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異世界に適応する少年  作者: Yuukiaway
冒険者 テツロウ・タナカ編
462/462

#462 Eye of the Storm 3 (Only Fighting Spirit)

オークも魔物である以前に生物であり、哺乳類であり、脊椎動物である。それは即ち、その肉体に哲郎(人間)と同じ弱点を抱えているという事である。

哲郎が目を付けたその弱点とは、「脳」と「背骨」である。そして今回は、その二つの弱点を同時に攻撃する事で一挙に二体のオークを倒す事を試みた。

哲郎の体力も《適応》の能力で疲労を回復出来るとは言っても無制限である保証はなく、何時その振り戻しが来るか分からない。戦いを短期で決着出来るならば迷わずそうすべきであり、徒に長引かせる理由は無い。


故に哲郎は振り上げたオークをそのまま、上半身背中から別のオークの脳天目掛けて振り下ろした。この一撃によって、一体のオークの背骨は自身の体重と遠心力、そしててこの原理の容量で破壊された。そしてもう一体のオークも頭頂から脊髄まで、一気に衝撃が貫通した。


*


『━━━━ズシィンッ!!!』


遠心力と重力を全て纏めて振り下ろした。直後手を離し、オークは二体共地面に倒れ伏した。一体は頭頂から血を垂れ流し、もう一体は口から血を吹き出している。反撃は疎か、指一本動かす様子すら無かった。


「━━━━よぉしっ!!!」


自分が二体のオークを仕留めた。それを実感した哲郎の口をついて飛び出したのは喝采の言葉だった。それは冒険者として、そして《転生者》として成長出来たという確信があったからだ。


冒険者の遠征が成功するか否かは、オークを仕留められるか否かに掛かっているという格言が存在する程、オークの存在は重要である。オークの肉は遠征中の冒険者にとってこれ以上と無い栄養源となり得る。哲郎が獲得したのはそれほど重要な存在なのだ。


また、オークを仕留めた実績があるかどうかで、冒険者としての扱いに明確な差が生まれるとも言われている。腕力、繁殖力、どれを取ってもオークは民間人にとって随一の危険性を持っているからだ。


無論、哲郎にとっての冒険者稼業は自分で生きる為の手段であり、一番の目的は《転生者》としてこの世界を滅ぼそうとしている巨悪を打ち倒す事である。手段と目的を逆転させる愚は犯していない。

それでも哲郎は目の前の勝利を、力の成長の実感を心から喝采した。自分より遥かに大きな体格を誇る相手を打ち倒す体験は、鬼ヶ帝国で落ち込みつつあった哲郎の心を正しい方向に揺り戻した。


(行ける!! オーク二体倒してまだ無傷!!

オークを倒した事に全く抵抗が無いとは言わないし、増してやこれで帝国の色々がましになったなんて思わないし、そんな事思っちゃダメだ。

でも何でだろう。今はただ、戦う事に集中したい!!!)



***



そこからの戦闘は時間に換算すれば十分にも満たなかったが、哲郎にとっては永遠にも感じられる時間だった。

仲間が二体倒されても、オークは一向に攻めの姿勢を崩さなかった。そこには勇気も仲間意識もなく、ただ一発でも攻撃を加えれば食料と化す格好の獲物が居るという認識しか無かった。


その乱戦の中心地で、哲郎はただひたすらに向かってくる攻撃を捌き、最短再効率でオークを倒す事に全神経を注いだ。ほんの少しでも雑念が頭に浮かべばそれがそのまま死に直結するような脅迫めいた迫力があった。

乱戦の中で、肉体と神経の使い方が何倍速にもなったような感覚を哲郎は味わっていた。その度に『反射や思考に身体が付いて行かない状態』に《適応》し、技のキレは目に見えて上がって行った。


冒険者哲郎とオークの大群五十体以上との戦闘は、始まってから十数分で決着した。結果はオーク側の完全敗北。対する哲郎は殆ど無傷だった。


「━━━━ふぅっ!! ふぅっ・・・・・・・・・!!!」


哲郎の五感は今までで一番と言って良い程に研ぎ澄まされていた。手に伝わってきたオークの肉の感触。全身に飛び散った返り血の冷感。五体に響いたオークの重量と攻撃の反動。そして何より、全方向に広がる倒れ伏したオークの姿。

その全てが、哲郎が何をし、そして何を得たのかを饒舌に語っていた。それで失ったものがあるような気も感じていはいたが、得たものの方が大きいと哲郎は確信していた。それはきっと、この世界と自分の運命を悪しき手から救う為に必要な事だと。


(━━━━えっと、そうだ、あれだ。

まずはオークの体を回収して鞄にしまわないと。お金目当てじゃないけどギルドのためになる事だし。

それでその後は、僕が食べる分のお肉を用意しないと。皮を剥いで、血抜きをして、一週間分の干し肉も作っておいて━━━━)


『ドパァンッッッ!!!!!』

「!!!!?」


それは、己の勝利を実感し始めていた哲郎の耳に飛び込んで来た音だった。哲郎は真っ先に自分がその音を良く知っている事を理解した。

それは魚人波掌の衝撃が肉体に浸透し、内部から炸裂した時に鳴る特有の衝撃音だった。その音は何よりも雄弁に、この山に魚人武術の使い手が居る事を語っていた。

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