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0046-パーティ崩壊


 数日ぶりの三人での狩りの日…

だが正直言って空気は最悪に近かった。

他の冒険者と一緒に行って手伝いでおこぼれ貰った方がいいと主張していたカリーウ。

自分は狩りを手伝うよりも街の仕事をした方がよほど役に立つと理解したメディエ。

そして、何とか自分の立場を取り戻したくて空回りするノール。


 三人が向かった先はいつもより森の奥に進んだところであった。

メディエは不安に思うがいつも通りノールについて行くだけ。

ノールも不安ではあるが、今日の狩りも獲物無しは避けたいのだ。


 カリーウも不安がないわけではない。

だが、獲物を見つけてくる立場からすると森の浅い場所と奥とでは魔物の数が段違いなのだ。

それを他の冒険者達について深い場所で探索してみてよくわかった。

多少のリスクはやむなしと思うのも仕方がないことだろう。

そしていつものように探索に入るのだった。


………


ノールとメディエは緊張しながらも隠れてカリーウが獲物を見つけてくるのを待つ。

程なくしてカリーウが戻ってきて言った言葉に二人は息をのんだ。


「オークが一匹単独でいるのを見つけたけど…どうする?」


 オーク…以前見た事はあったが、その時はまだ冒険者を始めたばかり。

あの大きな体躯を見た瞬間、経験の無い三人は言葉を失い相談をする事もなく気づかれないよう引き返したのだ。

確かにオークを狩れるようにならなければ狩りで生計を立てる冒険者としてやって行く事は出来ない。

そして一匹で単独で行動しているなど、冒険者達からしてみれば諸手を上げて飛びつくまたとないチャンス。


…やるべき。

いや、冒険者としてはやらなければならないのだ…


 三人は覚悟を決めてオークを狩るという決断をした。

カリーウに導かれるまま風下からオークに近づくと報告の通り本当に一匹で行動しているようだ。

以前見たのと同じように大きな体、その丸太のような右腕には太い木の棒を持ってこん棒にしている。

醜悪な顔に涎を垂らしながら獲物を探しているようだった。

キョロキョロと辺りを伺って…一瞬こちらを向いた。

三人は気づかれたのかと思い身震いしたが、すぐに違う方向へ向き直った。

ホッとして三人で視線を合わせ戦闘を開始する意思を確認しあう。


 やる事はゴブリンの時と変わらない。

カリーウが一人その場から離れ、その攻撃を合図に飛び出す作戦だ。

メディエはノールが打ち漏らした際に攻撃を仕掛ける事になっている。


一人その場から離れていくカリーウ。

昔から村でも父に習い狩りで生計を立てていたカリーウは足音もなく森の中をスルスルと進んでいく。

ノールも剣を抜き飛びかかる準備をする。

メディエはというと魔法の準備はまだ出来ない、魔力の高まりで気づかれてしまう恐れがあるからだ。

気付かれずに狩りをしなければならない場合、カリーウの使う弓の利点がこの隠密性にあるだろう。

ノールとメディエはカリーウの初撃で決まる事を祈りつつも攻撃を待った。



……


………パシュ!


 放たれた矢がオークの頭に向かって飛んでいく。

そして、その矢が見事命中したのを見てノールが飛び出していった。

走りながらもオークの状況を確認すると、矢はオークの左目を射ぬいていたようだった。

だが致命傷には至らなかったようでまだ息がある。

ノールはその左目の死角に回り込むように走り込むと渾身の斬撃をお見舞いする。

斬撃はオークの脇腹を切り裂いて、オークの叫び声が森に響き渡った。

いつものゴブリンならこれで終わっているはずだが、相手はオークまだ息があるようだった。

だがノールは確かに手ごたえを感じた。


「いける!」


このまま攻撃を続けオークに止めを…そう思った瞬間。

矢で目を潰され脇腹を斬られたオークは苦しみながら辺り構わず暴れだしたのだ。

ブンブン振り回される棍棒と腕…

その腕に運悪くノールが捉えられガードはしたものの吹き飛ばされてしまった。


「ガハッ!」と痛みに顔を歪めるノール。


吹き飛ばされてそのまま転がり痛みで一瞬動きが止まった。

何とか立ち上がろうとするも、自分の腕に何かが当たった事に気が付いたオークがノールを視界にとらえた。

そして、そのノールに向かって棍棒を振り上げ追い打ちをかけようとしてくる。

体が動かせないノールがその光景を見上げて思わず(死ぬ!!)という未来から目を背ける。

…だがその死の瞬間は訪れる事はなかった。


「ウォーターショット!!」


その声と共に水の塊がオークに向かって飛んでいき…

棍棒を持ったオークの腕に直撃、バキッ!!というオークの骨が折れた音が聞こえそれと同時に叫び声が轟いた。

ノールがその声に気が付き、咄嗟にメディエの方を確認する。

そこには肩で息をして冷や汗流して杖をかざしているメディエの姿。


 メディエのおかげで一命を取り留めたノールは立ち上がり再び剣を構えなおし、満身創痍となっているオークに追撃をかける。

今度は致命傷となるよう首を狙った肩から斜めに入れるような斬撃。


…だが、オークの太い首を刈り取るには至らず鮮血をしながらも辛うじて動いている。

たまらずオークも足をついてしまう。

それを見て更なる追撃を…そう思った瞬間、オークの残った左腕が動いた。

ノールに向かって棍棒を振り下ろしたのである。

オークが足をついた時、すぐそばに取り落した棍棒が偶然にも転がっていたのだ。

それを咄嗟に掴み、オークに向かってくるノールに対して振り下ろした。


「ぐぅっ!!!!」


 ノールは咄嗟に剣の背を盾にして棍棒を受け止めるが、その強靭な力は未だに残っていた。

自身の力を目一杯使ってそれを受け止めるが…

一番先に限界を迎えたのは剣であった。

ボキンッ!!と折れる剣…それと同時に押しつぶされるはずのノールだったが、またもペシャンコにされる未来は訪れなかった。

パシュッ!!とカリーウの矢の次弾が寸での所でオークの頭を捕えたのである。

その一撃がどうやら致命傷になったようで、オークは崩れ落ち、そして動かなくなったのだった。


………


……



 三人はしばらくその場でへたり込んでしまった。

だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。

あれだけ派手に動いたのだ、他の魔物の群れに襲われたらひとたまりもない。

そう思い三人はオークから魔石を取り出すために動く…が。

ノールは手元の剣に目が行った。

…折れてしまった剣。


「今はすぐにここから離れる事を考えましょう。」


「…ああ。」


オークを狩った…それ自体は三人にとっては大きな成果であった。

だが三人はそれに浮かれる事など出来るはずが無かった。

その代償があまりに大きかったのだ…


――――――――――


 銀貨一枚、それが冒険者ギルドにオークの魔石と引き換えに受け取る報酬。

傭兵として戦争に行く場合、日給として貰える金額がおおよそこの程度と言われている。

勿論、その他にも目立った戦功があればボーナスも出る。

銀貨一枚あれば極貧生活だとしても三人が一週間は食っていける金額でもある。


三人にとっては決して少なくない金額だったのだが、今はそれを喜んではいられなかった。

原因はノールの折れてしまった剣…


 武器というのは決して安くはない。

冒険者が使うのは殆どが中古品で新品を使う人間はほとんどいない。

ギルドと提携している店で中古品を取り扱っているが…

軍の払下げ品だったり、死んだ冒険者の遺品だったり、どこからか拾ってきた物だってある。

そういった物を最低限売れるレベルだけ修繕し売っている。

あまり、入念に修繕を行うと今度は冒険者達が手が出なくなってしまうのだ。

一応冒険者達が手が出る価格となってはいるが…

最低でも大銀貨から…それで買えればいい方というレベルでしかない。


 そして手元にあるのは銀貨一枚…

少なくともあと九体のオークを仕留めるほどの成果が必要だが、そのための武器を失ってしまったのだ。

やり直し…というよりもそれ以下であった。

なぜならあの剣はノールが買ったのではなく昔冒険者をやっていた祖父から譲り受けた物だったのだ。

だからと言って借金など出来ない。

他に何も持っていない冒険者が借金をするとなると担保は自分自身…

つまり借金を返せなければ奴隷落ちなのだから。

農民であるノール達には奴隷落ちの恐ろしさは身近なものだった。

農地を耕すというのは簡単な事ではない、そのため奴隷というのは都市部以上に常用されるのだが…

ああはなりたくないというのが誰しもが思う感想だろう。


「やっぱり、俺たちには森の奥は早すぎたって事か…」


ノールは折れた剣をみて諦めたように言った言葉。

このノールの言葉を聞いた瞬間、カリーウは頭が沸騰する程の怒りを覚えた。


「それは…私が悪いって言いたいの!?」


 森の奥で狩るべきと提案したのはカリーウだった。

その言葉はまるで"愚かな提案を承認した自分が悪い"と言わんばかりの言葉。

自分が罪を被ったように見える言い方であっても"愚かな提案"をしたカリーウには当てつけにしかならない。

カリーウにしてみればリスクがあったとしても奥に進んで狩りを成功させなければこのパーティーで活動する意味がないのだ。

ノール達をもっと一緒にやっていきたい仲間として見ていたからこその提案…


「そんな事言ってない!俺はただもっと実力をつけてからじゃないと…」


「またそれ…だから私はベテランの冒険者さん達について行かせてもらおうって言ってるじゃない。」


「ベテランについて行ったからって安全ってわけじゃない。

それに、信用できない人間について行ったらそれこそ問題じゃないか。」


 ノールだって別に信用できる相手であれば文句はなかった。

だが、カリーウの言っていた相手が問題だったのだ。

その相手とは先日自分を馬鹿にした奴等…

そしてモーブルは自分達が新人として初めてギルドに訪れた際に散々絡んできた相手なのだ。

だがそれでもとカリーウは頼むべきと主張したのだ。


「モーブルさん達は信用は出来ないけど私たちより遥かに腕は上よ!

あんたが安全な場所に居たいからってその安全を私に押し付けんな!

あんたはいいかもしれないわよ、村に帰れば継げる畑があって生きる手段があるんだから。」


 ノールの実家は農家であった。

だが、農家と言ってもピンからキリまであった。

土地を借り大半の作物を税と地主に取られ手元には生きていくだけの食べ物しか残らない農奴。

そして、領主から直接土地を与えられその農地の一部を他の者に貸し与える事で利益を得る大地主。

ノールの実家は後者、村では有名な大地主の息子であった。


 メディエは祖母が元奴隷でそのノールの実家から土地を貸し与えれらた農奴の娘だが、その祖母の息子であるメディエの父親は領主家の人間が戯れで祖母に産ませた子供だ。

認知こそされていないが村の人間ならだれでも知っている話で、血統が良い事と魔力が高い事でノールとメディエは昔から親同士で決めていた許嫁のような関係だった。

二人はもし冒険者としてやっていけなくても村に帰れば居場所があるのだ。


「でも私は違うの、あんたの安全に付き合ってたら明日の私のパンはどうやって稼げばいいの?

また、ローラに恵んでもらえって?

あれがいつまでも私たちに優しくしてるように見えるなんてどうかしてるんじゃない?」


 カリーウはというとどちらでもない村の傍にある森で狩猟する事を許された狩人の娘。

だが、その狩人という立場は弟が継ぐことになっている。

なら結婚でもすればいい…というわけにもいかなかない。

カリーウの母方の祖母が獣人、クウォーターというやつであった。

そして、獣人の血が混じっていると稀に獣人の特徴を持った子が生まれる事がある。

その場合、不貞行為があったのかを疑われるため獣人の血が混じっていると結婚が敬遠される場合が多いのだ。

特に閉鎖的な村では変な噂が立つとそれだけで物々交換がしずらくなり生活が苦しくなる。

村に帰っても居場所がないのだ。

だから、カリーウは一人でも生きていく術を身につけなければならなかった。

…厳しい言葉で言えば、ノールのお遊びに付き合っている余裕などなかったのだ。


「ああ、そうだったわね。私女だったわ…最後は体を売って稼いで来いって事か…?

っざけんじゃないわよ!!

体売る前にあんたを捨てるに決まってんじゃない!

なんで自分の人生削って何でも持ってるアンタを守ってやんなきゃいけないんだ!

安全に暮らしたいなら村に帰って一生そこから出てくるんじゃないわよ!」


そう言って、一度クールダウンしたカリーウ…

だが、ノールに対して厳しい宣言を突きつけるのだった。


「悪いけど私今日限りでこのパーティー抜けるから…」


「ちょっと待てそれって…!?」


「あんたなんかよりモーブルさん達の方がよっぽどいい男だって話よ。

安全に殺されるよりも、今日のパンのために生きようとして無様に野垂れ死んだ方がマシよ!」


カリーウは感情のまま言葉を並べノール達のパーティから抜けそのままギルドから出て行ったのだった。


 獣人のクウォーターであるカリーウ。

そんな彼女をノールは分け隔てなく接してくれた。

ノールに恋をしていたかと言われれば、それはしていただろう。

だが、ノールとメディエは家同士が結婚を望んでおり本人たちも仲がいい。

カリーウが入る隙などなかった。

ノールが冒険者になるために王都に行くと言いだした時、真っ先について行く事を決めたカリーウ。

勿論家の事情があったのは大きな理由だが、下心が無かったとは決して言えない。

村で待つメディエを出し抜いてノールといい関係になる事もあるように思っていた。

…だが、そうはならなかった。

メディエがノールの夢を応援するために攻撃魔法を覚えてついてきたのだ。

これには正直降参するしかなったのだ。

だから、カリーウは一人でも生きていく術を身につけなければならなかった。

資格のない自分がいつまでの未練がましく追いかけてはいられないのだから。


………


……



夜…

あの後、馬小屋に戻った時には既にカリーウの荷物は無く出て行った後だった。

メディエもそのまま別の仕事があると言って行ってしまい一人馬小屋に戻ってきた。

明かりなどないので寝るしかないのだが、昼間の事があって寝る事も出来なかった。

その内に外から声がした…


(メディエが帰ってきたのか…誰か他にいるのか?)


そう感じたノールは耳をすませる。


「クルセイさん、送ってくれてありがとうございます。」


「おう!…今度お礼にデートに付き合ってくれよ。」


「そんなこと言って…メルルさんに睨まれますよ?」


「メルル?」


「あー…いや、なんでもない…です。」


「本当に馬小屋なんだな…まあ俺達のガキの頃よりはいい家だけど。

うちで寝泊まりすればいいんじゃないか?

なんなら俺の部屋でもいいぞ、タダでいい、俺が出す。」


「…そういう所ですよ?」


 しばらく男の口説き文句をケラケラと聞き流していたメディエ。

そのうちにお礼を言って別れると馬小屋へと帰ってきた…

ノールは何も言えずに寝たふりを決め込む。

微かに花の香りをさせて奇麗になっているメディエ…


『ああ、そうだったわね。私女だったわ…最後は体を売って稼いで来いって事か…?』


昼間のカリーウの言葉がノールの頭によぎる…

メディエに限ってそんなわけ無いと思いつつも。


 次の日の朝に思い切って切り出してみるも…

「言えないんだ…ごめん。」とすまなそうに言ってノールに食費と武器代の足しにと稼ぎを握らせてそのまま仕事に向かってしまった。

剣が無くなってしまいカリーウもいない、狩りどころではないのだ。

メディエも出来る仕事の方を優先させるのが当たり前だった。


そしてノールも…

いつもより早くギルドに訪れたノールは多くの冒険者達に埋もれながら受付に向かって必死に手を伸ばしていた。

何とか王都内で出来る仕事を手に入れなければならない。

それが冒険者なのだから…


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