武器依存。
俺は右から、佐々木さんは左から攻めにかかる。
それを見たオーディンはふ、と笑う。
グングニールの刃のない方で軽く地面を叩く。
「暴風注意報。」
唱えた途端、彼を中心に風が吹き荒れる。
俺も彼女もオーディンも元へ辿り着けず、逆に吹き飛ばされる。
「うが…!」
「チィ…!」
俺は空中でなんとか体制を立て直し、地面に着地しながら顔をあげる。
目の前には卑劣な笑みを浮かべたオーディンがいた。
「なっ…!」
顔をあげた瞬間に何か硬いもので左頬を殴られた感覚。
次いで身体が吹っ飛ぶ。
オーディンはまたグングニールで地面を叩き、唱える。
「波浪警報。」
グングニールと地面との接点から、まるで間欠泉のような勢いで、いやそれ以上の勢いで空中へ水が溢れ出す。
その水は地面に落ちることなく、全てが俺を飲み込まんとばかりに押し寄せて来る。
あれに飲まれたら俺は息もできずに溺死するんだろうか。
なんてことを考えていた。
割と冷静な自分に驚きはしたがそれよりも今はあの波をどうにかしたい。
既に体制は立て直している。
だが何をしようにも間に合う気がしない。
あの量の水をある程度蒸発させることができれば…!
『お前の中にその答えはあるだろ?』
如何にも。
俺は両手に握られている剣双方とも自分の身体に突き刺す。
不思議と痛みはない。
それはそうだ、これらは元々俺の一部であり俺の欲。
するとその剣は俺に傷跡を残さずその場から文字通り消える。
既に水は俺の視界に、それしか見えないくらいにまで近付いていた。
俺はさっきの双剣を出した時と同じように、自分の中へと入り込む。
そして、見つける。
詠唱は、省く。
それすらもしている暇がないからだ。
だから俺は、成すべき形を想像し、この手に握る感覚を実感する暇もなく。
故に失敗とやらの概念をかなぐり捨てて。
冷静に言葉を放つ。
「爆焔薙・憤怒。」
言い終わる時には既に俺の胴体が水によって流されまいと抵抗している状態。
それすらも意に介さぬというように、ついさっき取り出した武器で足元に自分を囲むように円を描く。
その動作が終わる時には足元以外に全身が水流に飲まれていた。
「円陣滅火。」
発言と同時に、オーディンの行動と同じように刃のない方で地を叩く。
すると描いた円に沿って鮮やかな橙色の炎が勢いよく噴き出す。
さながら結界のようである。
俺を覆う炎は、その身に触れる水全てを蒸発させ、蒸気へと変えていく。
濡れていた俺の服も同時に乾いていく。
『こんなこともできんだねぇ。』
炎の結界が消えるまでには、水流はその勢いがなくなっていた。
「な、にィ…!」
オーディンは、さっきの技で倒し切れるとは思っていなかったものの相手が無傷で立ち位置すら変わらずに立っていたことに驚きを隠せない様子。
佐々木さんは…、風で吹き飛ばされたあと打ち所が悪く気絶してしまっているようだ。
俺も俺だが彼女も割と気絶多いよな。
「今度はこっちの番だぜ…!」
俺はオーディンを威圧するように言い放つ。
「ほう、今度は薙刀ときたか。さっきみたいにほとんど使えず仕舞ってしまうのがオチだろ?そしてオメェにゃ番なんてのはねぇんだよ。」
そう、俺が今持っているのは薙刀。
その長さは刃を除けば俺の鼻辺り。
刃を入れれば俺よりもはるかに長くなる。
全体で200cmの長さだ。
「行くぜ…っ!」
俺は飛び出す。
それに呼応するようにオーディンは左手を突き出し、その虚空に魔法陣を繰り出す。
「雷注意報。」
その魔法陣から凄まじいほどの雷が発生する。
俺はそれすらも斬り捨てる思いで薙刀を下から上へ振るう。
「へぁぁっ!」
だがオーディンは魔法陣はそのままに、魔槍で俺の攻撃を巧みに防ぐ。
薙刀の威力を殺され、且つ上へと弾かれる。
「しまっ…!」
長さを活かした薙刀も、弾かれてしまえば無防備となる。
その無防備となった腹部に、滞留させていた雷を一気に開放される。
「じゃあねー。」
陽気な声と電撃と共に後ろへ思いっきり吹き飛ばされる。
電撃によるビリビリとした痛みよりも物理的な痛みが勝っている。
「かはっ…!」
俺は吹き飛ばされながら唾液を撒き散らすハメになった。
『うっわきったねぇ…。』
そして誰かに抱きとめられる感触。
俺の色々な意味でのでの飛行はそこで終わりを告げた。
「大丈夫、ですか〜…?」
春日井さんだった。
「ぅえほっごほっ、ま、まぁ、なんとか…。」
『てかほとんど胸熱な攻防戦繰り広げてねぇクセに面白くもねぇダメージの受け方してんじゃねぇよつまらん。』
こいつはホント他人事である。
敵のほうを見据えると、その間にもオーディンはまた投げ槍をしてきていた。
俺はそれを今度はタイミングよく横から叩き落す。
「プレゼントかいジィさん。クリスマスでもあるめぇに。」
「喜んでいただけたのなら光栄だな小僧。」
これでさっきの皮肉のお返しができたかな。
でも薙刀じゃ速度が出せず、相手の隙をつく攻撃ができないな。
「大樹も元は種から生ず。此処に我が魔力を種と成し、蔓延る魔を糧とし大地に芽吹かん。
大樹大林世界っ!」
大地が揺れる。
思案している間になんか呪文唱えてたし。
不意打ちとは卑怯なり。
足元が大きく揺れる。
「これは…?」
春日井さんも戸惑いの表情を浮かべる。
『うわ、俺のニヴル・ヘイムを上書きしやがった…っ!』
「どういうことだよっ!?」
今まであった足元の氷がどんどん溶けて土へと吸収されていく。
そして地面の所々がもこもこと動き始める。
『植物をその地に芽生えさせる魔術的な?そんな感じのやつよ。』
「なんとかならねぇのか!?」
『なんとも言えねぇよ…。』
くそ、こんなの想定外だ。
こんなの防ぎようがないじゃないか…!
「くっそぉ…!
大気爆前っ!」
俺はやけくそになって薙刀を上から下へ振るう。
薙刀の刃からかまいたちのような一筋の炎が生じ、芽吹いたばかりの若葉を焼き尽くしていく。
だが結局それは徒労に終わる。
焼けたあとからでも若葉が芽吹くのだ。
「くっそ…!」
おそらく、これにも術者への補正的なものがかかっているのだろう。
成長した木々を操ることが可能、とか有りがちなものが。
だとすれば…。
「佐々木さんが危ねぇ。」
漠然とだが、そう感じた。
だがここに春日井さんを放置しておいても危ない。
「いったいどうすれば…!?」
焦りが俺の思考を著しく妨げる。
思案している間にも目の前では植物がわかのわからないくらいの速度で成長を続けている。
「私は大丈夫ですから彼女の所へGoですよ〜。」
不意に声をかけられる。
俺にとっては不意に声をかけられた驚きよりも、彼女の発言のほうが驚きだった。
なぜ、と俺が問うと彼女は俺に何時ぞやのカードを見せつけ、何も言わず背中を押してくる。
「早く行ってあげないとキララちゃんが大変なことになりますよ〜?」
トドメとばかりに俺に追い打ちをかけてくる。
「あられもない姿になってるんだったらそれはそれでいいかもな〜…グヘヘ。」
スパーンっ!と頭を叩かれた。
「そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ〜!」
彼女の強気な口調は初めて聞いた気がする。
「んじゃま、元気でな。死ぬんじゃねぇぞ。」
決心のついた俺はそう言ってその場を飛び出し、佐々木さんの元へと向かう。
てか何このやり取り。
まるで今生の別れみたいじゃねぇか。
ナニコレ俺死ぬの?
まさかの死亡フラグ立てちゃったパターンっ!?
『気にするな。俺から言えるのは一言だけだ。死ぬなよ。』
「どーしてこーなった…。」
ロキの言葉に愕然としながら俺は既に森となってしまっている木々の中を斬って焼いて道を開き進む。
この木の多さでオーディンとの距離が全くわからなくなってしまった。
どこから攻撃が飛んでくるやもしれない。
『てかコレ、焼いちまえば万事解決じゃね?』
「んなわけあるか。まだ佐々木さんがどこかで寝てるんだ。…どこかで、どこかで?」
これはやってしまった、と自分でも思う。
何故なら彼女を守ろうと動いた俺なのに。
「どこにいるかわかんなくなったよマジどうしよう。」
この体たらくである。
不甲斐ない上に情けない、こんな自分が嫌になる。
『もういっそ、ここら一帯焼き尽くせばいいじゃん?』
それさっきも言ったぞお前。
「くはははははっ!憐れ、実に憐れだな。」
どこからともなくオーディンの声が響く。
「直線戯攻っ!」
声がした気がする方向に向けて技を放つ。
てか俺、これ扱うの初心者なのになんでこんなに技使えるんだろう。
薙刀を対象へ向けて突く。
それに魔力を乗せて飛ばすことで遠距離にいる相手にも対応できる。
突き出す時の速度で威力が大きく変わるのが難点ではある。
まぁ別に薙刀でなくても放てる応用が効く技なのだ。
投げられたグングニールの、当たり判定ポイントが少々広くなったものと思えばいい。
技の当たった木々の中の、幹の大半を削られたものはメシメシなどと音を立てて倒れるが、その足元からは新たな若葉が芽生える。
俺の放った技が向こうの方まで突き抜ける。
その軌道上には、何もなかった。
俺は目を閉じ、オーディンの姿を思い浮かべる。
そして、今までずっと大事そうに握っていた魔槍を投げる。
が、それは宙に留まりくるくるとゆっくり回る。
『それ、意味あるのか?』
「こいつは必中の槍だ。だったら目標へと向かうのが必然。まぁ俺にちゃんと使えてるかどうかによるがな。」
『また分の悪い賭けかよ…。』
「そういうこった。ほら、行った、追うぞ…!」
魔槍は目標を特定したのか、勢いよく飛んでいく。
突き放されないようについて行くのが精一杯だった。
その槍はうねうねと木々の間をくぐり抜けていく。
それはやがて、オーディンの手によって作り出された人工的な森から外へと抜け出す。
抜け出したと思えば、その森の周囲を周り始める。
やがてある人物にそれは掴まれ、動きを止める。
「フハハハハハっ!まさかこんな方法で私の元へとやってくるとはねぇ、小僧。」
「はぁ、はぁ、しんど…。」
「大雨警報。」
全力で走ってきた俺に容赦無く技を繰り出すオーディン。
俺のいる所だけ局所的な豪雨が降る。
その雨は、まるで重力操作されたように俺が立っていることを許さぬほどの強さだった。
雨に耐えられずに地面に倒され、うつ伏せにさせられる。
「穿て、魔槍。」
こんな状態でグングニールなんて使われたら一溜まりもない、てか死ぬ。
この雨も結局は水なのだ。
だったら…!
俺の怒りを糧に、この薙刀の放つ技は強くなる。
今持てるありったけの怒りをコイツに注ぎ込む。
「頼むぜ…。」
武器に頼る、というのは何だかおかしい気もするがコイツは俺自身でもある。
ならば俺が俺自身を頼っているも同義。
「熱限突破…!」
言葉を放つとそれに呼応してか、爆焔薙が軽く振動を始め、次の瞬間には自律的に行動をする。
と言っても俺の身体に自動的に刺さり、消えただけではある。
迫る魔槍グングニールを弾くほどの質量の炎が俺から発せられる。
そして同時に俺の上でだけ降り続ける雨すらも干上がらせる。
「ぅお熱…っ!」
オーディンですらもその熱さでたじろいだ。
俺から出ていた炎は一瞬で消えてしまったが、それでもその恩恵は計り知れない。
まさに九死に一生を得た気分だ。




