表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劔が煌く夜に  作者: 中村中
アレ、再び。
PR
27/36

幕開け。

「では人数も揃ったことですし、早速説明させていただきます。」


花田さんは相変わらず表情も変えず一人で12台ものパソコンを平然と操りながら話す。


「ちゃっちゃと話さんかいな。こちとらなんぼほど待たされた思うてんねや。」


「ほんまやで。誰かさんが遅れて来たさかいにな。」


ぶーぶーと文句を垂れ流す関西弁二人組。


それをあやそうとするメイドさん。


「いつからここはコスプレ喫茶になっちゃったんですか〜?」


至極もっともな疑問です。


しかしそれに答えられるのはここにいる、俺たちと別グループの人たちだけですんで生憎。


「くだらない会話はその辺にしておいてください。今は急を要する事態であると自覚してください。戦力になるかどうかは知りませんが。とりあえず、私の周りの椅子を引っ張ってきて座ってください。その椅子が誰の物かなんて今は気にしなくていいです。場合によっては怒られたりしますが。私の声が聞こえるところまで来てください。」


俺は思う。


花田さんはいつも一言多い、と。



「それではこれより説明を始めます。」


「よっしゃやっとや。」


「いちいちうるせぇよ男装女子。」


「な…!」


「まず、この街というか都市というか、まぁ土の國に敵が接近中です。」


この街の位置付けって意外とアバウトなんだな。


いや、単にこの人がアバウトなだけか?


この際そんなのどっちでもいいか。


「接近中の敵の分類は天使に神に悪魔、全てです。」


えっ…!


その場で話を聞いている全員が驚愕する。


「天界と地界の奴らって交わらへんのとちゃうんかいな。」


セーラー服の女子が恐る恐る、という具合に問う。


その手の動きを休める事なく、視線をこちらへ向ける事なく花田さんは答える。


「ええ、私共もそう思っていましたがどうやら違うようです。そのため、対応が遅れたというのが現状です。」


「なんやあんたらも大した事あらへんのな。こんな不足の事態でもきっちり動くっつーのが理想なハズやねんけどなぁ。」


ホントいちいちうるさい学ラン野郎。


話の腰を折らないと気が済まないのかこの人は。


「あなたの言う通りです、が。今はそんな事を言っていられる場合でもありません。

接近中の敵は既にこちらで把握しています。敵の数は四体。」


そんなに来ているのか。


しかし何かが引っかかる。


なんだろうこの違和感は。


「悪魔である“ジャック・オ・ランタン”、天使である“アザゼル”及び“ガブリエル”、神である“オーディン”。」


「今どの辺りにいるんだそいつらは。」


「既に富士孝雄、及び田中正生が交戦中です。大倉実親、あなたが作り出した広場で闘っているもようです。」


俺は違和感の正体を突き止めようと思慮を巡らす。


そしてその答えは案外すぐに出てきた。


「ちょっと待ってくれ。どうしてあの二人とここにいる俺ら六人しか闘えないんだ。この街にもたくさん人は住んでいるハズだろう?」


そう、違和感の正体はまさにそれであった。


何故こんなにも住人がいるのにも関わらず、俺たちだけしか動かないのか。


仮にもここは超人界。


この世界では誰もが能力を使えるはずなのである。


にも関わらず、一体なぜなのか。


「この世界に最初からいた人間は誰しも能力が使えるわけではないのです。いわば常人界の人と同じ。故に戦闘が行えるわけではないのです。それが現実なのです。」


そこでパソコンの手を止め、こちらを向く花田さん。


「あなたたちには三人一組(スリーマンセル)で、敵の掃討に当たっていただきます。コスプレ一同の担当はジャック・オ・ランタンです。」


「誰がコスプレ一同やっ!」


そうにしか見えない格好をしているのだから言われても仕方ないだろう。


セーラー服を着ている人はやれやれという風に首を振っている。


メイド服の人は一応椅子には座っているものの、なぜか萎縮して小さくなっていた。


さっき花田さんが彼らの名前を言っていたが俺にはそれを覚えられなかった。


「そして大倉実親以下二名の担当はオーディンとなります。」


「以下二名とかひどいですよ〜。」


「ってちょっと待ちぃな。なんでこんな奴らがオーディンの相手なんかするんや?」


食ってかかって来たのはセーラー服の方だった。


確かにそれは俺にも疑問に思えた。


「曲がりなりにもこの人たちにはオーディンの撃退記録があります。その点、あなた方コスプレ一同よりもはるかにうまく立ち回れると判断されたからです。」


そういえばまだこっちの世界に着いたばっかりの時にオーディンと出会っていたことを思い出す。


でも撃退記録と言っても、それは俺が暴走して闘っていたのであって俺自身が意思を持って戦闘を行っていたわけではない。


再三にも渡り言う事になるが、俺にはその時の記憶がないのだ。


それを見越して曲がりなりにも、と言ったのだろうか。



「これ以上の質問や意見は認めません。それではこれより状況を開始します。各員持ち場についてください。」


「う〜、成海は怖いです…。」


「んな事言うたかて任務は任務や。行くで成海、和巳。」


「はいな。」


「帰ってきたら俺の武勇伝聞かせたるわっ!それまで死ぬなや男女(おとこおんな)。」


学ラン野郎がビシィッ、と佐々木さんに指をさしながら言う。


発言からして彼があのグループのリーダー的存在なのであろう事は傍目からでもわかった。


でも佐々木さんに男女なんて言うとは。


さっき彼女に男装女子って言われたことをまだ根に持っているのだろうか。


「誰が男女じゃクソ餓鬼っ!」


佐々木さんが言い終わるか終わらないかするうちに彼らは‘俺曰く’作戦室から出て行ってしまった。


いやしかしあの人たち、特にメイドさんは自分たちの服装が恥ずかしくないのだろうか。


『俺らも行こうぜ。どうせオーディンの奴は俺待ちだろうからな。』


「あー、言われてみればそんな気しかしなくなってきた…。憂鬱だ…。だけど俺の能力のお披露目タイムでもあるわけだな、これが。」


『とうとう習得したのか?』


「わかんね。でもコツは掴んだって言ったろ?」


『お前のその満面の笑みと発言に、不安を感じずにはいられないよ…。』


〈…いっ!援軍はまだなのか!?〉


不意に中央モニターから音声が聞こえた。


通話システムのようなものだろうか。


よく見ると、中央モニターではなく花田さんのパソコンの内の一台からだ。


それは花田さんがパソコンにマイク付きヘッドホンを付け、被る様子を見ても明らかであった。


「そちらに向かっております。あと数分で三名が到着します。大倉隊は未だ此方に留まっていますが。」


〈早くしてくれっ!俺ら二人じゃもう保ちそうにないっ!〉


どうやらヘッドホンを付けても音声は外へ流れるようだ。


「状況は!?」


珍しく花田さんが焦ったような声を出す。


というか俺たちもあの現場に行った方がいいのではないのだろうか。


戦闘は作戦室で起こっているんじゃない!

現場で起こっているんだっ!


とはまさにこの事であろう。


なんちゃって。


〈ジャック・オ・ランタンが想像以ぅおっ!想像以上のでかさだっ!オーディンは動く気配がない。俺は同時にアザゼルの相手もしているがーぁぁああああっ!〉


この声は恐らく田中さんのもの。


そして田中さんの後ろで「他に気を配っている暇、あるんけ?」と言うやつがいた。


たぶんこいつが田中さんの言うアザゼルだろう。


「どうしたんですか田中さんっ!?大丈夫ですかっ!?」


〈な、なんとかな…。今のは割と危なかった。〉


「と、とにかく私たちも急ぎましょう〜!」


春日井さんの一言に俺ら三人は互いの顔を見、頷く。


そしてその場を駆け出す。


俺の作り出した広場へと向かって。


背後で扉が閉まる直前に、田中さんの悲痛そうな叫びが聞こえてきたが彼のことだ、きっと大丈夫だと信じて作戦室を後にする。



俺たちが広場に辿り着いた時には既に、コスプレ一同は戦闘に入っていた。


その相手はハロウィンでお馴染み、カボチャのオバケである。


だがでかすぎる。


カボチャをくり抜いて顔を作る、と言っても所詮はカボチャ。


それに何かしらの影響があり悪魔化して意思を持ち、人を襲ったり空を飛んだりするようになる、と言ってもその大きさは元のカボチャの大きさに依存する。


だがいったいあれは何だ…!?


ここから見ても、コスプレ一同が蟻の如き小ささに見える距離なのに。


ダンプカーくらいの大きさはある。


近くで見たらどれだけの大きさなのだろうか、と想像してしまい身体に震えが走る。


「ほぅら、あたしらの敵さんがお出ましだぜ。」


俺も目の端では捉えていた、彼が動き出しこちらへ向かってくるのを。


だがそれよりもあのジャック・オ・ランタンの大きさへの驚きの方が勝っていた。


『てかこの広場(フィールド)、マジで広すぎだろ。向こうで田中も富士も闘ってるって言うけど全く見えねぇぞ。』


ロキの言う通りである。


「今度は前みたいに暴走すんなよ。あたしらまで巻き添え食らっちゃ世話ないからな。」


強がりからのセリフなのだろう、その声は震えていた。


彼女ですら恐怖で震える程なのだ。


「大丈夫だ。お前らは俺が守る。」


そう口に出し、彼女らより一歩前へ出る


やっべぇ、今の俺チョーカッケぇ。


『お前ホントに大丈夫なのか?』


「さぁな。やれるだけやるさ。」


『マジで不安なってきた…。』


「実親くん一人に任せてられないですよ〜。ね、キララちゃん?」


彼女の方は幾分も恐怖を感じていないような素ぶりだ。


まるで人親の貫禄…。


「お、おう、当たり前だ。」


それにつられて返事をしてしまう佐々木さん。


頼もしいのやら頼もしくないのやら…。


俺だって怖いんですよまったく。



そうこうしているうちにオーディンは俺たちの目の前に辿り着く。


「この間の少年、いや、青年か?はたまた中年…?」


「青年でけっこうですよじぃさん。」


以前に闘ったときに被っていた帽子を、今は被っていない。


失くしたんだろうか。


こう言っては失礼な気もするが、目の前の彼、いわゆるザビエルヘッドである。


てっぺんハゲと言うやつ。


「前回はよくもやってくれたな。今回ばかりは私も貴様をぶちのめさねば気が済まないのだよ青年。」


その右手には相変わらずの槍、魔槍グングニールが。


左手はまるで火傷で爛れたような皮膚になっている。


「貴様にやられてから大切な帽子は焼失するわ、左手はひどい火傷を負うわで大変だったのだぞ。」


「それはそれは、御愁傷様です。」


両手を胸の前で合わせ、拝むようなポーズを取る。


それを見て俺の後ろに控えている二人の女の子(そもそも女の子と言える年齢なのか俺は知らない)が吹き出した。


「ここまでバカにされると逆に清々しいくらいだわい。だが私は貴様を許さぬ。ここで会ったが百年目。ここで潔くその命の花を散らせ。」


「弄られて清々しいとか、Mなんですね分かります。」


俺に続いて春日井さんが言う。


「どう考えても待ってた感じなんですけどね〜。」


「それは言わない約束、てか暗黙の了解だろうが。」


そんな俺らのやり取りを見聞きして我慢の緒が切れたのか、オーディンの口調も纏う雰囲気も激変する。


「殺してやるぜ、俺の気の済むまでな。テメェらには反撃の余地も与えねぇ。では推参致すっ!」


せめて喋り方統一しろよ、と言いたかったがそうもいかなかった。


突然俺の身体へ突き抜ける風、それも口の中へピンポイントで突き抜ける風で一瞬、息すらもできなくなったからだ。


それは俺以外の二人も同じだった。


「そらスキだらけ。」


これを機と、持つ槍で俺の心臓を狙いにかかるオーディン。


しまった油断した。


トークに夢中になりすぎた。


俺ともあろう者が…!


「げほげほっ!」


その場から一歩引き、槍の刃先のすぐ下を両手で掴み、背後へ投げ飛ばす。


その軌道上にいた佐々木さんは瞬時にその場にしゃがみ込み、無防備になったオーディンの腹部へ一撃を極めんと構える。


そしてその拳が当たる直前、爆風が起こる。


その場にいた俺たち三人は同時に別々に吹き飛ばされる。


「ぅわっ!」


「っな!」


「きゃ〜!」


『危なかったな、さっきの。』


体制を立て直し、誰にもなく呟く。


「なんであんな行動取れたんだろ…。」


『無意識かい。』


今はロキのツッコミを聞いている暇はない。


爆風の中心であった、というより爆風を起こした張本人はその場に立ち、嫌な笑みでこちらを見ている。


どうした、その程度で終わりかと言わんばかりに。


「ってぇ、クソが。舐め腐りやがって…!」


俺は目を閉じる。


自分の中へと、自分の潜在意識の中へと入り込むために。


そして、やがて見つけ出す。


自らを戒め陥れんとする七欲を。


それを己の手で、自分から切り取る。


そして左右の手を何かを掴むように前へと突き出す。


「ここに我が欲を。ここで我が力に。」


あるはずのものを想像する。


それは人を斬り裂き傷付ける為の物。


すなわち、剣。


「何を始めると言うのだ。足掻くだけ無駄だと言うことを、その身をもって、知れっ!」


知れと言うのと同時に俺へと向かって来るオーディン。


だが俺は動かない。


「危ないっ!」


春日井さんの声も今は耳に入ってこない。


あるのはただ。


「この手に握られし俺の欲のみっ!」


手にはっきり柄を握る感触を感じ取った瞬間、俺は目を開きオーディンとの距離を測る。


その距離およそ歩幅7歩分、くらいか…?


「な…っ!」


思いっきり飛び出してきて勢いを殺せないのか、オーディンは俺の手に握られている物を見ても速度を緩める気配がない。


双雷牙(そうらいが)嫉妬(エンヴィ)

雷身瞬足(らいしんしゅんそく)。」


オーディンをぐっと引きつけ、その槍が俺の身体に届くギリギリのところで、動く。


そしてオーディンの後ろを取る…!


しかしオーディンもそれに対応し身体をねじり後ろを向く。


そこで俺たちは目が合った。


俺は両手で持つ物で全力でオーディンに斬りかかる。


オーディンは槍でその一撃を防ぐ。


衝突した瞬間、二人は互いに距離を取る。



俺の元へと走り寄って来る二人。


「それは、何なんですか〜?」


俺の、両手で持っている物を聞いているようだ。


俺自身、何かを握っている感覚はあるがそこに何があるのかは見ていない。


両手に視線をやると、そこには俺がさっき想像したのと同じような、というよりまったく同じ剣が握られていた。


飾り気のない、二本で対になっているいわゆる双剣だ。


「俺の能力、ってところですかね。だけども今はそんなことを話している場合ではねぇぞ。」


「いきなり武器を取り出すなんて。成長したな、と褒めてやるべきなのかな。この前は自我すら失っていたけど。」


「お褒めに預かり光栄です、ってか。敵さんに褒められるなんて俺も落ちぶれたものだ。」


『どの口が言うんだっての。てかお前、これけっこう危なかっただろ。』


ロキも俺の持つ剣を指差して聞いて来る。


「賭けだったんだよね、正直なとこ。ま、上手くいったから良かったけど。」


「一瞬動きが機敏、っていうかクソ速く見えたんだが?」


今度は佐々木さんからの質問ですか。


「これのおかげ、かな。」


剣を目線の高さまで上げて見せる。


「それよか今はあいつに集中しねぇと。」


俺が話を途中で切ったのはあいつの行動から目を離さず、次の攻撃の気配が見て取れたからだ。


オーディンは投げ槍の構えをとっていた。


「二人とも下がってて。」


ここへ来るまでに三人で作戦を立てた訳でもなく、ましてや俺は彼女らの能力についてあまり詳しく知らない。


だから、というわけではないが男の俺が女を守らなくてどうするという思いが強い。


だが彼女らは俺の予想に反した行動を取る。


俺の前へ出てきたのだ。


「侮ってもらっちゃ困るね。これでも体術には自身があるんだ。」


手の骨をパキパキと一頻り鳴らし終え、戦闘の構えを取る佐々木さん。


「そうですよ〜。仲間は守るものでなく頼るものなんですよ〜。」


どこから取り出したのか、その手にカードを五枚ほど持って此方も構える春日井さん。


あーあ、俺の予定が台無しだよ。


ここで一つ、格好良くオーディンぶっ飛ばして見返してやるって思ってたのによ。


「邪魔はすんなよお嬢さん方?」


「お前もな。」


「私は保証できませんよ〜。」


冗談キツイぜ春日井さん。


「お話は終わりましたか?」


俺たちの会話が終わるのを律儀に待ってくれていたのか。


敵ながら惚れ惚れしてしまうな、その優しさには。


いつの間にか投げ槍の構えすらも解いているし。


「ここからが、本番なんだぜ?」


自分に言い聞かせるように、そしてその場に居合わせる奴らに活を入れる為に俺は言う。


「ほう、面白い。かかってきなさいな。まぁ貴様らが死ぬのはこの私を相手にした時点で決まっているがなっ!」


春日井さんが、カードを空へと放り投げる。


「5th。(タワー)戦車(チャリオット)審判(ジャッジ)節制(テンペランス)死神(デス)。」


そう発声した瞬間、カードが光り、消失する。


「子供騙しかよ。笑わせるなっ!」


槍を構えなおし此方へ飛びかかって来るオーディン。


それを防ごうと女二人の前へ出ようとすると、


「大丈夫ですよ〜。」


と、囁く声。


何が大丈夫なのだと思っているとなるほど、その言葉の意味がわかった。


飛びかかって来ていたはずのオーディンが見えない壁にぶつかったように見える。


「…!?」


俺でさえ何が起こっているのか理解できていないのだ、オーディンに理解できるはずもない。


気付けばオーディンの周囲に五角形を形取るようにして塔が現れている。


ピサの斜塔を真っ直ぐにして立たせたような感じの塔である。


いつの間に…?


「なんだこれは!?」


技を受けている当の本人は塔の出現には気付いていない様子である。


壁をドンドンと叩いている。


が、それを止め、違う行動に出る。


「クソが、こんなもの、破壊してやるっ!」


槍を持つ手とは逆の手を突き出し、再び暴風を起こしているのだろうが見えない壁はビクともしない。


「いけぇっ!」


突然春日井さんがらしくもない叫びをあげる。


途端、目の前の状況が一変する。


塔の、見えない壁の内側になる部分が光ったと思うと強烈な音が耳を貫く。


まるで爆弾が連続で爆発しているような、それでいて甲高い音も混じっている。


俺の耳に響くのはこの甲高い音。


中で一体何が起こっているのだろうか。


「審判で相手の逃げ道を塞ぎ、塔からの戦車による断続的な射撃、それと同時に節制による必中効果を付与(エンチャント)した死神の連続斬撃。もちろんこれも直接的な斬撃、つまり剣などで斬りつけるのではなく飛ぶ斬撃として相手を斬り裂きます。」


なんてえげつない技なんだ。


どれがどんな効果でどんな技なのかは俺は知らないが、とにかくこれで致命傷を与えられるだろう。


「だがどうやらあいつはまだ生きてもいるし立ってもいるぜ…?」


「え…!?」


自分の技に絶対の自身を持っていたのか、それを聞いて春日井さんが動揺。


「そんなバカな…!あり得ない…!」


俺もそう思いたいが、何せ相手は神だ、それも主神だ。


何が起こってもおかしくはない。


パキィィ…、という音と共に崩れ去る塔。


煙で何も見えない。


だが、見えなかったのは一時的だった。


何かを中心にして吹き飛ばされていったのだ。


その中心にはやはり、オーディンが立っていた。


「悪くない攻撃だった。が、甘い。」


その服にも髪の毛にもチリ一つ付かず、無傷だった。


「そんな…!」


春日井さんはその事実を目の当たりにして膝からくずおれてしまう。


ここで春日井さんが離脱、ということになるのだろう。


彼女はもう、戦意を喪失してしまったのだ。


「ひゃぁ、ミツキのとっておきでも駄目だったかぁ。こりゃ絶望的だねぇ。」


「そう言いながら顔が笑ってんぞお嬢さん。」


「うっせぇよ。んじゃ、次はあたしの手番かね。」


そう言ってオーディンの元へと飛び出そうとする彼女を俺は引き止める。


「一緒に戦う、って選択肢はないの!?」


そう問いかけたら彼女はこう答えた。


「その手があったか。」


この人も天然なのか、と呆れているところに、


『槍来たぞっ!』


というロキの焦ったような声が聞こえた。


どうせ俺を狙い撃ってきたんだろう。


俺は飛んでくる槍を飛び越えるか越えないかくらいまでジャンプ、そして通り過ぎようとするその槍に着地。


すぐさまもう一度そこから飛び上がる。


すると槍は地面に落ち、機能停止する。


拡大解釈、これによって回避方法を見出せたのだ。


「ほぅ、まさかグングニールを躱すとはな。まぁさしたる問題でもないが。」


相変わらずの上から目線が非常に腹が立つ。


佐々木さんは落ちたグングニールを拾い上げ、それをオーディンに向けて掛け声と共に投げつける。


「ぅおりゃぁっ!」


その速度は尋常ではなかった。


先ほど投げられた槍の速さとは比べ物にならない。


だがそれを容易く掴み取るオーディン。


「返却どうも。」


「どういたしまして。」


皮肉っぽく言い返してはいるが、その一連の攻防が彼女のプライドを傷付けたのは言うまでもなかった。


彼女の放つ殺気が大きく膨れ上がる。


まさに顔で笑って心で怒って状態。


こんな彼女は今まで見たこともない、というより見ていたら俺はこの世にいない気がする。


こんな状態の彼女は共闘することもできないだろう。


結局一人一人でタイマンを張るハメにー


「おい、行くぞ実親。あいつをボコる。」


ならなかったようだ。


でもスッゲェ怖い、この人。


でもやるしかない。


「オーキードーキー、お嬢。」


俺と佐々木さんの共闘が今、始まる。


彼女の邪魔したら容赦無く俺、ぶっ飛ばされそうなのはここだけの話。


ここだけの話で済みそうにないけども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ