0048-職場訪問②
「全くそん時の宿屋の親父の顔ったら、ぶひゃひゃひゃひゃ!!!」
人の失敗を下品に笑い飛ばす少女とその周りで同じく笑い転げている冒険者達…
昼間から開催されるこの光景はガラが悪いとしか言えない…
その中心にいる見目麗しいはずの黒髪黒目の少女のその醜悪な表情に誰しもが一発殴りたいと思うだろう。
少女はその冒険者達の反応に満足して「んでよ…」と話を続けようとするが…
その次の瞬間、何故だか空気が変わった。
何やらローラから視線を逸らすような…
…突然。
「よぉ~ローラ…お仕事大変そうだな…?」
ローラも全く気付かないうちにポンと手を肩に置かれ耳元でそう囁かれる。
自分が気づかないままに後方を許してしまう相手…考えられるのは一人しかいない。
そして、毎日のように言葉を交わす相手の声が分からないわけもない…
その瞬間ヒュッと息を吸い込んで途端に顔が青ざめ体をプルプル震わせてしまうローラ。
いつもの温和な声は息をひそめ、絶対零度の冷酷な声…
ローラの危機意識が激しく警鐘を鳴らす。
ゆっく~りとその人物の方に振り返り引きつるような笑顔で挨拶をしてみる。
「あっれーー?こんな所で奇遇だねぇ~…なんでお兄ぃ様こちらに??」
「ちょっと仕事の依頼をしに寄ったんだが、ついでにローラの様子も見ようかとも思ってな…
さっき仕事の履歴を見せてもらったが…お前らしからぬ随分清廉潔白な仕事ぶりだな?」
「で、でしょ~!!!私、冒険者としては悪い事何にもしてない!!」
「ついでに仕事もしてないだろうがっ!!!!!!」
スパコーンとカイの雷がローラの頭に落ちる。
これには思わずギルド職員達からもわぁっと歓声が上がる。
お灸を据えようとするとその火を火種に放火されるため誰も手が出せなかったのだ。
そのローラに対して拳骨を落としたカイに黄色い声が上がる…
勿論、妹があのローラという事でそのマイナス面を払しょくできるほどでは無かったのだが。
そんなカイに対して、無様にも言い訳を始めるローラ。
「いや、だってここそんな真面目にやってる奴なんていない組織だし…」
「周りが真面目にやっていないという事は、お前が不真面目でいい理由にはならないぞ。」
「む~。郷に入っては郷に従えってお兄ぃも言ってたじゃん!!」
「それはよそ様の土地では相手のルールを尊重しろって意味であって、
ルールが無い事をいいことに好き勝手やっていいって意味じゃない。」
「ぐぬぬ…」
「ローラが自分でやるって言ったから許したんだ…
また、様子を聞きに来るから次からはまじめにやれ。いいな?」
「…はい。」
カイはお説教をしながらもローラの出で立ちに違和感を覚える。
「それからお前丸腰なんじゃないか?武器はどうした…」
「ん~?まあいっかなって。どうせ、外に出るつもりなかった…し…」
そう言いながら自分の失言に気付き目を泳がせるローラ。
それに対してカイはため息一つ。
「短剣くらいは差しておけよ…。地元じゃないんだから、お前の事誰も知らないんだぞ?」
ダン!…とカイは愛用のコンバットナイフを机の上に刺し今日の所はこれを使えと渡す。
その当たり前のように行われる行為に対してビクッと恐怖を感じてしまう冒険者達。
「それから無断で身体触ってきた男は容赦なくちょん切れ。
そん時は兄ちゃんが後始末してやるから…」
「あ、ハイ…。うん…大丈夫ダイジョウブ。こう見えて皆紳士シンシ。」
それに対してコクコクと頷く冒険者達。
カイもそんな冒険者達に目が行くが…
その昼間から酒を飲んだくれている姿に一言言わねばならないだろうとお説教を開始する。
「あなたたちもですよ!
いい年して何ローラのペースに巻き込まれてるんですか?
仕事はどうしました?ないなら無いなりに鍛錬でもしたらどうですか!?」
ローラの態度からもなんとなく察する事が出来る、この青年に逆らってはいけないと…
「「「す、すぐに行ってきます!!」」」
立ち上がってこの場から去ろうとするがあっけなく引き止められる。
「はぁ?酒入ってるのに何言ってるんですか!!??
ちゃんと酒を抜いてから行きなさい!いいですね?」
「「「は、はい!!!」」」
なんで俺達が怒られてるんだ?と思わなくもないがここで反論したらどうなるかわかったもんでもない。
素直にカイの言葉に頷く冒険者達。
お説教も一息つくと、ふとある事に気が付いたカイ…
「…ところでローラ、今月のお小遣いまだだったよな…飲み代は何処から出てるんだ?」
「いや…それは…その…、まだ小遣い残ってて…。」
目を泳がせながら口をヒクヒクさせ、全く信用できない言い訳をしてくるローラ。
勿論カイが信じるわけがない、ローラの宵越しの金は持たない性格を知らないわけがないのだ。
でなければ銀行資産の凍結などしないのだから。
金の流れは不正の流れと、この飲み代の謎について取り調べをしていると、受付の方からレティが告げ口をしてきた。
「あー、カイ様。その子、他の冒険者たちから巻き上げてましたよ~。」
「あ!てめぇ、何チクってやが(すぱこーん!)」
レティに抗議を入れようとするもすかさず拳骨が落ちる。
「お前は!またギャンブルか!!?」
「ち、ちがうって!!私はやってないよ!?
面白いゲームを教えたり、その辺の奴らが仕事成功させるか予想を集計してただけだし…
そう!私がやったのはエンターテイメントの提供!
そこでちょこーとテラ銭とってただけだよ。」
「胴元とか一番たちが悪いじゃねーか(ゴン!)」
「心外だ!私はちゃんと皆が楽しめるように頑張ってたんだから。
オッズ高い冒険者にはちゃんとアドバイスして盛り上げたり。
サイコロやカードだって大きく勝たせるのは最初だけで後はちゃんと皆が楽しめるようにちょっとずつ負けるようにして………あ。」
「「「「ローラてめぇ!!」」」」
「イカサマじゃねーか(ゴン!)」
冒険者達も抗議の声は上げるが、本当の所ローラはそのくらいやってそうだなとは思っていた。
エンターテイメントの提供というのはあながち間違えではなく、娯楽の少ない冒険者達は皆ローラのギターや歌、ギャンブルに使われるゲームを楽しみにしている所ではある。
…だが、大きく負けた人間はいないが、大きく勝っている人間もいないのだ。
ローラも多少は痛い目を見るべき、それは一同思う所は一緒であった。
頭を抱えながらカイは給仕を呼ぶ。
「すまないがこれで…」
おもむろに出したのは小金貨。
((((奢りか!!!))))
ガタッと冒険者達が身構えるが、そんな事はなかった。
「被害にあった方々のツケを払ってください。」
「わーお!はいは~い!皆ためこんでるからねぇ。よかったねぇあんたら。」
そう言って給仕の女はケラケラ笑いながら奥に消えていった。
結果的には奢られたのと変わらないはずなのに何故こんなにもガッカリするのだろうか…
「何か迷惑かかりそうだったら俺にすぐ報告してください。」
受付の方にゲッソリした顔で戻ってきたカイはレティにそう言い残して去っていった…
――――――――――
残ったローラは、今月のお小遣いカットを言い渡され頭を抱える事となっていた。
「今月小遣いカットとか…やべぇ、バイトしなきゃ…」
ローラは基本的に小遣い制である。
軍で働いているため給料が入っているのだが、現在凍結されている。
給料が入ったら娼館で女の子を侍らせ飲んだくれるという給料の使い方がカイにバレて銀行口座が凍結され、僅かな小遣いだけ月ごとに渡されるようになったのだ。
その小遣いは軍の階級の上下に連動して小遣い額も変わるのだが…
時折、カイの怒りを買うとしっかり経済制裁を受けるのだ。
そんな感じだからローラの人にたかる技術はグングン成長していってしまう。
しばらくはギャンブルで稼いだ金で飲めると思っていたのだが、見つかってしまっては一旦たたむしかない。
このまま強行するとギルドへの出入りも禁止になってしまう可能性が大きい。
取り合えず何か仕事をして金はそれで稼いでいると誤魔化す体を作らなければならない。
「しょーがねー…狩りにでも行くか~」
「おいおい…酒はいったまま仕事するなって言われてたじゃねーか。」
「うへぇ~そうだった。…よし、出るのは夕方!
それまでは酒が抜けるまで前祝代わりに飲むぞ!」
「「「はぁ~???」」」
これに他の冒険者達も?が頭に浮かんでしまうが「ほら酒持って来い!!」とローラが酒を注文してしまう。
既にローラの行動を止められる者はいないと悟っている冒険者達はなるようになれとその酒に口をつけてしまうのだった…
………
……
…
王都南門の日が落ちてきてそろそろ閉門かという時間帯。
南門は魔物の森に面しているため冒険者達が頻繁に出入りする。
そのため、他の門と比べ閉門が若干遅く日暮れギリギリまで開いている。
外から帰ってくる冒険者達をギリギリまで迎えてやる昔からの習慣なのだが…
今日の最後の客は王都内からやって来た…
どっからどう見てもトラブルの種としか見えない一団が…
「「「つーきのー♪」」」
歌いながら門に向かってくる集団。
完全に出来上がっており道行く人々も関わり合いになりたくないと嫌な顔をしながら足早に通り過ぎていく。
結局夕方まで飲んでから、べろんべろんに酔った状態で仕事に出かけたローラ達。
最初は夜の森に入るなど馬鹿な真似はよせと止めていた冒険者達。
だが、飲んでるうちに気が強くなってしまい仕事なんてとっとと終わらせるため、夜の森で一晩で稼いでしまおうというローラの口車に乗ってしまいこうなったのだが…
当然門番達もその集団を止めに入る。
流石にこんなへべれけ共を外に出すわけにもいかない…のだが。
「んだぁ?てめぇ…何が酔ってるから外に出せないだ…どこをどう見たら酔ってるってんだ…あぁん!?
私を酔わせたら相当なもんだ。
イイから通せってんだ、何が酔ってるから通せないだ。
門番てのはいっつも門を守ってるから肛門まで守る癖でも出来てんのか?
そんなケツの穴小さいこと言ってるから男にモテないんだよテメーは。
肛門おっぴろげてなんでも受け入れるのが男気ってもんだろこの租チン野郎。」
っとまあ、いつもだったら鼻の下を伸ばしてハイハイ言う事聞いてしまいそうな美少女から醜悪な罵詈雑言を浴びせかけられていた。
一瞬どこかの貴族の御令嬢かとも思ったのだが…これはないなと思い直す。
しょっ引いてしまって牢屋の中で酔いを醒ましてやるのがいいかとも思うのだが、相手は冒険者。
冒険者というのは割と腕が立つのもいるため、下手に相手にしたくはない。
特にこんな酔いどれ共は相手にするのも面倒なのだ…
「隊長、どうします~?」
門番の男が隊長に聞くが、これには頭を抱えてしまう。
冒険者達が夜通し狩りをするというのはたまにある事だから普通なら止めない。
だが、こんな状態の人間を外に放り出したら確実に死ぬだろう…
しかし、こいつらに取り合っていたら確実に残業確定だ。
「こんなろくでなし共、放り出してしまえ…」
そう言って門を通る許可を出したのだった。
門番達も彼らが戻ってくる事はないだろうなと思いつつも、冒険者達が全員通り過ぎた所で門を閉じた。
こいつらが消えれば王都も幾分か治安が良くなるだろう。
そうして、そのバカどもは馬鹿みたいに歌いながら夜の森に入っていったのであった。




