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劔が煌く夜に  作者: 中村中
力の真実。
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土ノ國ですか。

夢の世界で感じた形容し難い不快感とかその他諸々と同じ感覚がする。


そのうち、ふわふわとした浮遊感が身体を覆う。


なるほど成功したらしい。


『その状態だと何にも触れない代わりに痛みを気にしなくて済むだろ。』


確かにそうだ。


今は実体化したロキの左に背筋を伸ばしている。


本当に痛みも何も感じない。


あるのはなんとも言えない浮遊感。


本当は夢の世界で気付くべきだったのだ。



『んじゃ、ま、行きますかね。』


ロキの顔が輝いている、ように見える。


「ちょっと待て。もしかしたら、もしかしたらこれってまた俺引っ張られて行くパターン…?」


ロキは握った右手の親指をあげ、サムズアップのサイン。


要するにそれは…。


考える暇を与えず。


「おごぉぉぉぉぉ…!」


ロキはその場を文字通り飛び出したのだ。


死んでまう、死んでまうって社会的に…!


『ひゃほぅ〜。』


今のこいつと俺の顔を横に並べたらその違いがわかるのではないか。


ロキの表情は晴れやかに、俺の表情は…自重する。


『あと少しだなぁ。』


風の音が俺の耳に入る他の音を遮る。


俺には風の音以外を聞いている余裕など皆無なのだが。


よってこの場においてロキが何を言っても答えることはおろか、聞き取ることもできない。


「ぁぁ…。」


これ以上叫んだら胃の中から色々なものが出て行きそう。


魂とか。


周りの景色が急激に変化して行く。


もう何も判別がつかないくらい。


見ている余裕もないが。


あはは、もうなるようになれ…。


半ば自暴自棄になる俺であった。



『おーい。』


飛び出してからものの数秒で、俺を置いて歩き出した三人組に追いついた。


しかし今はロキが実体化している。


どのようなカラクリでこうなっているのか理解できないのだが、彼があの状態のまま三人組に接触すればどうなるかくらいは推測できる。


おそらく敵襲と勘違いされて反撃を食う。


まさかとは思うが、この速度で急ブレーキとかかけないよ、な…?


案の定、急ブレーキ。


ロキは急ブレーキをかけてから数m程で停止。


三人組の目の前である。


「べぶぁっ!」


速度の制御ができない俺は何かに引かれるように止まらざるを得なかった。


くの字型に身体が折れ曲がったのは言うまでもない。


身体のありとあらゆる部分がもげるかと思ったほどだ。


ロキとの繋がりが俺を停止させたのだろうが、他にやりようがなかったのだろうか。


「何奴っ!」


「待ちなさいササキララ。彼は敵ではありません。」


思ったのと違う反応。


これはこれでつまらない、と思う俺がいる。


「さらっと人の名前をバカにしてんじゃねぇよ。」


佐々木さんの拳が富士さんの腹部へ沈み込む。


「なんで…っ!?」


その場に蹲る富士さん。


それは自業自得、だと思いますよ。


そういえば、ついさっきまで感じていた吐き気が消えている。


これも幽体化したおかげなのだろうか。


どうせなら吐き気自体、感じなくしてくれればよかったのに。


「でもどうしてあなたが?」


自分の腹部をさすりながら問う富士さん。


彼が蹲っているところを見るのはこれで何回目だろうか。


『ちょいと色々ありましてな、はっはっは。』


はっはっは、じゃねぇよ。


この肉体置換、いや、俺がそう呼ぶことにしただけなのだが、とにかくいつまでこうしていられるのかが一番気がかりだ。


こういうのって基本的には制限時間とか規制とかあるだろ。


情報ソースはもちろんラノベ。


ラノベもあながち捨てたものではないな、フゥーハハハ。


などと言ってる場合ではなく、実際どうなるのかがわからないため行動は早めに起こしておいた方がいいと思うのはこの場では俺だけでしょうか。


いや、ない。


決まった、反語表現、キリッ。


「えーと、ロキさん、でしたっけ?実親くんは?」


『俺の背後でふわふわ浮いている。』


「そうなんですか〜。」


そこで納得してしまうとはこれ如何に。


俺の身のことなどこれっぽっちも気にかけてない、いい証拠だよまったく。


可愛いから許すけど。


顔の半分くらいを覆うその布が気にならなかったことなど、彼女と出会ってから一度もない。


要は、可愛いかどうかは彼女の雰囲気で判断しているのだ。


人は見かけで判断してはいけないなら雰囲気で判断するまで、だ。


俺って頭いい。


「死んでないのか?」


『あいつが死んだら俺も死ぬんじゃね?』


そしてあなたはどうしていつもこれ見よがしに俺を殺そうとするのですか。


なんか俺、あなたに恨まれるようなことしましたか。


にしてもこの状態は肩がこる。


ようやく平地の端に辿り着いた。


そして森の中に入る。



「ここはどうやら(ウッド)(ガーデン)だったようですね。」


歩き出してから誰も口を開かなかった。


沈黙を破ったのは富士さんのそんな一言だった。


『うっどがぁでん?』


「わざとらしく平仮名発音しなくてもいいです。」


「平仮名発音ってなんだよ…。」


もちろん、俺のツッコミは誰の耳にも届かない。


「あ、街が見えてきましたよ〜。」


少し暗くなった空気を呼んだのか、はたまた天然が発動したのか。


春日井さんが一際明るい声をあげる。


森にも終わりが見えてきたところであった。


こういう時はこういうキャラがいてくれると大いに助かる。


滑った後に訪れる痛々しい沈黙。


それを破る最初の一言は人間が服を着るくらい重要且つ重いことなのだ。



遠くから見ると、しっかりした一軒家が沢山並んで、まるで住宅地のように立っていた。


それが、街に入ったことによってある事実を明らかにした。


すべての家は、生きた植物によって建立されていたのだ。


無論、木を切って組み合わせて、などではなく。


文字通りの生きた植物。


すなわち切られていることもなく、例えるなら木のうろを家にしているような。


それでいてしっかりと家の形をしている。


「すげぇ…。」


富士さん以外皆、まるで挙動不審になったようにキョロキョロと辺りを見回している。


『これってなんてRPG?』


これがRPGなら差し詰め俺たちは王様に命じられて冒険している主人公だぞ。


でも、まるでゲームの世界に入ったと錯覚してしまうような完成度。


規則正しく並んだ木々の家。


親二人子二人なら十分に暮らしていけるくらいの大きさはある。


何故家々が生きた植物で成り立っているかわかったのか。


普通、浮いているはずのないところが浮いていたのだ。


つまり、家の下。


その隙間を覗き込むと、植物の太い枝や細い枝など、その体すべてがある地点で直角に曲がり、広がっているのが見て取れた。


それが床となり壁となり家となっているのだ。


因みにこれらの植物には葉と呼べるものが存在しない。


結論から言うと、これが植物かどうか怪しいわけなのだが。


それでも地に根を這わせて生きているのだから、植物と呼ぶべきなのだろう。


この世には不思議が沢山あるものだな、と感慨にふけっていると何者かに声をかけられた。


「この街がそんなに珍しいかね。」


実際には俺に声をかけたのではなく俺以外の四人に、だ。


何せ俺は幽体化してるからな、誰にも見えないし声も聞き取ることができないからな。


それはそれで何か寂しいものがあるが。


「あぁ、桂木さんですか。お久しぶりです。」


富士さんは至って普通に挨拶していた。



声がした方を向くと、その声に見合った姿の老人が立っていた。


その者は白い髭をたくわえていた。


その者は優しそうな微笑みを浮かべていた。


その者は木の杖を持っていた。


ぱっと見、仙人にしか見えないなりをしている。


そういえば富士さんはこっちの世界の住人だったんだな。


ならばこの仙人と顔見知りでもおかしくはないわけだ。


そんな中、ロキは仙人に歩み寄り、声をかけた。


『そんなことよりも、どこか寝れるところはねぇかじぃさん。』


声をかけられた仙人は身体がビクッとなり、


「お、お主は…!」


と言いながらわなわなと震えだす。


『あ、俺のことわかるんだ?でも安心しな。危害は加えたりしないよ、他の神とかと違って。』


「嘘じゃ…。」


優しい声で語りかけるロキの言葉を頑なに信じようとしない仙人。


そんな彼を見ている時だった。


なんだか身体がむずむずしてきたのだ。


そしてそれはやがてじわじわとした痛みへと変わる。


ロキにはロキで、身体にノイズが走り始めていた。


『クソ、限界か…!』


俺の痛みが幽体化する前と同じになると同時、背中に固い感触とそれに触れた痛みを感じた。


「あがぁ…!」


固い感触とはすなわち地面。


痛みは自分の傷を地面にぶつけたから。


痛くてのたうちまわりたくなるが、恐らく俺の全身には傷があるため、そんなことをすれば痛みは更に増すことになるだろう。


これらは推測でしかないのだが、だからと言って下手に動いて痛みが増すことにでもなったら大変だ。


今この時でさえ耐えて動かないだけで精一杯なのだから。


全身に力を入れて痛みを誤魔化そうとするも、あまり効果は見られなかった。


ロキが消え、その入れ替わりで俺が現れる。


そんないきなりの出来事に驚かずにいられるものはいないだろう。


「なっ…、実親さん!?」


「ひゃぅっ!?」


「なんだ…?」


驚くこともこの際仕方ないとは思うが、先ずは俺をどこか安心して寝転がれる所へ連れて行って欲しい。


そんな願いも声に出すことがかなわない程に全身が痛む。


「桂木さん、とにかくこの子を病院へ!」


「あ、お、おう、そうじゃな…。」


歯切れの悪い返事。


「ササキララは彼の足を。春日井さんは彼の腕を持って運んでください。」


「また言いやがった…!」


ちょっと待て。


それをしたら余計に…。


待って来ないでこっちに来ないでぇぇっ!


「んじゃいくぞ。」


「せーの。」


あぁ、やっぱりね。


佐々木さんは俺が苦しむことなら喜んでやるからな。


春日井さんは…たぶん天然を発揮して、好意でやってるのだろうな。


そして俺の身体が宙に浮く、二人に持ち上げられて。


「…ぃぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」


思ったよりも、痛かった。


そして俺の叫びにびっくりした二人は俺を持ち上げているのにも関わらず、手を離す。


ここまでは想定内だ。


いや、想定できる時点で色々間違っている気もしなくもないが。


そして本番はここからなのだ。


地面に背中からおもいっきり叩きつけられる俺。


さっきも背中、今回も背中。


痛みに耐えられるか甚だ疑問である。


どしゃぁ、と人間の身体が地面に落ちる音。


「ぅぐぁぁあぁあぁぁっ!」


叫ぶ俺を見て自分が何をしてしまったのか悟った春日井さんは一気に暗い顔になる。


「はっ!す、すみません〜っ!」


対する佐々木さんは、しまったというような感じの表情を繕ってはいるが、例の如く笑いを隠せていない。


「と、とにかく病院へ!」


「そうじゃな。こんな顔をしながら叫びをあげる輩なんざ久しぶりに見たわい。」


こんな顔ってどんな顔だよ…。


桂木老人はパンパン、と二回手を打ってから誰に言うでもなく言葉を発する。


「誰かこの者を病院へお連れしなさい。」


すると、木の家から何人かが出て来て何やら作業を始めた。


俺は事の終わりを見届ける事もできずにそこで意識を失った。

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