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第27話 彼女は君のものじゃない

――ようやく、訪れた隙。


あの男……婚約者は、別の実業家に呼ばれて席を離れていた。

父親も、どこかの来賓と談笑している。


今、この瞬間だけ。


彼女は一人きりだった。


スターは迷わなかった。


静かに、けれども確かな歩みで、彼女に近づいていく。仲間たちは離れた場所から状況を見守っていた。


「アリアナ」


彼女の肩が、ピクリと震えた。


ゆっくりと顔を上げる。

その瞳が、彼を捉えた瞬間――。


「あ……スター……?」


かすれた声。震えた唇。

その一言で、スターの胸は痛みと同時に温かさで満たされる。


「俺だ」


彼は静かに頷いた。心臓はうるさいほど打ち鳴らしていたけれど、声は冷静に保った。


……しかし。


「アリアナ!」


忌々しい声が、場の空気を裂いた。


あの男だ。婚約者と呼ばれる最低の男。


アリアナの顔に、一瞬にして怯えが戻る。


「スター……行って……今すぐ……!」


彼女の声は震えていた。だが、必死だった。彼を守ろうとしていた。


「……真実を教えてくれ。俺は……お前の本心を聞きたい」


彼女の目に、涙がにじむ。


「……覚えてる。忘れてない……でも……お願い……早く……行って……」


だが、彼女の願いが叶う前に、男が現れた。


「……誰だ貴様?」


男はあからさまにスターを見下すような目を向けた。


「……友達だ」


「アリアナに友達など必要ない。特に、お前のような……下賤な連中はな」


アリアナは慌てて二人の間に割って入った。


「お願い……やめて……」


スターは気づいていた。震える彼女の手。彼女は、自分ではなく彼を恐れている。スターが傷つくことを恐れているのだ。


男は笑った。


「警備を呼ぶ前に消えろ」


だが、スターは動かない。


「彼女の口から、はっきり聞きたい」


男はスターの腕を乱暴に掴んだ。


「消えろと言っている」


……その瞬間。


「離して」


アリアナの声が、はっきりと響いた。


男が目を見開く。


「何だと……?」


彼女は震えながらも、スターの前に立つ。


「……離してって言ってるの」


場の空気が変わった。ざわつきが広がる。周囲の人々が注目し始める。


男は怒りに顔を歪める。


「俺より、こいつを選ぶっていうのか?」


答えはない。しかし、その沈黙が全てだった。


スターの心が熱くなった。彼女は……戦っている。恐怖に抗い、自分の意志を示している。


「何事だ?」


アリアナの父がやってきた。厳しい声。しかし、どこか動揺も混じる。


男は叫んだ。


「この男がアリアナに付きまとっていたんです。すぐにでも叩き出します」


スターは父親を真っ直ぐに見据えた。


「俺はスターです。この前もお会いしましたね」


父親は目を細めた。


「あの時の……。貴様は……何度言えばわかる。アリアナに関わるな」


「もう、遅い」


静かに、アリアナが口を開いた。震える声、だが確かな言葉。


「お父様……もうやめて」


「……アリアナ?」


「もう、耐えられないの……」


男は苛立つ。


「子供みたいな真似をするな!」


しかし、アリアナは怯えず、スターを見た。涙を浮かべた瞳で、しっかりと。


「スター……忘れてない……。あなたを……ずっと……」


その一言で、スターの視界が滲む。胸に押し込めていた想いが溢れそうになる。


父親が青ざめる。


「アリアナ……何を言っている……!」


彼女は俯き、首を振った。


「もう、笑顔も……服も……言葉も……全部、お父様の言うとおりにしてきた。でも、もう……自分を偽れない」


男は彼女の手首を掴む。


「黙れ。お前は俺と結婚する。それが決まっていることだ」


スターの怒りが沸点を超えた。


「離せ」


スターは男の手首を掴み、力を込めた。静かな、だが確かな怒り。


場が凍りついた。


男は顔を歪める。


「貴様……!」


父親は言葉を失う。


「アリアナ、今すぐ謝れ。全てを無かったことにするんだ」


「……しない」


その一言が、すべてだった。


父親の顔が歪む。


「お前は、この瞬間から……私の娘ではない」


アリアナは答えなかった。ただ、スターに歩み寄り――。


「行こう」


スターは目を見開いた。


「……いいのか?」


彼女は頷いた。涙を拭い、けれど強い瞳で。


「もう迷わない」


仲間たちがすぐに駆け寄った。


「……逃げていいのか?」


スターの心が囁く。家族は……理解できなかっただけかもしれない。救える方法は、なかったのか。


「スター、大丈夫?」


ニアの優しい問いかけが、思考を止めた。


だが、その時――。


男が、狂ったように叫びながら銃を取り出した。


「俺の物だ! お前は俺の物だ!!!」


場が凍る。アリアナは震え、涙を溢れさせる。


「嫌……やめて……お願い……」


男は狙いを定める。


「動くな。動けば、お前の頭が吹き飛ぶぞ」


スターの心臓が跳ね上がった。


(どうする……このままじゃ……)


男の視線は狂気に染まっていた。誰の声も届かない。父親すら怯えて言葉を失っている。


「動くなよ、英雄気取り……!」


スターは静かに魔力を練る。黒き魔法。その一撃で銃を弾き飛ばす。


「離せって言ったろう……!」


黒い触手が銃をはたき落とした。


「今だ!」


カイドが叫ぶ。ジェイクとエリックが男を抑え込む。


「離せこの野郎!!!」


「黙れ、クソガキ」


ジェイクが容赦なく締め上げた。


銃は遠くに蹴られ、ニアが手に取って押さえた。


アリアナは崩れるように、スターの胸に飛び込む。


「よかった……無事で……」


「もう、大丈夫だ」


スターは優しく抱きしめる。


やがて、警察が到着し、男は狂ったまま連れていかれた。


「俺は間違ってない……あれは俺の女だ……!!」


ジェイクは無言で男の腹を小突き、呻かせた。


騒ぎは収束し、静寂が戻る。


アリアナはスターに縋り、涙を流す。


「……ありがとう……本当に……」


仲間たちが集まり、カイドが笑った。


「……一番疲れた夜だったな」


「同感だ」


エリックがため息をつく。


「俺は警察を初めて頼もしいと思った」


ジェイクは毒づく。


ニアは頷く。


「でも、もう……終わったんだよね」


父親が黙っていた。スターは、彼に向き直った。


「……あなたは、彼女を……殺すところだった」


父は言葉を失い、俯いた。


スターはそれ以上、何も言わなかった。


ただ、彼女だけを守る。それが今、一番大切なことだった。


「もう大丈夫だ」


彼女は静かに、何度も頷いた。


――誰の物でもない。彼女は、彼女のままで。





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