#461 Eye of the Storm 2 (MELEE)
ゴブリンキングの群れの時もそうであったように、哲郎はこの修行の中で『乱戦』を想定した動きを経験する事に重きを置いている。その理由はそれが、いずれ来る巨悪との戦いに一番近しいと考えたからである。
魔界コロシアムを始めとする、哲郎がこれまで経験してきた戦いの多くは一対一で、命がルールで守られた『試合』だった。しかし、試合とは文字通り『試し合い』の場であり、実戦とは大きく異なる。相手との戦いの中で力の程を知り、伸ばす事は可能だろうが試合で得たものが全て実戦で通用するかと問われ、首を縦に振る者は居ないだろう。それ程までに試合と実戦では求められる能力が異なる。逆に言えば実戦を想定した修行を遂行すればそれだけ巨悪との戦いで通用する力を得られると哲郎は考えた。
その思考の末に哲郎が選んだのがオークの大群との乱戦である。それも前後左右360度、常に気の抜けない大群の中心地での乱戦である。ゴブリンキングが率いるゴブリンとの群れの勝利で哲郎が満足しなかった理由はゴブリンとオークの体格、戦力の差にある。多少の個体差はあるものの、オークはその一体一体がゴブリンキングに勝るとも劣らない体格を誇っている。《適応》の能力を考慮に入れたとしても、オークの一撃を諸に受けて無事でいられる確証は無かった。
だからこそ、この修行に意義があるのである。このオークとの乱戦を切り抜けた末に、自分は更に一段上の領域に立つ事が出来ると、哲郎は確信していた。
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『ブルアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』
まるで四方の壁にスピーカーが付けられ、その全てから大音量で咆哮が再生されているような状態に哲郎は立たされていた。それもオークの群れの中心地に自分から飛び込んだのだから当然の運びである。常に鼓膜が破れんばかりの咆哮を聞かされている状況、普通の人間なら集中力を保っている事も難しいだろう。
しかしその状況でも、哲郎はオークの次の攻撃に集中していた。否、そうしなければならない状況に哲郎は自ら立った。寧ろ、オークの攻撃を躱す度に自分の力が伸びている実感に有意義さを覚えつつあった。
(体格の大きさに惑わされるな。消化不良で終わったけど、ゴブリンの群れとの戦いで掴んだ感覚を活かせる。
それは、ここだっ!!!)
『!!!?』
後方から向かってくるオークの拳を哲郎は最小限の動きで避けた。その直後、哲郎は両腕でオークの手首を掴む。まるで大荷物や丸太を抱えるような動きとなったが、哲郎は難なくそれを遂行した。
「ぬああああああ!!!」
『!!!!』
哲郎は全身の筋肉を捻り、オークを前方へ振りかざした。オークの巨体という重量と強引に振り回す事による遠心力、それらが一気に哲郎の体へ襲い掛かる。それは本来、少年の体では受け止め切れる筈の無い圧倒的な力だったが、哲郎は瞬時に《適応》して投げ技を成功させた。
『ボゴボゴォン!!!』
『!!!!』
哲郎がオークを振りかざした方向は前方。そこに当然いる数体のオークに、掴んだオークの体が鈍器のように直撃した。それだけで仕留められる程オークは貧弱ではないが、追撃を分断する事は出来る。加えて、哲郎は乱戦における重要な要素を一つ、見抜きつつあった。
(やっぱり思った通りだ。昨日のゴブリンの時に頭に引っかかってたけど今日で確信できた。
乱戦と言っても一度に攻撃してくる数には限りがある。多分多くても五つ程度だ。ならそれに冷静に対応すれば負ける事は無い!!!)
乱戦において最も避けなければならない事は、次々に襲い来る攻撃に対しパニックに陥り、対応が後手に回る事である。そうなるとある一発を受けた瞬間に体が硬直し、次発への対応が遅れ一気に攻め落とされる危険が出てくる。
しかし哲郎は、乱戦における一般的なイメージと現実との違いを自力で理解した。一度に襲ってくる攻撃には限りがあるというのがそれである。加えて哲郎とオークとでは体格に差がある。それは力的な不利となると同時にオーク達が狙える攻撃範囲が狭まるという事である。事実、オーク達が哲郎を同時に攻撃できる数は三つに限られていた。
(でもまだだ。これじゃ足りない。もっと効果的に、もっと相手にダメージを与える方法を!!!
!! そこだ!!)
オークを振り回す程度では攻撃力が不十分だと考えた哲郎は一瞬の間に効果的に相手に攻撃できる地点を探した。程無くしてそれは見つかった。
哲郎はオークの手首を両腕で抱えた状態で振り上げ、そして一気に振り下ろした。その先にあったのは、別のオークの頭頂である。
「ぬああっ!!!!!」
『バガァン!!!!!』 『!!!!!』
哲郎はオークの頭頂部に、抱えていたオークを背中から振り下ろした。これにより、振り下ろしたオークの背骨に衝撃が走り、攻撃を受けたオークは脳から脊髄まで一気に衝撃が貫通する。この一撃を経て、哲郎とオークの大群との戦いは新たな局面へ達した。




