修行?4。
今の気温は何度?
それを俺は知る由もない。
「てか寒ぃよっ!なんとかならんのかコレ。」
『あっはっはっは。』
「笑い事じゃねぇよっ!なんとかしろよっ!」
「実親くん、ホントに大丈夫ですか〜?頭。」
「もういいよそのネタはっ!てか何で気を失ってる佐々木さんがここにいるのさ。」
もう諦める事にしよう、この寒さをどうにかするのは。
今やるべき事は二つある。
一つ目はもちろん、この辺り一帯の氷の世界をどうにかすること。
今もなお、気温がどんどん下がっていってるおかげで俺は凍死寸前ですよ。
だが、これはどうしようもない。
二つ目は、俺の身体を縛るこのピアノ線なのかワイヤーなのかどっちか俺にはわからない紐をどうにかすること。
田中さん曰く、俺の憤怒の炎とか言うのを使えば何とかなるらしいが、よくよく考えれば、紐が燃えると今度はそれがまとわりついている俺自身も燃えるのではないのだろうか。
「もうここは土の國じゃなくて、氷の國ですねぇ。」
そんなことを言っているあなたもものすごく身体が震えてるんですけど?
冗談より先に、現状を打破する方法を思いついて欲しいものですよね。
「あ、キララちゃんがだんだん氷像になってます〜。」
「わー、ホントだー。…じゃなくてどうにかしろよそれっ!死ぬぞ!?」
「キララちゃんは案外しぶといんですよ〜。だから大丈夫です〜。」
キララちゃん、乙で〜す。
「私の能力で出した炎でも、この冷気じゃすぐに消えてしまいますね。」
『あ、それは冷気とかのせいじゃなくてだな。単に炎を寄せ付けないだけなんだ。だからこのフィールド上では炎は何の意味もなさないんだぜ。』
「…そういうことはもっと早くに言いなさい。」
『誰も聞かなかったしさ。』
「あんたはいいよな。どうせ術者は影響を受けないとかいうありがちな設定がついてるんだろう。が、俺たちはそうもいかねぇってのよ。このままだと死んじまうぞ?ほら、寒すぎて歯もガチガチなってる。てか喋ってると口の中の水分まで凍っていくのはヤバイよな流石に…。」
「ホント一人でぶつくさうるさいですね実親くんは〜。」
「あんたも俺に背後霊が憑いてるのは知ってるでしょ!?」
「冗談ですよ、冗談〜。」
『背後霊言うなっ!』
うるさいお前は黙ってろ。
そうは言いつつも、その表情に焦りが見えるのはどうして?
それはきっと忘れていたからだろうな、俺に憑くロキの存在を。
「あ。」
「どうしたんですか田中さん。」
「ボクたちがここにいなくてはいけない理由は特にはないよね。」
ちょっと待て。
まさかその先は…。
「だから帰っても問題はないよね。よし帰ろう。とりあえず修行、だっけ?それは中止ね。」
言いやがった、この人言いやがったよ。
ホントに人間か、この人は…。
でもあんた今、身体がガチガチで歩くこともままならないんじゃ…?
などという俺の小さな疑問と希望はあっさりと、像に踏みつぶされる西瓜の如く崩れ去った。
何故ならば。
彼から白い蒸気が上がっていたからだ。
蒸気はすぐに氷となり、地に落ちておよそ生物と呼べるもの全ての温度を奪っていくのだが、身体が常に同じ温度を保ち続けていれば何も問題はない。
どうやら田中さんは、その能力で自分の身体の温度設定を変えたっぽいのだ。
『あー、表面に出ない炎とか熱は大丈夫だったんだ。忘れてた。』
物忘れが激しいのですかあなたは。
今日だけで忘れてた物事を思い出したのは何回目ですか。
「熱伝導。」
ボソッと呟いた田中さんはその手で春日井さんの肩をポン、と叩く。
すると春日井さんの身体からも蒸気が発せられていく。
続けて氷の地面と同化しかけている、佐々木さんにもタッチする。
彼女も同様、身体から蒸気が上がる。
「さて、ではとりあえず町に戻りますか。」
「身体がポカポカします〜。」
「ねぇ、ちょっと待って。俺は?俺はナシなの?」
「あなたがさっさとその紐を壊してしまわないからですよ。今のあなたにこの能力を使った場合、あなたの体温で紐の氷も溶ける。紐の氷が溶けるということはすなわち、その伸縮性や強度を取り戻すということ。伸縮性や強度を取り戻してしまうと今度は、あなたの体温が上がって動けるようになっても、結局は紐で拘束されたまま動けないんじゃないですか。」
「仰る通りでございます。でも田中さん、せめて紐を壊すために動けるくらいの熱を俺にください。もう動けないんです。」
紐すらも凍っている。
凍ってしまえば、その強度も伸縮性も何もかもが意味をなさなくなる。
つまり、力を加えれば割れるということ。
割れてしまえば、紐の拘束はなくなる。
「いや、頑張ってください。お口が動いているのですから身体も動くはずです。」
お前ら人間じゃねぇっ!
でも他に方法もないので言われた通りにやるしかなく、身体に力をいれて踏ん張ってみる。
パキッ、パキッ、という音が聞こえてくる。
試しに右手を動かそうとしてみる。
さっきよりもたくさん、パキパキと音が聞こえる。
よし、これはいけるぞと思い、歩き出そうとしてみる。
全身の紐が砕ける感覚がした。
「よくできましたね。」
そしてついでに俺はその場に倒れた。
なぜだろう、身体の内部から物凄い痛みを感じるのだ。
もう腕も足も動かせない。
寒さのせいか?
違う、これは…!
「骨まで砕けてるゥゥウ!?」
あれ、だんだん眠くなってきたぞ。
まぶたがとても重い。
でも凍ってしまって閉じれない。
寒くなると眠くなる、とは本当のことだったのか。
でも目を閉じたいのに閉じれないってどんな鬼畜ゲーだよ…。
「骨まで砕けるとかお笑い種ですね〜。」
そんな単純な話じゃありませんって。
あのパキパキという音はどうやら、身体の外からも内からも聞こえていたみたいだ。
感覚が麻痺するって素晴らしいっ!
あれ、俺は今何を考えて…!?
あ、あそこにイエティ・ズルヴェスターがいるぞ…!
って誰だよ何者だよ。
いかんいかんいかん、意識が朦朧としてきた。
まぶたは閉じられないが、意識がヤバい。
色々とヤバい。
「実親くん、眠ったらここに放置ですからね〜。」
てなわけでおやすみなさーい。
…って、え?
今何と申しましたか聞き取れなかったのでもう一度お願いいたします候。
おや、これは…。
どうやら唇が上下引っ付いてしまったらしい。
こうなれば声も出せない。
『ぶーざーまーぶーざーまー、にーんげーんってぶーざーまー♪
身体は軟弱、意外とすぐに死ぬー♪』
俺の耳元でそんな腹の立つ歌を口ずさむなこのばかたれが。
俺の全身、骨がバッキバキなんですよ。
今は寒さで感覚が麻痺して痛みもそこそこになっています。
でもなぜでしょう、田中さんが近寄ってくることに恐怖を覚えるのは。
「熱伝導。」
肩を叩かれた。
Oh、身体がポカポカと…ていだだだだだだだだだだっ!
あんた今、こうなることがわかっててやっただろう!
身体が暖かくなってきたら麻痺してた感覚も戻ってきて、まともに骨が砕けた痛みがフィードバック?カムバック?
どっちでもいいや、言いたいことが伝わったんなら。
顔がニヤついてるのがいい証拠だクソ野郎が。
あとで覚えてやがれってんでいべらぼうめ。
「やべぇ、全身がすっげぇ痛い想像以上に痛い死ぬほど痛い。」
「その割には顔が無表情ですね〜。」
「必死に我慢してるんですわかってください。」
涙が出そうになるくらい痛い。
こうなれば眠気もクソもあったものではない。
でもここで泣くわけにはいかないのだ。
水分を出したが最後、それが凍って大変なことになるからだ。
「てかなんで骨まで砕けたのさ…。」
「これは私の想像ですが。」
そこから先は何も言わない。
なんで何も言わないのだろう。
「途中で止めるなよ、気になるだろうが。」
「え?だってさっき私の想像って言ったじゃないですか。」
「文字通りの想像かい。それなら俺に見えるわけも聞こえるわけもないな。」
『お前また気絶オチに持っていくつもりじゃあるまいな?』
「なんだよいきなり。場合によっちゃあるかも知らんが俺だってできれば避けたいっつーの。」
『いやぁ、そういう雰囲気が漂ってたからね、ちょっと気になって。』
「また一人でぶつくさと…。」
「流石にしつこいからね春日井さんっ!?」
てへっ☆と照れる仕草をする彼女を見てると、何故か和む。
そしてその向こうにいる田中さんが、気を失ってる佐々木さんに触診しているところを見ると吐き気がする。
「ってオイ、あんた何してんだ。」
こちらを振り返る彼はまさしく変態の名に相応しい顔だった。
どう考えても転んでも、変態行為の何物でもない。
何故なら彼は医者ではないからだ。
「いえ、少し気になったところがありましてね。」
「どうせ男にはない胸の膨らみとかだろこの変態めっ!」
「え、まさか大倉さん…、いつもそんなことを考えていたのですか…!?」
「実親くん流石に気持ち悪いです〜。」
「おかしいだろ。なんで俺がそんな変態みたいな思考をしていた感じになってんだよ。確かに今のは失言だった、ええ、認めますよ。だが、変態は紛れもなくあっちの方だろ。」
指を指してやりたいのだが、如何せん身体が動かない動かせない。
動かしたが最後、耐えきれない痛みが俺を襲うだろう。
まぁ、動かせるわけも道理もへったくれもないのだが。
「田中さんー!あんたの能力で何とかなりません?」
「私もそうしたいのは山々なんですけどね、生憎と回復系統の能力は未だ見たことがないんですよねー。だから実質、私がお世話する回復系統の能力者は佐々木さんが初めて、ということになります。」
肝心な時に使えねぇ…。
「あーっ!」
いきなり田中さんが叫んだ。
その声で佐々木さんが目を覚ました。
「どうしたんですか〜?」
「キャラ作り、忘れてたーっ!」
そんなこと今は心底どうでもいいわっ!
誰も気にしてないだろうし。
『キャラ作りってあれか、頭を英語で言うやつか。』
今の今までそんな設定、みんな忘れてましたよ。
「んあ…?何の騒ぎだ?恋のから騒ぎか…?」
おはようございます。
あなたはどうして眠っていたのでしょうか。
それを解明すること、それだけが私の願いです。
すみません、ウソです。
でも知りたいのは事実です。
「あたしがなんで寝てたのか、って?そりゃあアレだよ、ミツキに眠らされたんだよ。あんまり細かいとこまでは記憶がトんでてあんまし覚えてねぇが。」
あぁ、やっぱり。
てか彼女に何したんですか。
何して記憶がトぶほどの気絶をさせるに至ったんですか。
えへへ〜、と照れてるところがまた可愛いな春日井さん。
でもって同時に恐怖も覚えます。
「さて、それじゃ行きますか。」
根本的なところがまだ解決できていないぞ田中さん。
俺はやはり放置を決め込まれるんですかね。
「あとは佐々木さん、よろしくね。」
「あ?どういうことか説明してからにしろこのタコ。」
「彼を治してやって下さい。あなた確かそんな感じの能力でしたでしょ。」
「なんであたしがこんな奴のためにそんなことしなきゃならねぇんだよ。」
「キララちゃんは優しいですね〜。」
「うぐっ…。」
春日井さんの笑顔には何故か強制の色がにじみ出ている。
彼女に笑顔を向けられると、やらざるを得なくなるのだ。
でも可愛いので許す。
例えば彼女にあの笑顔で、「仲間を殺して下さい。」と言われたら実行してしまうだろう。
人間とは全くもって不条理な生き物である。
ついでに言うが、俺は不条理という言葉の意味を知らない。
「お前これ、骨じゃなくて筋肉が逝ってるぞ。」
「あれ、骨じゃない?」
「あぁ、骨じゃねぇ。筋肉のほとんどが千切れてる。これじゃ動けないのも無理はねぇ。」
「でもそんなのよくわかるね。」
「教え込まれたからな、親父に。」
「親父さんってお医者さん?」
「ヤブ医者兼武闘家。」
「へぇ、それはまた…、ってヤブ医者!?」
「動くな。…どうやら首から上くらいは大丈夫そうだな。」
首から上の筋肉が切れてたら俺、もう死んでるんじゃね…?
「ヤブ医者っつってもな、その辺の医者よりかは頼りになったぞ。」
「さいですか。」
それは自分の娘だからなのでは、と思ってしまう。
どんな大人でも、自分の子は可愛いものである。
少なくとも俺はそう思う。
「おし、準備はできた。」
何の準備だろうか。
俺を肉体改造して人造人間にする準備とか…?
そんなまさかね、あるわけないね。
「じゃ、いくぞ。痛いから我慢してろよ。」
まさかね、人造人間なんて…。
「いぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…っ!」
何だこの痛みは…!
今まで耐えていた、筋肉断裂の痛みを遥かに凌駕している。
これはヤバい。
「仕方ねぇだろ、切れた筋肉をつなぎ直してるんだから。それくらいの痛みはあって当然だろ。」
そんなことできたのこの人。
意外な一面発見、とか言いたいけど痛みでそれどころではない。
耐えるのに歯を食いしばってるわけですけども、自然と歯軋りをしてしまいまして、歯が削れてなくなってしまうのではないかと怯えております。
「では私たちはお先に失礼しますね。」
「え、あ、私もですか〜。それではばいちゃ〜。」
どうしてこの状況で俺と佐々木さんを二人きりにするのかがわからない。
下手をすれば俺の寿命がここで尽きることとなりそうなんですけど。
そーんなのーはいーやだ。
「ちぃ、あいつら…!」
ほら、明らかに怒りの感情が表に出てきてるじゃないか。
これは俺に八つ当たりがくるパターンだよどうしよう。
とりあえず目をつぶって事が起こるのを待っておこう。
いや、起こらないのが一番望ましい形なのだが。
起こる?いや、過ぎるの間違いだなこれは。
「おい、終わったぞ。起きろ。」
目を閉じているどころか、無防備にも眠ってしまったらしい。
それにしてもなんだか足の関節が痛いですね。
曲がるはずのない方向に曲げようとされているみたいな痛みを感じます。
「ちょ、佐々木さ、何して、痛い、痛い痛いから、ちょっと、放し、あだ、ちょ、そこの関節はそっちには曲がらな、あだだだだ、ってちょっと、聞いてる!?」
「お、ようやく起きたか。」
今のが目覚ましですか。
随分過激ですね。
「っていやだから、その手、その手を放し、痛い、だから手、手を放し、でででででで、あの、ちょっと、人の話を、あばばばば、話を聞いてっ!」
「おぅ悪い、つい癖で極限まで曲げるところだったよ。」
バキィ。
…おや、なんだか何かが砕ける音が致しましたが。
それとどうしてでしょうか、私の膝が逆方向に曲がりきっているようなのですが。
「ってぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!ななな何してんですかあんたっ!曲がるはずのない方向に曲がっているんだけどもっ!?」
「すまん、クセだ許せ。」
クセで済んだら医者はいらないんだよっ!
あとせめてマウントポジション取るのをやめてっ!
そして曲がってない方の足も掴むのをやめて。
「どうしたそんなに青い顔をして。何か悪いものでも食ったか?」
「こっちに来てから何も口にしてねぇよおかげで腹が減りすぎてもう空腹感すら感じられねぇよっ!じゃなくてだなっ!何で人の足を曲がるはずのない方向へ曲げちゃうの!?って言ってる間にも逆の足に手をかけて曲げようとするのをやめなさいっ!いや、マジでお願い頼むからっ!痛いんだよものすごくっ!そして俺の上から退いてくださるともっと助かるんですけどっ!」
「いやぁ、寝ている奴を見ると自然にマウントポジション取りたくなっちゃうんだよね。教育の賜物、ってヤツ?」
「いったいどんな教育を受けて育ったんだよあんたはっ!いやだから人の足を逆に曲げないでってさっきからいでででででそっちには曲がらないでででで痛いからっ!」
「ったく文句が多いなお前は。」
俺の訴えがようやく通じたのか、足から手を放してくれた。
そしてうつ伏せになっている俺の上からも退いてくれた。
「文句じゃねぇよっ!人として当然のことを言ってるだけだよっ!」
「そんなことよりさ、早く行こうぜ。あいつらが行っちまってからだいぶ経つしよ。」
「えぇ、えぇ、行きましょうとも。私だって行きとう御座いますよ。でも足がこんな感じに痛々しく曲がってちゃ歩くどころか、立つこともできねぇんですよ。わかってくれます?」
逆に曲がりきった足を指差しながら俺は彼女に訴える。
見たら気分が悪くなりそうなので、てか気分が悪くなりそうなくらいに痛いので。
そんな自分の足を直視したくない。
「しゃーねーなぁ。じゃあおぶってやるよ。」
「しゃーねーじゃないでしょ!これもともとあんたが悪いんでしょうがっ!あんたが途中で止めてれば俺だって歩けましたとも。」
はいはい、と言いながら背中を差し出してくる辺りに優しさを感じずにはいられない俺であった。
とりあえず、何もされないことを願って彼女の元まで這って行く。
何この絵面。
すげぇ恥ずかしい事してるような気分。
てかしてるんだろうな、実際。
ようやっと背中に体重を預けることができた。
流石に今回ばかりは何もされなかった。
だけど礼は言わない言いたくない。
だって原因作ったのはこの人だもの。
そこだけは譲れないでしょ。
『男が女におんぶされてるとかどんなネタ?お前ひ弱すぎだろ。』
俺の周りでバカにしてくる奴が約一名。
殴り飛ばしてやりたいところだが、それができないのが悔しい点。
いつものことなので、結局は放置しておくことにするわけです。
彼女の背中は思ったより、男らしかった。
途中で落とされたりしないか警戒しながら町までおぶられて帰る実親であった。




