第5話 創造
校庭とは真逆の位置に天と蠍AIがいた。大きな鋏や、鋭利な尾を縦横無尽に動かし天に向かって攻撃を仕掛けている。すんでのところで避けているが、防戦一方なのは目に見えてわかった。
「おい! 天! アレの準備をしろ!」
虎が僕の隣で大きな声を出す。虎の声に気づいた天は、こちらを一瞬見てから小さく頷く。虎が天へ向かって駆け出す。天もまた虎へ向かって走る。蠍AIは天だけを執拗に追い、その巨体で地面を抉りながら迫ってきた。
天と虎が交差し、お互い目で合図すると鏡写しのように横へ飛ぶ。すると、二人の間の地面に鋭い尾が突き刺さり地面に深々と穴が開いていた。
虎は、突き刺さった尾を利用し飛び移るとそのまま走り、蠍の背に乗る。
天は虎とすれ違うようにしてこちらへ駆け戻り、ポケットから手のひらに収まるくらいのクリーム色の石のようなものを取り出していた。
「蓮! それにアッコちゃんも! 無事でよかった」
「天こそ。あんな化け物相手によくかすり傷一つ付かないで対処できたな」
「英雄だからな。……ちょっと、精神統一させてくれ。三分、いや、二分時間をくれ。
そう言うと天は石を握り締め、目をつぶった。
「西園寺蓮。我は千歳虎の援護に行ってくる。お前はここで待つのが最善だ」
アッコちゃんが虎の元へ飛んで行く。ワイヤーを用いて、両鋏を拘束し蠍AIの動きを鈍らせていた。虎は、蠍AIの背中の上で尾による攻撃を必死に避けている様子が伺えた。
僕の視界の外で、チカチカと微弱な光が点滅。何事かと思い、光の先を見ると天の握った石から、電流が迸り光の刃のようなものが生成されていく様子が伺えた。
「……! これは、一体?」
僕は眼鏡を押し上げる。眩い光と電流が力強く大きくなっていき、空気を焼き切るような音と共にそれは短剣のような形を維持するようになった。
「蓮はこれを見るの初めてだよな。“創造”っていうんだ。対AI用の武器」
「そんなものを隠し持っていたとはな」
「それじゃ、行ってきます」
天はそう言うと同時に地面を蹴り上げ、あっという間に蠍AIの元に距離を詰めていた。そして――。最後に、天が一瞬加速したかと思うと光の線が蠍AIの身体を一閃した様子が伺えた。
僕は息をのむ。時が止まったかのように、誰も動かない。
最初に崩れたのは蠍AIだった。巨体がぐらりと傾く。数歩よろめいたあと、轟音を響かせながら校庭へ崩れ落ちた。
僕は、三人の無事を確認するため駆け足で近づく。
「ふぅ……。終わった。虎、大丈夫だよね?」
「人使いが荒い隊長だな。久しぶりに死を覚悟したぜぇ」
「あれくらいの攻撃だったら虎なら平気だと思って任せちゃったよ」
「……オレを何だと思ってるんだ」
「我は救助者の数、負傷者の数を確認してくる」
虎が軽い身のこなしで、蠍AIの背から降りていた。
三人とも無事のようだ。僕はついに力が抜けて、その場に倒れ込む。
「おい! 蓮!」
「大丈夫、ちょっと疲れただけだ」
天が僕のことを背負い、虎が僕のことを視診している。
「木の枝による裂傷。あとはあの爆発だ。ロッカーで緩和されたとはいえ火傷もありそうだな。水ぶっかけて病院送りだ」
アドレナリンが出ていて、痛みが気になっていなかったが今になって全身がヒリヒリとし出す。そして、衣服も先ほどの脱出劇でボロボロになっていた。……我ながら、無茶をしたと思う。
少しばかり自分の行動を顧みていると、天の腕時計端末から声が聞こえてくる。
『小鳥遊隊長! 学校内の生徒及び先生全員の避難が完了しました! 負傷者は十数名いますが、死傷者なしです!』
「そっか。よく頑張ってくれた。ありがとう。今そっちに向かう」
レスキュー隊員との会話を終えると、天は僕を運びながら沈んだ声で聞いてくる。
「……蓮。なんで、俺に連絡をくれなかったんだよ。なんで、翔さんにだけ連絡した?」
「翔さんの方が情報を持っていると思った」
「蓮が困ったら助けるのなんて、当たり前だと思ってた。……俺、頼りなかった?」
お前が頼りないなんて言ったら世界中の人々から怒られるぞ。背負われているから天の表情が確認できないが……。長年の付き合いから推測するに、この声色は……いじけている可能性が高い。
「違う。頼ったら……来ると思った」
「そりゃ、行くよ。友達だし、幼馴染だし」
「天は、忙しいだろ。連日、中大規模の災害が起きている。だから……負担をかけたくなかったんだ」
天も僕も黙ってしまう。天と、虎の地面を蹴る音だけが規則正しく聞こえてくる。
「……めんどくせぇ奴らだな。負担掛けたくねぇからって黙る奴と、頼られなかったって勝手に落ち込む奴。どっちもクソめんどくせぇ」
天と僕は口をそろえて言う。
「「ごめん」」
「はぁ……。まぁ、見た感じ学校は滅茶苦茶で負傷者も複数人いるけどな、みんな無事だから結果オーライなんじゃねぇか?
校庭を見ると、すでに避難が終わっているようで先生たちが点呼をとっていた。天に背負われている僕を見かねた生徒たちがこちらに駆け寄ってくる。
「西園寺先生!? 大丈夫?」
「ははは。ちょっと無茶した。でも、生きてる」
生徒たちに囲まれている僕のことを見て、横を歩いていた虎は少しだけ口角を上げている。みんなが無事。学校は滅茶苦茶。……六十八点といったところか。次はもっと上を目指さないと。そう考えたところで、張り詰めていた意識がぷつりと切れた。
https://min-chi.material.jp/ 挿絵の背景お借りしました m(__)mありがたや




