戦乱
「弓矢隊、前へ‼︎」
「投石機の用意‼︎」
投石機の周りには、油を小さな壺に入れて蓋をした油壺が無数に用意されていた。係りの兵が、本来なら石を置く場所に油壺を乗せられるだけ乗せている。
「ようい、発っ射あ‼︎」
投石機から放たれた油壺が、敵軍の前に落ちて割れる。
そしてすかさず、「火矢あ、発射あ‼︎」
矢じりの先に油に浸した布を巻き火をつけた矢を、しなる弓で出来るだけ遠くへと飛ばす。
油壺と火矢を次々に放つ。
そしてそれは、敵軍の前や足元の、前もって敷き詰められていた藁の束に引火し、その草草を燃やしていった。
敵軍は本来なら城壁の上を狙って弓矢を放ってくるはずであったが、未だ弓矢の射程距離の内ではないので、打ってはこられない。
けれど、こちらが仕掛けたのを機に、慌てて進軍を始めたのだった。
来る前に火の壁を作りたかったが、思いも寄らず早く移動してきたため、一部の兵は火の壁が大きくなる前に、これを越えてきてしまった。
けれど思惑通り、残りのほとんどの兵は、分厚い火の壁に進軍を阻まれている。
そして、自分たちの右手にあたる森からも火の手が上がり、四方のうち二方向に動きを阻まれた状態になっていた。
敵の将軍の怒号が聞こえる。前からの猛烈な火の手に、後ろに下がれと指示が飛び交う。
そして風向きも、計算の内であった。
風下の敵軍に向けて、凄い勢いで黒い煙が襲いかかる。
兵たちは皆、一様にゴホゴホと咳き込みながら、退路を探していた。
火の壁を抜けた兵たちが弓矢を番える。城壁の上の弓矢隊との矢の打ち合いが始まった。
矢を受けた兵たちが、敵味方関係なく膝から崩れ落ちていく。こうなるともう、お互いに同じような人数を減らしていくばかりとなった。
実は城内に戦えるような兵は残してはいなかった。精鋭部隊を森に、そして部隊の多くを城の西側に集めてあったからだ。
西の城門から、敵の本体の側面を撃つ算段で、これには相当の兵の数を要したからだった。
城壁の上で、スローが叫ぶ。
「ここで踏み止まらねば、入られるぞ‼︎ 入られては、こちらの分が悪くなる‼︎ 一人でも多くの兵を、この場で倒すのだ‼︎」
弓矢部隊にもかなりの数は投入されていたが、その数も一人一人と減らしていった。城壁に掛けた梯子を使って敵が入ってくる。
それを剣に持ち替えて次々に倒していく。スローが豪腕と言われたその腕で、剣を縦横無尽に振り回し敵兵をなぎ倒していく姿は圧巻の一言に尽きた。
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敵軍本体の側面を、西の城門から出た騎馬兵たちが襲い掛かる。そして、敵の後方ではレイ=シン部隊が戦闘を繰り広げていた。
二方を火の壁に、更に別の二方をアルス国の兵に囲まれ、大量の煙を吸わされた敵軍の兵士は、次々に倒されていった。
後にも退けず前方、側面のどこにも移動できない、言うなれば八方塞がりの状態に混乱し、逃げ惑う。
もうもうとした黒煙によって、これは堪らないと言わんばかりに、敵兵たちが甲冑を脱ぎ出す。そこを、剣の達人レイと、剣の妙技を持つシンが襲い掛かり、次々と倒していく。
フードで口を覆った二人の、剣を舞のように操り、けれど内側に宿る夜叉のような激しさを隠そうともせず突進する様を見て、どれだけの敵兵が戦意を喪失したであろうか。
そこへ更に畳み掛けるように、レイやシンにも劣らない程の腕前に鍛え上げられた精鋭達が、襲い掛かっていった。
「リンの指示により、我が精鋭部隊はアルス国内で、最強の部隊となった! その余りにきつい鍛錬から尻尾を巻いて逃げていった輩もいたが、」
レイが続けて叫ぶ。
「これ程に強いとはな!!」
手応えを感じ始めていたシンも、剣を握る腕に力を込めた。
「レイ、お前何人目だ⁉︎」
「二十、九だ‼︎」
一人をなぎ倒すと、とどめの剣を刺す。
「俺は、三十二だぞ、あっははあ‼︎」
いつもは冷静なシンが、高笑いをする。
「くっそ、うるせえっ‼︎ まだまだ、これからだ、この馬鹿がっ‼︎」
後ろから剣を振り下ろしてくる男を蹴り上げて倒す。
「馬鹿はお前だろう、この馬鹿がっ‼︎」
いつもならもっと気の利いた揶揄が出来るのだがな、そうシンは苦く笑う。
兵士の総数で負けている時点で、流石にそんな余裕は無い。
伝令に敵の数は、およそ二千と聞いている。あと何人倒せば、勝利するのだろうと思うと気が遠くなるような思いがしたが、シンの横で戦う、自分が倒した数で頭が一杯であろうレイの戦いぶりを見て、再度戦意と集中力を高めていった。




