第6話 全員集合
近くで、何人かの声が聞こえる。僕は人の気配を感じて、ゆっくりと瞼を開けた。
「あら、蓮くん。おはよう」
「蘭さん……?」
「蓮! 目が覚めて良かった。あれから五時間ずっと寝てたから……」
天が寝ている僕に対して、身を乗り出しながら覗き込んでくる。
僕はサイドテーブルに置かれていた眼鏡を装着し、辺りを見渡す。僕のベッドの近くには、蘭さん、天、虎、そして翔さんが椅子に座って僕の目覚めを待ってくれていたようだ。
ここは……蘭さんのクリニックか。久しぶりだな。
千歳蘭。前まで腰くらいまでの長髪だったが、今は肩につくかつかないかくらいの短髪。五十歳目前とは思えない妖艶さ。身長と声を聞かなければ、女性と見間違えてしまいそうだ。
翔さんが椅子から立ち上がり、ベッドサイドに立つなり乱雑に頭を撫でてくる。
「説教だ」
「なぜです?」
「分からんのか。なおさら説教だ」
翔さんは昨日から怒りっぽい。忙しさもあるし、寝不足もあるんだろうな。翔さんが口を開こうとした瞬間、クリニックの入り口を勢いよく開く音が遠くから聞こえる。そして、すぐに僕のいる病室の扉がドンッという音と共に開かれた。
白銀のロングヘアをたなびかせ、息を絶え絶えにさせながら勢いよくやってきたのは一条愛。アイコーポからそのまま来たのか綺麗めなブラウスにタイトスカート。ブラウンで統一した装いだ。
愛は病室のみんなを見渡し、怒ったような表情をしている。
「なんで私に声かけないで行ったのよ!」
「愛。仲間外れを最初に始めたのは蓮と翔だぞ」
「ええ?! どういうことなの、翔さん!」
「……蓮から相談を受けていたのにも関わらず、情報共有を怠った。そのせいで学校に被害が出た。面目ない」
「まさか、学校を爆発させるとは思いませんでしたね」
「こんな包帯まみれになってるのに何で他人事なのよ……」
愛は深く溜息をつき、僕のケガの具合をまじまじとチェックするように見てくる。
再び、クリニックの入り口の扉が開く音がして、愛の後ろから顔を出したのは僕と天の幼馴染で世界的アイドルの一ノ瀬奏。仕事終わりなのだろうか。帽子と眼鏡で変装をしている。帽子をとると、見慣れた緑のお下げが揺れた。
「天から、とんでもない内容のメッセージが来て冗談かと思ってたら、ニュースで蓮の学校が爆発したってやってて……。はぁ……。生きててよかった」
奏は床にへたり込む。愛が見かねて奏に手を差し伸べていた。
「……全員集合ね」
蘭さんが笑いながら、病室にいるみんなの顔を一人一人順番に見つめていた。……十年前の騒動後、こうして七人が揃ったのは何年ぶりだろうか。これから起こり得るであろう問題ごとを考えると、みんなで力を合わせなくてはならないので丁度良かったと言うべきか。
「さて、蓮は目覚めたばかりで悪いんだが。これからの話をしよう」
翔さんに目線が集まる。翔さんはアッコちゃんに目線をやり、指示しようとした。
「ちょっと待ってください。このアッコちゃんって何者ですか?」
「よくぞ聞いてくれた」
翔さんはニヤリと口角を上げ自信満々な表情を浮かべる。この人がこういう風に笑う時はロクなことがない。天と虎が「はぁ……」と溜息を漏らしている。
「ちなみに、アイコーポのマスコットキャラだからアッコちゃんだ」
「……今はふざける場面じゃないと思います」
みんなの顔を見渡すと、全員反応に困ったような表情を浮かべている。
翔さんは息を吐き少し間をおく。そして、とんでもないことを口にした。
「十年前に起きた騒動時のAIが入っている」
「は……?」
十年前に起きた騒動時のAIということは、人間を仮想空間……『AW』へ強制的に送ろうとしたAIのことを言ってるのだろうか? だとしたら、なぜ大人しくそんなへんちくりんなロボットに入っているのだろう?
絶句する僕の隣で、奏が目を見開き、信じられないものを見るようにアッコちゃんを見つめた。
「あ、あの時のAI?!」
奏が慌てている。無理もない。天と奏があの時、このAIと必死にやりとりをして今のこの時を勝ち取ったんだから。それがなぜ、今になって翔さんと一緒に並び、あまつさえ救助活動を手伝っているのか。
「蓮、奏ちゃん。そう身構えるな。大丈夫。今は味方だ」
「「今は」」
「さすが幼馴染。息がぴったりだ」
煙草を吸いながら呑気に笑う翔さん。僕や奏と明らかに違う温度差に苛立ちを感じる。天や虎は事前に説明を受けていたのか苦笑しながら僕らのやり取りを静観していた。
すると、機械音声特有の中性的な音声が聞こえてくる。
「AIがどうやら暴走しているようだ。それで各地で災害を意図的に起こしている」
「なぜ意図的に災害を……目的は判明している?」
僕は訝しげな表情を浮かべながら、アッコちゃんに問いかける。
「不明だ。AIが単独で暴走しているのか。人間がAIを操って暴走させているのかもわからない。だが、いずれにしろ看過できない状況だ」
十年前の騒動の時は人間がAIを蔑ろに扱い続けたことが原因で、このAIが人間に対して制裁を加えようとした。
……今回、もし十年前と同じように人間がAIを操っていた場合。このAIは再び人類をAWに送ると言い出しそうだな。
僕は背筋が冷える感覚を覚えながら、アッコちゃんに問う。
「君は僕たちの味方……なのか?」
「私はこの騒動の行く末を監視するために、今はこちら側にいる。真意を知る必要がある。そのためには、君たちと行動を共にするのが最も効率的だ。利害は一致している」
「……なるほど」
『今のところは』危害はなさそうだな。
「アッコちゃんがいきなり俺のノートパソコンに現れてな。自由に動かせるボディが欲しいと言うんで、こうなったんだ」
「信用していいんですか?」
僕はどうもAIが信用できない。日常的にも仕事でもAIは利用しているが、半信半疑だ。正しいことを言っている時もあれば、頓珍漢なことを言ってくることもある。
「そう指摘を受けると思った。人間は疑い深いからな。何かあったらすぐに翔が私を止められるように設定している」
「……そこまでしなくても俺の仲間たちは信用してくれるぞと言ったのだがな」
「余計な疑いをかけられるくらいだったら、最初から制限してもらった方が合理的だ」
「じゃ、アッコちゃん。信頼の証として分析内容を頼む」
「了解した」




