第29話 静寂の下に潜む嵐
あの事件のあと―
スターの毎日は、嵐のように過ぎていった。
黒魔法を使って人々を助けるか、バイトを探して町を駆け回るか。そんな日々が続いていた。
かつての無口で不安そうだったスターは、今や静かな決意をまとった存在となっていた。
――そして、その変化は、周囲の仲間たちにもはっきりと伝わっていた。
夜。長い一日を終え、スターはベッドに倒れ込んだ。
部屋には月明かりだけが差し込み、静かだった。
心配そうに見つめる仲間たちの中、ルナが口を開いた。
「スター……なんで、そこまで無理してるの?」
エリックが腕を組む。「そう。まるで何かから逃げるように見える。」
スターは天井を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「……アリアナのことが、頭から離れないんだ。」
その一言で、部屋の空気が一瞬、変わった。
「胸がうるさいんだ。彼女を思うと……心がざわついて、止まらない。」
ルナは優しく微笑んだ。「スター、それは“感情”だよ。無理に消そうとしなくていい。」
スターは目を伏せる。
「でも、彼女には家族と向き合ってほしいと思った。それが正しいと思ったんだ。」
彼の声は揺れていた。
エリックが静かに答える。「感情と理性、どちらも大事だ。でも、どちらかを押し殺してしまえば……心が壊れる。」
スターは答えなかった。ただ、拳をぎゅっと握った。
そんな彼のそばに、仲間たちはただ静かに寄り添った。
――無理に励まそうとはせず、そばにいるだけで。
それが、彼の心にとって何よりの支えだった。
*
時間が流れ、スターは毎日を忙しく過ごし続けた。
だが、いくら動き続けても、アリアナの言葉と表情は、彼の胸の奥から離れなかった。
「……あなたなんて知らない。」
――あの冷たい一言。
それが、何よりも痛かった。
*
一方その頃。
アリアナは、かつての冷たい屋敷のリビングで、両親と向き合っていた。
数日前、命の危険にさらされた事件。
その現場にいた両親は、はじめて娘の「現実」と向き合わされた。
「……婚約のことだけど」と父親。
アリアナは小さく震えながらも、顔を上げて答えた。
「今さら何を言っても、遅いの。」
だが父は――
「私たちが間違っていた。すまなかった。」
それは、想像もしなかった言葉だった。
母もそっと言葉を重ねる。
「スターくんのことも、あなたのことも……すべて、間違っていたわ。」
アリアナの目に、かすかに涙が浮かんだ。
ずっと欲しかった言葉。でも、心の痛みはすぐには消えない。
*
それから数日。
ぎこちないながらも、両親は変わろうとしていた。
だがアリアナの心は、ぽっかりと空いたまま。
――そんな時。
彼女は、ふと考えた。
(私、自分の道を歩まなきゃ)
そう思い立ち、教師になることを目指す決意をした。
教えることは、人を導くこと。
かつての自分が欲しかった「誰かになる」こと――それが、彼女の希望となった。
*
そのころ、スターにも変化が訪れていた。
町の中で、人々を助ける魔法使いとして評判が広がっていたのだ。
ある日、ローカルTV局から連絡が来た。
「魔法ショーをやってみませんか?」
スターは戸惑ったが、仲間たちの後押しで決断した。
*
そして当日。
町の広場には、人があふれ返っていた。
スターは舞台の中央へと歩き出す。
観客の視線に、心臓が高鳴る。
けれど――
視線の先に見えたのは、笑顔の仲間たち。
ルナのサイン。カドの口笛。メイの拍手。
その瞬間、スターの中の不安が、静かに溶けていった。
*
彼は、魔法を披露した。
──闇の中に差し込む、星のような光。
──人々の笑顔を呼ぶ、不思議な植物の魔法。
──そして、最後に放った、温かな黒魔法の波。
観客は――
大歓声で応えた。
インタビューで、スターはただ一言。
「僕の魔法は、誰かを助けるためにある。」
その言葉は、町中に響きわたった。
*
だが――
歓声の中、スターの胸の奥に残っていたのは。
(……彼女は、これを見ているだろうか)
そう、アリアナの面影だった。
*
たとえ離れていても。
それぞれの道の先に、また交わる未来があることを。
彼らはまだ、知らなかった――。




