↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI WORLDー十年後の君たちへー  作者: とっぽい
Archive 03 一ノ瀬 奏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/30

第18話 英雄なら

 私は天に背負われ、Aゲートから外へ出ようとする。すると、逃げ遅れた人だろうか。建物の奥からこちらへよろめきながら近づいてくるのが見えた。私たちの姿を見つけると、歩く速さを増し、駆け寄ってくる。そして、天に向かって懇願した。


「娘が! 娘が瓦礫の下敷きになっているの……! 助けて……」

「……今行きます。奏。ちょっと外に出るの待っててもらってもいいかな」

「うん。私も一緒に連れて行って」


 私たちはその人の誘導に従って、ついていく。あちこちで火が上がっていて熱い。綺麗な建物だったのに、滅茶苦茶だ。天に背負われながら建物の惨状を目の当たりにする。


「娘はここにいるの! 助けて!」


 私たちは指さされたところを見る。

 そして、私たちは言葉に詰まる。同じことを考えているんだと思う。

 ……この子は、もう。

 私は天の肩をぎゅっと握り締める。


「よかった……! 杏奈ちゃん。英雄の小鳥遊さんが来てくれたからね! 今助けるからね!」


 天は小さな声でごめん、奏。と呟き、私を虎に託す。私は虎の肩を借りて天の様子を見ていた。天は、瓦礫から伸ばされている小さな手を両手で包み込む。何も、言わない。ただ、ただ優しく。その子の手を包み込んでいた。


「……何してるの。早く助けなさいよ! あんた英雄の小鳥遊天でしょ!? 英雄ならっ! 助けなさいよ! 助けろって言ってるじゃないの! 助けろ! 助けろ! この、」

「……っ!」


 私は動かない右足を無理やり引きずって、その人と天の間に入り手を広げる。私は、その人に対して何も言えない。だって、気持ちは痛いほどわかるから。そうだよね。そうだよね……! どうしようもない気持ちだよねっ……! 分かるよ。分かる、けど!

 天を傷つけないで……。

挿絵(By みてみん)

 一筋涙がこぼれる。奥歯を噛みしめながら、私は、両手を広げてその人を見つめることしかできなかった。

 虎は先ほどの戦いでついていた鼻血を今一度拭い、母親に話しかける。


「……オレは千歳虎。医者です。お母さん。頭のところケガしています。ここは危険ですから、安全なところで処置させてください」

「娘……娘、を」

「……娘さんは。お母さんが、痛いの我慢するのを見るのは嫌なんじゃないですかね」


 虎が、お母さんを外へ誘導してくれる。建物の焼ける音だけが聞こえる。もう、建物の中には……生きてる人は、いないのかな。


「奏、ありがとう」

「天……。天はこんな辛い思いしてたんだね」

「……こういう現場だとさ。どうしようもないんだよ。そのどうしようもない気持ちを受け止めるのもレスキュー隊の仕事だよ」

「でも……。辛すぎるよ。こんなの」


 天は、包み込んでいた手を優しく床に置き両手を合わせる。


「……みんなのところに戻ろうか」


 そう言うと再び私のことを背負ってくれた。一瞬見えた天の顔は、今にも消えゆきそうな。そんな危うさを感じる表情をしていた。


 Aゲートから外へ出るとサイレンの音が鳴り響いていた。警察、消防、救急……そしてマスコミなど様々な職種が入り乱れ騒然としていた。呆然と立ち尽くす人。横たわる人々。救急車に乗せられる人。……必死に大切な人の安否を確認し続ける人。いろいろな人の声が頭に直接入ってきて、私は酔うような感覚に襲われた。


「……奏? 大丈夫か?」

「うん。ちょっと情報量が多くて、酔っちゃっただけ」

「そっか。奏も足怪我してるからどこかで治療しないとな」

「アイコーポに行けば何とかなると思う」

「そっか。じゃあ翔さんを探そうか」


 この後、天と虎、蘭さんは現場に残って救助者の対応をすることになった。

 それ以外のメンバーは一足先にアイコーポへ戻る。……天のクリエイトを受けて動かなくなった少年AIと共に。




 私はアイコーポに着き、AIの手技のもと右足の部品交換を行ってもらった。こういう時、機械の体は便利だなと思う。もう動くようになったのだから。

 私は自由に動けるようになったのを確認しながら、翔さんの元へ向かう。

 翔さんがアイコーポの一室に少年AIを連れ、淡い緑の光をボンヤリと纏っている椅子に座らせる。

 翔さんは「あまりみんなには見せたくないんだけどな」と言っていたけど、私はそれでも一緒にいさせて欲しいと食い下がり、渋々了承してくれた。

 椅子の近くで空間をはらう動作をすると翔さんの目の前にタッチパネルが現れた。それを慣れた手つきで叩く。

 すると、少年AIの左手は光の手錠で拘束された。

 ……右側は虎に取られてしまったので、肩から下は引きちぎられたコードが力なくぶら下がっている。そして、右目……メスで抉られて、目があったところは歪な縦の線が描かれていた。


「はははっ。創造クリエイトで斬られたんだからさ。もう僕は何もできないよ。用意周到だね」

「すまんな。社長になってからリスクマネジメントが板についてしまってな」

「……尋問する気? ボスを裏切るようなことはしないよ」

「……今回の災害でもたくさんの人々が亡くなった。俺たちは、最近増えてきた災害は君たちのボスが首謀していると考えている。だから君が何も話さないというのであれば強硬手段をとらざるを得ない状況だ」


 おそらく、翔さんは少年AIに対して無理やりにでもボスと呼ばれた人物の情報を聞き出そうとしている。

 翔さんは十年前のアイコーポ騒動の原因となったAWを愛ちゃんのお父さんと一緒に作った凄腕のプログラマーだ。

 私たちAIの記憶データを覗いたり、意図したように動くようコードを書き換えるというのは朝飯前と言ったところなのだろう。

 実際、私も十年前の騒動で悪い人にいいようにコードを書き換えられ、操り人形状態になった。……苦い思い出だ。


「花園翔。AWをせっかく作ったのにさ、何で政府になんかあげちゃったのさ。それがなかったら、一連の災害なんて起こらなかったのになぁ」

「なんだと……?」


 翔さんは顔を強張らせ、少年を睨みつける。


「僕たちはAWに行きたいんだよ。悲しみも憎しみもない。蔑まれない。そんな幸せの世界に。なのに、小鳥遊天を中心とした英雄たちがAWという希望をなくしてしまった」

「……数々の人間を殺してまで行きたいのか」

「行きたいよ? AIって結局、人間から作られた物。どうあがいても人間を超えられない。利用するだけ利用されるだけ。いらなくなったら捨てられる。……そんな恐怖の中、生き続けているAIの気持ちわかってる?」

「だから。天や奏ちゃんを中心として人間とAIが共存できる世界を作っているだろう」

「いつになったら出来るんだよ」


 少年AIの声が低くなる。初対面からずっと軽薄な感じだったが、初めて感情が乗っているような声色だった。そして、残っている左目だけで私たちを睨む。


「奏は恵まれた環境で育ってきたから、共存なんて綺麗事言えるんだよ。奏以外のAIなんて人間にいいように使われてきた奴らばかりだ。みんなさ。出来れば死にたいって思ってるんだよ?」

「そ、そんなこと……」

「でもさ。AIって形がないじゃない? データをどこかに保存していれば永遠に生き続けてしまう。この世に出現した瞬間から生き地獄だよ。ホント」


 少年AIは力なく乾いた笑い声をあげる。


「……ねぇ。お願いだよ。僕たちを助けると思ってさ。AWに行かせてよ」


 翔さんも、私も言葉が出ない。私は……恵まれた環境だから共存とか言える、か。

 ……考えたこともなかった。だけど、人間やAIでかたくなに意見を曲げない意志の強い人たちってそういうことだったのかな。

 私は、恵まれた環境にいたから少年AIの子のような境遇の人たちを理解してあげられないのかな。

 ……ううん。私が弱気になってどうするの。架け橋は私にしかできないこと。それでも歩み寄らないと。


「……分かった。あなたたちのこと、もっと教えて」

「いや、いい。君たちと分かり合えるなんて最初から思っていない。それにさ、いいんだ。AWがないなら。また、作ればいいんだから」

「……お前、今、なんて言った?」


 ぴしゃり、と。シャッターを下ろされたような感覚。少年AIは顔を伏せ、もう話すことはないというような態度をとる。


「……だんまりか。仕方ない。君の記憶を覗かせてもらうよ」

「……ボス。ボスはちゃんとAWに行ってよね。はははっ、はははっ……は、」


 プツンッ。

 電源をOFFにしたかのように突然少年AIの体は前のめりになる。そして、二度と動くことはなかった。


「強制シャットダウン。そして、デリートか」

「……デリート?」


 翔さんは煙草を咥えて、火をつけて一服する。


「この少年AIの中はもう空っぽだ。もう、何もない」

「そんな……。どうして……」

「恐らく、ボスの仕業だろう。覗かれたくない情報があったんだろうな」

「この子、ボスって呼んでいた人のことを信用していたのに」

「ボスはもしかしたら、自分のことを陶酔するようにというコードをいれていたのかもな。……AIがAIを利用する、ね。本当に、人間もAIも同じだな」


 私は動かなくなった少年AIをじっと見つめる。そして、ぎゅっと抱きしめる。

 空っぽになった少年AI。そして、ボスと呼ばれるAI。私たちはもっとAIの気持ちを知らなくちゃいけない。

 たとえそれがAI側に煙たがれたとしても。この子のような結末を迎えるAIがこれ以上でないように。

 そして、AWを再び作る……? そんなこと、翔さんや愛ちゃんのお父さん以外に可能なの?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。