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AI WORLDー十年後の君たちへ託す、共存の物語ー  作者: とっぽい
Archive 06 一条 愛

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第37話 約束

 社長室に戻ると、翔さん、蓮、奏ちゃん、希さんが待っていてくれた。


「愛ちゃん。創造《クリエイト》の説明は受けてきたかい?」

「ええ。……えーっと。忖度なしに言うと、翔さんと蓮は身体能力の部分でクリエイトが扱えないよね?」

「……面目ないな。その通り。おそらく、俺と蓮が一人で創造《クリエイト》を使おうとすると一気に体力が持ってかれてすぐに倒れる」


 翔さんと蓮はバツが悪そうに俯いている。


「奏ちゃんや希さんはAIだから、創造《クリエイト》を使おうとすると大変なことになるよね」

「ううう……。役に立てなくてごめんね」

「奏ちゃん。私たちは他のところで役に立ちましょうねぇ」


 消去法にはなったけど……。私は拳を握り締め、決意を宿した目でみんなを見る。


「じゃあ、私が行くしかないってことだよね」

「待て。愛。僕も行こう」


 私は目を見開く。まさか、蓮が名乗り出るとは思わなかった。いつも参謀としてみんなを導いてくれていたから。蓮は眼鏡を押し上げながら、言う。


「愛は創造《クリエイト》の発現条件をすべて満たしていると思う。だけど、今まで扱ったことがない。それを踏まえると、精神状態が安定していて、想像能力も高い僕と組むのが最も合理的だ」

「あはは……。一人で乗り込んだら、それこそ不安に押しつぶされて創造《クリエイト》使えなさそうだよね。蓮が一緒だと安心だよ」

「蓮には俺が行くと言ったんだがな。『翔さんは、指示出しと不測の事態が起きた時のサポートをするのが合理的でしょう』ともっともなことを言われてしまって」


 翔さんが煙草を吸いながらボリボリと頭をかいている。その薄っすらとした笑みには、申し訳なさと心配が滲んでいた。


「代わりといっては何だが、アッコちゃんがついていくから」

「AIの行く末を見届ける。そして、我が同胞が、お前たちが作った共存世界を崩そうとしていて申し訳ない。代わりに謝罪する」

「……ねぇ。さっきから難しい話をしてるけどさ。愛と蓮、どこか行くの?」


 天が私の横で口をへの字にし、むすっとした表情を浮かべていた。それを見た、奏ちゃんと希さんが天の元へ駆けつけ、まぁまぁ、と宥めている。


「虎も蘭さんもいなくなるしさ。……みんな、俺に内緒でなんかしてるんでしょ」

「天……。ごめんね。仲間外れみたいだよね」

「そうだよ。仲間外れはよくないんだぞ」


 私は天の目の前に立ち、天の目をしっかりと見る。曇りのない、赤い綺麗な目だ。私たちはこの真っ直ぐな目に何度救われただろう。

 ……今度は私たちが返す番だよ。


「天。虎たちを連れて帰ってくるから、戻ってきたらみんなで遊ぼう。絶対」

「あ、虎たちのところに行ってくるの? 迷子になってるのか」

「ふふふ。そう。迷子になってるから助けてくるね」


 天は私に対して小指を差し出してくる。


「指切り。約束だよ。あと、愛。まだ俺に負けた罰ゲーム受けてないからな」

「……忘れてた。絶対戻ってくるから、待っててね」

「うん」


 私と天は指切りをした。

 そして、笑い合う。針千本なんて絶対飲んでやんないんだから。そう意気込んで、私と蓮とアッコちゃんは天たちに見送られながら社長室を後にした。




 配送業者に協力してもらって、私と蓮とアッコちゃんは段ボールに忍び込み敵地への侵入を成功させた。段ボールから出ると、そこは倉庫のような場所だった。

 私と一緒の段ボールに入っていたアッコちゃんは天井近くまで浮遊したかと思うと、コンセント型の尻尾を、ぶんっ! と振り回し何かを壊しまわっていた。


「監視カメラを壊してくれているんだろう」

「なるほど……。虎たち、どこにいるんだろう? アッコちゃん、分かる?」

「……妨害電波が飛んでいて、千歳虎たちが持っている発信機が感知できない」

「ここを手当たり次第で探すのは、骨が折れるよね」


 私が口元に手を当てて考えこもうとしたら、少し離れたところの扉が自動的に開いた。

 蓮と私はその扉を注視する。だけど、一向に誰かが来る気配はない。


「……罠。だろうな。だけど、手掛かりがないから行くしかないか」

「そうだね。注意しながら行こう」


 私たちは開いた扉に誘われるようにして向かって行く。扉の先は白い通路が延々と続いていた。青白い光が、無機質な恐怖を感じさせる。物音は、一切ない。私たちの足音だけ。

 コツ、コツ、コツ……。私が前を見て、蓮が後ろを見ながら歩く。アッコちゃんは周囲をくまなく警戒してくれている。

 音もなく、数百メートル先の扉が開いたのが見えた。まるで、そこに入れと言わんばかりに。……明らかに誘導されている気味の悪さを感じつつも従うしかない。

 コツ、コツ、コツ……。私たちは油断せず、一定の速度で開かれた扉に向かって進んでいく。

 私の冷や汗が、一粒、床に落ちる。……怖い。怖い。この先に何が待ってるというの?

 そして、首に刃物が突き立てられているかのような悍ましさを感じる。指先が震えだして、順調に進んでいた足も言うことを聞かなくなってきた。

 情けない……。こんなんじゃ、ダメなのに……。

 すると、蓮の手が私の手をぎゅっと握り締める。力強く、私を前へ前へと引っ張ってきた。


「しっかりしろ、愛。まだ敵にすら会っていないのに」

「だ、だって。この雰囲気、怖すぎなんだもん」

「はぁ……。この場合、何か起こってから対処するしかないんだから腹を括って進むしかないだろう」

「いや、それが出来ないから震えてるんでしょ!」

「全く。世話のかかる」


 文句を言いつつも、私の手を握りながら先陣を切ってくれている。迷いなく進む足取りは私の不安を少しだけ消してくれた。


「蓮は怖くないの?」

「怖いより怒りの方が勝っている」

「……蓮って怒るんだ」

「親友があそこまで追い込まれてるんだぞ? 怒りでどうにかなりそうだ」

「ええ? そうは見えないけど」

「昔から感情が顔に出ないんだよ。内心はドロドロで見せられたものじゃない」


 私は、ふふっと含み笑いをする。蓮でも感情的になることがあるんだ、とちょっとした親近感。ものすごい頭が良いからAIみたいと思ってたけどしっかり人間だ、なんて失礼なことを考えたら自然と笑えて来た。


「さて、入るぞ」


 開かれた扉を進んでいくと、薄暗い部屋の中に一か所だけ青白く照らされている空間があった。


 ――そこに、虎と蘭さんがいた。



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