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0021-剣術指南①


 剣術の授業に使われる練習場、そこは中々にエキセントリックな場所であった。

カイは最初、練習場は事故が起こらないよう平らな地面となっているはずと思い込んでいた。

だが、その練習場には所々に小さなクレーターのような穴が開いているのだ。

ふむ、と考えてみると実戦で足元が平であることなど、そうそうない。

トールソンでも戦闘では室内戦であっても床が抜ける事を想定して戦わなければならない。

それを考えるとこの練習場は理にかなっているともいえる。


王国において良く用いられるのが、剣と槍、後は攻撃魔法を使えない一般兵が弓を使い、魔法兵も伝統的に剣を使う事が多いらしい。

そして、貴族としては剣は必須らしく、今日のように授業として学ぶのだという。

ただ、魔力という物があるが故に個々人の能力差が魔力に大きく左右される。

そのため、今は基礎訓練の時間らしく本格的な訓練は選択授業として受けることが出来るらしい。

勿論カイは座学系の授業を中心に受ける予定であるが、選択授業には自由選択授業なるものもある。

自由選択授業には様々な科目があるらしくその日に自分で決めてどれか受ければいいという結構おおらかなルールだった。

集ったメンバーを見て女生徒も剣を使うのかと疑問に思ったのだが、魔力の高い生徒だけで後は違う授業なのだとか。

何やら礼儀作法、育児や子育て関連の話らしい、王国の子育て事情を知りたかったので正直そっちも授業として受けてみたかったのだが言っても仕方ない。


王国での主力武器は剣や槍だが、トールソン領軍では主にウォーハンマーが使われることが多い。

理由は、昔のトールソンでは剣のような刃物を作るだけの生産力がなかった事の名残だ。

屑鉄を集めて何でもいいから武器を用意しなければならない…

その際に選ばれたのが余計なメンテナンスが少なくて済むウォーハンマーだった。

幸いなのか不幸の元凶なのかは知らないが魔樹に覆われたトールソンは軸となる木材だけなら吐くほどあった。

そして、多種多様な魔物と大量に戦わなくてはならない魔の森の中においては、メンテ不要でとりあえず殴るという手段は意外にも汎用性があった。

最近では先端にピックがついて槍として使えたり、ハンマーの後ろにカギ爪のような刃がついたりなどデザイン変更もされるようになってきたが、今では軍の象徴として見られるようになってきている。


他によく使われている武器はくの字型の変わった形のナイフであるククリだ。

これまた生産力の問題で使われるようになったのは最近であったが評判は上々だ。

森の中で活動するにあたって肉を切り裂くだけでなく枝を落とす、薪を割るなど多様な使い道のあるこのナイフは喜ばれた。

特に斥候などを身軽さを重視する役割の人間からの評判が高い。

予算の関係上、全員に支給とはいかないのが心苦しいが個人で購入して使用している兵も少なくない。


そして、王国では一般的である剣であるが…

トールソンで帯剣しているのは大体がプーサのような士官であり、意味合いとしては"お前らより頭がいいから腕っぷしには期待するな"である。

本来であれば外見で指揮官とバレるような装備は付けさせたくなかったのだが、階級章があるだろうと一度ソレをした結果、指揮官がノックアウトして帰ってくる部隊が続出したため諦めた。


ちなみにセルゲイのような領主バルデルが連れてきた元傭兵などの大先輩たちは自分たちが昔から使っていた武器を各々が用意して使っていたりする。

そして今のは一般兵の話であって魔法兵はまた別で、自分に合った武器を各々使うのがほとんどである。

なお、カイが刀を提案してみた所「そんな製作工程が複雑な浪漫武器イラネ」と研究すらさせてもらえなかった…クスン。


カイも普段は槍やウォーハンマーばかりを振り回しているが、多少は剣術の心得はあるので授業には参加できる。

父親譲りの身体能力は自分でも驚くほど高いが、この世界では魔力というものが存在する。

そのため、魔力がないカイはいくら素の膂力があるからと言ってもこの世界においては虚弱体質となるのだ。

なので、リーチのある武器は手放せない。

しかし、同時に男爵家嫡男であるため飾りとはいえ剣を多少は使えないと格好がつかないのだ。


そんなわけで、先ほどの魔法の授業は最後しか参加できなかったが今回はちゃんと参加できると張り切っていた。

練習場には木剣を持ち防具をつけた生徒たちが集っており、当然その中にはティルやアデレードもいた。

今日の授業は実力を見る事が目的だったはずだ。

教師の周りに集まりどんな授業が始まるのかワクワクしながら待っていると教師が突然とんでもない事を言いだした。


「それでは二人一組になってくださーい。」


…おお、この先生初手から飛ばすな~。

勿論、カイに組む相手など決まってはいない。

アデレードという友人もいるのだが、彼女のパートナーは何故か取り巻き達によって名簿管理されており既に決まっているようだ。

そんなわけで、人数は観た所偶数なので新参者は大人しくあぶれた人にパートナーになってもらうことにすることにした。


………


……



「何故に殿下が余るので?」


そう、何故か余ったのはティルであった。

侯爵家の君よ、この方はあなたのような人間こそが回収するべきなのでは?

そう思ってそちらの方をチラッと見ると…

何やらこちらをコソコソ見てニヤニヤしているではないか。


なるほど、先ほどからこちらに向かって来ようとする生徒がことごとく途中でパートナーが決まっていったのはこれが理由らしい。

やはりこの王女殿下は何やら地雷を抱えているらしいのだが…

果たして何を狙っているのだろうか?


「あのー、それでカイ様…どうしますか?」


「ああ、失礼しました。それではパートナーになっていただけますでしょうか?」


「はい!頑張ります!」


いえ、頑張らないでください…とは言えないが、そこはかとなく危険な香りはする。

とりあえず注意はしなければならないようだ。

そうこうしている内に周りの生徒達はサッサと打ち合いを始めており、教師も各々をメモを取りながら各々の技量を確認している。


「それでは始めましょうか。」


そう言って剣を構えるとティルの方も構える。

なるほど、流石王女…基本は完璧と言っていいほどの奇麗な構えをする。

ただ、魔無しのカイ相手にして迷いがあるところを見ると実戦は未経験だろうか。

多分初めての相手を目の前にして躊躇しているのだろうが…


硬直していても仕方がないので、カイがこつんと剣と剣を合わせ開始の合図をしてみる。

するとハッとしたかのようにティルが動き始めた。


ゴウッ!!


突然の頭を刈り取ろうとする一撃を直感だけで頭を下げ避けるカイ。


(なるほど、完全に理解した。)


あの侯爵家の君…ハゲトルデと言ったか、中々に奇抜な事を考える。

ティル自体を暗殺者に仕立て上げるなど誰が考えようか…

こちらを伺っていたので何があるのかと警戒していたが、それが無かったら即死は免れなかっただろう。

とゆうか、教師止めろよと言いたのだが…


だが、今は現状をどうにかしなければならない。

避けたカイに対して、ティルは上段からカイの体ごと床を叩き潰す一撃を振り下ろす。


ドゴン!!


これを必死に飛び退き距離を取ると先程までいたその場所に練習場の所々に空いている穴と同じものがもう一つ出来上がっているのが見て取れる。

剣圧でよろめきそうになるのを抑えているとティルが次の攻撃を構えているのが見えた。

カイはその上半身を消し飛ばすための突きにタイミングを合わせた。


ズゴウッ!!


真横を通り過ぎる死の予感を抑え、手加減抜きの渾身の力を込めがら空きの胴へ一撃を入れた。


スパーン!


………


「あ…負けてしまいました。」


どうだろうか…?

試合に勝って勝負に負けるとは違うが、もし実戦なら負けたのはカイだ。

何故か…それはカイがティルに傷をつける方法が現状ではないからである。

ティルが無意識に展開している"魔法障壁"、それがある限り、並の人間にティルを傷つける事など出来ない。

ゲーム的に言えばこちらのダメージ0、相手の攻撃が当たったらダメージ9999のオーバーキル。

ティルは追いかけまわして適当に木剣を振り回していれば勝てるのだ。

負けイベントでしかない…生きていればだが。


ざっと周りを見渡してみると、生徒たちが唖然としているのが見て取れる。

そして、教師を見ると…目をそらしやがる。


こちらがティルに何か教えなくてはならない義務はない…。

いや、一応王国に属しているからない事もないのだが、その気はない。

…のだが、流石にこれをそのままにしておくことは良心が痛むというか。

そんなわけだから、少しだけ助言をすることにした。


「殿下、2つほどよろしいでしょうか?」


コクコクと素直に頷くティル、許可が出たのでカイが感じた事を言葉にする事にした。

本当はこんな事言いたくないのだが…「まずですが」と天を仰ぎながら呟くように告げる。


「剣を振るときには目を開けてください。」




(((((はぁ~~~~!?)))))


このカイの発言に一同開いた口が広がらなかった。

カイとしてみれば当たり前の指摘なのだが、なまじ魔力があるとソレがわからないらしい。

原因はティルの魔力量にあるのだろう。

ティルのその膨大な魔力は、魔力を持ったものからすると畏怖しか感じない。

それこそ身もすくむような…

なので、皆、自身の防御にしか意識が行かず、ティルが何をしているかなど見れてはいなかったのだろう。


「もう一つですが、仮に目を開けて俺に当ててたとしましょう…」


ふんふんと頷きながら聞くティルに重要な事を言ってあげる。


「もし当たってたら俺、死んでます。

他の皆さんなら障壁で死ぬ事はないのかもしれませんが…」


ごくごく当たり前の事を言っているのだが、自身の犯した殺人未遂にビシッと固まってしまうティル。

生徒達の半数以上は当たったら死ぬからとブンブン首を振っている…

本当に勘弁してほしかった。

魔無しのカイにしてみれば目をつぶりながら100tハンマーを振り回しているようにしか見えない。

本当に100tハンマーならタンコブくらいで済むかもしれないが、残念ながらティルが持っているのは木剣だ。


「…どうしたらいいんでしょうか?」


知らね…と放置したいが、そうも言ってられないかもしれない。

これを放置するどうなるか…

ティルが欠伸をするために手を伸ばしたら偶然そこにいたカイの首が取れていた…何てことがあるかもしれない。

何とか多少の魔力制御くらいは覚えてもらわねば…


「まずは…ですが、殿下…さっきの俺の攻撃、痛かったですか?」


「カイ様の攻撃ですか?…いいえ、平気です。」


「そうでしょう、防具をつけている上に殿下は日常的に障壁を張っている…そうですね?」


「障壁…えーと、多分。あんまり意識したことが無かったですけど、言われてみれば。」


魔力が高い人間というのは元奴隷などでもなければほとんどの場合、性格が強気である場合が多い。

それは当たり前と言えば当たり前の事なのだ。

彼らは魔力という力を感じ取って、他者との力関係を計る事が出来るのだから。

むしろわからないのがティルである。

王族として、地位も魔力も最高クラスの彼女が、何故カイの前で剣を構えてビビり散らかすのか…


考えうる可能性は一点。

ティルが本能的に張っている魔法障壁である。

普通の魔力の人間は魔法障壁を常時展開などしない…というか出来ない。

そして、例え高魔力の人間だとしても、魔力温存のために戦いの時くらいにしか使わない。

自信が服を着たような人間などは魔力を偽装するために戦いが始まるその瞬間まで、もしくは戦いの途中でしか魔法障壁を張らない人間もいるのだ。

流石にそこまで行くと少し特殊な例になってしまうが…

だが、ティル程のも魔力があると常時展開が出来てしまい幼い防衛本能がそれをし続けてしまう。

カイの身近でも同じような経験を小さい頃にしている人間がいるから気づけた事だ。


つまり、ティルは自身が本能的に作った魔法障壁のゆりかごの中からほとんど出たことが無い…

カイはこのような仮説を立ててみたのだ。

ゆりかごから出たことが無いから外の世界を怖がる。

怖がるから魔法障壁を張り続けて生活をしてしまう。

魔法を使い続けて生きているのだから手加減など出来ない…


ティルに必要なのはそのゆりかごから一歩踏み出すという経験なのだろう。

そして悲しいかな、それを進言するべき周りの人間は本能的にティルに畏怖を抱いてしまい、言うに言えなかったか気づきもしなかったか…

そんなところだろうか。

なので、カイとしてできる事、それはカイがティルの事を傷つける事など出来ない程弱い存在だと理解させることだ。


そう考えたカイは、突然木剣を振り上げ、反応できないティルの頭に一撃を加えた。

頭の防具に当たりスパーンという景気のいい音はしても微動だにしないティル。

練習場の人間、そしてティル自身も驚きを隠せなかったが、カイはそのまま言葉を続ける。


「正直な話、俺程度では殿下に傷をつけるなどほとんど不可能なんです。

ですから、もう少し力を抜いてみてください。」


「それは魔力を抑えろという意味でとればいいですよね?」


ティルがそう言ったのに肯定するカイ。

そして、木剣を横に突き出してティルに打ち込んでくるよう促す。


「目を開いて、力を抜いて打ち込んできてください。」


「はい」と素直に返事をし、奇麗な構えから今度はちゃんと目を開き打ち込んでくる。

素直だし、トールソンの人間の我流喧嘩武術なんかよりずっときれいなんだよな…

なんて考えていると、横に構えていた木剣が消え失せ練習場にもう一つクレーターが作られた。


ドゴン!!


…素直で型が奇麗でも手加減ができるわけでもないらしい。

粉々に砕け散った木剣の先が風に吹かれていくのを眺める。

木剣に最後の別れを告げたあと、教師を見た。

腰が引けてる教師を見て、指をチョイチョイとやり替えの木剣をはよ寄こせと要求する。

…本来あんたの仕事だからなこれ。

カイは木剣を受け取るときに「知らなかったんだ…」と伝えられたが、どうやら教師たちも中々に闇が深いらしい。


「殿下、まどろっこしい言い方は止めますね。魔力使うの一回止めてください。」


………


………


………


いや、なんですか?その空気。

するとティルがもじもじと上目遣いで聞いてくる。


「…どうしてもですか?」


「はい、可愛く言ってもダメです。もしお嫌なら俺はパートナーを辞退させてもらいます。単純に死にますから。」


今さっき粉々になった木剣を思い出してほしい。

これはカイとティルの魔力差が起こした現象なのだ。

魔法兵というのは無意識的に自分の使っている武器や防具を魔法障壁で強化する習性がある。

普通の魔力差であれば剣と剣で片方が刃が欠けやすくなるくらいのものなのだが…

ティルとカイの魔力差はトップとドベの戦いである。

カイの木剣が可哀そうというもの…


ティルも諦めたようでわかりましたと、構えなおす。

正直言うと魔無しのカイにはティルの魔力が消えたかどうかを確認する術はない…

だが、周りを見ているとアデレードのような忠義の厚い生徒たちが警戒を強めたのがわかる。

何しろ今はティルが完全に無防備の状態だからである。


カイも木剣を先程と同じように構え「どうぞ」と打ち込むように促す。

意を決したように打ち込むティル。


カン…


なんと、木剣と木剣がぶつかり合う音がちゃんと聞こえたではないか。

これには外野がどよめきをあげている。


…木剣壊さなくてえらい。


そして当の本人はというと…


「凄い、なんか自分の体みたいでした!」


…うん?

この子どした?


「夏のホラー2021」参加作品を投稿してみました。

書いててこれはホラーなのか?と悩んだ結果ホラーって事にしました。

良ければそちらも読んでみてください。


題:"あの夏のあの時に"


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