0043-登録完了…
あの後…
ローラの口車に乗ってしまった冒険者達はローラに勧められるがまま賭け札を買ってしまい、賭けは不本意な事に成立してしまった。
そして、女を連れて戻ってきたビンフは拍手と祝福と罵倒によって迎えられた。
「ヒャッハー!!今日はお前らのおごりだ!!」
そんな言葉と共にそのまま酒場で賭けに勝った奴らに奢られる形で宴会が始まってしまう。
………
勿論、ギルドの受付は業務時間中である…いらぁ。
唯一の救いは、笑顔で酌をする女と鼻の下を伸ばしたビンフが幸せそうで何よりという所だろうか。
………爆発してしまえ。
ちなみにローラのギルド証はとっくに発行済みである。
ブチ切れたレティが縁起が悪いとされて古より空番となっていたギルド番号"666"を用意。
その番号の焼き印を木札に怨念を込めて焼きいれたのである。
誰もそれを止められる人間はいなかった…
そしてローラがようやくギルド証を受け取りに来た…業務終了時間直前に。
しかも酒の匂いを漂わせながら…
「こちらがギルド証になります。無くさないよう首から下げるようにして下さい。」
そう言ったのにも関わらず、ふーんと眺めて自分の番号を確認してからポケットに突っ込む。
そのローラの行動は無視してギルド証の注意点の説明をするレティ。
紛失時は再発行はなく新規発行となり、その際、過去の業務実績などは使えなくなる。
また、紛失したギルド証を悪用する人間が出てくる事を防ぐため一度登録抹消をする必要がある。
そのため番号は記憶して置く事…等々。
「それから登録料は大銅貨一枚になります。すぐに無理な場合は報酬から…」
その言葉に「あいよ」とポケットから硬貨を一枚取り出す。
それを事務的に受け取り、マニュアル通りに進める。
「それでは登録は完了しましたが登録後1週間以内に登録者用の常設依頼を…」
その言葉に「あいよ」と薬草を一束を机に押し付けるように提出してくる。
………
「ちょっと待ちなさい、あなたさっきまで酒場で飲んでたじゃない…どうして薬草を持ってるのよ?」
「あーん?冒険者にやり方を聞くのはご法度じゃないのかよ…」
「そんなルールないわよ、一体何様?」
…とは言いつつもおおよその検討はついている。
ギロッと酒場を覗くと、こちらの様子を伺っていた冒険者共が一斉にソッポを向くじゃないか。
(あいつら、ちょっと可愛い子に酌をされたからって余り物ポンポン渡しやがって…)
だがしかし、これをどこから取ってきたのかを証明する術もルールもない。
魔物の領域でしか取れない薬草を納品してくれれば犯罪でもない限り問題にはならないのだ。
ため息を吐きつつもどうせ個人の問題なのだからと事務処理を進めていく。
「お先に失礼しまーす。」という同僚たちの声を聞きながら…
「ところで、そんな雑草集めてどうすんの?」
事務処理をしているとローラが話しかけてくる。
無視してもよかったのだが、どうせ慣れた作業、暇つぶしに付き合う事にする。
「雑草?…雑草じゃなくて薬草よ。教会に納めて薬にするんだそうよ。」
「私の家の庭にも生えてたけど…」
「いやいや、どんな魔境よ…多分見間違えでしょ。"祝福薬"の材料になるだって。」
「"祝福薬"?ってあー、あの偽薬か…」
「偽薬?」
事務処理を終えたと同時に聞いたその不穏な言葉に思ず聞き返してしまうレティ。
「うちの領で実験したことがあったんだよ。」
実験内容は病気の患者を3つのグループに分けて、何も処方しない、"祝福薬"を処方する、"祝福薬"に似せた物を処方する。
結果は"祝福薬"を処方したグループと似せた物を処方したグループが僅かに回復が早くなった。
つまり"祝福薬"だから特別効果があったわけじゃないという事だ。
その話を聞いてレティは待ったをかけた。
レティも小さい頃に熱を出して、"祝福薬"を飲んで助かったことがあるのだ。
「そりゃあ多少は効くだろうさ。
プラシーボ効果って言ってな、効いたと思ったら体内魔力が勘違いして体の抵抗力が高まるんだ。
まあ、結局気休めだけどな。
別に"祝福薬"じゃなくてその辺の木の実を薬だって言って食べさせても同じ効果があるぞ。
他にも奇麗なネーちゃん看病してもらうとかな。」
王都では病気になったらその"祝福薬"を飲ませるのが一般的だ。
だが、その薬は正直言って高い。
一日一粒、10粒で銀貨一枚ほど…
ちなみにトールソンでは既に"祝福薬"で高い薬価は取れない。
代わりに似たような効果を狙う安価な偽薬を使用するようになっている。
「成分が優しさ100%でも偽薬としての効果なら教会が作ったって事で一番効果あるじゃね?
…知らんけど。」
そう言って「ほんじゃーな」とギルドを後にするローラだった。
信じる者だけが救われる薬…
ふと、気づいたことがある。
その話を聞いてしまったら自分にはもう"祝福薬"は効かないんじゃないか?
それに気づいたレティはローラに何か物を投げたい衝動に駆られたが、既にローラはギルドから出た後だった。
………
「あ、ヤベェ金ねーや、家賃払わなきゃならないんだった…ま、晩酌に付き合えば一日くらい大目に…」
………
……
…
「さっさと出ていきやがれ!!」
ローラが泊まっていた宿に怒声が鳴り響いた。
勿論、それが宿屋の主人が宿代を持ってこなかったローラに浴びせた怒りの声。
「毎晩毎晩酔っぱらって帰ってきやがって、しかも楽器の音が夜中まで響いて寝れやしねぇ!
挙句の果てに家賃滞納とは言い度胸だ!」
「んだよ!一日ぐらいいいじゃねぇーかケチ!」
「うるせぇんだよこのクズ!テメーなんざ自慢の顔で男誑し込んでベッドに入れてもらえばいいんだよ!
何なら俺のベッドで寝るか?おおーっと今のは冗談だ。テメーの中身を知ったら立つもんも立たねぇわ!
さっさと消えな!!」
荷物と一緒につまみ出されバンっと扉を閉められるローラ。
それに腹を立てたローラは宿場街によく響く声で罵り声をぶち上げた。
「ぐぬぬ、言わせておけば!
はん!こんな風呂もねぇ上にハゲが毎晩マスかいてイカくせぇ豚小屋に誰が泊ってやるかってんだ!
店持ちの癖に娼館行く金もケチりやがって。
あ!わりぃ、早漏すぎてコスパ悪すぎってキューネちゃんに笑われてたんだったな!!」
ガンッと扉を蹴り上げ逃げ去っていく。
「ローラてめぇ!!!」
顔を真っ赤にして棒をもって出てくる店主だったが、既にローラは遥か遠く…
「お望み通り金持ちでイケメンのベッドの中で寝てやらあ!!」
夜も深まり寝静まろうとする街の中にローラの捨て台詞が溶けていくのだった。
――――――――――
学園の予習復習に各種書類仕事…そういった物を終わらせてカイはベッドに入った。
魔導ランプの灯りがともっているので、調節弁を捻って待機モードにする。
この待機モードはカイが魔道具の開発依頼をする際に特注品でいいからとつけてもらった機能だ。
カイの"魔無し"という特性、これはこの世界で言えば身体障害と変わらない。
そのため、魔道具を使用するにあたり点火という事が出来ないのだ。
魔道具にいくら何しようがウンともスンとも言わない。
よって、点火は誰か他の人にやってもらう必要がある。
だが毎回毎回点火するたびに人を呼んでいたのではたまらない。
特にこんな夜中に人なんて呼びたくもないのだ。
だからこそ魔道具につけた機能。
魔石から作られる魔道具の燃料を調節弁で供給する量を調節できるようになっており、待機モードというのはその量を魔道具が停止するギリギリまで絞って待機させていおく状態なのだ。
これがあるおかげで夜中に用事を思い出してもすぐに灯りを付けることが出来るようになった。
勿論そのために待機魔力を消費してしまい若干ロスが大きくなってしまうのだが…
点火のためにだけに人を使うのとどっちが手間とコストがかかるのかという話だ。
ただ、日が昇っている時間帯なんかは近くの人に頼むだけなのでこんなまどろっこしい事はしなくて済む。
リルルを呼んでお手伝いを頼むとドヤ顔にほっこりできるオマケまでついてくるのだ。
ランプの光を消してベッドの中で目を瞑る…
そういえばプーサに学園で教科書として使っている本を使わない時に貸してほしいと頼まれていたんだった。
…だが、もう夜も遅い。
今行ったら迷惑になってしまう、明日でいいだろう…
そんな事を思っていると、部屋の外から足音がした。
その足音は、静かに近づいてくる…だが、決して足音を殺して忍び寄る類のものではない。
もしそんな事をすると、不審に思ったアルフィーが出てくるのを知っているからだろう。
そしてその足音はゆっくりとカイの部屋に入ってくる。
よく知った足音だったためそのまま放置すると、スルスルとベッドの中に入ってきた。
………
ベッドの中にお酒の匂いが漂ってくる…
大体の状況を察したカイはその侵入者に対して拳骨を落とした。
「イテッ」と声を上げるが、そのままカイの腕の中に入ってくる。
「………お兄ぃ…何か話して。」
「まったく、どんな話がいい?」
「聞かなきゃよかった話。」
「そうだな…ローラも成長してきたしそろそろ教えてもいいか…。
お前にはずっと黙っていたことなんだがな………。」
「うん…?」
「お前も好きなモーツァルトな…彼、実は…」
そんな風に夜は更けていった…




