0036-戦いの後
アマ―リアはティルに抱きしめられていた…
最後に本能的に障壁を自分の上半身に集中させたようだ。
手足は無く衣服も焼けてしまっており、それを見かねたカイが上着をかけていた。
ティルは涙を流しながらもアマ―リアの名前を呼び続けていた。
辛うじて息はある状態のアマ―リアにローラが問いかける。
「最後に言い残すことは?」
それは最後の生きる体力を奪う行為でもある…
だがそれでもローラは問いかけた。
どうせ先が見えているならば最後まであがいて見せろ…と。
「時間が無かった…息子が殺された憎しみが風化してしまう前に…」
その言葉の意味を汲み取ったかは分からない…
だがアマ―リアは最後の灯を言葉に変える事にした。
「姫様…私はあなたを愛してなどいませんでした。
ただ…息子の代わりに想っていただけ…。」
「私は人の心を見透かせるほどすごい人間じゃない、だからアマ―リアの演技なんて見わけがつくわけないよ。
アマ―リアのしてくれたこと、それだけでしかアマ―リアの事を知らないの。
だから、アマ―リア!!アマ―リアが何という言おうと私はアマ―リアが大好きなんだから。」
ローラはカイの腰に手を回し腕の中に包まれながら眺めていた。
何を思って見つめていたのかはカイにもわからない。
カイはそんなローラの頭を優しく撫でる。
「お疲れ…」
「ん…」
ティルの魔力砲が作った穴から夕陽が差し込んでくる。
鳴り響く教会の六つの鐘の音…
精霊光の残滓が未だ辺りに漂う…
まるで、最愛の人との別れを告げるように…
「どうやら………時間切れのよう…ですね…」
―――――――――
アマ―リアに遺体は警備隊に引き取られていった。
ローラの結界の後はティルの魔力暴走と、全く突入する隙が見つけられなかった警備隊がようやく劇場内に入ってきたのだ。
中の惨状に度肝を抜く警備隊の面々。
扉が壊されていたり、観客席が吹き飛んでいたり、床がえぐれていたり、天井に穴が出来ていたり…
ティルの放った最後の魔力砲は劇場の外からも確認できていた。
警備隊のリーダーからこの荒れはてた劇場の様子を聞かれどうしたのか聞かれたカイ達…
カイとローラは打ち合わせをするでもなくピッとティルを指差し息をピッタリ合わせて言い放つ。
「「この人がやりました。」」
「え…はぁ!?ずっこ!」
突然の責任の押し付けに戸惑うティル。
勿論全く責任がないとは言えないし、ちょこっと魔力を暴走させてしまったのも悪いな~とは思っているが…
だが、果たしてティルだけが悪いかというとそんな事はないんじゃないかと反論したい。
しかしながら今は責任の押し付けをしてもしょうがないのだ。
「我が名はティルセニア・ディルソル・エルデバルドであります。
劇場内で人質を取った賊と交戦し相手に手練れがいたためこのような状態になってしまいましたが…
その手練れは打ち取ったためここはもう安全と言っていいでしょう。
もう一度言いますが、ティルセニア・ディルソル・エルデバルドです…いいですね?」
ティルが名乗ったため汗ダラダラで了解をする警備隊リーダー。
逃げた観客達から事の経緯を大まかには聞いていた。
王女殿下がいるという話も入っていたため既に軍と王宮には連絡を入れていたが…
本当の所、王女殿下がこんな三文芝居を見に来ているなどという話はあまり信じてはいなかったのだ。
そして、軍も王宮も確認のために未だ動けていないという状況…
ここに本物がいるという事は、今後自分にも責任がががが………
ティルとしては突入してこなかった警備隊の代わりに王女自らが賊を仕留めた形に持っていけた。
後は警備隊に対して後で少々口添えしてあげればきっと問題ないだろう。
けっとうまほー"権力乱用"によって無罪を獲得したティル。
ただ、劇場の修理費用は誰が出すのかと言われれば…きっと王家から出さざるを得ないのだろうが。
天井の穴の大きさを見てうなだれるティルだった。
―――――――――
「あの人なんで悪魔になっちゃったの?」
魔力切れから何とか復活したプーサはイオと共に完全に怯えていた騎竜達をなだめすかしていた。
その時にイオはプーサに向かってわからなかった疑問を問いかけた。
プーサは呆れながらもパチンとイオにデコピンを食らわせ答える。
「バーカ、あっさり騙されんなって、悪魔が悪魔の姿で現れるかよ…。
あれは単に自分の心が醜いって嘆いてただけ。
本当の悪魔ってのは人の顔して平然の目の前に現れるもんだ。」
「イオも気をつけろよ、目の前の人間が実は自分を奈落に叩き落とすための悪魔の手先って事もあるんだからな。
気づいたら自分がとんでもない事に巻き込まれたなんてよく聞く話なんだから。」
その言葉の意味をよく考えてから…それでもとイオはプーサに向かって答える。
「えと…、プーサは違うよ!…多分。」
「そ、そーか?」
「うん!」
イオを騙そうとも思っていないプーサがこのイオの信頼に後ろめたいものを感じてしまう程だ。
信じられる…それが、心ある悪魔にとってどれほど苦痛となるのか。
そして、それを物ともしないなにか…それが本当に悪魔足りえるのだろう。
「てか、服ボロボロになったちまったな。
服持ってないんだろ?後で俺の貸してやるよ。
…サイズちょっとダボダボかもしれないけど、それよりかはいいだろ。」
「ほんと?」
流石に仕事のカモフラージュとして女物の服を着るのは一歩譲ってアリとしても、私服としても平然とそれを着そうで心配をしていたプーサ。
これを機に男物をあげてしまおうと考えたのだ。
そして、イオもこれは少しうれしい事であった。
最初は警戒していたプーサの匂いは既にイオの中ではカイの次くらいにはいい匂いに分類されていたからだ。
思わず尻尾をワサワサさせてしまうイオであった。
―――――――――
劇場内の事は警備隊に後を任せる事にして、さてと自分のこれからの行動について考えるティル。
それにあたって心のメモ帳を開いて確認してみると…
なんと、驚いたことに今が最優先事項を達成するにあたって絶好のチャンスではないかと気が付いたのだ。
ギュインとローラの方を向き直りロイヤルスマイルで尋ねるティル。
「ええと…ローラさんと言いましたか?」
ティルのその問いにローラは貴族令嬢として天使の羽が舞い散るのを幻視する程の美しいカーテシ―を決めながら返答をする。
その顔には穏やかで優し気な微笑みを浮かべながら…
「お目に書かれて光栄です王女殿下。
私はトールソン男爵家バルデル・トールソンの娘にしてここにいるカイ・トールソンの妹。
ローラ・トールソンと申します。以後お見知りおきを。」
ローラの男爵令嬢としての完璧な返答…これにはカイもニッコリである。
ギスギスしていたティルの心にほっこり温かいもの灯がともされる。
先程までの劇場内の出来事ではかなりぶっきらぼうな話し方ををしていたようにも見られた。
だが、この美しい少女は結局の所カイの妹なのだ。
その美しさもさることながら、きっとその誠実さも同様に持ち合わせているのだろう。
それはあの混沌とした状況で披露した清らかな歌が証明している。
さながら女版カイ…
最高ではないか…
そして、そのローラの色香に迷ったティル…
普段のティルならば警戒して絶対に言わないような言葉を発してしまうのだった。
取り返しのつかないその言葉を…
「カイ様の妹さんなんですよね…?
なら、無理をせず普通に話してくれていいですよ。」
この言葉が、将来ティルが自分の人生を振り返った時、最も後悔した言葉になるとは考えもせずに…
そしてカイはこの言葉に血の気が引いた…
これは絶対に止めなければいけない奴だと。
「え?あいや殿下それは「あ、ほんと?じゃあそうするわ!よろしくなお姫さん!」
(…んん??)
ティルのその言葉を聞いた瞬間、カイの言葉も自分の言葉を被せて封殺。
男爵令嬢を止め太々しい態度でティルにタメ口をきいてくるローラ。
そのあまりの突然の変化に全くついて行かないティル。
「ローラ!!仮にも王国の王女殿下だぞ!もっとだな…。
殿下すぐに今の許可を取り消してください。」
カイの言葉がなんだか迫真に迫っており、一瞬で危機を悟ったティル。
慌てて言葉を訂正しようとするも、これまたローラに阻まれる。
「はぁ?お兄ぃこそ何様さ。今ここで許可をくれたんだよ?
腐っても王家ともあろうものがコロコロ自分の言った事変えるクズだと思ってんならそっちの方が不敬ってもんでしょ」
(ク…ズ…)
一瞬アマ―リアの悲痛な訴えが頭をよぎり、何も言えなくなってしまったティル。
本来ここで絶対に潰しておかなければならない失態だったはずなのに…
この一瞬の躊躇で深みにハマって行ってしまったティルだった。
一方そんな既成事実は置いておいたローラはカイに向かって訪ねる。
「ねぇねぇ!それよりさ、このお姫さんってもしかしてお兄ぃのコレ?」
そう言ってローラは手でジェスチャーした。
左手の親指と人差し指で円を描いた中央に右手の中指を出し入れするジェスチャー…
…スパコーン!!っとカイの振り下ろした拳骨がローラの脳天に直撃した。
「ったいなー!だってお兄ぃと女が一緒にいたら誰だってそう思うでしょーが!」
「思わねーよ!せめてこっちにしろよ。」
そう言って小指を突き立ててみせる。
なお、首を傾げながらローラのジェスチャーを再現しようとするティルの手はカイによってはたき落とされた。
「だって、言われてんじゃん。"七つの股にかける男"って!」
「だ・れ・が七股だ!………誰が言ってんだそんな噂?」
「私(スパコーン!!)」
「身内に流言すんなや!」
ローラが口を開いた瞬間、カイの拳骨がローラの頭にドンドン落とされていく。
その様に若干引いてしまうティルだった…
正直言うと育ちが良すぎるティルにはローラの会話の意味がほとんど理解できていない。
だが、あのカイが兄ともなれば、その美しく誠実な兄の下に集まる女性に妹として不安に思うのも頷ける。
もしかしたら、突然カイの傍に知らない女がいて警戒されてしまったのかもしれない…
取り合えず、ティルとしてはローラに第一印象で嫌われたくはないため安心させることにした。
「ええぇっと、ローラさん、私はカイ様とは恋仲のような関係ではありませんからご安心ください。
(将来どうなるかは分かりませんが…テヘッ)」
そのティルの言葉にローラはというと「そーなんだ。」と一言、別に安心もしなければ怒りもしない。
ローラが抱いた感想は、ただただ"痴情のもつれが見れなくて残念"…という残念なものである。
そして次に放たれたローラの言葉にティルは石になってしまう…
「あ、ちなみに、お兄ぃの初めてのお相手はプラチナブロンドの性女様(バコンッ!)、ってーーーな!!」
「さっきからズッコンバッコン何すんのさ!全部ほんとのことじゃん!」
「本当の事でも言っていい事と………違う。本当の事は最後だけじゃねーか!!」
チッ!と兄が誘導に引っかかってくれずに残念がるローラ。
ティルは"初めてのお相手はプラチナブロンドの性女様"の言葉の意味を脳ミソをフル活用して考え…
その結果、カイに対して自分が抱いていた人物像とかけ離れた回答が導き出され混乱していた。
「え?え?それって……」
嘘だと言ってほしかった。
ただちょっとティルが世間知らずでうっかり間違った方向で答えを出してしまっただけであってほしかった…
しかし、現実とは…無常で…残念なものであった。
「そうそう!娼婦のネーちゃん、男なら誰しも腹の下を伸ばすチョー美人のおっぱい!!」
そういった事には全くもって疎いティルが珍しく正解を導き出してしまった残念な結果。
しかも、人間ではなくおっぱいと来たものだ…
自分の胸を見てみるが…それなりにはあるが、勿論、人をおっぱいと表現する程には持ち合わせがない。
そしてカイは更にティルの心に槍を突き刺す発言をする。
「"元"娼婦です。今は自由の身だ。何も恥ずかしいことはない真面目なお付き合いをさせてもらってます。」
「ソーソー真面目なお付き合い。"愛人"だけどな!聞いて聞いて、お兄ぃったら(フガッ!!)」
「お兄ちゃんと久しぶりに会えて嬉しいのは分かるが少し黙ろうか?」
カイがローラの口に手を突っ込んで強制的に黙らせていた…
コクコクうなずく妹をゆっくり開放するカイ。
「性女でプラチナブロンドでチョー美人のおっぱいな愛人…」
ただただ死んだ目でボソっと呟く事しか出来ないティルだった。
………
……
…
「んで、結局どんな関係なの?」
放心するティルを親指で指さしながらローラが尋ねる。
それをはたき落としながら答えるカイ。
「学園の友人だよ。編入直後で何も知らないからな、色々お世話になって…アレ?」
お世話になっていなければならないはずが、よく考えたらずっとお世話しているような気がする…
ハッと正気に戻ったティルが答える。
「今日はどうしても見てみたい舞台があったから、学園でご迷惑をおかけしたお詫びをと思って誘ったんです。」
「ほ~ん。で見たい舞台って何さ?…まさかさっき駄作じゃないよな。
野次るくらいしか楽しむ方法無かったぞ?」
(駄…作…)
「何言ってんだ…白百合姫だけは良かったろ?」
「まあ、そうだけどさ…。演技ってよりは私情はさんでたように見えたけど?」
「投影するスタイルなんだろ…。悪役なら潰し利くしあの若さであれだけできるならまともな劇団に移籍すれば…ってそんな事より何でローラがここにいるんだ?」
「そりゃ、お兄ぃんとこの奴らが何人も変装して劇場に入っていったんだから、
気になるっしょ?野次馬だよ野次馬。」
「王都についたならさっさと連絡しろよ…」
「驚かせようと思って…ついでに?まあ、アルフィーには感づかれたっぽいから撒いたけど。」
「そーだな…ほんと手間かけさせやがって…」
………
突然肩に物凄い力で手を置か固まってしまうローラ。
カイもその覇気と周りの状況を見て固まってしまう。
………ローラの後ろに現れたアルフィーによって。
「んで、これは一体全体何の騒ぎなんすかね?
説明してほしいんすけど?」
「「………この人が「責任の所在なんざ聞いてねーよ。」
先程と同じようにティルに責任を押し付けようとして失敗する二人。
………
……
…
取り合えずかいつまんで説明するも後で詳細説明を要求された。
「カイ様…馬車の手配はしてありますんで王女殿下を送ったらすぐに帰ってきてください。
言い訳は考えておいてくださいね。
ローラはこのまま連行します。」
「いやいや!私、今日は何も悪いことしてないから!!」
「いつも最初はそう言うじゃねーか、取調室で聞いてやる。…来い。」
「ちょま!お兄ぃからもなんか言ってよ!!」
「信用ってもんは日々の積み重ねだ。」
本当であればここでティルが「彼女は本当に何もしていません、観客を救ってくれただけです。」
と言わなければならなかったのだが、それが出来なかった。
まともに話したのが数分前というのに何故だろう…?
因果応報としか見えなかったのである。
―――――――――
プーサ達は報告のために騎竜を連れてカイの下へ向かっていた。
その途中でアルフィーとすれ違ったので敬礼をして通り過ぎようとするが不覚にも呼び止められてしまう。
「そうだプーサ少尉、随分街中が騒がしくなっていたが、私は始末書と報告書どっちを受け取る事になるんだ?」
ヒョエ!!っという言葉を飲み込み、なんとか何でもないように答えるプーサ。
「ハッ!報告書であります!!」
「そうか、大作を楽しみにしてる。竜の方はクルセイに任せて警備隊の相手はお前でやっておけ。
イオは大尉とカイ様の護衛につけ。」
「「了解しました!」」
うげぇ…と思いつつもイヤだとは言えない立場のプーサ。
諦めて街中で騎竜を走らせたことについての説明をする仕事を請け負った…
警備隊長に話を合わせてもらおうか…
あちらもティルがいたのにも関わらず何も出来なかったはず。
騎竜の突撃は警備隊長に話が通っていて計画通りであったという事にすればいい。
自分のクビがかかっている状態だからプーサの甘言にも惑わされるはず…
その問題の騎竜はというとプーサの事を見捨ててとっとこカイの下へ走って行ってしまった。
カイの下へ到着すると今度はティルに興味を持ち始める。
ティルも最初はカイの後ろに隠れ警戒していたが、カイが可愛がっている姿を見て警戒を解いた。
恐る恐る騎竜を撫で始めたのだった。
「てか、アルフィ、赤い靴履いてる女の子になってるけどミートソースでも食ったん?」
「あん?ああ、外で人質取ってる奴いたから頭踏んだだけだ。」
「うぁ、エンガチョ…もっとエレガントに行こうぜ…」
「どの口が言うか…おら、歩け。」
「だー!!引っ張んなって、自分で歩けるから…」
「だから引っ張ってんだろ。」




