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0044-獲物①


 あのギルドに馬車が突っ込んできたような日の後、少しギルドの中が変わったように見えた。


先ずはあの日奴隷を解放するという男を見せたビンフ…

彼はあの後、酒場で飲んだくれる事となった。


 …あの日、寝床に帰って一晩熱い夜を過ごしたまでは幸せの絶頂だったはずなのだ。

だが、幸せの絶頂はそこを頂点として急降下する事となった。

朝起きたらベッドがもぬけの殻だったのだ…

勿論方々探した、金など持っていないはずなので王都中駆けまわって…

そしてもしかしてと思い城門にも聞きまわったが、当たり前の話王都の城門は毎日かなりの数が出入りしている。

女一人を特定する事も出来るはずが無かった。

そもそも何の後ろ盾もない解放奴隷が一体どこに行こうというのだ…

手がかりもなくただ泣き寝入りするしかなかったビンフ。


 ギルドの酒場で人に相談したところ…爆笑を誘った。

特にひどいのが床を転げて腹を抱えて笑っているのが元凶であるローラだという現実。

しばらくキレたビンフが酒場の中で暴れたが、その内体力が尽きた所を見計らい酒を勧められた。

そして、ローラがギターを弾きながら失恋ソングを歌い始めると…

ビンフは泣きながら酒と音楽に酔いしれたのだった。

………いい歌だが騙されてるぞ?

その後、悲しみに暮れるビンフを連れてローラ達は娼婦街へ繰り出し…

出来上がったのが娼婦さんに鼻の下を伸ばす下級冒険者の姿であった。



 その後、影響を受けたのが他の上級冒険者達…

つい数日前までは首輪奴隷を見せびらかすように堂々と連れて歩いていた。

だが今はどうだろう…

あの日を境に首輪を隠すようにしたり、そもそもギルドに奴隷を連れてこなくなった連中もいる。

それもそのはず、奴隷を連れて歩いてる冒険者が下級冒険者達から睨まれたり陰口を叩かれるようになったからだ。


 あの出来事は下級冒険者たちに取って画期的な物であった。

自分達下級冒険者達も徒党を組めば上級冒険者達に勝てる。

そのためにローラが教えてくれた"首輪奴隷を使うやつはクズ"という思想は何とも心地よいものだった。

そして、はからずもこの正しさをビンフの奴隷が証明した。

あれだけビンフを立てていた女が首輪を外された途端とんずらこいたのだ…


 ビンフ自体は最初は笑われたが今では自分たちの仲間として、そして奴隷を解放した勇気ある男として扱われていた。

当然中心人物のローラがそのように扱ったというのが本当の所であるが。

この下級冒険者たちの集団は派閥のような物を形成し、酒場を中心に一気に勢力を拡大したのだった。

人の妬みが作り上げたギルドの暗黒面がそこにあった。



 受付嬢であるレティもこの状況に憂いていた。

普段冒険者達に対しては不干渉を貫いていたレティであったが、ローラに関しては注意喚起を促すようになったのだ。

対象は主に上級冒険者達と新人冒険者達である。

内容は決してローラにかかわってはいけない…だ。

上級冒険者達は概ね状況を理解してこれを聞き入れてくれる。


 だが、問題は新人冒険者達である。

彼ら比較的若い人間というのは冒険者という職業に夢見がちなまま王都に訪れる。

そうゆう若者はローラの容姿にコロっと騙されてしまうのだ。



 ある田舎からやって来た冒険者を志す少年少女たちがいた。

少年一人に少女二人…

前衛に少年、少女のうち一人が斥候タイプの狩人、もう一人が何と攻撃魔法が使える少女だった。

そんなパーティで森に入っては狩りを行っていた。

稼ぎはというと…三人分にしてはかなり少ないが、何とか食っていける…そんな感じだろう。


 そんな彼らが暗黒面に堕ちないようにレティも忠告をしたのだが…結果は逆効果になってしまった。

少年は自分は何でも出来ると信じて冒険者になったのだから、人の言う事を聞こうとはしなかったのだ。


「俺…そういうの嫌いなんだ。」


(いや、どうゆうのだよ…)


とつっこむ間もなくその少年はレティの忠告を無視して行ってしまった。

「ちょっと!」と止める言葉も聞かずに…

別に少年は進んで声をかけようとしたわけではない。


"関わった相手を不幸にする"


 そんな噂が出回わっている人間がどんな人間なのかちょっとした興味だけだった。

酒場の窓際の席に座って窓から空を眺めている少女…

昨日の晩御飯で兄から唐揚げを一個掠め取ろうとしたらバレて拳骨を喰らった事に関して、次はどうしたらうまくいくだろうかと反省をしていただけ…

それなのに少年の目にはその少女が空を眺めて憂いているように見えたのだ。

そして、なんだか無性にこの世界に対して腹が立ったのだ。

…だから少年はその少女に向かって歩き出した。


「ねえ、どうする気?」と後ろの二人が止めようとするが…


「昔、じいちゃんから聞いたことあるんだ…

黒髪の女は美人が多くて昔奴隷として高値で売り買いされてた事があるんだって…」


「え…じゃあ。」


「ああ、多分王都じゃ黒髪が奴隷の子孫って思われてるんじゃないか?」


「だからあの受付の人も?…酷い…」


そうゆう事ならと二人も納得して少年の行動を許した。

許してしまった…


「なあ、キミちょっといいか?」


ローラの傍まで来て声をかけた少年に対してローラは眉をひそめてしまう。


「酒場にいる女に対しての声のかけ方も知らねーのかよ…」


「え、あれ?いい…ですか?」


これには呆れてしまうローラ。

どうやらこいつはタダ酒ではないらしい。

では何なのか?それはそれで気にはなる。


「まあいいや、んで何の用?」


「ああ、これから俺たち狩りに行くんだけど一緒にどうかなって。一人なんだろ?」


少年の言葉を聞いたローラは三人に事をみた。


「へぇ~でもよ、お前にそんな甲斐性あんの?女二人も侍らせといて更に一人追加とか…」


「ち、違う!そんな意味で言ったんじゃない。これから俺たちゴブリン狩りに行くんだよ。」


「ほーん、巣でも見つけたのか?」


 これには他の冒険者達もピクリと反応する。

単体では大した稼ぎにはならないゴブリンといえど巣を潰せばそれなりの稼ぎになる。

勿論、複数の冒険者に声をかけるが巣を見つけた奴はそれだけで分け前を貰える割と美味しい仕事だ。

そして何より嬉しいのが、そこに獲物がいると分かっているという点である。


「いや、俺たちだって3人でゴブリンの巣を狙うなんて馬鹿な事はしないよ。

森でゴブリンを見つけて狩るんだ。」


…この瞬間酒場で聞耳を立てていた冒険者は途端に興味を失った。


「ほーん…で、そんなに深く潜るつもりなのか…そのなりで?」


盾も持っていない剣士スタイルの少年、ノール。

斥候タイプだろう、弓を持っている少女、カリーウ。

そしてもう一人は…珍しい杖術スタイル?


「メディエはこう見えて攻撃魔法が使えるんだ。

それにそんなに深くは潜らないよ、命はかけられないからな。」


 ローラもそう言えば聞いたことがあった。

トールソンでは全く見ないが、王国などでは杖を使って魔法のイメージを強化する事で攻撃魔法を使う人間もいるのだとか…

その言葉にへぇ~とメディエの事をジロジロ見ながら…次第にニヤニヤした笑顔に変わっていく。


「つまり、広い森の中から少数のはぐれゴブリンを探すって事か?

しかも森の浅い場所で…」


 酒場の冒険者達が思わずブフッと吹き出してしまう。

そんな美味い話はそうそうないからだ。

あるならいくらでも喜んで仕事に向かうだろう。

ないから命を賭けて森を奥に進むのだ。

そして、出来るだけ命を賭けたくないから酒場で腐るのだから…


 酒場の中にノール達を小馬鹿にするような小さな笑いが起こる。

それに思わずムッとするノールだったが…

ローラが途端にニヤニヤと下品な笑顔を浮かべて言ったのだ。


「いいぜ、お前らの仲間になってやる。」


「本当か?…じゃあ、今から「私はここでお前たちの無事を祈ってる。心はいつもお前たちの仲間だ!」


(((んん~?)))


三人が首が90°回りそうな勢いで首を傾げるとローラは言った。


「ああ~分け前の事は気にしなくていい。お前さんらのビンボー暮らしは貧相な顔見りゃ一目瞭然。

そんな奴から金はとらねぇ。でも安心しろ、自分の分け前はちゃんと仲間のお前らを使って何とかするから!」


ますます訳が分からない3人だったが、そんなのお構いなしにローラが話を進めていく。

「よっ」と酒場のテーブルの上に乗るとジャジャンとギターをかき鳴らしギルド中によく通る声で呼びかけた。


「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!

今日のお楽しみのお時間だよ!!」


「ここにいるのは三人の勇者!

名前をノールにカリーウ、そして紅一点のメディエ!」


「私は女よ!!」


唐突に男扱いされたカリーウが思わず抗議の声を上げるとギルドから軽い笑いが起こる。

そして、その笑いに釣られて次々と冒険者達が集ってきてしまった。


「あらあらこりゃ失敬、なんとこれまたハーレムパーティーと来たもんだ!!」


 これに「この色男!」とか「貢がせてんのか羨ましい!?」とか嫉妬の声が上がる。

冒険者など最底辺の男など余程の縁が無ければ女とお近づきになど慣れない。

せこせこと貯めたお金を握りしめて娼婦さんに会いに行くくらいである。

そんな野郎がローラの毒牙にかかった所で同情なんてしない…少しくらいしかしない。


「そんな彼らもこれから辛くて過酷な冒険の旅に出る事に…

そして、その冒険の内容は何と…!

木漏れ日差す清々しい森の中でピクニックのついでにゴブリンを狩ってくるという勇者の所業!!」


ギルド中の冒険者達が笑い声をあげてしまう。

みるみるうちにノール顔が怒りと羞恥で真っ赤になり、他の2人は顔を真っ青にしていた。

だが、そんなのも無視してローラは続ける。


「彼らは無事ゴブリンを狩ってこれるのか!?

それとも手ぶらで戻ってくるのか…

もしや彼らの運命潰えてそのまま帰らぬ人となってしまうのか?

いやいや、もしくは4人で一緒に帰ってくるのかもしれない。

果たしてこの勇者たちの運命はいかに!!

さあさあ、はったはった!

一口大銅貨1枚だよ!」


そう言ってギターをかき鳴らすローラ。

「4人で帰ってくるってどういう意味だ?」と冒険者の中から質問が飛ぶ。


「おんやぁ?どっかにカマトトちゃんがいるらしいな~

…まあ、な?そういう事だよ…」


 言ってニヤニヤ笑うローラ…

それを見てゲラゲラ笑いながら次々と賭け札を注文する冒険者達。

酒場の店主も注意するかと思いきや賭けの協力を始めてしまう。

…既にローラと話がついていてショバ代が入ってくる上に酒の注文も増えるため、店主としては拒否する理由がないのだ。

そしてその売り上げの一部がギルドにも入るとあってはギルドの方も注意できない。

賭け札の金額も低いとあって娯楽として楽しむだけで喧嘩も起こらないのだ…犠牲者は出るが。

レティとしても上が黙認してるとあっては文句も言えない。


 少年は善意で誘ったはずだった…

だが、その善意は物の見事に悪意で返されたのだ。

ノールは顔を真っ赤にしたまま「絶対狩ってきてやる!」とギルドを出て行ってしまった。

それを慌てて追いかける二人…

そしてそれに対して「いってらっしゃ~い!」と楽し気に送り出すローラだった。



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