0045-獲物②
「ごめんね…私があそこで魔法を外さなければ。」
「…しょうがないよ。」
「だから私はウサギでも狩ろうって言ったのに。」
「じゃあ、あのまま笑いものになれってのかよ!」
「結局狩りの成果なかったんだからなお悪いじゃない!」
「ふ、二人とも…!」
………
「…やめましょ、お腹減るだけだし。」
「………」
………
……
…
結局その日、手ぶらで戻ってきた三人はコソコソと受付へと向かった。
生還報告のため義務付けられているのだ、まあ破っても罰則があるわけでもない。
せいぜい犯罪に巻き込まれた際に不利に働くぐらいだ。
だが、新人で生真面目な三人は義務だと聞いていたため律義に報告に来たのだ。
三人はレティとは別の受付の所へ向かい自分たちの番号を告げていた。
すると、酒場の方からローラが寄ってくる。
「よぉ、お疲れさん。どうだった?」
「「「………」」」
黙り込む三人にローラはフッと受付の方を見るが、苦々しい顔をするのみ。
フムと理解すると酒場の方に向かって「坊主だ!!」と大声を上げた。
その声に酒場にたむろしていた冒険者達は一喜一憂。
別に三人を笑うわけでもなかった…ただ、賭けに勝ったか負けたかが重要なのだ。
「なんだなんだ、しけた顔して。安心しろって、お前さんらの取り分もちゃんと用意してあるから。」
「飯食ってけよ。」そう言って三人の背中を押すローラ。
それに「へ?」という顔でうろたえてしまう。
そして不覚にも"飯"という言葉にお腹を鳴らしてしまう。
だが慌てて取り繕うようにノールが怒鳴り散らす。
「何わけのわからない事言ってるんだ!」
「分け前だよ分け前。私は嘘はつかないし約束もなるべく守るようにしてるんだ。
仲間になってやるって言っただろ?」
「はぁ!?…ふざけんな、いるかそんなもん!」
そう言って一人ギルドから出て行ってしまうノール。
正直この行動がローラには理解できなかった。
怒るなら飯食ってからか食いながら…飯を持って帰ったっていい。
別にプライドで腹が膨れるわけでもないのに、なんでわざわざ自分から飯抜きの罰ゲームを課す必要があるのか?
トールソンでは十中八九手のひらを返してくるのだが…
「う~ん?どうしたんだあいつ…せっかくお前らの分け前用意してやったってのに。
まあいいや、お前らは食ってくだろ?」
後ろから押して来るローラに「え?あ、うん…」と、お腹はすいていたので抗うことが出来ない二人。
言われるがまま酒場へと連れていかれたのだった。
――――――――――
「よー嬢ちゃんたち、ローラに絡まれるたぁ災難だったな!」
そう言ってガハハと笑う冒険者達に「まぁ…はい。」としか返せない二人の少女。
勿論あれには二人も酷い目にあった…
だが、一番問題だったのはノールだ。
彼は村では一番の剣の使い手で正義感も強く、小さい頃から冒険者に憧れていた。
そんな彼だからプライドも高かったのだ。
村にいた時はあまり気にはならなかったのだが、王都に来て冒険者になってから…
そして今日は特に酷く、目に余るほどそのプライドを傷つけられてイラついていたようなのだ。
正義感からか怒鳴り散らすような事はなかったが、そのイラつきが幼い頃から一緒にいたメディエには感じ取れてしまったのだろう…
「私が魔法を外さなければ…」
「またそんな事…過ぎた事言ってもしょうがないでしょ?」
「でも…」と二人が先ほどの狩りの話を聞いた冒険者達は少々驚いた。
「おいおい、お前さんら森の浅い所で本当にゴブリン見つけたのか?」
ズズイッとモーブルがカリーウに対して詰め寄ってくる。
それに若干の恐れを感じつつ「え、ええ」と答えるカリーウ
「おいおいマジかよ…お前さんが見つけたのか?」
「そうだけど…狩人やってたし、そういうの割と得意だから…」
その言葉に「「「おお~」」」と思わず声を上げてしまう冒険者達。
中には「畜生、もう少しで大穴だったんじゃねーか!」と悔しがる者まで。
それもそのはず、浅い森で狩りをして成果があるなんて10回に1回程度の物である。
そんな場所でゴブリン一匹でも見つけてこれるのは凄い事なのだ。
そして、その冒険者たちの驚きというのはカリーウにとってはまんざらでもない物であった。
「ほらよ、今日のお前らの取り分だ。この店パンとスープはマズいけどサラダは絶品だぜ?」
ローラによりテーブルに並べられた食事に思わず涎が出そうになる。
この王都に来てから今日まで、食事のほとんどが売れ残りの固くなったパンだけのような生活だったのだ。
ちゃんとしたパンに温かいスープ、これだけでもご馳走なのだ。
村育ちで野菜は食べ飽きているためサラダについてはちょっとわからないが…
ローラの言葉をギロリと睨みつける酒場のマスター。
それもそのはず、パンは知り合いの店から仕入れてきたもので、スープは自作。
そしてサラダについては素材の味を活かした味付け無しの切っただけのものなのだから。
そんな視線も無視して二人に料理を進めるローラ。
二人はノールの事を思い若干の後ろめたさを感じるが、空腹には勝てず恐る恐る手を付けた。
「ちゃんと野菜も食え野菜も…」と謎の説教を受けつつも次々に口に運んでいく。
だがメディエはやはりノールの事が気になってしまう…
そっと、パンの半分を服の中に隠そうとするとその瞬間ローラに頭を叩かれた。
「なーにそんなみみっちい事してんだ…」
そう言って、酒場の調理場にズカズカと入っていく。
「何勝手に入ってきやがる…ったくしょうがない奴だな…」というマスターの抗議もあったが、しばらくして戻ってくると手にはパンに肉やら野菜やら残り物が挟んである物を持ってきた。
そしてポシェットから紙を一枚出すとソレを包んでメディエに押し付ける。
「それやるから、食える時に食っちまえ。
食えるうちに食わない奴と何を食うかをこだわってる奴は真っ先に死ぬぞ。」
「ありがとう…ございます…」
戸惑いながらも呟き、残りのパンを口に入れるメディエ。
カリーウの方はというと酒を勧められながら冒険者達に囲まれていた。
そんな光景を横目にローラはメディエに尋ねる。
「お前メイドAとか言ったっけ?攻撃魔法使えるって言ってたけど、生活魔法は使えんの?」
「メディエです。…まあ…多少は…水を出すとかだったら。」
「このテーブルを使って言うとどのくらいの量は出せる?」
「このくらいだったら魔力余ってたら出来ると思うけど…?」
一体何なんだ?と不審に思うメディエ。
今日一日ローラに振り回されてしまったのだから警戒するのも無理もないだろう。
それでも聞かれたことに答えたメディエはテーブルの端を自分の体よりちょっと大きいくらいのサイズで示して見せる。
村にいた時は生活用水を毎日補充していたメディエ、水を出す生活魔法は得意だった。
ホウホウとその大きさに満足したローラはメディエに一つの提案をした。
「ほーん、結構いけるじゃん…じゃあバイト紹介してやろうか?」
ローラのそんな言葉にますます眉をひそめてしまうがバイトという言葉に興味がないわけではない。
ゴブリンを探して森をさまよい歩く…それがメディエにとって自分が向いている仕事だとは到底思っていなかった。
しかも今日みたいな坊主の日もあるとくれば猶更…
仕事があるなら、内容くらいは聞いてもいいかもしれない。
そんな風に思えたのだった。
………
その後、メディエは一度寝床である馬小屋に戻った。
ここで3人は毎朝、馬の世話をする代わりに寝泊まりさせてもらっている。
生活空間としては最悪だが、まともな収入がまだないのだから言っても仕方ないのだ。
帰るとノールがふて寝を決め込んでいた。
あんなことをされたのだから怒って当然…とは言うものの、実際実力がないのは正しかった。
そして森のもっと深くを潜らないとまともな収入がないという事も…
メディエは貰ったサンドイッチをノールの傍に置いて声をかけた。
「これ食べてね、私ちょっと仕事の話を聞いてくるから。
帰りはいつになるかわからないけど…」
そう言って馬小屋を後にした。
――――――――――
翌朝、メディエが起きた時には既にノールは起きて馬小屋の掃除を始めていた。
意地っ張りな事に昨日のパンはやはり食べなかったようだ。
ノールに食べさせるのは諦めて、勿体ないので自分で食べる事にした。
(う…おいしい…)
あのローラが作ったサンドイッチだというのに、美味しいという感想が出てしまうのが悔しい。
メディエのポケットには昨日ローラから紹介されたバイトで貰った大銅貨が一枚入っていた。
これだけあれば慎ましくではあっても3人で一食を食べることが出来る程度にはある…
ゴブリンやウルフなどの魔物一匹の魔石が大銅貨一枚ほど、ウルフなら毛皮も売れれば大銅貨三枚にはなる。
だがそれだって昨日みたいに狩れない日もあるのだ。
昨日の仕事内容は子供に任せるには少々大変な仕事というだけの言ってみればただの雑用。
それでも最初の説明と心付けとして多めに貰ったのだ。
そして、夜だけでも他の仕事も手伝ってくれるならこのくらいは出してもらえるとも…
れっきとした仕事であった。
ちなみにローラにコッソリ教えてもらった話だと、その仕事場で主人をやっているカイの部下達は皆高給取りらしい。
そしてその金額はというと…どうやら月に金貨一枚程になるとか…
しかも皆独身…ってそんな情報はどうでもいい。
金貨…見た事はある、という程度にしか知らないメディエにとっては馴染みのない金額であった。
それもそのはず、メディエ達の住んでいた村は物々交換が殆どで税も物納…
そもそもがお金など使わない、お金の重要性を知ったのも王都に来てからだ。
どうやらカイという人物はお貴族様という奴だったらしい。
ローラに似てとても奇麗な方だったのだが、気さくに話しかけてきたのでわからなかった。
貴族など村ではまず見ないし、王都に来てからも馬車に乗っているのを見るくらい。
メディエ達冒険者の住む区画にはほとんど近づかないだろうし見る機会などあまりないのだ。
そしてこの仕事の内容は誰にも話すなと言われている。
他の冒険者達に知られれば要らぬ嫉妬を買うし、下手をするとその職場にも迷惑がかかるかもしれないのだ。
そしてそれはノールに対しても例外ではなかった…
メディエは心の中のモヤモヤを封じて馬小屋掃除をやっているノールの手伝いに向かうのだった。
…どうやらカリーウは昨晩はとうとう帰ってこなかったらしい。
――――――――――
「ゴメン!!今日他の冒険者さん達と狩りに行く約束しちゃったんだ。」
カリーウが帰ってこないので、ノールとメディエはそのまま冒険者ギルドへと向かった。
そこでカリーウは既に準備をして待っていた。
だが、少しいつもと様子がおかしい…
すると気まずそうに切り出したカリーウは言ったのだ。
「昨日皆と一緒に飲んでたら、勢いで…ついね。」
「ついって…じゃあ、今日俺たちは…」
「まあ、今日だけだから。なんか森の深い場所一緒に行ってくれるって言うから試しにね…
二人も行く?頼めばもしかしたら連れてってくれるかもしれないよ?」
「………」
頼む…その言葉に声を詰まらせてしまったノール。
相手はいつも酒場で飲んだくれてる上に自分達を馬鹿にした冒険者達。
信用も出来ない相手に頭を下げるのがどれだけ苦痛な事か…
「騙されてるんじゃないのか…?」
「そんな時はサッサと逃げるわよ…足には自信あるの知ってるでしょ?」
そんな風に言ってくるカリーウをどうにか説得できないかと言葉を選んでいると…
「お~い、そろそろ行くぞ!」とその冒険者達の中からモーブルが呼んできた。
それに「今行く!」と返事をし、ノール達には「じゃあ」と言って去っていってしまった。
それをどうしようもなく眺めているとメディエがノールに声をかける。
「今日、どうする?」
「二人で行くしかないだろ…」
それもそうだろう…今日も狩りに出かけるつもりで出てきたのだ。
既に今朝の依頼仕事の分配は終わってしまっている。
今日の食事代を稼ぐためには狩りに行くしかないのだ…
――――――――――
結局、ノールとメディエは今日も成果なしで帰ってくる事になった。
そして二人を置いて他の冒険者達と狩りに行ったカリーウはというと…
「見てみて、この魔石!オークだよオーク!
モーブルさんが一撃で仕留めたんだから!凄いでしょ!?」
「おいおい、ありゃカリーウが足に矢を当てたから出来たんだ。
あんまりおだてるんじゃねーよ。」
「またまた~。矢を当てても止まらずこっちに突撃してきたから私なんかビックリしちゃったんだから。
そこにモーブルさんが飛び出してきて突きの一撃!!
凄かったんだから!」
本当に凄かったとおだてるカリーウにまんざらでもないモーブル。
メディエはそれを「へぇーそうなんだ~」と普通に聞いていたが、面白くないのはノールだ。
自分のパーティを離れ他の冒険者達と狩りに行ったとたんオークなんていう大物を仕留めてきたのだ。
しかも、他にもゴブリンやウルフなども狩って来たらしく、目に見えて大猟であった。
そして更にカリーウはノールに対してコソコソと耳打ちしてきたのだ。
「でさ…ここだけの話なんだけど、実は私ゴブリンの巣を見つけたんだよね。」
「それって…」
これに息をのむノール達。
ゴブリンの巣の情報…これだけでも十分に報酬を貰える成果なのだ。
五十匹ほどの群れであれば十人程の冒険者で殲滅すれば各自大銅貨四~五枚程度の報酬は出る。
更に、群れは多くの場合オークなどを用心棒代わりに住まわせていることが多いためその数次第で更にボーナスが付くのだ。
そして何よりはそこに獲物が確実にいるというのが大きい。
勿論拠点攻めになるわけだから危険は大きいし、度々死者も出る。
だが、森で突然遭遇戦するのとどっちが危険があるのかと言われると何とも言えないのだ。
ならば確実に収穫がある方がマシと判断する人間は多い。
そんなゴブリンの巣だがどうやらカリーウ達が遭遇した群れの足跡をたどってみたら見つけたのだそうだ。
「それで、さっそく明日人を集めて狩りに行こうって話をしたんだけど…
勿論あんたたちも来るでしょ?」
だがこれに言葉を詰まらせてしまうノール。
それは勿論、自分の腕で森の奥に向かう事のリスクを考えての事…それもあっただろう。
だがそれとは別の想いもあった。
昨日まで同じ立場にいたカリーウがちょっと自分のパーティから抜けただけで大きな成果を上げてしまう。
そして、その成果をまるで恵んでやるように分け与えようとしてくるカリーウ。
簡単な話、悔しいのだ…
そしてメディエはというと、ノールの判断待ちだった。
そんな二人を見て、カリーウは先程まで笑顔で話していたというのに、次第に表情を無くしていった。
「出発は明日の朝だから、それまでに決めてね…」
それだけ言ってモーブル達と共に行ってしまった。
………
それに声をかけられないノール。
これからどうすればいいのか…メディエは悩んで。
だが今日という日の糧を得なければならないのはわかりきった事だった。
「ノール…これ。」とノールの手のひらに自分が昨日稼いだ銅貨を握らせ言った。
「それで、なにか食べて。お腹が減ってたら何考えてもうまくいかないよ?」
「それじゃあ、私これから仕事に行ってくるね。
もしかしたら今の時間なら他の仕事も貰えるかもしれないし…」
そう言ってメディエもノールの下から離れていくのだった。
………
……
…
いつものように馬小屋を掃除する三人。
カリーウは昨日はちゃんと帰ってきたため朝もいたのだが…
ノールとカリーウの間には会話が無かった。
そして掃除も終わると、カリーウはすぐに準備を始め…
「じゃあ、私行くから…」と言って出て行ってしまったのだった。
今日もカリーウなしの狩り…
昨日と同じように収入は見込めない可能性は高いだろう。
メディエも考えなければならなかった。
このままノールについて行っても昨日みたいに何も出来ずに足手まといになるだけだ。
それならバイト先で朝から働かせてもらった方がはるかにいい。
メディエだってノールの傍で支えてあげたい…
でも今は今日食べるためにお金が必要なのだ。
お金さえあれば、失敗したってノールが冒険者を続けることが出来るのだ。
それだって十分ノールを支えている事になるのでは?
メディエ自身は冒険者に対して憧れがあったわけではなかった。
ただ、ノールを支えたいからとついてきただけの存在。
だからこそ、今取るべき最善の選択はノールが稼げるようになるまでメディエが働く…であった。
「ノール、これ…」と言って大銅貨をノールに握らせる。
「カリーウがいないと私足手まといになっちゃうから…
今日はバイト先に朝から仕事出来ないか聞いてみるね。」
そう言って早足で仕事場に向かうメディエにもノールは何も言えなかった。
ただ、ジッと銅貨を見つめた後それをポケットにしまい冒険者ギルドへとトボトボと歩いて行くのだった。
一人で森に入るのは正直言って自殺行為だ。
なのでギルドで王都内で出来る仕事を貰わなければならないが…
残念ながら本日の仕事の配布はすでに終了していたようだ。
何とかならないかとノールは受付に行ってみるが…
受付にいたのはレティ。
そしてレティの回答はというと、それは当たり前のように定型文で返すだけだ。
笑顔で常設依頼を紹介する…ないものはないのだから。
レティからしたらノール達は単なる一冒険者でしかない。
特別扱いなど出来るはずもないし、厚意でローラは無視しろと助言してあげたのにも関わらず何も聞かなかった人間である。
してやれることも、してあげようと思う事もなかった。
そしてノールは一人で森に入るも、一人で奥に入る事など出来はしない。
今日も何の収穫もないまま帰ってくる事となったのだった。




