↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI WORLDー十年後の君たちへ託す、共存の物語ー  作者: とっぽい
Archive 05 千歳 虎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/53

第28話 代償

 オレはあがった息を整えながら、天の元へ行く。AIの言葉は絶対天に聞こえていた。それに、男に何か言われてないか不安だ。近づくと、二人の会話が聞こえてきた。


「月渚を助けてください」

「……奥さんは」

「月渚を」

「…………」


 男は女を呆然と見つめていた。オレは原型のなくなった女の顔にR-METのジャケットをかける。

 拳を強く握る。爪が掌に食い込み、血が滴る。……助けられなかった。最善は尽くしたつもりだ。だけど、結果を目の前にすると無力感が襲ってきた。


「小鳥遊隊長! 遅くなり、申し訳ございません!」

「この男の人を運んであげて」

「……? 月渚は? 俺は後でもいい。月渚、を」

「……運んであげて」

「「了解」」


 男はずっと女を見つめている。担架に乗せられた後も茫然と女だけを見ていた。

 そして、いよいよ運ばれるという段階になって男は天に向かって逆上して泣き叫んだ。


「英雄の癖に……ッ! 人一人救えねえのか! お前なんか使え――、」

「……っ! 早く救搬しろッ!!」


 オレは男の声をかき消すように大声を上げた。レスキュー隊が足早に男を運んで行く。

 天の横顔を見ると、仮面をつけたように表情が固まっていた。張り詰めた空気がピリピリと肌を撫で、まるで呼吸の仕方を忘れたかのような静けさが満ちている。


「……た」


 天は、小さな声で繰り返し何かを呟いていた。わずかに動く乾いた唇の隙間から、まるで呪いの言葉のように同じフレーズだけが途切れなく聞こえてくる。オレはその声を聞き取ろうと、天に近づいていく。


「俺が、創造《クリエイト》を早めに準備して一太刀いれれば、女の人は死ななかった。俺が、創造《クリエイト》を早めに準備して一太刀いれれば、女の人は死ななかった。俺、」

「やめろ、天」


 天は女に目線を落としたまま微動だにしない。呟きだけが消えた。


「やれることはやった。そうだろ?」

「虎まで、危険な目に遭わせた」

「あ?」

「創造《クリエイト》、あんなの初めてだ。お、俺、創造《クリエイト》使えなくなっちゃったのか?」

「……使えてただろうが。ちょっと調子悪かっただけだろ」

「…………俺、救えなかった」


 消え入りそうな声が、天の口から零れ落ちる。救えなかったというどうしようもない絶望が、ねっとりとオレの身体にまとわりついた。

 オレは言葉が見つからず、天に向かってそっと手を伸ばそうとした。その時、イヤホンからアッコの音声が聞こえてきた。


『マンション内にいる人間は全て避難完了した。死、』

「……アッコ。報告はあとで受ける。お疲れ」

『了解した』


 そう言い終えると、目の前の天が糸を切ったかのように急に地面へ倒れ込んだ。一切受け身をとらず、頭から。鈍い音と共に土煙が上がる。オレは慌てて天に駆け寄る。


「おい! 天、どうした!?」


 天を抱きかかえ顔を見る。鼻血が多量に流れ、目の焦点が合っていない。

 目の前の光景に理解が追い付かず、まずは医学的な判断をしようと思った。が、オレは天がクリエイトの説明をしていた時のことをふと思い出す。


『稼働限界はわずか三十秒。それ以上は脳への負荷が限界を超えて最悪の場合、廃人になる』


 ……ッ! 不発だった時と合わせて何秒だ!? 三十秒超えてたのかよ!? オレは天の腕時計端末を弄り、レスキュー隊員を呼ぼうとする。

 すると、天の手が弱々しくオレの手首を掴んだ。


「駄目だ。虎。それだけはやめて……」

「はぁ!? 何言ってんだてめぇ! 創造《クリエイト》のせいでそうなってんだろ!?」

「……英雄が、入、院なん……って。ただでさえ……日本中の人が不安になってるのに……。俺がもっと、しっかりしないと。だから……お願いだよ、虎」

「お前…………馬鹿か……」


 自分がこんなにボロボロになっているのに。まだ、他人のことを考えている。そんな天を見て、俺は沸々と怒りが込み上げてきた。

 なんで、自分を大切にしねぇんだ。なんで、お前がここまで追い込まれねぇといけねぇんだ。なんで……オレたちがお前のことを守りてぇって言うのが伝わんねぇんだ。様々な想いがグルグルと頭の中を巡り、咄嗟にオレは言葉として出してしまう。


「うるせぇ! お前はいつもいつも! 人が人が人がって!! なんで自分のことを考えねぇんだ! なんでお前だけがこんなに酷いこと言われて心までボロボロになる必要があんだ!」


 天は空洞のようになった目を懸命にオレに向ける。そして、口元を緩ませ力なく笑った。


「だって、この世界が好きなんだよ。虎もいる、みんないる。だから、守らないと。英雄って辛いけどさ。俺が英雄であることで、どこかの誰かが救われているなら、それでいい」


 そういうと、天は静かに瞼を閉じ、脱力した。オレは咄嗟に脈をとり、呼吸状態を確認する。……意識を失っただけか。規則正しい呼吸音が、オレを安心させた。だが、一回病院で見てもらった方が……。


『――駄目だ。虎。それだけはやめて……』


 オレは奥歯が欠けるくらい力強く噛みしめる。そして行き場のない感情を拳と一緒に振り上げ、地面を叩きつけた。




 あの後、オレたちは隊員たちに後始末を任せてアイコーポに帰らせてもらった。

 意識のない天を、後部座席に乗せてオレは車を運転する。

 誰が、どう見ても限界を超えていた。

 オレは、バックミラー越しに天の痛々しい姿を見る。顔は土と鼻血で汚れ、力なく横たわる姿は人形のようだった。オレはハンドルを、壊れるくらいに力強く握る。


『…………俺、救えなかった』


 さっき、天が最後に言っていた言葉が何度もオレの頭で再生される。

 ちげぇだろ。なんで救えなかったことだけ評価すんだよ。……お前は、救えなかった人以上にたくさんの人を救ってきてるだろうが。

 ……天。…………オレ。オレだって、お前に救われたんだぞ。

 オレは背もたれに体を預け、髪の毛をぐしゃりと掴む。やり場のない焦燥感と絶望を胸に燻らせたまま運転を続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。