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0050-悪魔の契約


 数日後のある日、ローラは今日もギルドの酒場にたむろしていた。

ローラは毎日この酒場に来るわけではない。

どうやら他の酒場を転々と渡り歩き、そこにいる人間達から酒をたかっているようだ。

困ったことにギルドに来ると仕事中のレティの所に頻繁にちょっかいをかけにくる。


 本当であればすぐに追っ払いたいのだが、それが中々うまくいかない。

ローラが至る所で仕入れてくる話が中々に興味深いものが多いのだ。

ギルド長の昔の女と今のお気に入りの娼婦とか下世話なものが多いが…

笑い話や下ネタ、たまに黒い噂なんかも話す。

しかし、こちらからローラに話す事と言えばたまに聞かれた事を教える程度…

言えないことは無理に聞いて来ようともしないし悪さをしない限りは割と有益だったりもするのだ。


今日もローラがレティの受付にやって来たかと思えばおもむろに聞いてきた。


「一つ聞きたいんだけどさぁ、

魔道具が増えて需要が増えた上に軍に人取られてるってのに何で魔石の価格があんまり変動してないんだ?」


 藪から棒にローラが聞いてきて書類仕事をしていたレティは一瞬ビックリする。

何故暇そうにしている他の受付ではなく、わざわざ仕事をしているレティに話しかけるのか…

こっちはローラと違って暇じゃないんだから勘弁してくれと思いつつ、珍しく真面目な話題だったので書類仕事をしながらも答える。


「冒険者達が納品してくる魔石も多いのよ…」


「魔物が増えたって事か?

にしちゃああんまり景気良さそうな顔じゃねえよな…」


「…まあ、戦争で税金がね…真っ先に取られるのは…ってやつ。」


「世知辛いねぇ…んで、氾濫の準備ってどんなもんなの?」


「…氾濫??」


「…???だって、魔物が増えてるんだったら、そりゃ魔物の氾濫の兆候だろ。」


「いやいや、氾濫なんて起きないでしょ…そりゃ百年ほど前は起きてたって話だけど。」


「ならもっとヤバいじゃん…調査はしとけよ…私は知らんぞ?」


 いざ氾濫が起こったと仮定して、王都の防衛は軍の管轄だ。

だが、魔物の森に関しては管轄は冒険者ギルドが請け負っている。

発生して対応が遅れた場合はギルドに責任が回ってくる…


「…一応進言だけはしとくわよ。ちなみにあんたの名前も道連れね。」


「そうしとけ、紙に残しとけば責任は上持ちだ。」


 …そんな事を言って聞くだけ聞いたら酒場に戻って行ってしまうローラだった。

一体何なんだと思いつつレティは言われた通りに調査の依頼を出すようギルド長への報告書を作成する事にした。

氾濫なんてそうそう起きないだろうと思いつつも、確かに言われてみれば気にはなる。

レティは下っ端なので直接責任を負う事は無いのだが、言うだけならタダともいえる。

ローラが言ってきたという所に何か罠がありそうな気もするが、判断するのはどうせギルド長である。


 ただ、冒険者上がりのギルド長が危機管理に役に立つのかと言われれば疑問があるのだが。

前ギルド長は軍人上がりで定期的に森の調査依頼が出ていたと聞く。

だが、昔行われた公爵家の大規模なダンジョン探索で多くの冒険者達の命が失われた事の責任を取って引退したらしい。

そして後任が今のギルド長…

冒険者上がりなのは当時の冒険者達の不満を抑えるためだったという話だ。

役には立たないが問題も起こさない…そんな責任者であった。

前ギルド長は軍とも顔が利いたため人材流出も少なかったらしいが…

あのギルド長がこんな報告書一枚で動くかと言われれば…無理だろうなと思う。

だからレティは保身のためだけに報告書を提出するのだった。



――――――――――


 いつものように酒場でギターを弾いていると項垂れながらギルドの中に入ってくる冒険者の姿が目に入った。

ローラにはその男に見覚えがあった。

たしか、先日ローラに剣をねだった冒険者のカッツだ。

だがどういうわけか、腰のその剣は無かった。

不信に思ったローラは「おいカッツ!」と言って指をチョイチョイしてそのカッツを呼びつける。


 気まずそうな顔をするも、相手は自分に剣をくれた人間である。

無下にすることも出来ず、その声に従いローラがいる酒場の席に着く。

するとそこにいたモーブル達他の冒険者達から何があったのかを聞かれた。

カッツはローラの方をチラチラと見ながらすまなそうに何があったのかを教えた。


「それが、借金が…」


 そう言って語ったのは、借金の取り立てが段々酷くなってきた状況であった。

妹の病気を治すために"祝福薬"を買うための金が必要で、そのために借金をした。

その時借りた大銀貨一枚だったはずが、いつの間にか膨れ上がったと言われいくら返しても取り立てが続くのだそうだ。

どんな契約をしたのかをローラが尋ねるも要領を得ない回答。


「大銀貨はもう返したんだろ。

だったらいちゃもんつけて騙し取られてるんじゃないのか?」


モーブルのその言葉にローラはそんなわけがないと現実を突きつける。


「ンなわけねーだろ。借金には利子ってもんがあるんだから。

返すのは借りた分より大きな額になるんだよ。

どんな契約しちまったのか分からないと話にならないけどな。

…てか、わかりもしない契約するなっつーの。」


 言ってガシガシ蹴りを入れるローラ。

ドンドン小さくなるカッツだったが、妹の病気を考えるとそれしか方法が無かったのだ。

他の誰かが助けてくれるわけでもないのだから…


 そうこうしている内にまた一人ギルドの中に男が入ってきた。

身なりは奇麗にしているが、その顔つきは明らかにカタギの者とは思えない。

ギルドの中を見渡しているが…

その姿をみたカッツが「ヒィ!」とモーブル達の後ろに隠れようとするもそれをその男に見られてしまう。

ツカツカとカッツの下に歩いてくるその男はカッツの目の前に立つ。


「やあやあカッツさん、酷いじゃないですか。今日は会う約束をしていたのにすっぽかすなんて。

お仕事にいらしたのなら仕方のない事とは思いますがねぇ?」


「あ、いや…これは…」


「それで、お金の方はご用意できたのですかねぇ?

もう時間がないですよ?

こちらとしてもあなたが奴隷になるなんて言うのは心苦しい限りなんだ。」


 奴隷…その言葉に冒険者達もギョッとしてカッツの方を見る。

だが、それに反論できるカッツではなかった。

途端に酒場に重苦しい空気が流れる。

奴隷落ち…それは冒険者達が一番恐れる事であった。

そんな中、ローラは一人その取り立て人に問いかける。


「なあおっさん、取り立てに来てるって事は証文あるんだよな?

見せてみろよ。」


「ああ?なんだこのガキは…」


 取り立て人はローラの方を見てメンチを切ってくるがそれで臆するような環境で育っているわけでもない。

そして取り立て人はローラの容姿をジロジロ見てニヤリと品定めを始める。

だが、そんな事を気にするわけでもなくローラが催促する。


「おいおい、証文持ってきてないのか…それじゃあ恐喝じゃねーかよ?」


その言葉に舌打ちしながら証文を懐から取り出し見せつける男。


「ほら、これでいいだろ…触るんじゃねーぞ?」


「わーってるよ、どれどれ…」


そう言って証文を確認すると…すぐに吹き出した。


「こんなの契約しちゃう馬鹿を見ると上限金利って必要なんだなって思うわな…」


「お、おいなんだよ。なんか問題でもあんのか?」


「問題しかねーよ。お前さんこのままだと奴隷落ちだぞ…妹共々。」


「はぁ!?なんだよそれ!なんで妹までなんだ!関係ないだろうがよ!」


「だって、ここに書いてあるし…サインもお前だよなこれ。」


「書いてあるって!………字読めねーからわかんねぇよ…。

どうすりゃいいんだ??借りた金を返せばいいんだよな?」


「利子付きでな…トイチもびっくりの。借りたのは大銀貨一枚の千エネス…三か月くらい前か。

ちゅーちゅーたこかいな、で…3000倍くらいになってるな。」


「3000倍ってどのくらいだ?」


「三百万エネス…大金貨三枚だな。」


「はぁ!!!!???俺が借りたのは大銀貨一枚だぞ!!!何だよそれ!!」


「だからそういう契約だって…担保がお前と妹になってる。

つまり、今週中に大金貨三枚返せなきゃ兄妹そろって奴隷落ち。

ちなみに王都じゃ市民権無いお前らを守る法律無かったはずなんで合法。」


その言葉を聞いてこの世の終わりの様な顔で呆然とするカッツ。

受付にいたレティは遠くから聞えてくる言葉に眉をひそめ、受付を出てその場所まで近づいてきた。


「失礼ですが、ギルド内でそう言った取り立て行為は止めて頂きますでしょうか?」


カッツがどうこうよりも、ここで問題を起こされる事が困るのだ。


「分かってますよ…ただこのカッツさんが逃げようとしてるのかと不安になって声をかけただけです。」


そう言って証文をしまおうとするが、そこでローラが静止させる。


「一つ聞きたいことがあるんだが…

この証文を書いたのってお前さんの知り合い?」


「ああん?さっきから何なんだお嬢ちゃん…

あんまり興味本位で首を突っ込まない方が身のためだぞ?」


「そんなカッカすんなって。それ書いたのって火傷で禿てて顎に傷がある男だったりする?」


そのローラが言った容姿にモーブルが心当たりがあったのか驚いたような声を出す。


「スキンヘッドで顎に傷………それってもしかして西竜会のリーダーじゃねぇか!」


その言葉で取り立て屋もヤレヤレと言う顔で肯定する。


「なんだ、目立ちたくないと言いつつもうちの親分も随分有名になっちまったじゃねぇか。」


 その名前でレティもゾッとするものを感じた。

西竜会…組織が立ち上げ事態は数年前らしいが、王都北西部のスラム近くを根城にし急速に勢力を拡大した立派なマフィア組織だ。

そしてローラが言った火傷によるスキンヘッドで顎傷がある男…

それはその組織のリーダー"西竜"のドランの事であった。


周りがその名前に恐れるのに気を良くした男はローラに声をかける。


「なあ嬢ちゃん…いい仕事紹介してやろうか。

嬢ちゃんならすぐにお金持ちになれちゃうぞ?」


そんな言葉にクツクツと笑いながら答えるローラ。


「考えとくよ、是非ともそのトカゲとも話がしてみたいものだな。」


「言っておいてやるよ」と笑い声をあげると今度はカッツの方に向き直る。


「おいカッツさんよ…逃げんじゃねーぞ?

逃げたらお前の妹、組員全員で輪わすからな!!」


そんな脅しをかけた後、その男はギルドを去っていった。


………


……



 カッツは目に見えて絶望の中にいた。

周りの考えとしては「逃げてしまえ」なのだが、本当に逃げられるかは微妙だ。 

何せ相手は組織的に非合法な事をして金を稼ぐ集団だが、警備隊には頼めない街の揉め事を解決する役割を担っている一面もある。

逃げようとした場合街中の協力者がによってすぐに情報が集まるため簡単に捕まってしまうだろう。

八方ふさがりのカッツに対して周りの人間が出来る事など、酒を奢ってやることぐらいだろう。

だが、そんな中ローラはしばらく考え事をしていたかと思うと突然ニタニタと邪悪な笑みを浮かべ始めた。


「まあ、そんな落ち込むなって。

私に任せておけよ、全部何とかしてやるから…な?」


 そんな事をカッツの肩叩きながら言うのだ。

その笑みに周りの人間は絶対ロクな事にならないと確信をするのだが…

しかし、カッツには後がない。


「俺はどうなっても構わない…せめて妹だけでも…」


それが、悪魔であろうとローラであろうと自分が助かる道があるのであれば、魂を売り渡す事も致し方ないのだ。


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