表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/55

0051-金のある場所


 カッツはローラに言われた場所で待っていた。

あの後、すぐに行動を始めたローラはカッツにこの場所で待ってろと言って風のように消えた。

いつまで待てばいいのかなど聞いておらず、ローラの行動など誰にも分らないため自分が担がれたという事すらあり得る。

だが、カッツに残された希望はローラのあの自信に満ちた笑みのみなのだ。


 王都の噴水前…

冒険者をやっているカッツからすれば裕福な人間が行きかう場所で、ハッキリ言って場違いだ。

人と目が合うとなんでお前みたいな人間がこんな場所にいるんだと言われているようで本当に気まずい。

落ち着かずに待っていると一人の少女が声をかけて来た。


「待たせたな~。」


 ローラかと思って振り向くと…どうやらローラではなかった。

黒髪黒目こそ同じでも、裕福な商人の娘が着てそうな奇麗な女物の服を着ている女に知り合いはいない。

うっかり返事をしそうになったのを誤魔化すようにソッポを向くカッツ。


「おい…何で無視しやがった。」


その言葉は確かにカッツに向けて発せられたものであった。

そうすると、この少女は…


「お前…ローラか!?」


「あん?…テメー目ん玉に節穴空いてんのか?頭に詰まってる馬糞が漏れるぞ…」


「ああ…ローラだな。」


………


……




「それで、そんな奇麗な服着てきてどうすんだよ?」


 歩きながらもローラに尋ねるカッツ。

ローラが着て来たこの服は、イオが着ていてボロボロになった物をメディエが奇麗に縫い合わせて補修してくれたものでそれを借りてきたのだ。

ちなみに奇麗な服を着たローラの隣を歩いてるカッツは男とすれ違うたびに嫉妬で睨まれてしまう。

どうすればこの誤解が解けるのだろうか…


「踏み倒すつもりもないのに借りた金は返さなきゃならないだろうがよ?

だから先ずは金を用意するんだよ。」


「金を用意するって言ったって大金貨三枚なんてそんな簡単に用意できないだろ。」


「ある所にはあるもんさ。…ほれ!」


………カッツは言葉を失った。


ローラに連れられてついた場所は"奴隷商の館"だったのだ。



――――――――――


 カッツはただただローラについて行って口を閉じるだけの置物と化していた。

それはローラから「お前は一言も喋るな」と言われたという事もあるが…

自分がもうすぐこの場所で奴隷として売られるかもしれないという恐怖が殆どである。

そして、明らかに腕っぷしが強そうな屈強な男の奴隷たちが数多く警備についており、すれ違うたびに睨まれるのだ。

建物の中に入るとすぐにしっかりとしたスーツを着た従業員が寄って来てローラに尋ねてきた。


「ようこそ当館へお嬢様、本日はどのような奴隷をお求めでしょうか?」


「ここで一番偉い方とお話がしたいのだけれども。」


 突然そんな事を言ってくる黒髪黒目の少女に眉をひそめる…が、よくよく少女の容姿を確認する従業員。

社交界に出ていれば噂になっていなければおかしいと思えるほどの端正な顔立ち。

もし奴隷として値段をつけるとしたら文句なしで最高値が付くと言われている黒髪黒目。

そして、ローラのその「この店の店主が自分と会うのは当然」という太々しい態度。


「少々お待ちください…」


従業員は念のため店主に確認をする事にしたのだった。


………


しばらく待っていると先程の従業員が戻ってきた。


「店主がお会いになりたいと言っておりますが、今接客中でして…

しばらくお待ちいただけますでしょうか?」


「そう?…じゃあどうしましょうか。」


「それでは当店の奴隷でも鑑賞しますか?ご案内いたしますよ。」


「あら!それは面白そう…カッツ、あなたもいい勉強になるんじゃない?」


 そう言ってローラは待っている間、従業員の提案を受け奴隷の見学をする事にした。

これにはカッツの顔も引きつる。

なにせ、もうすぐ自分が奴隷にされてしまうかもしれないという瀬戸際なのだから。

ローラが一体何を考えているのかが分からず心配しかないカッツだった。



 従業員に最初に案内された檻は労働や戦闘のための安い奴隷たちが集る場所だった。

皆、奴隷の首輪を着けられており食事もギリギリのため目が虚ろであった。

人種も様々、獣人が多いが人間もいる。

他にも樽の様な体型のドワーフ族、角がある体が大きい鬼人族なんてのもいる。

そんな奴隷たちがローラ達が通るとギロリとこちらを見つめてくる。

人によっては「俺を買ってくれ!!」と懇願してくる者すらいる。

そんな奴隷たちを興味深そうにジロジロ見ながらローラは従業員に向かって褒める。


「随分良さそうなお店ですね。」


「お分かりいただけますか。」


 そんな会話をしているローラと従業員にカッツは眉をひそめるしかない。

これのどこがいい店なのだ?と。

だが、奴隷商というのは物を扱う商人とは違って奴隷を商品だからと言って丁寧に扱えばいいというわけでもない。

売り物の奴隷たちをわざと虐待する事によって、その後買って行った主人達が躾やすくする必要があるのだ。

例えば無駄に鞭を打つだとか、首輪の命令でいたぶるだとか、食事をギリギリしか与えないだとか…

そしてそんな奴隷たちを買った主人達が鞭をあまり打たなかったり、命令も必要なだけだったり、食事を十分与えてやったりしたらどうなるか。

…その主人が良い主人であるかのように思うのだ。

最低の生活を覚えさせれば、それなりの待遇でも満足する奴隷の出来上がりである。

だからこそ、奴隷をギリギリまで虐待する店は奴隷商としては良い店となるのだ。


 次に案内された檻はついついカッツも鼻の下を伸ばしてしまうような場所であった。

そこは、高級奴隷と呼ばれる奴隷が集められている場所。

見目麗しい女たちが奴隷として首輪を嵌められ檻に入れられていた。

流石に王国の貴族はいないが、ほとんどが商売に失敗した商家の娘だったりだ。

たまに平民の中で生まれた容姿が整った娘を親から買ってくる事もあるのだそうだ。

先程の檻の奴隷たちとは違って食事をちゃんと与えれれているようだが、勿論皆沈んだ顔をしていた。


「美しい少年もおりますが?」


「そんなの買って帰ったらお兄ぃ様に怒られてしまいます。」


 そう言ってケラケラと笑う少女。

恐ろしい事に、これだけ美しい女たちを集めている場所だというのに一番目を引く美少女がこのローラだという事実。

カッツにもこの従業員が突然訪問したローラを何も言わずに案内している理由が少しわかった気がした。



「そしてここが、当店の目玉商品が置いてある場所となります。」


 そう言って最後に案内された檻…

そこにいたのは、ローラと並び立つ程の美しさを持つ種族…

その特徴的な長い耳、そして明らかに他の種族とは異なる高貴なる気配を持つ者達。

…エルフ族。


カッツも初めてみたその姿に驚きを隠せない。

そしてローラも…


「まあ、エルフですね!!」


「はい、見るのは初めてですか?」


「いいえ、実家で話したことがあります。

エルフの歌も知ってるんですよ?」


 そう言っておもむろに歌いだすローラ。

その清らかな歌声に、その部屋にいる人間達…そしてエルフすらもそれに意識を引き寄せられてしまう。

多分、エルフ語だろうか…

エルフの奴隷達は普段ほとんどしゃべることが無いため、従業員もエルフ語など聞いたことが無い。

そして、命令をしないと何もしようとしないエルフ達。

だからこそ、この部屋にいるエルフ達がローラに対して注目している事が驚きだった。


 歌いながら檻に近づいて行くローラ。

そんな姿に檻に入っている女一人、男二人のエルフは耳をピョコピョコ動かしながら表情を変えずにジッと見つめていた。

しばらく歌を披露していたローラだったが、その歌が終わるとエルフ達は途端に興味を無くしたかのようにソッポを向いてしまった。


 歌が終わってしばらく…部屋にいた者達は皆呆然としていた。

だが、それに割って入るように従業員に対して報告が届いた。


「主人の準備が整いましたので応接室へご案内します…」


――――――――――


 応接室は煌びやかな調度品で彩られていた。

美しい絵画、陶器やガラス細工に美しい女奴隷。

その中にどこかで見たことあるような熊の毛皮が混じっておりはてと首を傾げてしまう。

正直言えばこれらの品はローラの趣味ではないのだが、その中でも一点だけローラと趣味が合うものがあった。

それは兄であるカイがデザインやラベルにこだわって長い年月をかけて製品化した代物。

美しいガラス細工に入ったそれについつい手が伸びそうになってしまう。


「おや、ブランデーにご興味が?」


突然声をかけられて焦ってしまうローラ。

声をかけたのはこの店の店主であった。

恰幅の言い髭を蓄えた中年…

その店主は振り向いたローラの容姿に驚くがすぐにそれを隠した。


「ああ、いえ、前に飲んだことがあったのを思い出しまして…」


「そうでしたか、私も一度飲んでその高貴な香りに驚きましてね…

瓶だけですがそうして取ってあるのです。」


瓶だけという言葉に思わず舌打ちしそうになるのを我慢する。

むしろ、この世界で一番最初に飲んだのはローラであると自負しているのだが、どこからカイに漏れるかもわからないのでそんな事は口が裂けても言わない。


 ローラはソファーに座るよう勧められたまま座り、勿論カッツは後ろに立たせてある。

カッツは物言わぬ案山子にしておかねばボロが出てしまうので護衛役に徹してもらう。

そして、正面に座った店主に対して自分の身分の証明から始めた。


「私はトールソン男爵家の娘、ローラ・トールソンと申します。

冒険者証とこの短剣の紋章が我が家の家紋です。

ただ先に…今回の話は家の者には内緒にしておいて欲しいのです。」


 短剣の家紋をチラリと見るが…百合の花の家紋は見たことが無い。

貴族というのも数多くいるため、専門家でもない限り家名を全てを覚えている人間などいないだろう。

だが、トールソンという地名は知っている。

長く奴隷商人をやっている人間に知らない者はいないその地名からして警戒をしてしまうのだが…

貴族を騙るというのはそれだけで死罪であるため、偽の家紋を見せるという事はそうそう出来るものではない。

そして次に冒険者証の方を確認するが…

冒険者証の"666"と書かれた番号を見て一瞬顔を引きつらせる店主とそれを笑いとばすローラ。


「その番号余ってたんですって面白いでしょう?」


そう言って笑うローラ。

店主はその番号を事前に従業員の一人に確認に行かせてはいたが実際見るまでは信じられなかった。


「中々に活動的なお嬢様でいらっしゃる…」


「よく言われます。」


そう言いながら用意された紅茶に口をつけるローラ。


「帝国産ですか?」


「おお、お分かりですか…」


「私はミルクを入れて飲むのが好きなのですけどね。」


その言葉にハハハッと笑いながら奴隷にミルクを持ってこさせる店主。


「あら、子供っぽいとお笑いになるんですか?」


「いえいえ、好みというのは人それぞれですからな。

かくいう私も一人で飲むときは砂糖を入れて飲みますから。」


そう言って笑いあう二人…

礼儀作法に茶葉の知識…一長一短で身につく事ではない。

例えじゃじゃ馬であっても、店主はこの少女が本物の貴族である事を取りあえずは信じてみる事にした。

そして、それをソファの後ろに立ちながら見せられたカッツ…

カッツはローラのその言葉遣いや話し方を見て違う生き物を見ている感覚に襲われ顔を引きつらせていた。


「それで、ローラ様。

お話とはいったい何なのでしょうか…?」


「ええ、実はお願いしたいことがございまして…」


………


……




「…とまあ、こんな感じで利子無し即金で大金貨三枚…余裕だろ?」


「お、おおおおおおおおまえぇぇぇぇ!!!

自分が一体何やってるか分かってんのか?????」


「な~にビビってんだよ。」


「少しはビビれって言ってんだよぉ!!!」


 即金で利子無しの借金、だが勿論担保はある。

そしてその担保とは…ローラ自身。


 兄と一緒に王都に旅行に来たが、ただ観光して言うだけではつまらない。

なので商売でもしようと思うのだが元手が無い。

だから何も言わずに大金貨三枚を貸してくれ。

私の力を持ってすれば一週間で倍にするなど容易いはずだ。

勿論兄に知られると怒られるので黙っていて欲しい…と。


 普段の言葉を封印すればただの世間知らずな絶世の美少女でしかないローラ。

それがもし奴隷として手に入る可能性があるのだとしたら…

自分の妻に迎えるのも良し、もし売ったとしたらその値段は天井知らずとなるだろう。

大金貨三枚など、奴隷商として財産を築いてきた店主からしてみれば大した金額ではないのだ。

例え詐欺でも失うのはたった大金貨三枚…

それよりも詐欺なら詐欺で捕まえてローラを奴隷にできる権利の方がはるかに価値がある。


 問題があるとすれば、ローラが貴族であるという事。

もしこの契約で本当に奴隷としてしまった場合、相手によっては貴族のプライドを傷つける事になってしまう。

そうなってしまわないよう、扱いは慎重にしなければならない。

ただ、もし仮に契約破棄となったとしても金で解決するなら10倍返し、そうでなくてもかなりの恩が売れるだろう。


 そして何より重要なのが、例え金が返ってきたとしてもこの少女と関係を構築できるというのはこの先大きなメリットになる予感がしたのだ。

きっと、近い将来必ず大貴族に目を付けられる事だろう。

それだけ、この少女の美貌は人を狂わせる…


 そしてローラもそんな店主の思惑を知った上で、一週間以内に大金貨三枚を返すことが出来なければ即奴隷落ちという、スリリングな契約書にサインをしてきたのだ。


「つーか、その大金貨三枚で俺の借金どうにかしちゃったら、お前の借金はどうするんだよ!!」


「そりゃ、この後はアドリブだよ。」


「何言ってんのお前…?」


 カッツも後が無かったとはいえ、契約した悪魔が狂人で真人間であるカッツには正直この後がどうなるか…

自分が何に手を貸してるのかが全く理解が出来ずにいた。

そして二人はあの借金取りの事務所がある建物の前にやって来たのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ