第87回 【考察】 『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造とは何者なのか。 ゲスト:古寺猫子さん
PM9:00
バー【猫の巣】にて
Kobito「……このお店、どうも初めて来た気がしないな……。さっきからお皿を磨いてばかりのやけに無口なバーテンさんも、どこかで見たことがある気がするし……。」
黒スーツの男「ふぉーふぉっふぉっふぉっ!待ち合わせですか?」
Kobito「うをっ!びっくりした~!」
黒スーツの男「おや、驚かせてしまってすみません。わたくし、こういう者です。」
Kobito「(名刺を受け取る)『ゴロゴロ ノドが♡鳴らせます 古寺猫子』?」
男がスーツを脱ぐと、猫の姿の猫子さんが現れる。
猫子「ジャーン!私でした~!お久しぶりです!」
Kobito「あー!猫子さんか!久しぶり~。元気だった?」
猫子「ええ、おかげさまで。Kobitoさんもお変わりないようで何よりです。」
Kobito「ほんとに、久しぶりだよねぇ。ドイツに行ったきり、音沙汰が無くなったんだもん。もう会えないのかと思ったよ。」
猫子「白珠姉さんたちのトレジャーハンティングのお手伝いが、思いのほか手間取ってしまいまして。また、怪盗パンジャン一味が現れて、せっかく手に入れた皇妃のティアラを、奪われてしまったのです……。」
Kobito「また横取りされたの?」
猫子「ええ、でも、今回は、連中のアジトを突き止めて、すったもんだの末に、奪い返す事ができたんです。」
Kobito「おお!やったじゃん!」
猫子「でも、こちらのホテルも突き止められて、また奪われてしまって……。」
Kobito「ええ?」
猫子「その後も、奪い返したり、奪われたりの繰り返しで、大変だったんですよ~。」
Kobito「で、結局どうなったの?」
猫子「ティアラが精巧な偽物だった事が判明して、みんな白けて、解散になりました。」
Kobito「何だよそれぇ。(笑)」
猫子「笑い事じゃないですよ~。私こそ、わざわざドイツくんだりまで出かけて行って、長期滞在までしたのに、骨折り損のくたびれ儲けだったのですからね。」
Kobito「そうか~。でも、海外旅行できるなんて、うらやましいよ。観光も楽しめたんでしょう?」
猫子「ええ。そりゃあもう、近郊の景勝地にも足を延ばして、ヨーロッパを満喫しました。」
Kobito「良いなぁ。さっそく、旅の土産話を聞かせてよ。」
猫子「ちょっと待ってください。その前に、お聞きしたい事があるんです。」
Kobito「お、じゃあ聞こう。なんか頼む?」
猫子「それでは、甘酒をお願いします。」
バーテンダー「……。」
Kobito「すごい。甘酒も常備してるんだ。」
猫子「実はマイボトルなんですよ。」
Kobito「あ、常連さんなのね。どうりで、店の名前も猫子さんにピッタリ。」
猫子「ええ。猫のお客もくつろげる、お気に入りのお店なんです。」
Kobito「そういえば、バーテンさん、猫子さんの姿を見ても、全く動じてない。」
バーテンダー「……。」
Kobito「……ところで、聞きたい事って何?」
猫子「Kobitoさん、『笑ゥせぇるすまん』ってご存じですか?」
Kobito「うん、藤子不二雄Aさんの作品でしょ。アニメ版大好き。」
猫子「はい。私、ドイツで、YouTubeを見ていて、偶然、『笑ゥせぇるすまん』の公式チャンネルを見つけて、更新されるアニメを観ているうちに、すっかりハマってしまったんです。」
Kobito「おおー、私も見てるよ。今、デジタルリマスター版が順次無料公開されてるんだよね。」
猫子「そうなんです!あんな素晴らしい作品を、公式さんがただで見放題にしてくれるなんて、申し訳ないくらいありがたい事です!」
Kobito「まったく。しかし、猫子さんも、相当な入れ込みようだね。」
猫子「それはもう。なにしろ、今では、主役の喪黒福造様は、私が尊敬する、心の師匠とも呼べる存在なのですから。」
Kobito「へぇ。ダークなところのある喪黒さんを尊敬するって、珍しい。」
猫子「特に、人をたぶらかして陥れる事にかけては、右に出るものがいないというところに惹かれます。」
Kobito「いやな心の師匠だな……。」
猫子「でね、動画を観た後で、コメント欄を読むのも、楽しみの一つなんですが、そこで、皆さんが話されている事で、疑問に思った事があるんです。」
Kobito「どんなこと?」
猫子「喪黒様の、正体についてです。神出鬼没で、不思議な力を持っていて、人をまどわせ道を踏み外させる行動から、『悪魔』とか、そういうたぐいのものだと思っている方が多いようです。」
Kobito「そうだねぇ。セールスマンと名乗ってはいるけど、本当の素性は、違う感じだよね。」
猫子「ええ、だけど、喪黒様は、相手に被害を与えるだけではなくて、幸福にしたり、守ったり、助けたりする事もあるんです。それだと、悪魔らしくないですよね。」
Kobito「そうそう。そこが、人気の秘密でもあるよね。」
猫子「私は、喪黒様の良い面を見るにつけ、悪魔だとか、それに類する存在だとは思えなくなったんですが、Kobitoさんは、喪黒様の正体は、いったい何だと思われますか?」
Kobito「私も、喪黒福造は、悪魔とかそういう類のものではないと思う。」
猫子「そうでしょう?では、超能力を持った意地悪な人間でしょうか?」
Kobito「うーん、それも、ちょっと違うと思う。もしそうなら、見ず知らずのいろんな人に付きまとって、まだるっこしい手を使って困らせたりはしないで、自分の知っている人たちの中から、ターゲットを選んで、直接的な嫌がらせをするだろうから。」
猫子「そうかぁ。では、人間でないのは、確かなのかな?」
Kobito「これは私の意見だけど、喪黒さんは、人間ではないけど、人間でもある存在、じゃないかな。」
猫子「なぞなぞですか?」
Kobito「うん。答えが分かる?」
猫子「ちんぷんかんぷんです。」
Kobito「私も、喪黒の特徴が当てはまるものがないか、色々考えてみたことがあるんだけど、ある時、慣用句の、『魔が差す』という言葉を思い出して、喪黒はこの『魔』を象徴する存在なんじゃないかな、と思うようになった。」
猫子「『魔が差す』の『魔』、ですか。」
Kobito「そう。『魔が差す』っていうのは、『悪魔が心に入りこんだように、一瞬判断や行動を誤る。出来心を起こす。(goo辞書)』っていう意味なんだけど、『笑ゥせぇるすまん』に登場して、喪黒の客になる人たちは、みんな、どこかで魔が差して、喪黒の言葉に従ったり、逆に従わないで、ひどい目に遭ったりするよね。」
猫子「ああ!ほんと、そうです。」
Kobito「例えば、欲望に流されるように客を誘導する時は、喪黒はその客自身の欲望の声の代弁者として現れていると見る事ができるし、そういう誘いを行う人間を象徴する存在として現れていると見る事もできる。」
猫子「うんうん。」
Kobito「そして、欲望に溺れて道を踏み外しそうになった客に忠告する時は、その人の良心の声の代弁者として、警告を発っしていると見る事ができる。」
猫子「とすると、喪黒様は、お客さんの欲望や心の葛藤を象徴する存在、という事ですか?」
Kobito「そういう見方をすると、かなり当てはまる部分が出て来るんだけど、一方で超能力を示すのは、その場に実存しないと出来ない事だから、それを踏まえると、象徴的な存在とは別の、実体を持った何かなのかな、という気もして来る。」
猫子「ふーむ。そうですねぇ。超能力を使って、現実に超常的な影響を及ぼしたりもしていますからね。」
Kobito「そう、ただ、『魔が差す』の魔や『良心』を象徴している部分があるという仮説を念頭にして観ると、喪黒の優しかったり意地悪だったりという矛盾した行動も、腑に落ちる点が多くなって来て面白いんだよね。……あ、いま気が付いたんだけど、もしかすると、喪黒は、『魔が差す』の魔が、実体化した存在なのかも……。」
猫子「わぁ!それなら、超能力が使える事も説明が付くし、心の声という役割も担えるじゃないですか!」
Kobito「うーん、これは、作品を観ながら照らし合わせてみる価値、あり、だね。」
猫子「いやぁ。良いお話を聞かせて頂けました。これで、ますます『笑ゥせぇるすまん』を観るのが、楽しみになります!」
Kobito「私も、いつか誰かにこの仮説を聴いてもらいたかったから、今日は嬉しい!」
猫子「じゃあ、お祝いに、今日は大いに飲みましょう!」
Kobito「うん!お酒苦手だから、バーテンさん、バヤリース!」
バーテンダー「……。」
猫子「出て来たし!なんでもありますね、このお店!」
了
今回の猫子さんの復帰、2022年2月22日、にゃんにゃんにゃんの、スーパー猫の日を記念するのにふさわしい内容なので、その日に投稿できたら良かったんですが、23日にアイデアを着想したので、タイムマシーンでもない限り、間に合わせるのは無理でした。
でも、多分『猫の日』という言葉を方々で聴くうちに、発想が刺激されて、アイデアがまとまったと思うので、やっぱり、猫の日の記念作品だと思うのです。