修行1。
おやおやここはどこでしょうか。
あの天井には何だか見覚えがありますぞ。
そうだ、俺はこの状況には覚えがあるんだ。
「ってまたかぁぁあっ!」
『うるせぇよっ!』
怒られました。
触らぬ神に祟りなし、と言いますか。
実際には触れないんですが。
『ハァ、お前ホントに気絶オチ好きだな。そのうち、これが俺のアイデンティティだ、とでも言い出さないだろうな?』
「いや、流石にそれはない。流石の俺でも流石にそれは流石にない。」
『なにその流石押し。』
「いえ、特に何も。」
ハァ、とまた一つため息をつくロキ。
腕も脚も動かせません。
どうせならここで痴女でも襲いかかってくれませんかねぇ。
それなら俺もこの状況に満足がいくのに。
Hey,come on 痴女っ!
「ご無沙汰してます〜っ!」
「なんとォっ!?」
ここでまさかのサプライズゲストの登場です。
『ノックくらいするだろうフツウ…。』
いや、ホント入ってきてくれてありがとThanksです。
あのままだといけない妄想が暴走列車に乗って何処までも行ってしまうところでしたよ。
「うわ、イカ臭。」
前言撤回。
貴様は入ってこなくていいわっ!
てか入ってきて一言目がそれってひどくね?
俺、何もしてねぇよ。
つかできねぇよ。
「また気絶したんですってね〜。」
その言い方はアレですか、井戸端会議の時のおばさま方の話し方ですか。
あぁ、せめてあと一人ツッコミ訳がいてくれれば俺の荷が軽くなるのに…。
「で、田中の野郎から鍵をもらってきたわけなんだが。」
田中の野郎って…。
あんた誰に対しても口が悪いんですね。
スタイルとか顔はそこそこいいのに口は悪いってか。
もしかしてギャップ萌えを狙って…?
いや、ないない。
この人に限ってあるわけがない。
「おい聞いてんのかこのクズアホ腐れ童貞野郎。」
「それは言い過ぎでしょっ!?」
「テメェが聞いてないのが悪い。」
「まぁまぁそこまでにしてあげましょうよキララちゃん〜。実親くんに童貞なんて卒業できるわけないんですから〜。」
その天然さ加減が、今はとても痛いです。
特に俺の心に響きました。
そしてここからは彼女らの表情が伺えないため、余計に怖くなる。
そういうことはなるべく早く記憶から削除するとして、この人らはなぜここへ来たのだろうか。
女の子にお見舞いに来ていただけるなんて、こんな幸せなシチュエーションは他にないでしょうが、何せこの人たちだ。
何か裏があるに違いない。
「えーとですね、実親さんの修行はあとどれくらいかかります〜?」
そんなの俺だって知りてぇよ。
『ボンバーぁぁあっ!!』
「っ!?」
いきなり何なんだコイツは…。
次そんなことしたら細胞レベルでバラバラに分解してやるぞ。
「何で今回は雷撃だったんだ。」
あ、やべ、雷撃とかチョーカッケぇ。
響きがイケてる感じ。
「田中さん曰く嫉妬である、と。俺には何が何だかさっぱり。」
「ま、頑張れ。此方としてもあなたの特訓の時間がかかればかかるほど脅威が増しますのでね。できるだけ早く切り上げようとは思っています。あ、これはご本人には内緒ですよ?…だとよ。」
うわぁ、佐々木さんがあの変態二号(因みに一号は富士さん)の口真似するとか…。
違和感と違和感と違和感しかないぞ。
「んで、テメェを解放してやってくれと鍵を渡されたんだ。」
『フォーォォオっ!!』
「っ!?」
もう何なんだ今日のコイツは…!
瞳に光がなくなっているように見えるが。
「てことでコレは置いて行くからな。じゃ。」
俺の足元へ鍵を置く。
そして椅子から立ち上がる佐々木さん。
「いやいやいやいやっ!この状態じゃ鍵なんて到底開錠できないからねっ!」
おまけにロキもなんかおかしいし。
「せめて鍵を鍵穴に挿してくるりと回してから出てくれっ!」
そんな彼女の去り際の一言。
「おまえの言い方は卑猥に聞こえる。」
「なんでっ!?」
部屋に残ったのは春日井さん。
「キララちゃんはあれでもシャイなんですよ。暖かく見守ってあげてください。」
そして彼女も部屋を出る。
「いや、だからっ!鍵っ!鍵ィっ!!」
オイオイ、マジかよ…。
鍵開けに来たってのに目的放棄かよ…。
傍迷惑もいいとこだぞチクショウめ。
「おいロキ、お前さっきからどうしたんだ。」
『いや、少し無性に叫びたくなってね。』
おまえの心配に割いた俺の時間返せっ!
どうして俺の周りには変人ばかり集まるんだ…。
憂鬱な気分になっている自分に浸りながら、特にやることもないので寝ることにした。
鍵は俺の脇に置いてある。
どう足掻いても取れる気配がない。
「…ぉきろォォオっ!!」
「ゴフゥっ!?」
いきなり腹痛が…。
しかも、内部からの痛みではなく外部からの。
「な、んでいきなり、膝蹴りinto my stomach…?」
目の前にいたのは、まぁ、こういうことをする俺の知り合いは彼女しかいないんだが、佐々木さんであった。
彼女はニンマリと笑いながらこう言うのだ。
「早く起き上がらなければ殺す。それ以外の動作をしたら殺す。起き上がろうとしなければ殺す。立ち上がっても殺す。」
今の俺の状態、わかってんのかこの人。
身体の関節毎に縛られていて動こうにも動けないんだぞ。
てか俺の上からどいて下さい。
そんなこんなで要約すると、俺は今確実に殺されます。
今までのご愛顧、誠にありがとう御座いました〜。
じゃなくて!
どこでルート間違えた!?
どうしてヤンデレルートに入った!?
「なるほど、よっぽどあたしに殺されたいようだな。」
やばい、何か言わないと…。
弁明の一言を、何か、何か、何か…。
とっさの一言、気の利いた一言…。
そして口をついて出たのが。
「近くで見ると可愛いね、キミ。」
ちがぁぁぁうっ!
何ナンパみたいなこと言ってんの俺!?
これじゃ死亡フラグを乱立させているようなもんじゃないか!
あぁもう駄目だ、この人目がマジだ。
「さっさと殺って部屋戻ろ。」
「どっから出して来たのそのカッターナイフっ!?」
いつの間にやら彼女の手に握られていたのだ。
いや、俺が気付けなかっただけで、本当は初めから持っていたとか?
どうでもいいが殺されそう。
どうせなら目を閉じておこう、だって刃物とか怖いし。
こうなったらポジティブに考えるしかない。
もうどうにでもなりやがれってんだ。
うわ、これ全然ポジティブじゃねぇ。
むしろ問題を丸ごと放棄してるようなもんだよ。
すると不意に、身体が軽くなった。
「…?」
俺は気になって目を開けた。
俺の眼球に、あと数ミリ下にすれば刺さるくらいの距離に、カッターナイフの刃があった。
「!?」
しかしそれはすぐに引っ込められた。
「冗談だよ。あたしはあんたを連れて来いって言われて来たんだ。鍵も開けてやる。さぁ来い。」
どういう風の吹き回しだ。
仮にも俺の死を望む彼女が、俺を迎えにくるわけがない。
「それともここで死ぬか?」
カッターナイフは人に向けるものじゃありませんよ。
「いえいえ、ついて行かせて頂きますとも。」
せめて悪魔とか天使とか、五体くらい倒してからでないと死んでも死にきれねぇからな。
彼女に連れられてやってきたのはやはり、あの焼野原だった。
「ここにはもう、何も産まれそうにありませんね。」
普段見せないような、悲痛そうな表情をして呟く者。
昨日、俺を暴走へと導いた人物。
「大倉さん。」
俺の目を見ながら微笑んで言う彼はまるで、慈愛に満ちた聖母のようであった。
聖母のようだ、と形容はしたが、男だ。
てか俺、聖母が誰か知らねぇんだけどな。
「あなた方をここにお呼びしたのは他でもない、私をバトルで倒していただくためです。」
「罵倒で倒す?」
「どんだけM気質なんですかあなたは〜。」
あんたらホント平和だな…。
佐々木さんに至っては、彼女しかし得ないような聞き間違い方してるし。
春日井さんは春日井さんで、ツッコミに棘があるし。
「罵倒じゃありませんよ、バトルです。」
「「「バトル?」」」
三人とも口を揃えて聞き返す。
ハモらしてるんじゃねぇよ、という目線で睨まれていることは今は問題ではない。
「いかにも。あなた方三人で私を倒して下さい。」
「いくらなんでも自分の性癖を他人に押し付けるのは…。」
「そろそろしつこいですよ。」
「すいません。」
怒られた。
隣には、少し傷付いた俺を嘲笑うかのような目をしている人。
そしてその向こうには朗らかな顔の人。
「あれ?春日井さんいつの間に?」
「最初からいましたよ?変な実親くん。」
気付かなかった、この俺が。
こんなこともあるさと思うことにして。
変なのは元々ですよ、悪かったね。
「てなわけで、君たちは三人一組で私に挑んで下さい。能力はもちろん、思いつく限りの策を用いて構いませんよ。」
能力が使用可能…?
「私もそれなりの抵抗はしますがね。実践経験が一番ですからね。」
ガチバトル、てなわけですか。
でもそれじゃ俺が不利だよね確実に。
何せ俺は能力が使えない。
あと、佐々木さんに狙われ…ねーか。
それは大丈夫っぽいかな、雰囲気的に。
「あたしの能力は戦闘向きじゃないけど…、やれるだけやってやる。肉片が残らないくらいまでぐちゃぐちゃにしてやる。」
「キララちゃん、何事もほどほどにね。でも援護は任せてね。」
二人で話している事。
それは俺の持っていないものの事。
「ってちょっと待て。あんたら二人は能力使えるのか?」
「大倉さん。あなた、自分は能力が使えないとお思いなんでしょう?」
まさしくその通りでごさいます。
「確かに今のあなたは能力は使えない。ですが、自らが戦場に立つことで見えてくるものもある。ましてやあなたは二回も戦場に立っている。」
「いや、だけど。その二回とも俺は暴走しちまったんだろ?」
「聞くところによると、一度目と二度目では暴走するまでにかかった時間が大きく異なるようだ。しかも二度目のものはかなり長い時間、理性を保ち耐えようとした。」
そんなこと言われても俺には実感も覚えもない。
あの破壊衝動に理性を持って行かれたら、それまでだ。
もう何者も俺を止めることはできない。
「では、理性がなくなるはずなのにどうして自分を呑み込むのが破壊衝動だと?」
あ、そういえばそうだな。
「それはあなたが頑張って衝動に耐えたから。二回だけではどうも不安要素だらけですがこれだけは言えます。回を負う毎にあなたは成長している。まぁ、衝動を完璧に抑えるのは不可能でしょうが。」
うーん、それは褒められてるのかな。
ややこしいことは俺にはわからんわ。
ま、当たって砕けろってことかな、要は。
「私があなた方の攻撃によって膝をつけばあなた方の勝ち。勝つまで無期限ですから。」
「上等だ、コラ。やってやるよ。」
やる気満々ですね、佐々木さん。
言葉遣いや、指の骨をポキポキと鳴らしている姿が実に男らしい。
だが女だ。
「それでは始めましょうか。あ、言い忘れてましたが、行動範囲はこの広場だけですからね。それでは開始。」
開始、と同時に手をパンと鳴らす。
パン、と言う音が聞こえたと同時に俺を除く全員がその場から消える。
「あれ?俺、また置いてきぼり?」
『お前がトロいからだろ、今回は。』
あぁそうですか。
あんたはいきなり出てきて言うことがそれですか、まったく…。
「なんとかなるか…。」
『この状況で襲われることも可能性の一つとして考えておけよ。』
うわ、そうなったらなんとかなりそうもないな。
とりあえず彼女らのところに行くかな。
俺は歩き出し…、こけた。
「痛い痛い痛い痛い痛いィィィっ!足攣った…!」
運動不足か運動不足なのか…?
悶え苦しむ俺。
それを痛々しげに見つめる、こちらへ戻ってきた春日井さん。
いや、見つめるだけじゃなくてだな…!
「大丈夫ですか〜?それが治まったら行きますよ〜。」
あんたは鬼かっ!!




