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0049-初仕事


 暗い森の中…しかも夜、辺りはローラの魔導ランプに照らされていた。

魔導ランプなんて随分大層な物を持っているもんだとモーブル達冒険者は皆思う。

ゴブリンの魔石を燃料にかなりの長時間光を発する事ができるのだが、一般庶民が持つようなものでもない。

兄を見る限りかなりの金持ちだという事は分かるが…ただ、冒険者達は今それどころではなかった。


 ずんずん進んでいくローラに言われるがままついてきてしまった冒険者達…

段々と多少なりとも酔いがさめ始めると、自分たちが森のかなり奥の方まで来ているように感じ始める。

そんな不安をモーブルが声にする。


「お、おいローラ…流石に奥に来すぎじゃないか?」


 魔物の領域に入れば、嫌でもわかる漂うざわつくような魔力の気配…

普通の人間はこの気配を感じると危機感を感じてなるべく避けようとするものなのだが。

ローラにはそれが通用しなかった。


「まだ入り口じゃねーか。こんな場所じゃ庭と変わらないだろ…」


「んなわけねーだろ、こんな場所が庭ってどんな魔境だ!」


「ったく、王都民は肝っ玉が小さいんだから…

そんなんだと美少女をドロップする魔物には会えねーぞ?」


「いるかそんなもん!」


「何言ってんだ…お兄ぃは偶に拾ってくるぞ?」


 呆れながらもローラが先頭で進んでいると突然その歩みを止める。

モーブル達他の冒険者達を止め、ジェスチャーで茂みに隠れるよう指示を出す。

ローラ自身は明かりがあるのだから隠れる意味もない、一人その場で周囲の状況を伺う。

…数秒後、何かを発見したローラが一人先に進んでいき、それを見つけて皆を呼びつけた。


「こりゃあ…」


 モーブルがうへぇという顔で見つめる先に倒れていたのは、一人の冒険者であった。

魔物にやられたと思しき背中の爪痕ともぎ取られた左腕。

剣こそ持ったままであったが、ここまで逃げてきて力尽きたのだろう…

息はないが体が温かい所を見るとさっき息を引き取ったばかりのようだ。


「知ってる奴か?」


髪を掴んで持ち上げ死体の顔をモーブル達に見せるとソレを確認したモーブル達が頷く。


「ああ、最近借金が溜まって後が無くなってたやつだな。」


「奴隷になるくらいなら奥まで来て大物狙いってやつか…」


 そんな話を「ほ~ん」と聞きながら、その死体から冒険者証を回収する。

死亡届くらいは出してやるのが一応の礼儀だ。

なお、持ち物はありがたく頂く事になっている。

遺品の一部くらいは遺族に渡してやるものだが、基本ギルドは仲介くらいはするがそれ以上は関与しない。

「お前丸腰だろ…」とモーブルが剣を取ってローラに渡す。

その剣の刃を見て「なまくらじゃねーか…」とローラはぼやいた。

一番高い剣をローラの取り分としたのだからと他の持ち物はモーブル達で分け始めた。

死体は素っ裸になるまで身ぐるみ剝がされるだろう。


 本来なら魔物もよってくるし病気の原因にもなるため穴を掘って埋めさせるのだが、生憎今はハイキング感覚で来ているため、穴掘りの道具が無い。

木の根が蔓延る森の中で道具無しで手で穴を掘れというのも流石に無理というもの。

放置をする事を決めたローラは、この冒険者を殺した魔物が周囲にいるはずなので警戒をするよう指示をすると一人森の中へ入っていく。


「どこ行くんだよ?」


「野暮用。」


モーブル達にそう指示するとモーブルにランプを貸してローラは一人その場から離れていった。



――――――――――


 ジョボジョボジョボ…


 モーブル達他の冒険者達から離れたローラは草むらの陰でパンツを下ろし用を足していた。

人に隠れてコソコソと小便をするなんて、自分もなんて上品になったものだとローラは自身の成長に感心する。

子供の頃は父親が飲む酒が入っている樽から盗み飲みした分を誤魔化すために用を足してゲラゲラ笑っていたのだが…

その事をカイにバレて尻叩き百回の上にトイレの度に監視が付くようになってしまい止めるようになったのだ。

あの親父があの程度で病気になるわけないのだから心配しすぎだと常々思う…

しかも、カイはマジギレで自分は飲まないのに軍全体に次に同じことやった奴はぶち殺す命令を出したのだ。

ほんの冗談なのに本当に大人気ない事だ…

自分だって親父がその酒を飲むのを止めようとしなかったくせに。


「やっべ…こんな悪酔いしたの久々だなぁ~。

酒が不味いから量で誤魔化したのが悪かったかな…?」


 普段はある程度酔ったら本能的に自身の魔力で体を強化してそれ以上酔わなくなる。

だが、今日はカイに怒られ凹んでた上にマズい酒を酔いで誤魔化していたため少々酔いが回りすぎているようだった。

だからだろうか、目の前にひょっこり現れた黒い影が見えるのは…

だがその影というよくよく見ると自分が良く知る人物であった。


「…ヨルド?なんでお前そんなとこで覗いてんだよ…サラに言いつけんぞ?」


………


……



『ドピャーーーー!!』


 暗い森の中で鳴り響くローラの叫び声。

モーブル達は剥ぎ取る手を止めて「なんだなんだ」とローラの入っていった茂みの方を警戒する。

そして、しばらくするとガサガサと人が走ってくる気配が近づいてくると、そこからナイフを持ったローラが飛び出してきた。


「やべぇ!!手に小便かかった!あとヨルドが出た!!!」


「うわぁ、汚ねぇな!!!…ヨルド?」


「ヨルドじゃねーよ!!熊だクマ、クマが出たんだよ!!!」


ローラが訳の分からない事をわめき散らして来るがどうやら何かが近づいてくるのは分かった。


「私はパンツ履くからしばらくお前らで何とかしろ!」


はぁ?とモーブル達がローラの方を振り返ってしまうが「こっち見るんじゃねぇ!!」と剣を投げつけられてしまう。

呆れながらも近づいてくる何かを迎え撃つモーブル達…

そして現れたのは、怒り狂った一匹の大きな熊であった。



――――――――――


 夜が明け、南門も開門の時間となった。

さて、門を開けようと門番達が業務につくと、何やら外で「さっさと開けろ!」と酒盛りしながら騒いでいる一団。

よく見ると昨日の最後に外に出て行った迷惑な冒険者達ではないか…

死んでなかったのはいいのか悪いのか分からないが、気の重くなる朝だった。


………


 そしてレティ達冒険者ギルドも同様に頭を抱えてしまった。

ローラ達一団が昨日酒に酔ったまま夜の森に狩りに行き、朝になったら大きな魔物を"持って"帰ってきたのだ。

ボロボロのモーブル達といつも通りのローラ。

普通は魔石と毛皮などだけを解体して持ち込むのが普通なのだ。

魔物一体まるまる持ってこられても肉など食べる人間などいないのだから処分が大変になるだけだ。

だが、そんな大物が持ち込まれてギルドは騒然となった。


「どうだ、でけぇ熊だろ!!」


 どうやらローラにはこれがただの熊に見えるらしい。

ギルドの奥に運ばせて確認作業を他の者に任せる事となったのだが…

どう考えてもアレは魔物だ。

腕が二本とれてはいるが、フォーハンドベアーという森の深層でなければいないと言われる間違いなく大物…



「いやー熊の実物なんて初めて見たから意外とでかくてビビったよ。

ああ、それとこれ…途中で死んでたやついたから後よろしく。」


そう言って冒険者のタグを渡してくるローラにレティが対応する。


「…今確認します。

………………どうやら遺族はいないようですね。

遺品の方はどうなされます?ギルドの方でも買い取りしますが。」


「買い取りったって二束三文だろ?

なら誰かにくれてやった方が高く売れそうだな…」


そんな事を言いながらローラの取り分である剣をどうするか考える。

ざっとギルドを見渡すと…ローラは面白い者を発見した。


「おーい、そこの…たしかメイドAにくっついてた金魚の糞。」


 目を付けられたのはまたしてもノールであった。

今日の仕事を貰いに朝のギルドにやって来たはいいが、この騒ぎ。

ギルドに運び込まれていた大物を狩ってくるなんてどんな凄い冒険者かと興味津々だった。

凶悪な魔物を倒す腕利きの冒険者…さぞかしノールの思い描いたような素晴らしい冒険者なのだろうと思っていた。

だが、現実は違った。

その中心にいたのはローラで、他の冒険者達もいつも酒場で飲んだくれていたろくでなし共。

そんな奴らが大物を狩ってきたという事実に心を打ちのめされていたのだ。


 そしてローラはそんなノールに向かってニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいていく。

今すぐ逃げ出したい、だが蛇に睨まれた蛙のように動けない。

それでも負けじと懸命に睨み返すノール。

そんなノールに対して語り掛けるローラ。


「お前、たしか剣無くしたって言ってたよな~

…これ、やろうか?」


 そう言って剣を見せびらかして来るローラ。

剣をくれるという言葉に反応して思わず剣に目が行くノール。

ボロボロの使い古しでも安いものではない。

剣があればまた狩りに出ることが出来るのだ、欲しいかと言われれば欲しいに決まっている。

そんなノールを確認し、ローラはそのノールにニタニタと下品な笑顔を浮かべながら条件を提示した。


「『どうかその剣をお譲りくださいローラ様。』と跪いて言えばくれてやるよ。」


ノールを馬鹿にしたようにゲラゲラ笑うローラ。

そしてその条件にギルドに居た全員の感想が一致した。


(((((うわぁ~最低だこいつ…)))))


そんなギルド中の汚物を見るような目も気にせず「ほれほれどうした~?」とノールに剣を見せびらかすローラ。


………


 しかし、レティはこれに関して割と冷めた目で見ていた。

サッサと下さいと頭を下げてもらえばいいのにと…


何せローラはカイの妹なのだ。

つまり彼女自身貴族という事…考えたくはないがそれが事実なのだ。

という事は、別に何の名声も持っていない平民が頭を下げた所で傷つく名誉などどこにもない。

これで傷つくのは同じ貴族以上の立場を持った人間かその関係者でしかない。


 例えばこれがレティの場合であれば問題になってしまう。

それはレティ自身が騎士爵家の娘で、実家には仕えるべき貴族家がある。

関係の無い貴族家の娘に意味もなく傅く事は実家や仕える貴族家の面子にかかわってしまうからだ。


 だが、タダの平民にそんなものが存在するわけがない。

そればかりか、貴族の娘から剣を貰うというのはその経緯がどうあれ本来またとない栄誉な事なのだ。


 ローラに目を付けられ、頭を下げて剣を恵んでもらった。

だがそれは言い換えれば、貴族の御令嬢に目をかけられ剣を授けられた時に首を垂れただけだ。

その剣は一生自慢できるものとなるだろう…

だからこそ、ここは一時の感情など捨てて頭を下げて剣を貰うべきなのだ。

勿論ローラに頭を下げることに躊躇するのはわかるのだが…



しかしノールの選択はレティが考える物とは違っていた…


「誰がお前なんかに物乞いをするか!!」


バシッと剣を叩き落とし怒りの形相で受付の方へと向かってくる。


「おい!今日の仕事!!!」


そう言ってレティに詰め寄ってくるノールにレティも一言だけ忠告してあげる。


「頭を下げるより楽に稼げる仕事なんてありませんけどよろしいですか?」


だがその言葉にもノールは聞く耳を持たなかった。


「プライドを捨てられるか!」


 何もなしていないノールに一体どれほどのプライドがあるのやら…とは口には出さない。

このノールのプライドをレティはふと他の言葉に変換してしまいそうになったが、余りにも可哀そうだったので他人の事だから知らないとすることにした。

レティは「かしこまりました。東門の交易所でこの紙を渡してください。」と言って一番上にある仕事を渡してやる。

「ふん!」という声が聞こえてきそうな勢いでそのままギルドを出て行ってしまうノール。

ローラもその姿をつまらないものを見る目で見届けた後、興味を失ったようだった。


………突然。


「お、おい!その剣いらないなら俺にくれないか?」


「うん??」とローラが声の主の方を見ると剣に縋りついてからローラに跪く男の姿…


「ああ、そうだった!!どうかその剣をお譲りくださいローラ様!!!」


そう言って頭を下げる男。

ギルドの人間達もなんだなんだと注目するが…

ローラもいきなりの事で眉をひそめていると、モーブルが口を挟んでくる。


「カッツじゃねえか…どうしたんだお前、剣持ってただろうが。」


「う…それが、その…借金がかさんで…」


「返せなくて替わりに取られたのか?」


モーブルにそう言われると苦々しい顔で頷くカッツと呼ばれた男。


「別にやるのはいいけどよ…」「本当か!!?」


ローラの了承する言葉に食いつくように喜ぶカッツ。

「わかった、わかったからその臭い息吹きかけんな…」と嫌そうな顔のローラ。


「つーか、剣を利子替わりに取られるってヤバいんじゃないのか?」


「う…な、何とかこの剣で狩りをして返すよ…」


「まあ勝手にしろよ、せいぜい頑張りな。…後、歯は磨けよ?」


もう行っていいぞとカッツに手をヒラヒラさせて追っ払うと、カッツも早速その剣を持って狩りに出かけて行った。



――――――――――


 その後、冒険者達はいつもとは違って冷静に仕事を貰いに受付に集まった。

ローラ達の品性の欠片もない行動が反面教師になった…というのもあるが、そもそもいつもより人が少なかったのだ。

朝のラッシュ時という事もあって、査定に時間がかかるからとローラ達を待たせた。

その間にローラが酒場で預けていたギターを受け取り自分たちの活躍を盛りに盛って歌にして披露していたのだが、そこに結構な数の冒険者達が集っていた。

 

 ローラ達の狩ってきた大物をどのように狩ったのか聞きたくないわけが無かったのだ。

驚いた事に、奴隷こそ連れてきてはいなかったが数人の上級冒険者達もその輪に加わっていた。

大物を狩って大金を手に入れていというのは誰しもが思う事なのだ。

受付で仕事を貰いに来る冒険者達もローラ達の事は気になるらしくチラチラ酒場の方を伺っているのが分かる。



「査定の結果、フォーハンドベアの魔石と毛皮で小金貨1枚分となりました。

五人で割るのでしょうから大銀貨10枚でのお支払いでよろしいですね。」


「はぁ?小金貨一枚って!!」


「フォーハンドベアの魔石となると魔道具の素材にもなりますし、毛皮の状態も割とよかったですからね。

それと、先程商人の方に連絡を入れた所解体はそちらでやるとの事ですから解体費用も不要との事です。」


「フォーハンドベア?…いや、ありゃただのク(ゲシッ!!)痛てぇ!!!」


ローラがモーブルの言葉を足を蹴り止めると割って入る。


「そうかそうか、そりゃ良かった!んじゃ私たちはこれで…お仕事頑張ってくださいね~」


そう言ってモーブルを引っ張ってその場から離れるローラにモーブルが抗議する。


「お、おい、ローラ何を…」


「いいから黙っとけって。」


「でも、ありゃただの熊だろ?小金貨になるわけが…」


「馬鹿…腕の数を四本と二本で見間違える馬鹿いねーだろ。

酔っぱらってたんだろ、どうせあっちのミスだから黙ってもらっとけよ。」


「そ、そうだな。ゲヘヘ、あいつらさてはバカだな!」

 

「間違えたって言ってくる前に飲んじまおうぜ!」


そう言って酒場に直行すると、まだ周りにいた冒険者達に向かって宣言する。


「今日は私達の奢りだ!飲め飲めっ!」


その声でわぁっ!と歓声が上がり、その姿を既に仕事を手にした冒険者達が恨めしそうに眺めながら仕事へ向かたのだった。


………


しばらくすると話を聞いてきたビンフがレティに尋ねに来た。


「アイツら査定を間違えたってお前さんらをバカにしてたがそうなのか?」


「最初から腕が二本切れてただけで、四本でしたよ。

酔っぱらってなければ、腕の数を二本と四本で見間違える馬鹿なんていませんよ。」


呆れながらも自分の業務をこなすレティ。


 それにしてもと思う…

フォーハンドベアなんて魔物、ミル(衛士級)を呼び出して狩ってもらうレベルの魔物である。

モーブル達が切った張ったしたと言っているが毛皮が奇麗だった様子から死因は腕が切られた事による出血だろう。

熊だと思っているあの様子だと最初から腕が二本切り落とされていたようだが、一体だれが?

まさか、死んだ冒険者が切り落としたというのだろうか…

だが、記録を見るとそこまでの実力はないはずだし、あれば借金を抱えて無理な狩りになど行かないだろう。

一つだけ心当たりはあるのだが…


そう思い酒場にいる悪童に目を向けるが…


 ミル(衛士級)が必要な魔物を遊ぶように狩れるなんてどれだけの魔力があればいいというのか。

ソレス(騎士級)以上の魔力を持っているなんて結論を出すよりも、魔物同士で喧嘩した時に出来た傷と考えた方が自然なのだ。


ギターをかき鳴らし歌いながら酒盛りを本気で楽しんでいるその姿に考えるのも馬鹿らしくなってしまうのだった。


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