#460 Eye of the Storm
アンリミテッドの修行の初日を白星で終えた哲郎は早々に休息を取る準備を進めた。
ゴブリンキングの群れから勝ち取った開けた土地の草を刈ってそこに結界付きのテントを建てた。夕食はまだ目ぼしい食料が確保出来ていなかったので、持参しておいた保存食、干し肉と乾パン、そして付け合せとして周囲に生えていた草を茹でて塩を振ってエネルギーを補給した。
野外で入浴など出来る筈も無かった為、体を濡らしたタオルで拭き、歯は水を付けた平行脈の葉で拭って歯垢を落とした。
それを終える頃には既に、太陽は地平線の底へと沈んでいた。その後の哲郎の周囲に広がったのは数メートル先も見えない暗闇だった。ノア達から聞かされていた、山の中で過ごす事の脅威性を実体験を以て理解した。
テントの中で体を休め、朝日と共に目を覚ました哲郎は朝食として保存食を口に詰め込みながら自分がこれからどれ程の修羅場に身を投じる事になるか、それによって何を得なければならないかに思いを馳せた。
最早今の哲郎にとって食事の味を嗜んでいる余裕は無く、動き生き延びる為に必要なエネルギーを補給する為の行動でしか無かった。
そして今、哲郎はこの山において最大級の異変と自らの意思で対峙している。
*
『ズガン!!! ズガン!!! ズガァン!!!!!』
「くぅっ・・・・・・・・・!!!」
アンリミテッドの舞台となった山の中腹、そこで地面を打ち鳴らす轟音が幾重にも渡って響き続けていた。哲郎はその轟音と衝撃の正に中心部に居た。哲郎の周囲に居たのは哲郎がつい先日その存在を知った、しかし実物を目の当たりにするのは今日が初めての魔物である。
『ブギャアアアアアアス!!!!!』
それは魔物の内臓で反響した音が鼻を通して発せられる事で起こる、耳を劈くような咆哮だった。それは野太い事と地鳴りのように低い事を除けばとある動物に似ていると言えただろう。それは当然の成り行きである。
何故なら、哲郎の周囲を囲んでいたのは豚の特徴をその身に宿す魔物、『オーク』だったのだから。
(この連撃、止まる気配がない!! そりゃ五十体も居るんだから当たり前か・・・・・・・・・!!
だけどここは引けない!! 僕の為にも、そしてこの山の下に居る町の人達の為にも・・・・・・・・・!!!)
五十体規模のオークの大群。哲郎が今いる山でそれが目撃される事は珍しいが前例が無い訳では無い。
本来、冒険者的な思考で考えるならばそれを発見した瞬間に踵を返してやり過ごすべきである。自軍が単独であるならば尚更そうすべきだと、哲郎は重々理解していた。
それを理解している哲郎がオークの大群と真っ向から戦っている理由は二つある。
一つは、そのオークの大群が山の麓にある町を狙っていると気付いたからだ。そこは奇しくも、山の中でも珍しい山中から町の家や人々が視認出来る地点だった。
そしてオークは人間が如何に貧弱で容易に摂取出来る栄養源であるかを理解している。生まれてから数年、山の中で人に危害を加えず成長したオークも人間を襲撃し生きて帰った個体から人間が狙い目であるという情報を伝えられ、凶暴化する事例も存在する。
そしてもう一つはオークが、ゴブリンキングを倒した哲郎にとって次の修行相手として最適であり、これからこの山を生き残る上で重要な食料になり得るからだ。
オークは、その肉は廉価とはいえ食料となり、皮は衣服に、骨は長持ちする資源となる。一言で言うならば捨てる部分が無いのである。
しかし、その潤沢な資源もその全てが冒険者ギルドに流れる訳ではない。その肉の一部は冒険者の栄養源として腹の中へ収まるからである。
哲郎もオークを修行相手とすると同時に、オークの肉を求めていた。それは打算などでは無い、生存本能である。哲郎の体格であれば、オーク一体居れば一週間の食料として十分に賄える。
オークという生命の命を奪う事への抵抗を完全に拭い去る事は出来なかった。しかしゴブリンキングの一件、そして山の中で一夜を明かした経験を経て、自分が生き残り、修行を遂行する事を第一に考えなければならないと思い直している。
『ブギャアアアアアアッッッ!!!!!』
(!!! ここだッ!!!)
『バガァンッッッ!!!!!』
それはオークが振るった拳が生物の肉体を破壊した音。しかし、その拳が捉えたのは哲郎では無い。乱戦の中、哲郎はオークの大振りの拳を既の所で避けた。
それによってオークの拳は哲郎の後方に居た別のオークの顎へ命中した。その衝撃はオークの首を破壊し、頭を真逆に向かせて同士討ちさせるには十分な威力を誇っていた。
(良し!! 乱戦での動き方も分かりかけて来た!!
昨日のゴブリンキンと一緒だと考えるんだ。この戦いを乗り越えて、僕は更に強くなる。ならなきゃいけないんだ・・・・・・・・・!!!)




