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退職
この上ない幸せを感じていた。大好きな人と一緒に過ごしたその時間は宝物になる。ひと時の幸せが長く続くことはない。いまここにある宝物を抱きしめながら、家庭にいるのは違和感があるはずなのに、なぜか夫にも子供にも優しくなれた。後ろめたさなのかもしれなかった。
退職の日はあっという間にきた。それなりに職員からねぎらいの言葉と花束をもらい、最後に彼に会いに行った。同僚と談笑中の彼は、普段となんのかわりもなく、ふざけて、笑ってお疲れさまでしたと言った。結局ハグしてくれなかった。
彼は夜LINEで、だんだん寂しくなってきたよと送ってきた。遅いでしょと返した。
離れたら忘れられる、離れた方がいいに決まってる、そう思って退職を決めたのに。後悔があふれる。手を離したのは私の方だ。彼はどんな形であれ、私を必要としているのに、私にとってそれは最高の居場所なのに、私から捨ててしまった。もう戻れない。
無理やり理由をこじつけて次の日、彼の夜勤入りを送った。車から行ってらっしゃいと手を振った。もう彼と私は同僚なんかじゃない。ただのおはさんと青年だ。胸が張り裂けそうだった。自分の決めたことが恨めしかった。




