第二話 人間カクテル
此処は幽世。その中でも比較的地獄寄りの地域に、天下街と云う街がある。幽世天下街は、下等の妖達で賑わう街である。
天下街の妖は、煩悩や穢れを喰い物とし、生きた人間の心の闇を大好物としている。その中でも天下四番街は酒の街で、怪しげな呑み屋がずらりと並ぶ呑み屋街だ。四番街にはたくさんの妖達が暮らしており、その営みはまるで生きている人間の様だ。彼等は遠い昔、人間であったとかなかったとか。かつての記憶と習慣が、彼らの営みをその様にしているのだろうか。
幽世は常夜の闇に覆われているが、「ひむし」と呼ばれる蛾が光を撒き散らしながら舞っているため、其れ等を光源として辺りを見渡す事が出来る。
ひらひらと大量に舞い交うひむしの中を進んで行くと、街の一角に、
〈常夜カクテルバー・泥提灯〉
と書かれた、赤い提灯が下がっているのが見える。見世の外観はお世辞にも綺麗とは言えず、剥がれかかった壁の煉瓦にぐずぐずの屋根瓦、それらが鬱蒼と茂る竹藪に覆われている。正面入口にはなぜか大量に目の死んだ鯉のぼりが下がり、「穢大歓迎」「人間カクテル有〼」などの看板が隙間から見える。
此処は、天下街一の世にも奇妙な呑み屋である。何の香を焚いたのか分からぬ異臭を放つ暖簾をくぐり中に入ると、異形の妖達がわいわいがやがやと談笑している。下卑た馬鹿笑い、頭に血が上った客の怒号、泣き上戸の咽び泣く声、酔い潰れた客のいびき等実に騒がしい。蜘蛛の巣が張り日陰虫達の這う壁には、「鬼ころし」「杣の天狗」「かまいたち」「七歩蛇」等の張り紙があり、酒はかなりの品数を揃えている事が窺える。
その中でも一際目を引く銘柄がある。その名も、
「人間カクテル」
この見世の名物酒である。人間カクテルはとても美味で、まるで桃源郷の飲み物の様な味がするらしい。しかしその製造方法は、誰も窺い知る事が出来ない。闇の底、とある製造室でせっせと作られているらしいその酒は、今日も妖達の喉を潤し、見世に華を添え、賑わいを生んでいる。
材料となる者達の、叫び声と共に。
※この物語は、シンガーソングライターである筆者のオリジナル曲を小説化したものです。
↓元になったオリジナル曲はこちら↓
人間カクテル/四月一日 青【オリジナル】
https://youtu.be/NwQhjoYfVXc?si=BHuRFCOvON6j0gqH




