分に言い聞かせる。


「別にいいけど。」


「ふぅ、ふぅ…。」


俺は精神を統一させる。


無論、その目は相手を見据えたままでだ。


肝心のルシフェルは背中の翼をはためかせて空へとゆっくり飛び上がりながら言う。


「あ、いいよ〜、邪魔しないからどうぞごゆっくり〜。」


手をひらひらとさせながら欠伸をしている。


どこまでも人をバカにしたような態度を取りやがる。


見てやがれ、これが俺の…!


「大罪剣、禁忌・七剣抜刀。

禁忌之型其の壱、七支刀(ナナツサヤノタチ)。」


俺が使える大罪剣の七つ全てを同時顕現、そして一つの剣にまとめる。


禁忌である理由はただ一つ、感情がなくなるからだ。


感情による不確定要素[戦闘乱数]の上下はまさにピンからキリまで。


それをなくす、ということはつまり、戦闘における勝敗を当人の実力のみで決してしまうのと同義。


「七支刀とはこれまた渋いの引っ張ってきたねぇ。」


一本の剣に七つの切っ先。


日本に残る古き時代の剣の一つ。


柄からのびる一本の主軸から分岐して、合計七つ。


『やべ、マジ吐きそ…。』


「行くぞ…っ!」


「目が死んでるように見えるのは俺の気のせいなのかね。でも闘志の炎は燃えてるんだね。」


実親は剣を振りかぶりながらその場を跳び出す。


さきほどみたいな光のような速さではなく、脚力だけによるダッシュ。


「さっきよりも遅いとか。つまんねぇなぁ。」


走りながら剣を振り抜き、地面に叩きつける。


水氷之爆炎(ランス・オブ・ハルバード)!」


剣を地面に叩きつけると、作用反作用の法則によって反動が身体に返ってくる。


実親はその反動を棒高跳びのように、つまり七支刀を棒にして宙へと跳び上がる。


ルシフェルはゆっくり空へと上昇していたとはいえ、ただジャンプしただけでは届かない距離にいたためこの方法を取ったのである。


「でも届かんぜ〜?」


その時、地面に刺さっている七支刀が大爆発を起こす。


爆発における爆風を受け、ルシフェルの位置まで一気に跳び上がる。


「おわ…っ!」


爆風の影響はもちろんルシフェルにも及び、そのおかげでこの天使は体制を崩していた。


実親はそのまま勢いに乗り、ルシフェルを上から下へ殴りつける。


ルシフェルは咄嗟に腕を交差させて防いだが、その勢いを殺すことができず地上へと落ちていく。


実親も落ちていく。


ルシフェルも実親も地上にうまく着地する。


「あービックリしたー。てかお前、両足であの高さから着地して痛くないの?」


爆発が起こった場所周辺には大きなクレーターが出来上がっていた。



地面に刺さったままの七支刀を拾い上げ、今度はルシフェルの懐へ飛び込まんと駆け出す。


「わー、やーらーれーるー(棒)。」


ルシフェルの元へたどり着くまでに七支刀を横に一閃。


光明之走雷(ライト・オブ・サンダー)!」


振るった剣先から斬撃が飛び出し、空気すら切り裂きながら標的へと向かっていく。


七支刀の切っ先は七本、つまり同時に七つの斬撃が放たれた。


光よりも速い速度で。


だがそれらも素っ気なく弾かれる。


否、打ち消される。


「技の構成が単純すぎて打ち消すのとかマジ楽勝。」


攻撃範囲内に来た。


槍のように七支刀を突き出す。


七本瞬来互(セヴンス)零乃砲(レーザー)!」


至近距離で放てば流石のルシフェルでも避けきれないはず。


それぞれの切っ先からそれぞれの属性を反映した色の線状光線、レーザーが放たれる。


ルシフェルは仁王立ちをしている。


発射地点とルシフェルとの距離は10cm足らず。


レーザーを発射して満足せず、身体を貫かんと剣を更に前へと突き出す。


しかしどれも当たった実感がない。


それどころか目の前からルシフェルの姿が消えている。


「…何の用だ…なに、本当か…!?

そいつはヤバイな。…ああ…ああ…わかってる。

そっちはどうなってる?……そうか。

なら俺も遊んでる場合じゃないな。」


上の方から声が聞こえてくると思えばあの天使、見えない誰かと会話しているようだ。


今の一瞬でどうやってあそこまで移動できた…?


「…ああ。

真実の劔を使うぞ。あいつに代理演算頼むって言っといてくれ。…。」


何かわからんがこれはチャンスだ。


敵は今、隙だらけだ。


「禁忌之型其の弐、無我の王。」


そう唱えた途端、七支刀は七本の刃物にわかれて実親の中へ消える。


実親の中へ消えたと思えば次の瞬間には彼の背中で七本の白い剣のシルエットが刃の方を外に、花のように円状に開いている。


更に空が急激に暗くなり始め、唱えてからもののコンマ数秒で世界が暗闇に閉ざされる。


思考がより一層クリアになる。


手を敵の方へ、ルシフェルの方へかざす。


暗闇であれ敵の位置は手に取るようにわかる。


背中の剣がそれに反応して刃先が彼の手と同じ方向を向く。


「…了解、すぐに終わらせる。」


「行け。」


七本の剣が何ものよりも速いスピードで空を翔け、まっすぐにルシフェルへと突き進む。


そうして剣は身体を貫いた。

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