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劔が煌く夜に  作者: 中村中
修行修行修行、そして修行。
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23/36

修行2。

どうにかこうにか佐々木さんのいる場所へと辿り着いた俺。


付き添いをしてくれた春日井さんは肩を貸してくれるわけでもなく、俺が歩く横を無表情で歩き続けていただけであった。


田中さんの居場所と俺が辿り着いた場所、これらは互いに対角線上にある。


そして端と端。


田中さんが開始を告げた地点は広場の丁度真ん中だった。


彼女は佐々木さんの元へと辿り着いた途端、顔をほころばせていた。


俺と二人きりは嫌でしたかそうですか。


「おせぇよ。」


「すいませんな。ちょいと足が攣ったものですから。」


「雑魚が。」


そういうのは本人の聞こえないところでお願いします。



「ということで作戦会議です〜。」


まぁ、あの人は強いだろうからな。


考え無しに真っ向勝負を挑んだら倒されるのがオチだろう。


「先にみんなの能力を把握しておきましょうよ〜。」


「そうだな。わかっている方が作戦も立てやすい。」


しかしこの二人はこの急展開によく着いて行けているな。


俺には事態の把握が精いっぱいだ。


「さねちーはどんな能力でしたっけ〜?」


こちらを向いて質問を投げかけられているのだが、果たしてそれは俺への質問か。


何せ“さねちー”なる者が誰かわからない。


…って俺しかいないか、そんなの。


「さっきの田中さんとの会話を聞いてなかったのか?俺は、現段階では何にも使えんよ。どこぞの学園都市では無能力者とかレベル零とかって言われるレベルだよ。」


チィ、役立たずが、とあからさまに聞こえた気がしなくもないのだが、放置しておく他はないだろうな。


掘り返せばもっと罵倒をあびることになりそうだし。


「私の能力は、二柔二札です〜。タロットカードに基づいた能力ですよ〜。分類?は(トラップ)です〜。」


「あたしの能力は治癒強化。いわゆるヒーラーというやつだ。分類は言わずと知れた魔術師(マジシャン)だ。」


こ、この人がヒーラー?


何かの間違いではないだろうか。


破壊師(デストロイヤー)とか罵倒圧倒(アビューズウェルム)とかじゃないのか。


そんなのがあるのか知らんが、あるならまさしくそれだろう。


よりにもよってこの人がヒーラー?


「ぶふっ。」


考えただけで吹き出してしまった。


瞬間、幾百数千、いやそれ以上の針で全身を刺されている感覚が俺を支配する。


それが佐々木さんによる殺気だと気付くのにコンマ一秒もかからなかった。


「おい貴様。今あたしの能力を聞いて笑わなかったか…?」


おおよそ女とは、人間とは思えないほどの怒りの表情。


彼女の顔の筋肉は一体どうなっているのだろうか。


この俺ですらこれは死んだな、と思わされたほどだ。


「いえいえ、笑ってなどこれっぽっちもー」


「嘘付けィっ!!」


なぜだろう。


俺は彼女に金的を食らった。


「ぃぎぃやぁぁあぁあぁぁぁっ!!!!」


目の前にお星様が散った、ような気がする。


俺は言わずもがな、地べたに悶え転がった。



てかそもそも、これって序盤から俺らが不利なのではないだろうか。


痛みがある程度ひいていったので、改めてこの状況を冷静に鑑みてみる。


田中さん側は俺たちの能力が何であるか知っている、いや、知っていなければおかしい。


なぜなら彼が、ここにいる全員の能力発動に携わっているのだから。


俺の場合は、未だに能力は出せていないが。


逆に、俺らは田中さんの能力なんて知らない。


彼の能力の説明なんて受けてないし、実際に見ているわけでもない。


「…でいいな。おい実親。聞いていたのか?」


なんで俺はあなたに足蹴にされてるんですか。


「ふぇ?すいません、聞いていやせんでした。」


チィ、役立たずが、などと本日二回目のフレーズが聞こえたのは言うまでもない。


なんでもいいからまずはその足を退けて下さい。


「あと一回しか言いませんからちゃんと聞いておいて下さいね〜。」


足蹴にされたまま、というのは気が引けるが、はい、お願いします。


「まず、大倉さんが囮として目の前に飛び込む。それに気を取られている間にさねちーが背後から全力で打撃を叩き込む。最後に実親さんが田中さんの死角から膝カックン。その間に私は木の若木を植えて、キララちゃんが植えた木に適量の水を放つ。簡単に言えばこんな感じです〜。簡単でしょ〜?」


なるほど、あの呼び方はこの時のための伏線だったんだな。


「どこが簡単なんだよっ!そらあんたらにとっちゃ凄く簡単な作業ですよねっ!?でも攻撃してんの全部俺じゃねぇかっ!ECOに貢献してんのはまだ良しとしよう、俺的には全然良くないけどっ!でもなんだよ、最後っ!膝カックンて、よりにもよってあの変態二号がそんなもんで膝をつくかよっ!」


後頭部をぽりぽりと掻いた後、彼女が口を開いた。


「お前、ちょっと自意識過剰なんじゃねぇの?」


なんですとォっ!?


極め付けにそれですかあなたは!?


結局のところ、その発言の意味がわかりませんぞっ!


そしてあんたらは俺をなんだと思ってんだよコノヤロウ。


さっきから俺の扱いがひどすぎるよ!?


てかそろそろその足を退けて、お願いだから。



足も退けてもらったし、やっとまともな状態で会話できるな。


円形に座っているので声量をあまり気にする必要もなさそうだ。


「で。仮にその作戦で行くとしよう。でも俺は分身なんぞできねぇぞ。どうやって三箇所同時に俺があの田中さんを攻撃するんだ。」


さっき聞いた作戦、と言うべきものか迷うのだが、ここは便宜上そう呼ぶことにしよう。


その作戦をもしも実行に移すなら、と考えた時に一番問題となることを俺は聞いた。


既にこの作戦自体が問題作であることはひとまず置いておいて。


「お前、まだ能力が何かわかんねぇんだろ。だったら可能性の一つとして分身もアリだろ。てかむしろやれ。できるようにしろ。」


都合のいい解釈だなオイ。


あなたは人の話をちゃんと最後まで聞いてましたか。


いや、ない。


こんなところで反語表現を使うとは思わなかったよ…。


それほどまでの、誰が見ても何か企んでいるような時の嫌な笑顔。


「俺の能力は七つの大罪を元にした物だってば。そんな器用なことできるかよ。」


「役立たずですね〜。」


あなたに言われるとは思いもしませんでしたよっ!?


「つまり。今のお前は役立たずでノロマでクズでポンコツで囮にもならないー」


「もうやめてそれ以上言わないで。自分でもわかってるけど人に言われると余計に響くから…。」


この人は人の傷をいたぶって楽しむ傾向にある。


これは矯正してやらないとな、今の俺じゃ無理だけど。



「で結局何も考えずに真っ向勝負かいっ!」


なんだかんだで気付けば田中さんの居場所の近くまで来ていた。


自分たちがいた場所からは相当距離があるはずなのに、油断していた。


まだだいぶ距離があるから大丈夫だ、などと思うんじゃなかった。


いや、そもそも、


「とりあえず行くか。」


とか言って歩き出した彼女らを止めれば良かったんだ。


何か策を思いついたんだろうな、と信用した俺がバカであった。


さっき聞いたけど、何も思いついてないそうだ。


彼女らも、


「歩きながらだと何か思い浮かぶだろう。」


という軽い気持ちだったらしい。


俺はこんな人たちとパーティ組まなきゃならんのだろう?


先行きが不安でたまらないのだが…。



「よし、とりあえず実親。お前さっきの作戦通り行って来い。」


「さっきの作戦ってあれか、俺が三箇所同時に攻撃するやつか。無理に決まってんだろ。てかなんで策無しでここまで来たんだよ…。」


「何にも思い浮かばなかったですもんね〜。」


ホント、ノリが軽いよなあんたたち。


何に対してももう少し重く捉えてくれはしませんか。


あ、無理?


ですよねー…。


「んじゃま、あたしが行ってくるわ、力量を測る意味でな。」


え、マジすか?


では遠慮なく。


「「いってらっしゃーい。」」


ハモったことに何故か少し感動です。


「…お前ら後で覚えてろよ。」


佐々木という名の後姿がとても逞しく見えた。


ミス、佐々木という名の女性の後姿、だ。


何にせよ、見物といきますか。


向こうは俺らが接近して来ていることに気付いてたっぽいし。


だって佐々木さんが一歩踏み出した時からじぃっと、まるでストーカーの如くこっちをガン見してたもの。


女性陣は気付いていたのかどうかはさて置き。


遮蔽物がないから当然といえば当然なのだがな。


おかげで変態二号田中さんと佐々木さんの会話も聞こえるわけですし。


「なんだかワクワクしますね〜。」


あんたは観客気取りですかっ!


でもまぁ、それもいいだろう。


座っておとなしく観戦でもしてますかな。


てか佐々木さんってヒーラーだったんじゃ…?


戦いとかできるのか…?



「よぅ、おっさん。」


「おっさんとはこれまたご挨拶な。こう見えても私はまだ30前後ですよ?」


「はっきりしねぇな。あたしはそういうタイプが一番嫌いだ。」


「誰もあなたの好き嫌いをカミングアウトしろ、なんて言ってませんがね。」


こいつマジでウザい…。


だけど対峙してようやくわかるこいつの…、こいつの…?


なんでこんな倦怠感丸出しなんだよ。


やる気ゼロじゃねぇかよ。


「で、戦るんですか?」


背中を掻きながら聞くことじゃねぇだろ。


「あぁ、その通りだ。先手必勝、てな。」


背後とったりっ!


得意の歩法、隠密歩行(おんみつふぎょう)で一瞬にして田中の後ろへ回った。


…ハズだった。


「なにぃ…!?」


「甘いですよ。先手必勝という考えと、敵の背後を取るという心掛けは評価に値しますが、それは三流までにしか通用しませんことですのだ。」


語尾がイラっとくる。


背後をとったはずなのに、逆に後ろへ回られ尚且つ首元にナイフを突きつけられている。


「向こうの二人はこちらの観察、ですか。まぁそれも一種の作戦ということにしておきましょう。ですが、隊の命運を握る治癒強化(ヒーラー)が真っ先に敵の元へ飛び込んじゃダメでしょう?」


くっ、痛いところをつくな。


確かにあたしも、あたしが出て行くことに抵抗がなかったわけじゃない。


だけどあいつらのことだ、出て行ったところで瞬殺。


だったら一番戦闘に慣れているあたしが行くべきなのだ。


「だったら、なんだ…っ!」


自分の首へ回されている腕を振り切り、距離を取る。


自分は既に玉砕覚悟なのだ。


ここで死ぬつもりもやられるつもりも毛頭ないが。


「私も見くびられたものですよねぇ。仮にもあなた方の師匠と呼べる存在なのに。」


田中の手にはいつの間にか、さっきと違う刃物が握られていた。


「!?」


片方は真黒、もう片方は真白。


いつの間に、どこから出したんだあの剣は…!?


だが驚いている暇はない。


こいつがどんな武器を持っていようと、それが振るえないほどの連続攻撃をしかけてやればいいだけ。


相手が防御に徹しなくてはならないほどの連撃を浴びせれば剣を使うことはできまい。


恐れることは何もないのだ。


それがあたしの戦法。


「武器対素手、ですか。なんだか私がいけないことをしているみたいで気が引けますね。」


「…行くぞっ!」


隠密歩行。


一瞬で相手との間合いを詰める、それだけに特化した歩法。


「相変わらず早いですね、それ。」


破岩(ハガン)っ!」


相手の懐に入った瞬間、力を込めた拳を腹部に向けて放つ。


撃胡(ゲキゴ)っ!火怠(ヒダル)っ!」


続けて顔面と、背後に回って尾てい骨を狙い撃つ。


手を休める間もなく、


倦鵺(アグヤ)っ!冷鳳(レイホウ)っ!爪牙(ソウガ)っ!」


次々と打撃を打ち込む。


だが、当たった感触はいずれの技からも感じない。


それでも手を休めない。


嶷倭(ギョクワ)っ!覇臆(ハオク)っ!」


相手の周りをくるくると回りながら連続で放つ拳。


それらの一撃一撃は全て、確実に相手の急所をつく。


「狙いは良い。そして、敵に技名からどんな技か悟られぬように毎回名前を変えているのも良い。だが動きが直線すぎる。」


急所を狙っているはずなのになぜだ、なぜ当たらないっ!


死角からの攻撃でさえ全て当たらないだと…!


クソが…っ!


ここまでやって当たらないのなら、アレを使うしかねぇ。


そしてもう一度距離を取ろうと後ろへ飛び退こうとした。


いや、飛び退いたのだ。


だが田中の姿は未だ目の前にある。


「なにっ!?」


「動きが直線すぎるってのは動きが読みやすいってこと。だからお前が飛び退くタイミングもわかる。だからこうなるんだ。」


腹部に鈍い痛み。


次いで重力に反した浮遊感。


これは…?


「ごふっ…っ!」


腹を殴られて後ろへ吹き飛ばされている。


もちろん身体はくの字型に曲がっている。


さっきまで目の前にいたはずの田中の姿は既に豆粒大になっている。


これで終わりか…?


…いや、違う。


あれは…。


気付いた時には、背中にさらに強い痛みが走っていた。


「がっ…!」


先ほどとは逆に身体が曲がる。


「追い打ちの可能性を考えないことが、まだまだ青い果実の証拠ですね。」


田中から離れようとするが、身体が思うように動かない。


たった二撃であたしの身体は動かなくなっちまうのか…。


こんなやつに…。


「今回はここまでにしておいてあげますよ。」


そしてその場に佐々木さんの身体を横たえ、去って行った。


彼の手にしていた剣は何処かへ消えていた。



俺は一部始終を見るつもりだった。


気付けば事は既に終わり、佐々木さんの身体が地面に置かれる瞬間だった。


「…あれ?」


何が起こったというんだ。


何も見えなかった。


「そんな、キララちゃんがやられるなんて…。」


「え!?春日井さん、今の全部見えたの?」


「全部というわけじゃありませんが、見ましたよ〜。」


そんな、この人に見えて俺に見えないなんて…。


凄く悔しいです。


「実親さんはキララちゃんが吹き飛ばされても、ずっと最初にいた所を凝視していたから見えなくて当然ですけどね〜。」


「…え?」


「さて、と。キララちゃんを迎えに行くついでに…。珍しく一発で出ました〜。世界(ワールド)。」


不思議なカードを取り出したかと思うと、それを空に掲げた。


するとそのカードは春日井さんの手元から消えてしまった。


「ほら、実親さんも行きますよ〜?」


「ほぇ?…あ、はい。」


世界は俺の知らないことで溢れているんだな。


いきなり頭上から声がした。


『お前はあいつと戦ったことあるだろうに。暴走中だっただろうが。』


いつもこいつの登場は不意打ちでびっくりする。


こいつの言うとおり、そういえばそうだ。


だが生憎覚えていない。


『だろうな。俺も一回あいつと戦ってみてぇ。だから変わってくれ。』


「機会があればな。」


『いつだよ。』


「さぁな。」


ロキの言葉をテキトーに流しながら、俺は春日井さんを手伝うことにした。


と言ってもやる事など、ないに等しかった。


俺の存在意義を今一度、確かめる必要がありそうだな、これ。


どう考えても要らない子じゃね、俺…。


そう結論に達した時、俺の瞳には自然と涙が溜まっていた。

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