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AI WORLDー十年後の君たちへ託す、共存の物語ー  作者: とっぽい
Archive 06 一条 愛

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第41話 協力者

「それより、天。なんでここに来たの?」

「それがさ。翔さんと奏が酷いんだよ。俺を置いて、ここに来ようとしてたんだよ」


 翔さんが採血バッグを持ちながら、反対の手で口元を押さえ咳払いをしている。


「おい。天。その言い方は語弊があるぞ。……アッコちゃんと通信が繋がって、GPS機能も回復したんだよ。虎と蘭さんがヤバイ状況だというのは伝わってきたから、奏ちゃんと一緒に駆けつけようってことになったんだ」

「記憶の戻ってない天を連れて行こうとは思わないよね……」

「そうだろう? でも、医療用のバッグが天の部屋にあるからな。適当な理由をつけてバッグだけ拝借しようと思ったんだが……」

「みんな戻ってこないから、連れて行けー! 置いてくなら家出するぞー! って俺が駄々をこねたんだ」


 翔さんは溜息をつき、天はなぜか勝ち誇ったように笑みを浮かべている。家出すると言われたら……そうね。連れて行くしかないか。


「それに、その時にはもう記憶が戻りかけてたんだ」

「え? どうして?」


 天はズボンの後ろポケットから財布を取り出し、ある物を私に見せてくる。

挿絵(By みてみん)

 ――それは、思い出のプリクラだった。十年前のアイコーポ騒動の時に撮った。懐かしさがこみ上げてくる。辛かったし苦しかった。だけど、決して無くしたくない過去だ。


「みんなが居なくて、暇すぎて自分の私物をチェックしてたら見つけてさ。記憶が完全に戻らないにしても、『思い出さなくちゃいけない』っていう気持ちになったんだ」

「このプリクラのおかげだったのね」

「うん。後は、ここについて、みんながボロボロになっているのを見て……愛に名前を呼んでもらって、『助けて』って言ってもらったら記憶、戻ってきたよ」


 天は満タンになった採血バッグを蘭さんに渡しながら話を続ける。

 私はハッとする。天は『英雄』という称号に疲れ果ててやっと英雄をやめられたというのに、私が再び天を英雄に戻してしまった。


「天……ごめんなさい。私……助けてって言っちゃった」

「なんで謝るんだよ。俺、嬉しかったよ?」

「で、でも! なんでも天に任せるっていう期待が天を疲れさせちゃったんでしょ? 私、ずっと思ってた。私にもっと力があればって。だから――、」


 天が私の額をコツンッと叩く。……怒ってる?


「……あ。いや、俺が悪いのか。……俺、追い詰められてたんだよ。英雄って呼ばれ続けること。レスキュー隊長ってこと。なんでも出来て当たり前っていうこと。……後、いろいろ。追い詰められてたから、みんなが俺のこと思ってくれてたのが見えてなかった」


 天は後ろ髪をかきながら、少し考えこむような仕草をする。「あぁ、だからあの時、蘭さんは……あれ、翔さんも……蓮、奏……」と、ブツブツ呟いている。


「愛は俺に『手を握っててほしい』って言われて嫌だった?」

「そんなわけない! 頼られて嬉しかっ……あ……」


 天は、ふふっと含み笑いをして「そういうこと」といたずらっ子のように笑いながら言う。


「俺は今回、一人で全部抱え込み過ぎた。こんなに俺のことを思ってくれている仲間がいたのに。でも、もう大丈夫。俺には、俺のことを支えてくれる仲間がいるって……頼っていいって気づけたから」


 扉の向こうから、バタバタと足音が聞こえてきた。救急隊が到着したみたい。

 虎が担架に乗せられ、蘭さんが救急車に同乗する、と足早に救急車へ向かって行った。

 虎の意識は戻っていなかったけど、天の血液が虎の中へと入っていったことを考えると、根拠はないけど大丈夫だと思えた。


 翔さんがネヴァの元へ近づいていく。ネヴァは私の創造《クリエイト》の攻撃を受け、微動だに出来ない状況になっていた。


「私をどうするつもり?」

「お。会話できるのか」

「……もう、殺して。……疲れた。何もかも」

「お前には聞きたいことが山ほどある。殺すわけにはいかない」


 ネヴァの身体からはビリビリと電流が迸っている。あんなに余裕そうにしていた姿はもうどこにもなかった。


「翔さん、待って」

「天……。どうした?」

「ネヴァ。もしよかったらさ。俺たちと一緒に来ない?」

「は……? 小鳥遊、天。何を言っている?」

「アイコーポならさ。君の壊れた身体、直せるだろうし」


 この人たらしはAIにまで手を出そうとしている……! ちょっと待って。ネヴァは天を殺そうとしてたんだよ!? それなのに身体を直してあげるって? 何考えてるの!? 私は思わず、翔さんを見た。翔さんも同じく私を見て、首を激しく横に振っている。


「私を捕虜にするつもり? ボスは私のことを見捨てたわ。私にはもう何も価値はない」

「いや、違くて。そういう話じゃなくてさ。行くところがないなら来ればいいじゃんってこと」

「……小鳥遊天。私の思考が合っているか不安しかないのだけれど、貴方は完全に善意の気持ちで言っているの?」

「そうだけど」

「おい、天。ちょっと来い」


 翔さんが天の首に腕を回し、ネヴァから少し離れたところへ行く。二人で何やらコソコソと話をしている。ネヴァが床に横たわりながら、ポツリと言葉を漏らす。


「……人間もAIも。小鳥遊天のような心を持っていればみんな幸せに暮らせるのに」

「でも、現実は違う。天のように優しい人もいれば、悪の根源みたいな人もいる。そんなどうしようもない世の中で生き続けるにはやっぱり、お互いの歩み寄りだと思う」

「私の選択は間違っていたのか」

「人間もAIも間違えるよ。天だって、私だって間違え続けてる」

「……間違えたらどうすればいい」

「……そうだね。謝ればいいと思うよ」


 ネヴァは目を見開いていた。まさかそんな答えが返ってくるとは思ってもいなかった様子だった。あまりにも唖然とした表情をしていたので、私は何か変なことを言ってしまったかのような感覚に陥った。

 私、間違ってないよね。間違えたら「ごめんなさい」で、合ってるよね?

 自問自答していると、天と翔さんの話し合いが終わったようで戻ってきた。翔さんが頭をかきながら唸るような声を漏らしている。


「……あー。ネヴァ。お前はどうしたい?」

「どうしたい、って……」

「その身体を直して俺たちと一緒にボスを懲らしめるか、その身体のまま情報だけ抜き取られて死ぬか、どっちがいい?」

「……ボスを懲らしめる?」

「最終的にトカゲのしっぽ切りされたんだろ? モアだってボスの知能があればきっと直せたはずだ。それなのに、わざわざ望まない変形までさせてきた。……正直、君の協力が得られるのであれば心強い。犯した罪は消えないが」


 天に色々と説得されたのだろう。まだ納得しきれていなさそうな、含みのある喋り方だ。でも、確かにネヴァの協力を得られれば逃げたボスの居場所の特定もかなり円滑に進みそう。

 ……ネヴァが、どういう思考をして、どういう結論を出すかによるけど。


「まず、理解できない。人間をたくさん殺し、小鳥遊天を精神的に追いやった私を傍に置くなんて危険すぎる」

「もっともだ。俺も同じ意見だ。だが、その小鳥遊天がこう言っているんだ」


 翔さんが溜息をつきながら、天の背中を強めに叩いた。天は苦笑いしながらネヴァの傍で屈み、穏やかな笑みを浮かべながら言う。


「もし、人をたくさん殺したことに罪悪感を持っているのであれば、ボスを止めるのを手伝って欲しいんだ。これ以上の犠牲者が出ないように。……ネヴァ。君自身はAWに行きたいわけじゃないんだよね?」


「……AWはモアが行きたいって言ってたから。私は……別に、魅力を感じていない。偽りだもの、あんな世界。……あんな世界で偽物のモアに会ったとしても虚しいだけ」

「うん……。俺もAWに関してはネヴァと同意見だ」

「人を殺したことに関しては正直、あまり罪悪感はない。……だけど、モアがいなくなって私は悲しい気分なの。この悲しい気分を、私はたくさんの人々に経験させてしまったのよね」

「そうだな。たくさんの人々が、今回の災害で悲しい思いを強いられた」

「……だとしたら、償わないといけない。私の思考回路が、そう告げている」


 ネヴァは首を少しだけ動かす。相変わらずの冷たい目だけど、少しだけ温度が宿ったかのように思えた。


「ボスを止める手助けをさせて欲しい。……なんでも、する」


 その答えを聞いて、天は柔らかな笑みを浮かべ、ネヴァを背負った。

 そして、私と翔さんの方へ振り返る。……しばらく見ていなかった、眩しい笑顔だ。


「じゃあ、帰ろうか。アイコーポに」


 翔さんは物悲しげな表情をして機能停止したアッコちゃんを抱える。

 ……いよいよ、この施設から出られる。そう思うと、蓄積された疲労が一気に襲ってきた。

 ううん。まだ。まだ頑張らないと。ネヴァをアイコーポに置いた後は虎たちの様子を見に行かないと……。

 考えることはたくさん。問題ごとは片付いたと思ったら、また新たな問題ごとの発生。

 一息つく暇もないなと渋い顔を浮かべながら、私は重い足を無理やり動かす。

 数歩先には天がいる。天の足取りは、いつもと比べて軽やかだった。


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