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劔が煌く夜に  作者: 中村中
アレ、再び。
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30/36

各人の終戦。

あたしが森の中から出てきた時には既に戦闘は終わっていた。


森の周りを少し歩くと、地面に小さなクレーターが幾つも生まれていた。


更に歩みを進めると、倒れている人がいた。


実親だった。


あたしは急いで彼の元へと走り寄り、状態を確かめたが何の事は無い、気を失っているだけであった。


だが、何か温かいものに触れた気がして自分の手を見てみると真っ赤に染まっていた。


「!?」


よく見ると彼の身体、腹部の左半分がなくなっていたのだ。


そこにも小さなクレーター。


とにかく傷をふさごうと能力を使う。


こんな時、自分の能力が傷を癒したりする治癒能力でないことが腹立たしくなる。


もしかしたらこいつの生命力を無駄に消費しているだけなのかもしれないという後ろめたさが心の内に生じる。


持ちうる限りの全力で能力を発動させる。


なんとか傷口をふさぎ終え、ゆっくりと辺りを見回してみた。


彼が倒れている周辺にはクレーターが存在しなかった、彼の真下を除いて。


そばの森にも、何かが起こった気配は微塵にも感じ取れなかった。


このことから推測されるのは、小さなクレーターが大量にできたのが彼の攻撃ではなく、尚且つあたしらに危害が及ばないように取り計らって発動していたということ。


実親じゃないならオーディンの攻撃となるのだが、それならどうしてあたしらをかばうようなことをしたのか。


というよりオーディンはどこへ行ったのだ。


こいつが傷を負って倒れているということは、負けたのか?


考えれば考えるほどわからなくなる。


「いったいここで何が…?」


そんな自分からポツリと自然に出た言葉。


そういえば前回にオーディンと接触した時もそうだった、あたしは事を最後まで見届けることができなかったんだ。


しかもそんな、情けないあたしに追い打ちをかけるかのように、オーディンを退けたのがこいつであるという事実。


結局何の役にも立たなかった自分が憎い。


そんな苛立ちを晴らすかのように全力で地面を殴った。


拳に痛みがあっただけだ。


こんな今の自分のせめてもの救いが、実親が無事に回復し目を覚ますことだというのも苛立ちの原因の一つだった。


それからあたしは何度も何度も地面を殴り続けていた。


拳からは血が垂れていた。



完全に迷子である。


実親くんを先に行かせたのはいいが、自分が究極の方向音痴なのをすっかり忘れていた。


「これじゃ実親くんに申し訳が立たないですぅ〜。」


自分の能力であるタロットカードの中には、行くべき道を指し示してくれるような類の効果を持つようなカードはない。


自力でこの場を切り抜けなけられなければ、それ即ち餓死。


死んでしまってミイラになってから発見…?


「そんなのは嫌です〜っ!」


叫んでみても誰も何も言ってくれないし来てくれる気配もない。


自分も大の大人なのだから、自分のことは自分でできるようにならなければいけないと散々親に言われてきたが、一向に正そうとしなかったツケがここで回ってきたのだろうか。


少しでも直す努力をしておけば良かったなぁ。


にしてもこの森、人工的っていうか魔力で作ったにしては広すぎないでしょうか。


いくら歩いても出口に辿り着く気配がない。


まるで出口のない迷路のようだ。


それとも私の感覚が狂っているだけなのだろうか。


歩きすぎて周りも暗すぎてその上寂しくて。


だから広すぎるとか感じてしまうのだろうか。


この闘いが終わったあと、結果的にみんな無事で笑いあえるならそれでいいとは思う。


実親くんもキララちゃんも田中さんも富士さんも。


それに私たちとは違うグループのあのコスプレ三人集も。


だから、その結果へ導くためにもこんなところで自分が真っ先にリタイアしたり、ここで諦めちゃいけないんだ。


だけどこのままではそんな些細な自分の願いも達せられそうになさそうだ。


諦めが感情を完全に支配しようとするがそれを何とか抑える。


私は歩く、鬱蒼とした木々の間を抜けて光のさす場所へと。


自分がどこへ向かっているのかさえわからないけど、もしかしたら森の奥地へと入り込んできているのかもしれないけれど、それでもこの足を止めたくはないと思う。


止めたら最後、もう歩けなくなってしまいそうで怖いから。


しばらく歩みを進めるうちに、木々の間に微かな光が見えた。


私は歓喜してそちらの方へと向かう。


そこはただ、珍しく葉と葉の間にできた隙間から光が入り込んできているだけだった。


「はぁ〜…。」


まだまだ先は長そうだ。


歩いているうちに私は唐突にあることを思いつく。


「そうだ、木に登って外をみればいいんだ〜っ!」


木を見つめ続けていたからこその考え。


自分なりに名案だったと思う、実行に移すまでは。


複雑に伸びている枝は、まるで私を登らせまいとしているかのようだった。


邪魔な枝は折り、枝で顔を引っ掻いても気にせず、服が枝に引っかかって破れようともこれは借り物だからと自分に言い聞かせて、なお登る。


でも長袖長ズボンであったことに感謝すべきかせざるべきか悩むところだ。


確かに皮膚は守ってくれてはいるが、枝に引っかかって私の進行を邪魔する。


袖が袖と言えないくらいボロボロになり、ズボンもそこまではいかずともダメージは深刻だった。


そんなこんなで何とか頭だけでも上に出すことができた。


そこで私に戦慄走る。


恐れていた事態がやはり起こっていたのだ。


まさに方向音痴の本領発揮、といったところであろうか。


見渡す限りここは中央部辺りなのである。


「あ〜…。」


言葉が出なかった。


やっぱりな、という気持ちが強かったのは言うまでもない。


それでもなんとか言葉を絞り出した。


「こ、ここはポジティブシンキングなのです〜!」


萎えかけた心をもう一度奮い立たせようとする。


発想の転換である。


ここが真ん中だということはつまり、どこへ向かって行っても外への距離は同じということ。


だから方向音痴とか関係なくまっすぐ進めば自ずと外へ出られるのだ。


そう考えると少しだけ元気が湧いてきた。


「よーし、頑張るぞ〜っ!」


とは言うものの、当面の目標は如何にして枝に影響されず木から降りるかである。


少し考えたが結局答えは出なかったので、そのことは諦めて普通に降りた。


ほとんど戦闘に加わってないはずなのに服がボロボロ、顔も傷だらけだ。


ずんずんと木々の間を抜けて行く。


するとごく僅かに、光が見えた。


今度こそと思いそこへ向かって急いで行くと、やったね外に出ることができた。


周りを見回すと、そこにはちょうど悔しそうに地面を殴りつけているキララちゃんの後ろ姿が見えた。



「足元の氷が溶けたと思ったら今度は森ですか…。ほんとなんでもアリですね。」


遠目に見てもわかるほどの規模。


しかしこの広場を覆ってしまうほどではない。


恐らく広場の1/5程度の大きさだろう。


それはそれで結構な大きさだとは思うけど。


そういえばあそこの辺りにはオーディンがいたはずでは…?


私と富士さんだけの時、他の三体は襲いかかってきたのにオーディンだけはじっと座って何かを待っているようだった。


そしてあの場には、花田さんのことだから実親班が向かわされたことだろう。


彼らにオーディンの相手ができるのだろうか。


口ほどにもなくすぐにやられてオーディンもがっかり、などということはまずないだろうが。


「自分のことよりも教え子のことの方が気になるというのは、教える側に立つ者の性ですかね…。」


誰に聞かせるでもなくつぶやいてみた。


もとよりここには私以外に誰もいない。


私は戦闘後ずっと大の字に寝転がっていた、現在進行形で。


それほどまでに疲弊していたのだ。


軽くあしらってボコボコにしてやろうと思っていた自分が恥ずかしい。


アザゼルと言えどちょろいもんだ、と心の何処かで思い込んでいたのだろう。


俺の力だとこんなの余裕だ、とも心の何処かで思い込んでいたのだろう。


そんな余裕シャクシャクな気持ちが仇となったのだ。


思ったよりもかなり手強く、それでも相手には手加減されている気しかしなかった。


アザゼルを軽くあしらうどころか、自分があしらわれていたのだ。


ジャック・オ・ランタンと同時進行のときはあまり手を出してこなかった。


だが一対一になった途端、豹変して好戦的になりしばらくは私は防戦一方だった。


そして通信をし、その最後に隙ありとばかりに左手をズッパシ切り取られた。


腕だけでなく、やろうと思えば私の命すら軽く切り取ることができたというのにそれをやらなかったということはつまり、遊ばれていたということに他ならない。


私はこれでも全力で闘っていたのだがね。


こんなに力の差を見せつけられては、左手を持っていかれては闘う気力がなくなるというものだよまったく。


教え子たちの手前、闘いに立ち上がらないわけにはいかないけれども。


身体に鞭打って、左手を使って立ち上がろうとする。


だがうまくいかない、それどころか…。


「あぁ、そうでした。左手はお亡くなりになられたんでした。」


闘いの最中、アザゼルに左手を持っていかれた。


肩の辺りから全部やられたんだった。


切られてすぐは血が多量に吹き出してきたけれど、なんとか抑えることができた。


佐々木さんの能力を見ていなければ今頃、私は出血多量で死んでいただろう。


自己治癒力の強化。


これのおかげで止血はおろか、痛みもなくすことができた。


細かく言えば、切断面辺りの肉が超速的に再生してかさぶたのようになったのだ。


だが左手が戻ってくることはもうないだろう。


あったとしてもそれは義手となるだろう。


これからは右手だけで全てなんとかしなければ。


これではさすがに直属護衛軍第一番隊隊長の座は誰か他の人、富士さんとかに変わるかもしれないな。


片手が使えないだけで戦力大幅減だものな。


止む無く右手で身体を起こし、立ち上がる。


「うぐ…っ!」


が、すぐにバランスを崩して倒れる。


自分でも気付かぬうちに足にも何らかのダメージを負っていたようだ。


「こんな姿、教え子たちには見せられませんねぇ。」


歩けるくらいまで回復させ、再度立ち上がる。


目指すはあの極地的な歪な森へ。


なるだけ早く行きたかったが、さすがに走る体力も残ってなかったので歩いて行くことにした。


でかいパンプキンヘッドも見えないし、他もどうやら闘いは終わったらしい。


それはまだ実親が、頭上から降る無数の槍を弾いている時であった。



「あーしんど。もぅムリやわ動けんわ…。」


足を投げ出してその場に座り込む。


ウチらの討伐対象であったジャック・オ・ランタンをなんとか倒せたすぐあと。


またあんなだらしのない格好して…。


「ハクチョウ、それでも女やろ?もうちょっとー」


「ハクチョウ言うなやっ!どうせならせめてスワンと呼べっていっつも言うてるやろっ!」


「成海はどっちでもいいです…。」


「しらとりとか言いにくいしかといってスワンとかなんか恥ずかしいし。ハクチョウでええと思うんやけどなぁ。」


いつも、この成海は何をするにも怯えた感じだ。


ウチはそれが彼女らしさだと割り切っているけどハク…スワンは違う。


「成海はもっと堂々とせんかぃっ!」


「ひゃぅぅごめんなさぃ…。」


見ているとイライラとするようなのだ。


この二人のこのやり取りを見るのは何回目だろうか。


ウチとしては「またか…。」ぐらいにしか感じなくなったけど。


そういやこいつらと出会ってからもう二年くらい経つかな…。


時間が経つのは早いものだな。


「だけど今回は成海のお手柄やったことは認めざるを得ぇへんのよなぁ。」


「それは確かにな。成海無しやったらウチらソッコーやられてジ・エンド迎えてたわ。」


「そ、そんなことはないですよ…。」


「にしてもあの何やっけ、ジャック・オなんとか言うやつ。あれ、口から小ぃこいやついっぱい吐き出してくるとかありえへんやろ。あれは焦ったわ…。」


でかいパンプキンヘッド、あれが本体だとウチらは思っていた。


あれを倒せばこの任務は終わると。


でも実際は違ったんだ。


でかいヤツは口から小さなカボチャを次々と吐き出してくるだけ。


吐き出されたカボチャはウチらを狙って飛んできて、触れたら爆発した。


それらを躱したり喰らったりしながら、ずっとでかいヤツを攻撃しているのにダメージを負っている気配がない。


爆発を喰らってしまうと、せっかく成海が作ってくれた衣装が徐々にボロボロになっていくのがとても痛々しかった。


あのデカイやつはウチらの攻撃に対して動じもしなかったのだ。


それは本体が、吐き出されたカボチャの中に混じっていたからだった。


それは成海の「あのデカイのが本体じゃないんじゃ…?」という一言でウチも気付く事ができた。


ニブチンのハクチョ…スワンはこうだと言われてからようやく気付けたらしい。


三人での議論から、本体は本体であるが故に爆発しないのではという結論に至り、以後本体を見破るために防戦一方となった。


議論をしている間にも戦闘は続行されてはいたが、それは持ち前のチームワークとか諸々でカバーできた。


そして本体を見つけたのも成海。


そのカボチャを攻撃して壊したのがスワン。


ウチは実際、ほとんど何もやれてないにも等しい。


だけどそんな事を気にも留めず、責めてくるわけでもない。


そんなこともあるさと、流してくれるのだ。


ウチ以外の二人のどちらかが仮にウチと同じ状態だったとしても、ウチもこの子らと同じことをするだろう。


それだけ互いを信頼して、硬い絆で結ばれているということ。


そしてようやく本体を倒したその瞬間、そこにあったデカイやつから吐き出された小さなヤツまで全部消え去った。


その様はすごくあっけなかった。


倒すまであれだけ時間がかかったというのに、消えるときはホンマの一瞬やった。


「ま、終わったんやからそれで良しや。帰ろか。」


スワンは立ち上がりながらウチらに声を掛ける。


「せやな。」


ウチが同意の返答をし、そして成海もこくんと頷く。


それが、実親が力尽きた数分後の出来事である。



「やばいですね、力使いすぎたようです…。」


身体が動かない。


撃退はできたものの、もう少し闘いが長引けば確実にやられていた。


始まりからずっとガブリエルと闘っていてわかったのが、この闘いがただの時間稼ぎだという事。


本気を出さず、出されていたらほんの数秒で勝負は決していただろう、ただただ楽しんでいるようで。


あいつは何かを逐一確認しながら私と闘っていた、ような気がする。


そして

「用ができたので俺は帰るわ。命拾いしたなおっさん。」

と言い残して去って行った。


もうこれは撃退ではなく、情けをかけられただけなのではないかとふと思う。


それにしてもやはり、私の考えすぎだろうか。


もしそれが本当だとすれば、一体何を確認していたのだろうか。


そして何のタイミングを見計らっていたのだろうか。


私は頭を左右に振り、ひとりつぶやく。


「これは私だけでは答えが導き出せそうにありませんね。とにかくもっと他の方の意見も聞いて見たいところです。ミーティングルームへ帰るとしますか。あそこなら分析の鬼と呼ばれる花田さんもいることですし。」


立とうとしても力が入らない。


身体にガタが来ているのだろうか。


いやそうじゃない、そうじゃなかった。


能力の制限を解放するために感覚を遮断している箇所が何箇所かあったんだった。


「足の感覚すら遮断していたのを忘れていました。解除。」


にしてもここからミーティングルームのある病院までは遠いな…。


目線を向けてひとりごちる。


目の端に緑の塊が見えるが、カボチャらしいものがふわふわ浮いているように見えるが、それ以外は何も見えなかった。


「にしてもこの広場を一瞬で作り上げた実親さんもホント凄いですね。」


普通に素で感心してしまっている自分がいた。


歩いて行けば一日くらい余裕でかかりそうな距離だ。


でも動かなければ何も始まらない。


だから歩くとしよう、このボロボロの身体で。


走るという選択肢は既にない。


そんな体力が残っているのか?


答えは否。


だから歩くしかない。


たとえ足をずるずる擦って歩くことになるかもしれなくても。


次の日に響くだろうなコレは…。


まぁ命があるだけでもありがたいと思うべきなんだろうなきっと…。


富士さんが歩き出したのは実親が春日井さんと別れ、森を彷徨っている頃のことであった。

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