90.誕生日プレゼント(2)
──先生に言われて急いでお泊まりの用意を完了させ、久しぶりにデートに出かける。
ワクワクが止まらない。
自分の誕生日よりも、こうして先生とまたデートが出来る日が来るなんて。
それだけで充分な誕生日プレゼントだ。
ありがとうございます!
神様!
先生を無事に私のところに返してくれて……
そして、彼が自分の命を削ってまでも愛する世界へ戻してくれて……
◇
「これは?」
「ない」
「こっちは?」
「ないな」
先生……
先生に連れられて、アクセサリー売り場に来たのは良かったが、魔王様、いや先生のお気に召す物が中々無いらしく……
「これかな」
せ、先生。そっちはお値段が……
明らかにこっちの入り口付近にある物より、そちらの奥にあるのは高級そうな雰囲気なんですが。
案の定ゼロの数が……何個だこれ? 普段みたことがない数のゼロが並んでいた。
「どっちがいい?」
先生が指さしたが、どっちって……
それ先生、値段見てます?
「先生のお好みにお任せしますが……視力回復してますよねえ?」
「は?」
「い、いえ何でもございません」
「なら両方にするか」
「ま、待って!! 違う! 違います! では此方でお願いします!」
あ、危なかった……
そうだった忘れてたわ。この御方の欠点。
悩んだりするのが面倒になってどっちも買えばいいじゃんって人だったわ……
付けて行きますか? と店員さんに言われたが、こんな高価な物を無くしたらどうするんですか……
「い、いえ。ちょっと今日は……」
「ん? 嫌なのか?」
「違います! もし切れたりしたら泣くどころでは済まないもの」
「直せるし。物は永遠ではないけどな。まあいいや普段使いのを少し見るか」
「へ?
そこから先生と店員さんとで会議が始まった。
「どっちが良い?」
「どっち、あ、いや右で」
ヤバイ。もう少しでどっちも素敵ですって答えるところだったわ。
「分かりやすいね」
「え?」
「このピアスと、そちらのネックレスと、あと揃いのブレスレットで。そのまま付けて行くから」
「ちょ、っと先生!!」
「お留守番頑張ったご褒美です」
結局、普段使い用をフルセットで3点、お出かけ用のとんでもないお値段のを1点と、合計4点の支払いをさっさと済ませた先生が何だか楽しそうに戻って来た。
「ありがとうございました……」
「お昼ご飯は何が宜しいですか? 姫様」
「和食、食べたいかも!」
私の言葉に先生が何やら電話をしているが、何かとんでもないところではありませんよねえ?
「蕎麦食えるか?」
「うんうん! 好きです」
◇
先生、お蕎麦って言いましたよね?
お寿司屋さんじゃなくて蕎麦屋さんですか? ここ?
どう見てもカウンターがあってガラスケースに高級鮮魚が並んだお寿司屋さんに見えるんですが?
「お蕎麦屋さん?」
「ですよ。天麩羅うまいぞ。目の前で揚げてくれるから」
「え? これってお寿司じゃなくて天麩羅になるんですか?」
「寿司が食いたいのか?」
「あ、いえお蕎麦も好きです」
◇
「貴ちゃん握るよ? 言ってくれたら」
え? い、今、貴ちゃんって言いませんでしたか? この御方?
「その呼び方やめろって言ったろ」
私が、驚いて目の前の職人さん? を見ていると笑顔で軽くお辞儀をされた。
「まさかねぇ。貴ちゃんが女性とウチに来る日が……もう嬉しくて俺は泣いちまいそうだよ」
「あ? そういう必要ないから。さっさと適当に出せよ」
「せんせ?」
「あ、貴ちゃんとは小学校が一緒でねぇ。親父の代から御神家にはご贔屓にしていただいております」
「あら? そうだったんですね?」
「やっぱり違う店にするべきだった」
先生が露骨に嫌そうな顔をした。
「貴ちゃん! 酷くね? それ」
「いいからさっさと出せよ」
それから、先生の同級生と言った此方の大将より美味しい料理は勿論だけど、貴志少年の可愛いエピソードを教えて頂き、一番の誕生日プレゼントとなった。
「最悪……来るんじゃなかったやっぱり」
「えぇえ? 私は楽しかったですよ? 一番の誕生日プレゼントになったかもですよ?」
「おや? 誕生日でしたか? 彼女さんの」
私の言葉に大将が反応してしまい、少し申し訳なく思う。
「いいからもう。勘定」
「それを聞いたらお代なんて受け取れないさ」
「お前に借りはいらないです」
「相変わらず水くさいねぇ。たまには親父さんと一緒に来いよ」
「勘定」
少しだけ先生の口調が強くなる。
「ね? 面倒な奴でしょう?」
大将が私の顔を見ながら笑った。
「ご馳走様でした。温かいお話が聞けて良かったです。ありがとうございました」
「また来てね」
「はい。必ず」
「来ないけどな」
「先生!」
「行くぞ」
さっさと出て行く先生に、大将に再度お礼を言い、急いで追いかけた。
本当に照れ屋さんなんだから。
「何だよ」
「何も言ってませんよ?」
お蕎麦だけで行ったんじゃないですよね?
久しぶりに帰国したのと、病気したことで少しだけ懐かしくなったからですよね? せんせ?
「大好き」
「変なやつ」
◇
──少し早めに到着してしまったが、ホテルの人が笑顔で迎えてくれた。
流石、先生の力。
すいません庶民が一名混ざっておりますが……
◇
──12月と言うこともあり、園内は全てクリスマスモード一色だった。
「すっかりクリスマスですねぇ」
「声楽科連れて行くかな」
「へ? どこに?」
「NYに。あとツリー用意するか」
「へ? は? ええええええええ?」
「悪い、ちょっと一本だけ電話していいか?」
「え? 良いですけど、どちらに?」
◇◆
『NYの初日、舞台にクリスマスツリー左右に用意しろ。設営へ今日中に連絡して準備させろ』
『は? サイズは?』
『ライトに当たらないぐらいの』
『無茶苦茶言いますね……イメージは?』
『何点か美術に画送らせろ。あとジュリアノに電話して俺の名前で声楽20人借りられるか聞け』
『第九ですか?』
『と、オペラ座の怪人とキャロル・オブ・ザ・ベルやる』
『え? 演目変更ですか?』
『いや。アンコール用』
『学長宛ですか?』
『20人無理なら10人でもいいよ。日本から不足分は連れて行くから、今週中に返事もらえ』
『頑張ってはみますが、向こうの条件をどこまで受けるかにも』
『あと、俺と花音の衣装オーダーしといて。明日イメージ送るからって、とオペラ座のにマスク人数分リース頼んどいて』
『え? フランスのですか?』
『YES.ロバーツなら2週間あれば充分だろ。マスクは既製品でいいよ』
『一応は言ってみますが……条件出ますよ多分』
『同じの店売りして良いって言えば多分いけるだろ。じゃあな』
◇
「せんせ? オペラ座の怪人やるんですか?」
「今、思いついた」
い、今って、遊びに行くんじゃないんですよ? 先生?
NYって大ホールですよねえ?
「え? えええ?? い、今ですか?」
「問題ないだろ。ドイツフィルでもやってるし。アンコールだから別にお前、第二でいいぞ」
大ありでしょうよ……
クリスマスツリーって今言ってましたよね?
あと2週間ないですが?
本当に申し訳ないです。スタッフの皆さま。魔王様の思いつきに毎度振り回されて……
これ、私のせいじゃないですよねぇ?
そして最後にアナタ凄いこと言ってませんでしたか? ご自分の衣装頼んでませんでした?
もう出る気満々ですよねえ?
来週の打ち合わせが怖いんですけど……
「……第一がいいです」
「オーディションですね」
「酷い……」
「贔屓はしませんから」
魔王~~~たまには贔屓してよ~~~
楽しそうに笑って少し前を颯爽と歩く先生に後ろから抱きつく。
「せんせ?」
「ユーリとサドンデスならいいぞ」
「……勝てる訳ないじゃないですか」
「そもそも、お前『オペラ座の怪人』スコア見たことないだろ。キャロルで良いだろ。あれソロないし」
「そっちより……頑張るもん」
「本編完璧に仕上げて下さい。首席殿は」
「……まだヤバイですか?」
「まあ、来週から頑張りましょうね」
……嘘ですよね?
今より厳しくなるんですか?
ユーリさんがいつも言うけれど。
「昔よりは随分丸くなった」って……
どんな練習風景だったのか、ちょっとだけ気になるが、聞いてはいけないような気もする。
愉しそうに笑う魔王様の低い声を想像した瞬間、背筋に冷たい物を感じた。
「ん?」
「あ、いえ。何でもないです」
「変なやつ」
愉しそうで何よりで御座います魔王様──




