Side story 03 それは絶対に内緒だからね!
【愛】
翔さんの計らいで、今日からみんながアイコーポで寝泊まりすることになった。
蓮や蘭さん……そして奏ちゃんまでも狙われて、私は恐怖を感じていたからみんなと一緒にいられるのは有難かった。
流石に一人一部屋というわけには行かず、翔さんがいる社長室に翔さんと蓮。虎と蘭さん。私と奏ちゃん。そして……、天は持ち帰りの仕事があるからという理由で一人部屋。
奏ちゃんは、少年AIとのやりとりが終わったようでついさっき部屋に戻ってきていた。気持ちが沈んだような表情をして、思い詰めている。
「奏ちゃん……?」
「愛ちゃん……」
奏ちゃんとは十年前のアイコーポ騒動で出会ってから意気投合し、一緒に買い物に行ったりお互いの家を行き来したりして交流を継続していた。
ただ、奏ちゃんは世界的アイドル。スケジュールがキツキツ。私も高校卒業後すぐにアイコーポで働き出したから、お互い忙しかったがそれでも少しの時間を無理矢理見つけて会っていた。
そのおかげかな。奏ちゃんの無理している時の表情が分かるようになった。……今、その表情をしている。
「愛ちゃん。私、幸せなんだ」
「どうしたの? いきなり」
「幸せな人は不幸な人の気持ちを分かってあげられないものなのかな」
「うーん……。そうだね。完全に理解するっていうのは難しいのかも」
「やっぱりそうだよね」
奏ちゃんはソファに腰掛け、長い溜息をつく。たぶん、少年AIとのやりとりで何かがあったんだろうな。
「幸せな人が不幸な人の気持ちを分かってあげたい! って言っているのに、いや、いいです。って断られたらどうすれば良いと思う?」
「ええ? そう、だなぁ……」
いきなり難しい質問をされて、私は唸りながら考える。
「その人が心を開いてくれるまで、待つしかないかな」
「心を開いてくれる保証はないよね?」
「そうだけど、無理矢理詰め寄っても引かれるだけだし。放置するっていうのもやっぱ見捨てるんだ! って思われちゃうから。やっぱり待つしかないよね」
「そっかぁ……。愛ちゃんはやっぱり私には考えつかない思考をしてくれるね。ありがとう」
奏ちゃんは柔らかく笑う。よかった。納得のいく返答ができたみたい。奏ちゃんはたまに
こういう哲学的な難しい質問をしてくるからドキッとする。
「今日は……疲れたなぁ」
「右足大丈夫? 大怪我したって聞いたよ」
「……部品取り替えてもらったから平気」
右足を曲げ伸ばしして見せてくれる。そして再び、奏ちゃんの表情が暗くなる。
「愛ちゃん。天のことなんだけど」
「……うん。また、何かあった?」
「災害現場で……英雄なのになんで助けられないんだ! って、怒鳴られてた」
「そう……なんだ」
「亡くなった人たちも沢山いた。……天はこの辛い光景を何回も見てるんだって思ったら胸がキュッとなった」
天とはアイコーポ騒動後、月に一回近状報告として会っていた。メッセージも、他愛のないものも含めてその都度送り合ってたっけ。
数ヶ月前から増えた災害により、月に一回会うというのが出来なくなり、メッセージもなかなか返ってこないことが増えた。いつまで経っても既読にならないメッセージを見て、忙しいから仕方ない、と自分に言い聞かせる。
……いや。負担にならないようにというのは自分を守る言い訳ね。どんどん忙しくなって、どんどん追い詰められていく天を目の前にして、どうすればよいのか分からなくなったというのが本音。
だから、遠目で天のことを見守っていた。天が助けを求めた時にはいつでも手を差し伸べられるように。……だけど、やっぱり見守るだけじゃダメみたい。
「あと、愛ちゃん。まだみんなに言ってないんだけどね。少年AIがいきなりシャットダウンして……データを全部デリートされちゃったの」
「……それって都合が悪くなったから消されたってこと?」
「たぶん、そう」
「ほんと、繰り返されるよね。また、人間がAIを操っているの?」
「ううん。今回はAIがAIを操ってる」
AIがAIを操る……。人間同士が互いの欲求を通すために仲違いするように、AI同士も同じようなことが起きているんだ。
「そして、天を狙う理由が少年AIのボスに当たる人がAWに行きたいみたいで。そのためには天が邪魔だから、天を消そうとしてるんだって」
「そんな自分勝手許されるわけないじゃない」
「……そして、天を消すためには天が守りたいと思っているものを壊す。つまり、人々を殺めるために人が集まるところで災害を起こしているらしいの」
「だから、蓮や蘭さん奏ちゃんも狙われたのね」
少しずつ相手の思惑が分かってきた。分かっただけで到底理解できないけど。……天、大丈夫かな。私は、天の困ったように笑うあの顔を思い出す。
私は、天に対して何が出来るんだろう。みんなが集合してから一人一人と話をしたけど。天とはまだ話をしていない。
分からない。天が今どんな言葉を欲していて、どういう風に接してほしいのか。
どうにかしないと、という気持ちだけ焦ってしまう。
「奏ちゃん。私、天とどう向き合えばいいのか分からない」
「……愛ちゃんはさ。愛ちゃんらしくいればいいと思う」
「私らしく?」
「いつでも真っ直ぐで。考えるよりまず行動で。気づいたらぐいぐいと引っ張られる。それが愛ちゃんでしょ?」
「そういう風に評価されてたのね、私」
奏ちゃんがいたずらっ子のように口角を上げ、白い歯を見せる。
「でもね、天はド鈍感だから。もっと引っ張ってあげないと、気持ち気づいてくれないかも」
「……あ! またそれ?! ないない!! なんもないから!! 天、忙しいし!! そんな暇今ないでしょ!!」
ドォンッ!!
隣の部屋から壁ドン。えーと。隣の部屋は虎と蘭さん……。虎か。 私は目線を時計にずらすと既に日付を跨いでいた。
「……奏ちゃん。もう寝ようか」
「そ、そうだね。おやすみ」
私らしくいればいい、か。……確かに、天のことを考えるあまり遠慮が勝っちゃって何も出来ないでいた。……何もしないことで後悔するのはもう嫌。
……明日も、きっと色んなことがある。しっかり休んで体力回復しないと。
「愛ちゃん。いろいろ聞いてくれてありがとうね」
そう言って奏ちゃんは電気を消した。




