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劔が煌く夜に  作者: 中村中
日常の崩落。
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幽霊の名。

俺は少し考えてから声の主に言い返す。


「んー?あぁ、あるなら紹介してくれよ。」


どうせまた幽霊のやつがからかっているのだろう、と思い、目を閉じたままぶっきらぼうに返事をする。


よし、と声が聞こえた。


と、同時に指を鳴らす音。


さっきまで元気に映像を垂れ流していた俺の携帯は電池切れのようで、いきなり画面が真っ暗になった。


「それでは、この中から一枚引いてください。」


なんだ、嫌に丁寧な口調だな。


まぁいい、引いてやろう。


身体を起こし、目を開けると目の前には三枚のカードとそれを持つスーツ姿の…


「って誰だお前ぇっ!」


思わず後ずさる俺と、何も動じない彼。


『気付くの遅いだろ。どんだけ気がゆるんでんだよ。てかバカだろお前。』


気が緩んでいたことは認めよう。


だが、断じてバカは認めないっ!


「ところで、そこに誰かいらっしゃいますよね?」


俺の部屋にいるスーツ姿の何者かは、空中をふわふわと漂ってる幽霊に向けて指をさしながら聞く。


「『へ?』」


俺も幽霊も唖然とした。


今までこんなことを聞かれたことがなかったからだ。


「いるっちゃいますよ。幽霊がね。あはは。」


俺は愛想笑いしかできなかった。


突然のこのやり取りについていけていないからである。


「名を、伺ってもよろしいでしょうか。」


人の名を聞く前に自分が名乗るのが礼儀ってもんだろ。


なんて、そんなことを言えるわけでもなく俺は


「あ、大倉実親です。」


答えてしまっていた。


はぁ、とため息をつく音が聞こえた。


上からも正面からも。


人が自己紹介してやったってのにため息って。


あんたら失礼にもほどがあるだろ。


「私が聞いたのはあなたではなく、あなたの周りにいる幽霊とやらの名前ですよ。」


『それくらい雰囲気で察せよ。やっぱバカだろお前。』


二人から呆れた、というような雰囲気が漂ってくる。


「あんたらマジで性格悪いな。」



「で、彼の名前は?」


そういえばこの幽霊の名前など今まで気にしたことがなかった。


いや、そもそも名前なんてあるのか?


今になってその事実に気付くとはなんとも情けない。


「お前、名前なんて言うの?」


『え?お前に教えるのか?この高貴な俺の名前を?』


「こいつの名前、ジョージだそうです。」


俺はできうる限りの皮肉を込めて、目の前の彼に言い放つ。


「ジョージ、ですか。」


彼は嫌に納得した様子だ。


『いやオイ、ジョージってなんだよ明らかおかしいだろ。』


お前が俺をバカにするからだ。


『いやいや、悪かったよ。』


その割には顔がニヤついてるんですが。



「彼の本当の名前はまだ、教わってないのですか。」


「ま、そういうことになりますね。別に名前がわからないからって苦労したこともないですけど。」


だって幽霊に名前があるなんて知らなかったのだから。


「では、今教わってください。私も気になりますので。」


あんたが気になっていてもこっちは別にどうでもいいのだが。


『ロキだよ、ロキ。わかったか?』


「ロキ、だそうです。」


俺が幽霊の名を告げた瞬間、何かが身体を駆け抜けて行った感覚に襲われた。


だが、それも一瞬だけだった。


「な、んだよ、今の。」


俺以外は事情を察している顔。


俺だけが置いていかれている、そんな感覚。


「なるほど、今迄は仮契約のままだったということですね。」


そして彼はまずは左手で、次に右手で指を鳴らす。


一瞬、携帯の画面が点いた気がしたが、どうやら気のせいのようだ。


確認したらやはり真っ暗な画面のままである。


ガコン、と部屋が震動したような気がする。


『そんなこともできんのか。便利だな。』


「ええ、ですが貴方が仮契約のままだったらこれも意味を成さなかったんですけどね。」


あはは、と笑いながら彼は言う。


今まで流れに流されてきてしまったのだ。


これは一度、原点回帰が必要だろうな。


「てかあんた誰だよ!?そしてどうやって入ってきた!?それに契約とかってなんだよ!?」


「そうでした。自己紹介がまだでしたね。」


そう言って彼は立ち上がる。


部屋の窓は開いているのに風は入ってこない。

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