世界の話。
彼は立ち上がり、恭しく礼をしながら名乗る。
「わたしの名は、富士 孝雄と申します。国家直属護衛軍第二番隊隊長をしております。以後お見知り置きを。」
ぷふっ。
俺は名前を聞いた瞬間、吹き出していた。
「あひゃひゃひゃ、富士って!孝雄って!普通すぎんだろっ!ここは展開的にキラキラした名前が出てくるところだろっ!いひひひひ。」
やべぇ、ツボに入った。
笑いが止まらないぞ、コレ。
『俺から言わせてみれば、サネ、お前はラノベとか言うやつの読みすぎだ。少しは自重しろよ。』
「この自己紹介でわたしの名前に突っ込みが入ったことなど初めてですよ。しかし、あなたは笑いすぎではありませんかね?」
いや、だって。だって。
「いひひひひひひ。」
お腹痛いくらい笑えてる自分が怖い。
「てか、何だよ国家直属護衛軍とかなんとかって。」
『いきなり真面目トーンっ!?』
正直なところ、この電波さんに痛い目見せたらもう電波チックなこと言わないだろうと。
そう期待してやってみた笑いであった。
あまり効果はなかったようだが。
いや、別に面白くなかったわけでもないんだよ。
正直なところ、本気で笑えてたしね。
「三年前。世界を襲った地球震が起こったのは覚えておいでですよね?」
あら、話がすり替わったような…。
まぁいいか。
「あぁ、覚えているさ。その日からこいつが俺に憑くようになったんだからな。」
ロキを見ながら俺は言う。
彼は微笑んでいた。
そう、三年前。
世界全体を襲った地球震が起こった。
地球そのものが揺れたため、こういう呼び名になったと言われている。
世界の誰もが経験したことのない大きさの地震であった。
地震が起こるだろうという予測などまったくなく、まさに不意打ち同然であった。
歴史的な建物から人々の住まう住居、更には地下街の崩壊。
すべてにおいて破壊された。
その時は流石に、国家間で協力しなければ乗り越えられないとお偉いさん方は悟ったのか。
すべての国が協力して、復興をした。
おかげで、国家間での優劣すらなくなり、万事丸く収まった。
世界全体での行方不明者数は人口の約半数。
死亡者数は数えきれないくらいになっていたと聞く。
そしてその行方不明者数の中には、俺の両親と姉も含まれている。
「その地球震がどうしたんだ?」
「あの発生原因は長い間、あなた方の世界では不明とされてきましたが。本当は既に判明していたのですよ。」
は?今さらそんな話?
てかやっぱり電波じゃん。
「悪いが興味ないね。」
『同じく。』
富士さんはロキを見ながら、
「貴方は知っていたはずですけどね。」
などと冗談にしか聞こえないような言い方をした。
「で、まずは、富士 電波さん。あなたを警察に連れていってもらいます、警察署まで。不法侵入は立派な犯罪ですからね。」
「どうぞお好きに。てか誰が電波ですか。まぁ、できればの話ですけどね。」
最後の一文は聞き取れるか取れないかくらいの声だった。
電話は確か一階にあったはずだよな。
俺は部屋の扉を開けて、そこから出ようとした。
「ぅおわっ!何じゃこりゃぁっ!」
しかしそこに広がっていたのは、真っ暗闇。
まるで宇宙のような、ブラックホールのような、何もかもを吸い込んでしまいそうな果てなき闇。
『いちいち反応がオーバーだな。』
ロキはいたって冷静である。
この状況でその態度は逆に腹が立つ。
が、それは置いといて。
「んだよ、コレ。何したんだよあんた。」
「この部屋を、空間的に独立させただけですよ。おかげでわたしはロキとも話せていることにあなたは気付いていなかったようですけどね。」
あ、確かに富士さんはロキと話していた。
だけどそれとこれとはまた別の話なわけで。
「ま、落ち着いて。とりあえずこの中から一枚引いてください。」
などと言いながら下げていたカードを再び取り出す。
どういう話の流れでそうなるんだ。
「話はそれからですよ。」
いや、何がだ。
『もういいじゃねぇか。それを引きゃお前の退屈もなくなりそうだしな。』
はぁ、お前はどっちの味方なんだ、ロキ…。
とりあえず、ベッドに座り直した俺は状況を整理することにした。
まず、この勉強机の椅子に腰掛けているスーツ姿の男は富士と名乗り、電波さんであること。
俺に取り憑いている幽霊の名はロキ。
何処かで聞いたことがあるような気がするが今は置いておく。
そしてこの部屋は、空間的に独立している、らしい。
要するに出られない。
富士さんが出しているカードは三枚。
これを引けば人生が面白くなる、と言う。
俺は頭を抱えて考え込む。
『どうした?頭痛か?』
こいつは無視する方向で。
あぁもう、考えるのは俺の性に合わねぇ。
こうなったらヤケだ。
しばらくの葛藤の末、出た結論が。
「いいぜ、引いてやる。但し条件がある。」
「条件?いいでしょう。何なりと。」
いやに余裕ぶっているのが俺の癇に障る。
「俺の質問にはきっちりすべて答えてもらう。嘘偽りはなしだ。いいな?」
「なんだそんなことですか。ええ、いいですよ。では。」
なんだとはなんだ。
てかロキも地味に笑ってんじゃねぇよ。
こっちはけっこう真剣なんだよ。
「この三枚のカードにはそれぞれ、剣、杖、そしてネズミ捕りが描いてあります。」
ふむふむ、剣に杖にネズミ捕り、ね。
「ってネズミ捕り!?」
「ええ、ネズミ捕りです。」
「何でネズミ捕りなんだ…?」
「質問はカードを引いた後でたっぷり聞いてあげますよ。」
クソ、とりあえず引けってことかよ。
「因みに、目を閉じて引いていただかないと条件の話はなかったことになりますので。」
んだよ、ややこしいな。
「わぁったよ。引きゃぁいいんだろ引きゃぁ。」
そうして俺は目を閉じる。
差し出されたカードに手を伸ばす。
俺から見て右端のカードを引くことにした。
ネズミ捕りのカードだけはマジで勘弁してくれよ…?
そして俺はカードを取った。
「もう目を開けて構いませんよ。」
そうか。
「てか何もなかったんだが?」
主に身体的な変化、という意味で。
『いや、それが面白いことにー』
「それ以上喋れば、この方が提示した条件は振り出しに戻しますよ?」
なんだかすごい剣幕でロキを睨んでいる。
『チィ、わかったよ。』
「別に何かが変わるわけではありませんよ、実親さん。」
そういえば、俺の引いたカードは何の絵が描かれていたんだろうか。
表を見ると、剣の絵が描かれていた。
「あぁ、あなたが引いたのは剣のカード。すなわち騎士の属性です。」
はぁ。ナイト、ですか。
「つまり?」
「騎士は剣のカード、魔術師は杖、罠師はネズミ捕りのカードと対応しているのですよ。」
うん、さっぱり意味がわからん。
「ま、簡単にいえば、あなたの能力の特性を現しているということです。」
はぁ、能力ですか…。
なんだか現実感がありませんなぁ。
「この話はここまでにしましょう。能力については、向こうでのほうが詳しく話してくれますよ。」
「で、先ほどの地球震の話に戻しますが。わたしが何故先にカードを引かせたと思いますか?」
「ん?えーと。」
『覚悟のない者に真実を告げたところで意味がない、だろ?』
うわ、先に言われた。
そんなこと考えも及ばなかったけど。
「そんなところです。まぁ理由なんて後付でいいんですけどね。」
なんか曖昧な返事だなぁ。
こんなんで大丈夫かよ。
てか後付ってなんだよ、答え持ってなかったのかよ。
「この世界は実は四つに分かたれている、と言う話を聞いたことがありますか。」
それならば聞いたことがある。
「天国と地獄と、それに俺らが暮らすこの人間界。けどあと一つってなんだ?」
ロキにヘルプの視線を送るが、彼はどうでもいいと言うような涼しげな顔でふわふわ浮かんでいるだけだ。
「惜しい、ですね。」
惜しい、のか。
「一つ目の世界は天界。あなたの言う天国と同義です。
二つ目は地界。これもあなたの言う地獄と同義です。
三つ目は常人界。あなたが今過ごしているこの世界です。
そして四つ目は…。」
「四つ目は?」
なぜここで勿体ぶるんだよ。
富士さんの顔はなんだかさっきより輝いているように見える。
「超人界、です。」
はい?
「要するに、特殊な能力が使える人々がいる世界。それが四つ目の世界なのです。」
俺が今いるこの世界は能力が使える人がいない、と。
そして超人界とやらは文字通り、能力が使える超人しかいない、と。
そういうわけか。
「そういうことです。そして、常人界と超人界は表裏一体。光と影。陰と陽。つまり、本来は交わることのない世界同士ということです。」
交わることのない世界。
そんな話聞いたこともない。
しかし、この部屋が空間的に独立している、というのが真実であれば。
これが能力による力だと言うのであれば。
「あんたはあっち側の人間だろ?なぜここにいる?」
これは至極普通に辿り着く疑問であった。
「要するに、人材のスカウトですよ。」
あはは、と笑いながら富士さんは言う。
なんだかさっきから答えがテキトーすぎるような気がする。
「常人界と超人界を合わせて人間界と言うのですが、その人間界は天界と地界、その両方に挟まれて存在している。これはすなわち、天界と地界が交わらないようにするための緩衝材になっている、と解釈できます。」
確かにそう解釈はできる。
天界には天使が、地界には悪魔がそれぞれ存在し、それらは互いに否定し合う。
互いが互いを滅ぼそうとするだろう。
「しかし最近、その均衡が破られたのです。」
破られた?
『三年前の地震だよ。』
背後から声がした。
「そう、あの地震は均衡が破られた反動で起こったものなのです。」
「どうして…?」
『昔っから天界のやつらも地界のやつらも自分たちの領土拡大を目論んでるからな。そこで目をつけたのが人間界ってわけだ。』
なんだかややこしくなってきたぞ、大丈夫か俺。
「超人界には天界地界共に繋がるゲートがあります。しかしこれは余程がない限り閉じられたままなのです。というより開けてはいけない。」
なるほど。
天界も地界も領土欲しさにゲートを破ったってのか。
それがほぼ同時のタイミングだったから、地球が拒否反応を起こして揺れた、と。
「お察しの通りです。」
今日は珍しく冴えてるぜ、俺。
『めんどくせぇことするもんだよなぁ。今までうまくいってたんだからそれでいいじゃねぇかよ。』
「で、俺にどうしろと?」
「話が早いですね。超人界にはすでに天使や悪魔、神が降り立ち侵攻を始めています。人間は今までの均衡を元に戻そうとしているのですが、何せ相手は人外の者。」
『要するに、協力しろってことだろ。』
「いやはや、ホント話が早くて助かります。」
てかよく考えたら明らかにロキも人外の者の部類なんだが、ここはあえて無視しておこう。
「なぁんだ、天使や悪魔をボコボコにすりゃいいのか。」
「今の所は、ね。それで悪魔や天使よりも人間のほうが優れていると証明さえされてしまえばこの私欲にまみれた戦いは終わりを告げる、と、お偉いさん方は考えています。」
戦いとかワクワクしてくるなぁ。
結局のところ、話は単純じゃねぇか。
嘘か本当かは兎も角として、本当にそうなれば今まで以上に充実した毎日になりそうだ。
俺はロキと目を合わせ、
「『その話、乗った。』」
富士さんにそう告げた。
富士さんは子供のような笑顔を浮かべていた。




