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劔が煌く夜に  作者: 中村中
夢と現と契約と。
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13/36

ロキの力…。

途端、真っ白だった世界に異変が…。


って何も起こらねぇじゃねぇかっ!


と、ツッコミを入れようとしたが二重の意味でそれは叶わなかった。


突然に俺の胸の辺りから何かが抜け出すような感覚、言うなら不快感。


喋ることもできない、止めることもできない嫌な気分。


「うぅ…ぁ…。」


周りを見ている余裕はなく、この間に悪魔とやらが何をしても俺には見れない。


「あぁ…!?」


ただひたすらにうめき声をあげる俺。


自分の身体のことなのに、今回の事といい怪我の事といい把握しきれていない事ばかりである。


突然に始まった不快感は突然に終わった。


そしてそれは何故か浮遊感へと昇華される。



『ほんじゃ、ま。行くぜィ夢魔さん?』


手の骨をポキポキと鳴らしているロキを、上から見下ろしている。


あれ、さっきまで俺って寝転がっていなかったか?


よく見ればロキの身体に透明感はなく、実体としてそこにいるように見える。


対する俺は…。


と、自分の身体を見回して漸く気付く。


「浮いてるぅぅう!?」


『うるせぇよオイ。』


あ、すいません。


睨まれた、物凄い形相で。


ロキが夢魔と形容した元田中医師はあたふたしている。


それもそうだろう。


先ほどまで寝転がっていた人間が消えて、先ほどまでふわふわ浮かんでいた奴が目の前に立っている。


そんな想定外、というより起こり得ないことが目の前で起これば誰だってそうなるはずだ。



仮に、ここにいるあいつを夢魔(むま) 貴文(たかふみ)としよう。


その夢魔貴文はいったい何故俺の夢に入ってきた?


入ってきて何をするつもりだった?


答えは明白だ。


夢魔、という単語が全てを表している。


だが、それでもわからない点が一つ。


どうして男の姿で男の夢に入ってきた?


「おいロキ。あいつはインキュバスやサキュバスとは違うのか?」


羽のあるイメージがついている夢魔と言えばこいつらである。


あくまで俺の中で、だが。


その点を考慮してもやはりおかしい。


インキュバスは男の姿で、睡眠中の女に精を流し込み妊娠させる。


サキュバスは女の姿で、睡眠中の男を誘惑し精を吸いとる。


そのどちらも同性の夢に入る、という行為は行わないはずである。


『インキュバスもサキュバスも飽和した存在。そいつらの原点と言ってもいい。つまり、どちらの特性も持つ悪魔だ。』


「そんなの聞いたことがー」


『何事にも原点は存在する。関数のグラフだって料理だって、人間だってそうだろ。』


なるほどよくわかる。


しかしその例えはどうにかならなかったものか。


もっと何か、こういう場に関係のあるような例えを…いや、こいつにそんなこと求めても無駄だろうから諦めようそうしよう。


『原点がまだ残っていたとはな…。レア物だろうがここで潰すことに変わりはない。』


うがぁぁぁぁぁっ、という叫びと共にこちらへ飛びかかってくる。


そうだ、すっかり忘れていた。


夢魔貴文の話をしているのに、そこに存在していることを忘れるとは何たる失態。


そんなこと基本どうでもいいのだが。


とりあえず、早く倒して現実へ帰ろう。


「やべ、浮いてるから移動方法とか色々わかんね。要するに無重力状態?」


『お前今、幽体化してんだぞ。戦闘には参加できんに決まってるだろ。』


俺の心を読んだように、ロキは言う。


え、そうなの?


「やっぱりこれって浮いてるだけじゃなかったんだ…。」


ガックリと肩を落とす俺。


『元には戻るから安心しろ。』


「元に戻らなかったらそれこそ問題、ってか向こうみろっ!来てるぞあいつっ!」


俺から見て左、夢魔貴文は飛行してこちらへ向かっていた。


『え?あぁ、知ってる。』



ロキは爪を立てて襲いかかってくる夢魔貴文をギリギリまで引きつける。


自分の身体に夢魔貴文の爪が触れるまであと数cm、というところで彼はその場でしゃがみ込む。


圧倒的な速度で飛来して来た夢魔貴文はそれに対応できず、急ブレーキをかけても意味をなさなかった。


と言うのも。


ロキの丁度真上を通り過ぎようとした瞬間、彼は夢魔貴文の腹辺りに強烈なアッパーを放ったからで。


今までの飛行速度は全て殺され、変わりに垂直上空への力へ変換される、と思う。


だって物理とか三年くらい前にやったんだもの。


覚えてる訳がない、てへぺろ☆


立ち上がりながらのアッパーなので、その拳の速度も威力も申し分ないほどになっている、はずである。


ちなみに、殴ったのは右手。



『ジャストミートぉっ!』


その言葉を聞いた瞬間、俺の目の前を夢魔貴文がくの字型に上に吹き飛ばされていく。


まるで某スクロールRPGに出てくる配管工のジャンプのような、いやその先は言うまい。


次いでロキはその左手を、未だ重力を無視して上に吹き飛ばされていく夢魔貴文に向ける。


その蝙蝠のような羽で抵抗しようともしないので、恐らく気絶しているのだろう。


あんな高くまで飛ばすなんて、いったいどんな馬鹿げた腕力してんだこいつは…。


『もう一つ。対象絶対凍結(アーク・ニヴル・ヘイム)っ!』


今の夢魔貴文を覆うくらいの大きくて綺麗な氷の球がいきなり空中に出現する。


光の反射で目が痛い。


まるで擬似太陽のようだ。


見た感じ、表面には一切の傷がない。


その球が出現した座標が、夢魔貴文が現在いる座標と被っていた。


そして球は重力に従い、落下してくる。


俺たちの真上に…、…?


「って危ねぇよっ!?」


『お前は幽体化してんだから大丈夫だろ。』


「俺はなっ!でもお前は生身だろうがっ!」


『あ、そか。そりゃそうだ。』


幽体化してることを受け入れてしまっている俺も俺だが、実体化を中途半端に楽しんでるこいつもこいつだ。


氷の球が地上に辿り着く直前に俺たち、というかロキがその場を離れた。


俺はそれに引っ張られるようにして無理やり移動させられただけだ。


「うえっ、ナニコレ酔いそうついでに吐きそう…。」


『吐くんじゃねぇぞ!?』


氷の球は割れずに、ドォーンと腹に響くような音を立てて地上に落下。


その中には予測通り、夢魔貴文の姿がくの字型になって入っていた。


やはり氷の球には傷一つなかった。


球の中がよく見える。


「オブジェクトにするには見苦しいな…。」


『やめてあげなさい。彼もそれは望んでないでしょう。』


「あんた何様っ!?」


まるで悟りを開いたかのような表情。


そこからは何も読み取ることができなかった。


『この方が、貴方の夢の中に現れたということはつまり現在の貴方は眠っていることになりますね。』


「とりあえずそのしゃべり方やめれ。腹立つ。」


『そうか?俺は中々気に入ってるんだが。』


お前の趣味とかその他諸々、よくわからんわ割とマジで。


「てかそんなのどこからの情報ソースだよ。」


『決まってるだろ。ここだよここ。お前のな。』


自分の頭をコンコンと人差し指で叩くロキ。


お前のな、と言ったってことはつまり。


「俺の頭?」


『そゆこと。』


え〜…、嘘だぁ〜…。

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