第32話 潜入
――三日後。デジタルオフィス捜索日。
オレと蘭は緩衝材と共に別々の段ボールに詰められ、まずは翔の一番信頼できる会社に運ばれた。蓮と愛が荷下ろし要員でついて来ている。
……翔は先日、オレが思い切り技をかけてしまったので腰痛が悪化し重いものを持てなくなってしまった。仕掛けてきたのは翔だ。オレは悪くない。
翔と、そこの社長と思われる人物の会話が聞こえてきた。
「この二つの荷物を一緒に送付すればいいんですね。分かりました。ちなみに中身は何が入っているんです?」
「アイコーポの新しく開発した製品です。御社と古くから交流があると、相手先に説明したところ製品の比較をしたいという申し出がありまして。こちらとしても、自信をもって紹介できる製品なものですから出来るだけ早く届けたいと思いましてね。今日発送なんて運が良かった」
「天下のアイコーポ製品とうちの製品が比べられるのですか。参ったな」
翔が営業トークを長々と続けている。
真っ暗な箱の中、身動き一つとれない窮屈さと緩衝材の匂いにうんざりしていると、ポケットのスマホが震えた。……愛か?
『天のことは任せてね。虎はいっぱい暴れてきて!』
オレはふっと笑みを漏らす。当たりめぇだ。……こっちは好き放題やられて腸煮えくりかえってんだ。やられた分を返すだけじゃ物足りねぇ。十倍、百倍にして返してやる。
体が浮く感覚。そして、どこかに積まれたような振動が体に伝わってきた。……いよいよ、敵の根城に関係するところへ行ける。そう思うと、オレは神経の高ぶりを感じざるを得なかった。
三十分くらい経っただろうか。ようやく、オレと蘭を乗せたトラックの動きが止まった。目的地に着いたようだ。
ガガガッ、と重いものを動かすような音が聞こえてきた。重機の音か? オレが考えを巡らせていると、ガチャンッと金属同士がぶつかるような音。そして、浮遊感。……おそらく、オレたちはコンテナか何かに入ってて吊り下げられている状態か。
どこに運ばれているか分からない不安感を抱えつつ、オレは身を任せるしかない。そして、身体全体が揺さぶられる。……数秒、息を殺して状況を伺う。
――周りに、何者の気配も感じない。
オレはそう判断すると段ボールを蹴破り、コンテナ内に降り立つ。長い間同じ体勢でいたから関節が固まってバキバキだ。辺りを見渡しながら軽く伸びをする。
蘭も同じく段ボールから出てくる。オレたちは言葉を発さず、コンテナの扉付近に身を潜めた。
しばらく息を潜めていると、地面を蹴る音が近づいてくる。一……二……。二人、いや二体か? 二つの足音が聞こえてきた。蘭はコンテナに耳を近づけ、オレに向かって指を二本立てている。
コンテナをガチャガチャと弄る音。そして扉が開かれ、眩い光がコンテナ内に差し込む。それを合図とし、オレと蘭は同時に扉を開けた主へ飛びかかる。
「ごめんなさいね。あなたは人間? それともAI?」
蘭は、コンテナの扉を開けた男の背後へ流れるように回り込み、首に腕を巻き付け確保。首元には毒々しい色をしたメス型の何かを突き立てる。
蘭が確保したと同時に、オレはもう一人に奇襲をかける。真正面から飛びかかり、相手の胸部を両足で思い切り踏みつける。そいつはオレの勢いに耐え切れず、地面に鈍い音を立て倒れ込んだ。
「変なことすんなよ?」
オレは相手の両上腕を足で踏みつけ、メスの刃先を目玉すれすれのところでとめる。AIなのか人間なのか分からないそいつは、怯えたような声を出し涙目になっていた。
「な、なんなんだお前らは!」
「あなた方に質問する権利はないの。もう一回だけ聞くわね? AI? 人間?」
「人間! 人間だ!」
「このコンテナの荷物はどこに運ぶ予定だったの?」
「は?! それは個人情――」
ガンッ! ……蘭が捕まえていた男の髪の毛を思い切り引っ張り、力任せに男の身体をコンテナにぶつけやがった。男の顔が、痛みと恐怖で歪んでいる。オレが拘束している男も嗚咽を漏らしながら許しを乞うている。
「今のあなた方は、私の聞いたことに対して真摯に答えればいいのよ? そうしたら優しくしてあげるかもね」
蘭は持っていた毒々しいメスを男の頬に滑らせる。男は涙を流し、呼吸を荒くしながら蘭が欲しがっている情報を吐いた。
「こ、ここの建物の地下です。て、定期的に! たくさんの荷物を置きに行っています!」
「いい子ね。じゃあ、私たちを荷物としてそこの建物の地下とやらに送り届けて頂戴」
「は、はぁ……」
オレたちは再び、段ボールへ入り直す。そして、男たちがオレたちを運び出した。
『生体認証を確認しました』という機械的な音声が聞こえる。セキュリティを潜り抜け、しばらくの揺れの後、どこかに置かれた。……男たちの気配がなくなる。
トントンッ、と蘭が段ボールを叩く。それを聞いてオレは再び段ボールから這い出た。
「……倉庫、だな。機材がこんなに」
天井がやたら高い。広さも……かなりのものだ。奥行きに終わりが見えないくらい広大な倉庫。大きな棚には、所狭しと機材が一ミリのズレもなく並べられている。これだけ完璧に管理されているところを見ると、AIが噛んでいることは明らかだった。
「さて、虎。まずはどこへ行きましょうか?」
「あー? 行くんじゃねぇ。連れて行ってもらうんだろ?」
オレと蘭は倉庫内についていた監視カメラを見つめて不敵に笑った。




