第26話 希望
【虎】
――神崎テクノロジーの出来事から数日後。
翔や蓮が双子AIの足取りを調べているようだが、未だに手掛かりは掴めていない。翔曰く、相当な知識を持った奴が裏で糸を引いているらしい。
しかも、敵はAIたちが安らかに過ごせる世界――AWを作ろうとしている。
……オレにはよく分かんねぇ。勝手に作らせて、勝手に過ごさせてやればいいじゃねぇかと言ったら翔が強めに俺の頭を叩いてきた。「何のために政府が管理してると思ってるんだ!」とか言ってたな。はぁ……。めんどくせぇ。
「虎! アッコちゃんから通信が入った。あと三人くらい運ばれてくるみたい。トリアージは赤一人、黄二人」
「おー。任せとけ」
災害は否が応でも起こされる。今回はマンションが狙われた。
一般人は頻回に起こる災害を警戒して外出を控えだした。政府からも、いよいよ不要不急の外出を控えるようにというアナウンスがニュースなどを通して繰り返されているので、街は大分人通りが少なくなった。
敵側も今までは商業施設や学校など大勢が集まるところを狙っていたが、人々が出歩かなくなったからか、出来る限り人々がたまりやすいところを狙ってきているのだろう。
「千歳先生! 赤タグの人です」
「……ん」
顔面の下半分が潰れている。鼻腔、口腔からの多量出血。オレはその時点で、バイタル測定を天に任せ、医療バッグから気管挿管一式を準備。
「虎……! 意識レベル三桁。血圧50台。SpO2 68%、」
「バイタルはもういい。ルート取れ。鈴木は頭頸部固定。あと、橋本って言ったか? お前は吸引準備」
「「「了解」」」
橋本が吸引カテーテルを口腔内へ入れ、溜まった血液を吸い上げていく。
オレは喉頭鏡を差し込む。口腔内はまだ血だらけだ。
「……まだ見えねぇな。もう少し吸ってくれ」
吸引チューブを鮮血が多量に通り過ぎていく。これは早く輸血しねぇとな。
視野を遮っていた血液が吸い取られ、わずかに声門が見える。そのチャンスを見逃さない。
「よし。入れる」
オレは気管チューブを声門へ進め、バッグバルブマスクを接続した。
「換気」
橋本がバッグを押す。胸郭動きOK。数秒後、酸素飽和度が少しずつ上昇していく。しっかりと挿管できたことを確認して、オレは気管チューブを固定した。
「……上がってきたな」
「虎! 輸液は全開でいいよね?」
「おう。……このまま救搬だ。連れて行ってくれ」
「「了解!」」
鈴木と橋本は患者を救急車へ運んでいく。
処置を終え、オレは倒壊したマンションを見上げる。いわゆるタワーマンションだ。中層階で爆破されたらしく、高層階は隣のマンションにもたれかかるように崩れている。
R-METだけではなく、他の救急隊も来て一斉の救助活動となった。
――もちろん、死亡者もでている。
災害を発生させている主犯を逮捕すべく、警察も一斉捜査をしているようだが成果は上げられていないようだ。止められない災害。日本中に恐怖が蔓延っている。
「虎。黄色タグの二人なんだけど、あっちの方にすでに避難してるみたい」
「分かった。今行く」
倒壊したマンションから少し距離を置いた場所に、黄色タグをつけられた傷病者が横たわっていた。
二人とも見てくれから自力歩行が難しい様子だ。
一人は左足が曲がってはいけない方に曲がっている。もう一人は……見た目は何ともないが全く動けない様子から脊髄損傷を疑った。
「え、英雄の小鳥遊天じゃないか。た、助かった」
「英雄が来てるの? よかったぁ」
「俺が来たからもう大丈夫です。安心してください」
「二人とも身体を一ミリも動かすな。今、救急搬送の準備する」
オレが凄むと二人とも指示に従い、空を仰ぐ。
天が腕時計型の端末に向かって隊員に対し、応援要請をする。男の方の骨折はまぁ治る。だが、女の方の脊髄損傷は……。
「身体動かしたらダメなのは分かりました。話すのは大丈夫ですか?」
「あー? まぁ、話すくらいなら。首も動かすなよ」
呼吸……は、普通に出来ている。それはまぁ、救いではある。
「こんなところで死んでられないんですよ。ね? あなた?」
「ははは。本当にな。一週間後には結婚式だもんな」
二人は指輪を見せ合っている。オレは、心の中で舌打ちをし顔を背ける。女が、これからどうなっていくのかが分かるからだ。
そんなオレの態度を見て、天がオレの肩に手を置く。そして首を横に振り静かに微笑み、二人と向き合う。
「……おめでとうございます。良い式になるんだろうな」
「それはもう、演出とかもたくさん考えたもんね?」
「あぁ。式に来てくれた人みんなが楽しめるようにってな」
災害現場だというのに、軽薄なノリな二人を見てオレは溜息をつく。
ピリッ。
細い電流のような、気配。頭上よりも遥か遠くから鋭く感じた。




