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劔が煌く夜に  作者: 中村中
夢と現と契約と。
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事実確認…。

要は、田中医師は田中医師ではないということだろう。


おれは幻想を見ているということになるらしい。


その幻想を殺し尽くす人の右手があれば楽なのに。


漠然とした世界設定しか読み取れていない俺とは逆に、ロキは全てを理解しているようだった。


『ここから出て行け。さもなくばお前の顔が蜂に刺されたようにボコボコになるぞ。』


その言葉を聞いて俺は咄嗟に富士さんを思い出した。


あれは痛そうだったなぁ…。


「だからあなたは何を…!?」


元田中医師現名称不明の目の前の人物は動揺を隠せないでいる。


彼の顔にノイズが走る。


それは一瞬のことだったが、俺はしっかり見ていた。


「そのノイズがあんたの立場を悪くしてんじゃん。」


「…!」


彼の背後に立ち尽くす富士さんのノイズがどんどんひどくなり、最終的に消えてしまった。


「ほら、富士さんが消えちまったよ。やっぱここは現実じゃないだろ。」


「な…っ!」


俺の言葉を皮切りに、世界が歪み、ひどくノイズが走る。


その構成は徐々に崩れていく。


春日井さんが消え、佐々木さんが消える。


俺の体を覆う包帯までもが消えていく。


そのうち、俺のいた病室そのものまで消えていた。



後に残ったのは、何もない真っ白な空間に立ち尽くす二人ないしは三人。


ロキを数にいれていいのかわからないので、こういう表現を使っただけですよ。


別にちょっと使いたくなったとか、使えたら格好いいなぁとかなんて思ってないですからね。


俺は包帯がなくなってもやはり動けず、地べたに寝転がった状態である。


その理由は、俺の身体全体を蝕む痛みである。


いったいこれは何の痛みなのだろうか。


「もう少し、だった、のに…!」


『なにがもう少しだったんだって?』


「くぅ…!」


さっきまでの優しそうな表情は一転し、明らかな怒りの色に変わっていく。


俺は、ここが現実ではないことはわかったがそれ以外のことは全くわかっていない。


わかっていたとしても、この身体では自由に動けないからあまり意味はないのだが。


などと今日何回目かの同じ思考をしてみる。


『サネ。』


いきなり呼びかけてくるロキである。


「なんだよ。てか早くこの状況を打開してくれ。」


うあぁぁぁぁぁぁっ!


と田中医師の声が聞こえてくるが、まぁ、無視の方向性でいいだろう。


「とりあえず、状況説明してくれ。」


ちっ、と舌打ちした後、彼はやれやれという風に首を振る。


『簡単に説明するぞ。ここはお前の夢の中。以上説明終わり。』


簡単すぎるだろっ!


もっとこう、何か他に言わなきゃいけないこととかあるだろっ!


はぁ、とため息をつきながら彼は続ける。


『あいつはお前の夢の中に入ってきた悪魔。』


だんだん面倒になってきたのだろうか、ロキの口調がぶっきらぼうになっている。


『これでいい?』


「だいたいは理解した。」


『ま、わかったところでお前は動けないからな。』


その事実確認は既に終わっていますよ、ロキ先生。


「だったらもう、殺してやる…!」


今度は純粋に怒りの表情でこちらを睨んでくる。


ニヤリとしたその口には長く鋭い歯が見え隠れした。


背中に見えるのは…羽?


「オイオイ、ヤバイって。どうすんだよコレマジで。」


今にも襲いかかろうとする、田中医師の姿をした何者か。


いや、実際には田中医師なんて架空の存在なんだけど、便宜上、ね。


大人の事情だ、察してくれ。


って俺は誰に語ってんだか…。


『俺を思い浮かべながら“変移(チェンジ)”って言ってみろ。』


「ちょっと待て。俺にそっちの気はないぞっ!」


やめてそんな目で俺を睨まないで。


そんな冷たい目でこっちを見ないで。


そんなロキとのやり取りの最中、俺の視界の外からは舌舐めずりの音が聞こえた。


あいつやる気だ、やべぇ。


「ったくもう、わぁったよ。」


半ばいやいやな感じではある、が。


それをしたら何が起こるのだろうか気になる好奇心も捨てきれない。


だが結局、言われたことをそのまま実行すると決めた一番の理由は恐怖からであった。


その方法しかすがれるものがなかったからだというのも少しはあるのだが、ここは俺の立場上話せないな。


『わかればいいんだよ。』


てめぇは大概一言多いんだよ。


俺は目を閉じ、ロキを想像する。


イケメンな顔に全身タイツ。


長くて鬱陶しい髪の毛で、その色は金…。


そして唱える。


変移(チェンジ)。」

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