Side story 01 進化し続けるのが人間の悦びであり義務である
【蓮】
――七人で会議をした後の夜。
翔さんの運転でアイコーポに着き、社長室へ案内される。とりあえず今日は、社長室に簡易ベッドを用意するからそこで眠れと言われた。
僕は社長室の大きな窓から街を見下ろす。二十三時を過ぎているというのに、どこもかしこも煌々と電気がついていた。災害が起きようと街はいつもと変わらない姿でいつもと変わらない経過をたどっていく。災害に巻き込まれた側としては危機感がなくて暢気なものだと思う。
……だが、当事者にならないと危機感というのはなかなか持てないものなのだろう。現に僕もまさかあんなことになるなんて思いもしていなかったのだから。
「……夜景を眺めるなんてロマンティックな面もあったんだな」
翔さんの声が社長室の扉方面から聞こえてきた。簡易ベッドを持ってきてくれたようだ。設置しようとしてくれた、が。
「いや、なぜ翔さんベッドの真横につけるんですか。無駄に広いんだから離してくださいよ」
「意外とそういうところは気にするんだな」
僕は翔さんから簡易ベッドを受け取り、社長室の端に設置した。
「さて、蓮。ソファに座れ」
「もう寝る時間なんですけど」
「はぁ……。お前という奴は。手短に済ますから」
僕は渋々、翔さんが座っている対面のソファに座る。翔さんは僕の顔をしばらく見つめ、ふっと表情を綻ばせる。
「鼻血。出なくなったんだな。頭を使い過ぎても」
「十年前は未熟だったんですよ。今はどれだけ頭を酷使しても平気です」
「……酷使させるな。どいつもこいつも自分のことは二の次で困ったもんだな」
「天に……怒られました。なんで俺に連絡をくれなかったのか。頼りなかったのか。って」
「そうだよな。天は、間違いなくそういうよな」
翔さんは自分の髪の毛を両手でかき上げる。そして、ソファに深く腰掛けなおし天井を仰いだ。
「今回は俺の目論見が外れた。正午までに返事を聞かせろというワードから正午まで何もしないのだろうという希望的観測に流れてしまった。……危険な目に遭わせてしまった。申し訳ない」
「それに関しては僕も読みが甘かったです。生徒を危険な目に遭わせてしまった」
お互いに読みが外れたことを反省しあう。僕と翔さんは七人の中でも頭を使って一手先、二手先……それよりも先を考えて行動するタイプだ。
正直、今回の災害は防ごうと思えば防げた災害だ。
……今更、ああすればよかったこうすればよかったと言っていたらきりがないが。改めて、今、敵対している人物なのかAIなのか分からない存在に対して脅威を感じる。
「……嘆いていても仕方あるまい。蓮。明日からは俺の右腕としてビシバシ働いてもらうぞ。蠍AIのデータ解析は終わっているからその情報を纏めてほしい」
「はぁ。分かりました。蠍AIは今どうしているんですか?」
翔さんの表情が一瞬少しだけ険しくなったのを僕は見逃さなかった。
「一度変形すると、もう元の人型には戻れないようでな。そして、変形することで知能レベルも下がるようだ。こちらの指示には一切従わなかった」
「……そうですか」
僕はソファを立ち上がる。そして、翔さんに背を向けながら話を続ける。
「翔さん。僕たちはもう子どもじゃないんです。翔さんだけが汚れ仕事を引き受ける必要はないんですよ」
「……頼もしいな。愛ちゃんにも毎日のように言われている。もっと頼って欲しいとな。俺も、もう歳だからなぁ。今後はどんどん若者たちに仕事を振るとするよ」
「それでいいんですよ。あなたは社長なんだから」
「西園寺先生には叶わんな」
僕は自分のベッドへ歩みを進める。今日はいろいろなことがあって疲れた。前日分の徹夜も含めて睡眠時間が全然足りていない。
ふと、翔さんに目線をやるとデスクに腰かけパソコンを開き仕事をしようとしていた。
「寝ないんですか?」
「もう少しやっておくことがある」
「……間接照明使ってくれません? あと、アイマスクとかあります? 寝れないんですけど」
「…………。お前、本当に……はぁ」
翔さんが頭を抱えている。やはりお疲れのようだ。疲れているのに仕事をしたところで作業効率が落ちるだけなのに。まぁ、そこら辺は人それぞれ考え方があるからとやかくは言わないが。
明日からは翔さんのサポートか。秘書に確か天のお姉さんがいたよな。
……眠い。明日、色々考えよう。僕は目を瞑ると、すぐに微睡へいざなわれた。




